第3860話 滅びし者編 ――神官達――
バルフレアから対応を要請されていた暗黒大陸までの海路付近で出没しているという幽霊船の除霊。それに向けて準備を行っていたカイトであったが、間にソラの試練を挟んで半月ほど。そこでバルフレアはついに幽霊船を発見するに至るも、幽霊船はエネフィアでも歴史上観測されたことのない幽霊船により構築された幽霊船団だと判明。流石に幽霊船の時点でカイトが最適解とされていたのに、こうなっては冒険者ユニオンだけでは対処不可能と判断したバルフレアに要請された皇帝レオンハルトより指示されて、カイトは幽霊船団の除霊に向けて動くことになる。
というわけでソラに引き継ぎをしたカイトは、シャルロットに仕える者たちの中でも対邪神を目的として設立された戦闘部隊<<月牙>>へと協力を要請するべく、その総本部へと訪れていた。そうして総本部の中でも一番中央の建物に入ったカイトだが、そこを歩きながら少しだけ苦笑した。
「ここは相変わらずだな」
「? 相変わらずですか?」
「世の中の男どもが羨む光景ではあるんだろうが、って話だ」
「ああ、そういう」
先程からすれ違うのは、ほぼ全てが女性だ。一応間違いのないように言うと男性がいないわけではないが、明らかに女性とすれ違う頻度の方が多かった。それこそ、カイトが歩いているのを見てぎょっとする<<月牙>>の隊員がいるぐらいである。それぐらいには、男性は珍しかった。
「まぁ、そもそもの話として御方の神官も全員が女性ですから。そも、司る権能が女性向きと言いますか」
「それはそうなんだよなぁ……」
何度か言われているが、シャルロットが司っているものは月と死だ。だが同時に時として美の女神と言われることもあったり、太陽神に対する月の女神として女性全体を守護するという向きもある。
なので権能や配下の神々も女神が多く、必然として<<月牙>>にも女性が多かった。いや、単に多いよりも圧倒的に女性が多かった。
「とはいえ、十分御身なら加護を受けられる資格はあるかと思いますよ」
「なんで」
「いえ、女子以上に女子力が高いと言われていますので」
「……」
まぁ、否定は出来ないんだけど。カイトは茶化すように笑うメーアに対して少しだけ恥ずかしげだ。とはいえ、素直にそう言うつもりもなく、彼は別方向で理由付けすることにする。
「まぁ、一応これでも女神の使徒だからな。流石に男だからと気遣わんわけにもいかんよ。いや、男だからこそ、かな。それがいくら旅の最中だろうと。料理は別方向だが」
「……それはそうですね」
それを言われると自分達は女だという事に胡座をかき、サボっていると考えた方が良いのかもしれない。メーアはカイトの言葉でそう認識し、わずかにだが視線を逸らす。そこに今度は別の角度から切り込みが入った。
「でも今思い返すと、貴方割と昔から料理やら得意としてるわよね」
「……まぁ、オレ以外出来る奴居なかったし。いや、それ以前にあいつが出来ると思うか?」
「出来るわよ、彼」
「……そういや出来るな」
二人が思い出していたのは、前世の幼馴染ことレックスである。王子様なので世話をされることにも慣れている彼だし、流石に王太子に料理なぞさせるわけにも、ということで彼の騎士団には料理人がいた。いたのだが、結局カイトと二人で旅をしたりすると普通に彼も料理をしていた。というわけでそこらを思い出して、カイトも我ながら、と少しだけ呆れ返っていた。
「我ながらマメ過ぎるだろ。いや、旅に慣れてきたから余裕が出てきただけなのか……? いや、そんなこたぁどうでも良いか。とりあえずここが変わらない様子で安心した」
「そうですね。ある意味ではここは変わらない……ああ、話している間に着きましたね。セレネ姉さま。カイト殿をお連れしました」
『入ってください』
メーアが扉をノックすると同時に、中から若い女性の声が返って来る。そうして返答を受けて、メーアが扉を開いてカイトを中へと招き入れた。
「お久しぶりです、カイト殿」
「ああ、久しぶりだ。シャルロットが目覚めて神界に戻って以来だったかな?」
「それぐらいですね」
柔和に微笑んで信徒としてのポーズで一礼するセレネに、カイトもまた同じ所作で応ずる。シャルロットの目覚めと神界への帰還に際して神々が勢揃いして出迎えていた。更にそれに加えて様々な神使達が来ていたわけだが、当然数多神官達も一緒だった。
まぁ、流石に全員が来ると治安維持などに不足が生ずるので全員ではなかったが、シャルロットの腹心の部下と言えるセレネは出席していたのであった。そうして挨拶が終わった所で、メーアがセレネの横に移動。改めて人員が整った事で、セレネがカイトへと問いかけた。
「にしても、また凄まじい者を連れてきましたね。次元を渡る天馬。最上位の存在ですね?」
「こいつはオレの秘中の秘だ。こいつが居なかったら来るのは明日になってたな」
「? お姉さん……よね?」
「ええ」
エドナの疑問に対して、セレネはなにか不思議な事でも、と言わんばかりの様子で頷いた。これにカイトはエドナの疑問はもっともだと思っているが、同時に当たり前の話でもあったので少し苦笑気味に補足した。
「セレネにせよメーアにせよシャルが生み出した神使だ。容姿にさほど共通性はない」
「まぁ、それはそうよね。ごめんなさい。やはり人と一緒と考えていると、少し違和感があったから」
「構いませんよ」
「まぁ、そう言っても……やっぱり普通は驚くよなぁ。オレも驚いたし」
「……少しは気にしているんです。あまり言わないでください」
カイトの指摘に、今度こそセレネは少しだけ拗ねるように口を尖らせる。そんな彼女の容姿だが、大学生かそれ以上の女性的な肉付きがあるメーアに対してまだ幼ささえ残るような年齢の見た目だ。
無論美の女神が己の神官として生み出している以上、美少女と言って差し支えない容姿でもある。更に銀髪灼眼の彼女が更にシャルロットが好むゴシックロリータファッションをしているので、正しく人形のような印象さえあった。というわけで容姿について言及されたと思ったらしいセレネだが、カイトは首を振った。
「ああ、いや。そっちじゃない……いや、容姿も驚くが。何より驚いたのは戦闘力の面だ」
「ああ、そちらでしたか」
「そんなに強いの?」
「ああ……<<月牙>>の総司令。シャルロットの腹心……神官にして神官ではない神官」
「どういうこと?」
「あまりに強すぎて後方支援の神官じゃないだろう、って話」
エドナの問いかけに対して、カイトは楽しげに笑いながら認めてセレネの実力を請け負う。そして彼女もまた、神官ではあるが同時に戦闘力の高さは誇りでもあったようだ。カイトの紹介に満足げであった。というわけで満足げな彼女を前に、カイトは改めて本題に入る事にした。
「ま、それはさておき……セレネ。仕事を頼みたい」
「伺いましょう」
元々ピュルテが来て先におおよそは伝えているが、改めて仕事を依頼するのであればしっかり説明しておく事が筋だろう。というわけで、カイトはセレネとメーアに現状を説明する事にするのだった。
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