第3865話 滅びし者編 ――説明――
バルフレアから対応を要請されていた暗黒大陸までの海路付近で出没しているという幽霊船の除霊。それに向けて準備を行っていたカイトであったが、間にソラの試練を挟んで半月ほど。そこでバルフレアはついに幽霊船を発見するに至るも、幽霊船はエネフィアでも歴史上観測されたことのない幽霊船により構築された幽霊船団だと判明。カイトはバルフレアの要請を受けた皇帝レオンハルトの指示により、皇国全土から有力な退魔師・除霊師の協力を得るべく行動を開始する。
というわけで皇国どころかエネシア大陸・アニエス大陸の二つの大陸において、最大規模の退魔師の集団でもある<<月牙>>の総本部から、総司令官にしてシャルロットの生み出した神官の中でも最古参かつ最高位の戦闘力と退魔師としての実力を持つというセレネを招聘。ついでに今まで放置していた<<月牙>>の総本部との間の非常用の通路を開通させる。そうして諸々を終わらせて少し。彼は冒険部のギルドホームへと戻っていた。
「「あ」」
「んぁ? なんだよ、戻って早々……って、セレスか。いらっしゃい」
「あ、お邪魔しております」
自身の顔を見るなり目を見開いたセレスティアに、カイトは笑いながらひとまず挨拶する。なお、セレスティアと話していたのはソラだ。
「カイト。戻ったのか?」
「見ればわかる通りな」
「そりゃそうなんだけど……って、それはそれとして。セレスちゃん」
「あ、はい。カイト様」
「ん? ああ、例の話か?」
「はい。ちょうどそれで御身を訪ねていたのですが、今はまだ戻られていなかったとの事でしたが……」
そこにまるで空気を読んだかのように自分が戻ってきたってわけか。カイトは二人が目を見開いた理由を理解する。
「悪いな、わざわざ出向いてもらって」
「いえ……こちらも依頼で出ていましたし」
「そっちは良いのか?」
「終わったので戻ってきた、とお考えください」
「そうか」
セレスティアの返答に、カイトは一つ頷いた。というわけで概ねセレスティアの状況を把握した所で、彼が一つ確認する。
「それで一つ確認なんだが、話はどの程度聞いている? というより、ぶっちゃけセレスなら持ってそう、って腹で話持ってったけど大丈夫そ?」
「あはは……はい。退魔師の力なら保有しております。霊力も使えます」
「だよな」
どうやらカイトはセレスティアが退魔の力や霊力を保有しているか知らなかったらしい。レジディア王家とシンフォニア王家に属する以上、どちらかは持っているだろうという推測で話を持っていったのだが、案の定という所だったようだ。
「レックスの奴、霊力はあんまり得意としてなかったけど、なーんでかあいつあれで退魔師としての力は優れてたんだよな。本人曰くベルに習った、だそうだけど。王様なれなかったら聖騎士にでもなるかー、とか笑ってたぐらいだし。あいつが騎士は無理だろ。あいつは根っからの王族だ」
「あ、あははは……」
一応後に英雄王と呼ばれ、そして数々の偉業を成し遂げていった祖先に対する、親友だからこその評価に、セレスティアは苦笑いを浮かべるしかない。というわけで笑っていたカイトであったが、脱線した話を元に戻して問いかける。
「ま、それはそれとして。霊力も、か?」
「はい。御身らが使えた一通りは使えます」
「オレが言えた義理じゃないが……小器用だな、セレスも」
「あはは……」
先程とは少しだけ違う、どこか照れたような顔でセレスが笑う。これに加えて魔術も剣術も出来るのだ。カイトに負けず劣らず、彼女も小器用に間違いなかった。というわけでそんな彼女に笑いながらも、カイトは再び脱線しないように、と話をそのまま進める。
「オレに似てたからオレの巫女に選ばれたのか、巫女に選ばれたからオレに似てしまったのか……興味は尽きんが、今は横に置いておこう。とりあえず話は聞いてくれてるか?」
「はい……幽霊船団の出現、と」
「ああ……流石に幽霊船団はないだろうが、幽霊船は?」
「存じ上げております。流石に対応した事はありませんでしたが……」
「まぁ、幽霊船だけは特殊な事情が付き纏うからなぁ……」
そもそもバルフレアでさえ、この現代に幽霊船か、と当初は信じていなかったのだ。いくら戦時中とはいえ、カイト達の頃のように大陸全体としては圧倒的な劣勢に追い込まれたわけではない以上、セレスティア達が幽霊船を見た事がないのは無理もなかっただろう。
「出来そうか? いや、間違えないで貰いたいが、一人で一隻受け持ってくれ、とは言わん。何人か……そうだな。10人とかで一隻対応して貰えれば大丈夫だ。最悪は時間稼ぎでもして貰えれば助かる」
「いえ、私達で一隻で大丈夫です。隊には幽霊船へ対応した事のある者もいますので……大型船を請け負えるかと」
