第3864話 滅びし者編 ――帰還――
バルフレアから対応を要請されていた暗黒大陸までの海路付近で出没しているという幽霊船の除霊。それに向けて準備を行っていたカイトであったが、間にソラの試練を挟んで半月ほど。そこでバルフレアはついに幽霊船を発見するに至るも、幽霊船はエネフィアでも歴史上観測されたことのない幽霊船により構築された幽霊船団だと判明。
流石に幽霊船の時点でカイトが最適解とされていたのに、こうなっては冒険者ユニオンだけでは対処不可能と判断したバルフレアに要請された皇帝レオンハルトより指示されて、カイトは幽霊船団の除霊に向けて動くことになる。
というわけでソラに引き継ぎをしたカイトは、シャルロットに仕える者たちの中でも対邪神を目的として設立された戦闘部隊<<月牙>>へと協力を要請。その総司令にして、最初期に生み出された神官の一人であるセレネを招聘するも、そこで自身の来訪を受けた威力偵察が発生。なし崩し的に対応をする事になり、邪神の傘下に下った神々の尖兵も復活している事を知る。
そうして威力偵察から一夜。カイトは<<月牙>>の本部にて現在の邪神の尖兵達、邪教徒達の動きを聞くと、ひとまずそれについては別に対応をするとしてマクダウェルへと帰還する。
「どうにもこうにも面倒な事になりつつある、ってのが印象か。こっちには邪神の尖兵しかマジで出てこなかったが」
『貴方は是が非でも自分で縊り殺したいと思っているでしょうから、貴方だけは誰にも譲る気がない、という顕れでしょうね』
「会ったことも話した事もない相手に殺したいって思われるなんて泣けてくるね。これで女なら大喜びも出来るんだが」
シャルロットの推測に対して、カイトは苦笑いにも似た様子で笑う。
『相手はまぁ……男ね。男神、というべきでしょうが』
「最高……ま、それはそれとして、だ。この様子だと確実にオレが居る所が最激戦区になる、かな」
『でしょう。貴方に私に……貴方が連れて来る者たち。それら全てを統合すると、間違いなく貴方が居る所こそが最激戦区になる』
なにせカイトの近辺には邪神そのものの尖兵しか姿を見せていなかった。それに対して<<月牙>>の本部では邪神の尖兵以外にも邪神の傘下に下った神々の尖兵も出ており、この意味する所は一つしかなかった。
「邪神が直々にオレをご指名しているとしか思えんよなぁ、これは」
『手を出すな、と命じているのでしょうね。そして多分、誰より先に貴方を狙うのでしょう。私達の眼の前で貴方を殺すために』
「やれやれ……ま、殺せるもんなら殺してみろや、って感じでしかないんですが。ついでに言えばもう一回、あいつも見せてやりたいしな」
にたり。カイトは獰猛な笑みを浮かべて笑う。元々カイト自身、邪神との戦いには前向きなのだ。ならばやるだけでしかなかった。というわけで話しながらも飛翔を続けていると、あっという間にマクダウェル領マクスウェルだ。そうして公爵邸の一角に降り立った彼は、事前に用意しておいた場所へと移動する。
「よし、到着……セレネ。場を拵える。転移の用意は?」
『問題ありません』
「よし」
セレネの応答に、カイトは一つ頷いた。そうして公爵邸の一角に設けられた魔法陣の前に立つと、そこにシャルロットの大鎌を顕現させる。
「……」
「儀式なんて出来るの?」
「万能化、進行しました」
「本当に万能化が進行したわね」
月の女神に仕える者の所作で何かしらの印を結んでいくカイトに、エドナが楽しげに笑う。そうして数度の印を結んだ所で、カイトが大鎌を振り下ろす。すると、カイトの印に合わせて活性化した魔法陣の中にセレネが現れた。
「成功だな。ぶっちゃけこれをやったのは初めてだったんだが」
「ありがとうございます……これで本部からここに経路が開通しました」
「よし……まぁ、本当ならもっと前からやっとかないと駄目だったんだろうが」
「普通はしませんよ。いえ、それ以前に普通は神使が貴族になぞなっている事もない」
カイトの言葉にセレネが笑う。もっと前からやっておかないと、というのは<<月牙>>の本部との間に非常用の通路を作る事だ。と、そんな所に声が響いた。
「それもそうね。下僕が貴族なんて厚かましいわ」
「御方」
「おーう、ただいま」
「おかえりなさい……それとセレネも久しぶりね。変わりないようで安心したわ」
「ありがとうございます」
一応神官とそれが仕える神なのでカイト同様にほぼ常日頃から異常がないか確認はしているが、直に会うのは久しぶりという所ではあったようだ。シャルロットのねぎらいに対して、セレネが跪いて頭を下げる。というわけで久方ぶりの挨拶を交わした所で、カイトはセレネに要請する。
「セレネ。一旦向こうへの転移が可能か確かめたい。一度向こうに戻って、もう一度頼めるか?」
「わかりました。次はルテも?」
「そうだな。それで頼む」
今回の戻りにおいて、やはり速度であればエドナに追従出来る者はいない。というわけでカイトは<<月牙>>の本部に公爵邸に設けたと同じ魔法陣を設置すると、エドナと共にこちらに戻っていた。というわけでピュルテが<<月牙>>の本部側の魔法陣を確認してくれていたのであった。
「ルテ。そっちはどうだ?」
『問題ありません。そちらは?』
「こっちも問題ない。セレネが一度そっちに戻る。問題ないか確認して、問題なければお前もこっちに戻ってくれ」
『わかりました』
カイトの要請にピュルテが即座に了承を示す。そうして今度は印を結ぶ必要はなく、活性化した魔法陣を通ってセレネが消える。
『転移確認しました。お姉様、問題は?』
『ないわ……よし。カイト殿』
「あいよ……良いな?」
「ええ」
一応の筋としての問いかけに、シャルロットが一つ頷いて進めるように指示する。そうして再び魔法陣が光り輝いて、今度はセレネとピュルテの二人が顕現する。
「よし……これで問題ないな」
「はい……非常時の場合の代替路も問題ありませんでした」
「よし。これで万が一の場合、<<月牙>>をこちらで保護出来るな。まぁ、しばらくはフェンやらが自由気ままに移動したりするのに使うんだろうが」
「そうね……その時は頼むわね」
「イエス・マイ・ゴッデス」
シャルロットの言葉に、カイトは一つ笑って演技っぽく了承を示す。別に身内と言えば身内なのだ。遊びに来てくれても問題はなかった。
「それで、下僕。この後二人は?」
「今の所大丈夫だ。とりあえず幽霊船団については会議の調整中。その状況を確認しに行かないといけないしな」
「そう……じゃあ、二人とも。久しぶりにお茶にしましょうか。良い茶菓子が手に入ったの。手伝って頂戴な」
「「はい」」
シャルロットの要望に対して、彼女に仕える神官二人が頭を下げる。そうして月の女神と神官達が茶会に入る一方で、カイトは不在の間の状況を確認するべく冒険部のギルドホームへと戻る事にするのだった。
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