「え?」
あくまで望むのは自分やセレネといった対応可能な者が対応出来るまでの時間稼ぎだったのだが。そんな様子でカイトはセレスティアの返答に目を丸くする。しかしこれはさもありなん、という所であった。
「あはは……我らは本来神殿に所属する者です。故に大半が霊力か退魔の力を保有しております。両方出来る者も少なくありません」
「あ……」
言われてみれば神殿ということは、そういった退魔の力に起因する何かしらの霊的な出来事などにも対応してきていたはずだ。カイトはセレスティアの指摘に、これは見落としていたと思わず納得する。そうして理解して、彼は少しだけ照れくさそうに頭を掻いた。
「なーるほど。そうか、そりゃ出来るのか。しかもオレもだもんな」
「はい……御身の場合は当然と言い得たものでもありますが」
「だわな……そりゃそうだ。オレが神殿に声を掛けてるように、そっちも同じように神殿にそういう力の持ち主が集まってるのは自然の摂理か」
神殿という以上、そこに所属するのは聖職者達だ。そして魔術やら霊力やらがある世界で、ただ祈るだけが聖職者の仕事ではない。霊的な何かしらに対応するのも聖職者達の仕事だった。
「そっか。助かるよ。ぶっちゃけ流石に幽霊船団はオレも聞いたことがないような相手だからなぁ……一応、理論上は起き得るらしいんだが」
「起き得るのですか?」
「ウチの死神様曰くな。理論的には、不可能じゃないらしい……ここらの詳しい話は説明会でユニオンから説明がある」
「そうでしたか……ですが、わかりました。どちらにせよ神殿に属する以上、我らとしてもそういった死者の慰撫は仕事のようなものです。お引き受けしましょう」
「助かるよ……ま、オレもそんな所なんだけどさ」
実際、カイトがバルフレアから投げられる幽霊船を解決して回ったのは、ひとえに彼しか出来ない事が多い事と彼が死神の神使であるがためだ。というわけで苦笑いをした彼であったが、そんな彼に笑いながらもセレスティアが問いかける。
「その他、あて等あるのですか? 幽霊船の除霊は相当に難儀だとは私も聞いておりますが」
「一応、現状オレが一隻。<<月牙>>っていう謂わば死神の直属部隊が一隻。で、セレス達が一隻……大型船三隻はなんとか、って所か。後はユニオン側がどれだけ引っ張ってこれるかという所にも寄るが……」
「し、死神の直属部隊……」
「いや、そんなおどろおどろしいものじゃない。言い方を間違えたな。月の女神の直属部隊だ」
流石に死神の直属部隊だとどんな禍々しい集団が来るのだと思われかねないか。そう思ったカイトは苦笑いで言い直す。
「ああ、なるほど」
「そ……ま、そういうわけだから、他の二隻は問題ない。後はユニオン側も退魔師を連れてくるから、なんとか残り二隻の大型船は対応出来て欲しいが……」
大型船と中型船は合計で十隻。そこに付随して海面を移動する小型船が何十隻。この内小型船はおそらく大型船や小型船に付随しているだけと考えられているため、一つ一つ除霊する必要はないと考えられていた。
「問題は中型船ですか」
「ああ……一応、各地の神殿に声は掛けているが……どこまで集められるか、だな。まぁ、そのためにユニオンと皇国が合同で説明会を行う、と伝えているんだ。とりあえずはそこからかな」
とりあえずカイトが声を掛けられる所には声を掛けているが、彼が知っているだけで、という所は少なくない。というわけでそこらには皇国が要請を行っており、そこらに逐一カイトが出向いて説明を行えるわけもなく、合同で説明会を行うという流れにしていたのであった。
「っと、まぁ、そういうわけだから、セレスも詳しい話はそっちで聞いておいて貰えると助かる」
「はい……あ、そうだ。忘れていました。説明会の場所はどこで?」
「ああ、悪い悪い。説明会はユニオンの支部で行う。この間のアップデートで通信室をオンライン会議に使えるようにアップデートしててな。まさかこれが最初のオンライン会議になるとは誰も想像してなかったんだが」
「おんらいん会議?」
「おっと……流石に知らんか。ま、そりゃそうか。そこらも含め教えておいた方が良いか。ついてきてくれ。ユニオン支部と同等の設備をウチも用意してある」
流石にユニオンの支部に説明のためだけに訪れるわけにもいかないよな。カイトは自分の立場としてそう判断して、冒険部のギルドホームに拵えておいた同等の設備で説明する事にしたようだ。
というわけでこの日はその後、セレスティアへの説明に費やして自身もまた説明会に向けた準備を進める事になるのだった。
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