第3841話 様々な力編 ――最後の戦い――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
というわけでシルフィードとの最後の戦いにまで到達し一日目、二日目と幾つもの作戦を練っては試行錯誤を繰り返したわけだが、やはりどれも上手くはいかなかった。そうしてカイトの助言を受けて少しだけ作戦を変更して三度試練に挑むわけだが、そこでついにシルフィードが本気で試練を課すことになっていた。
「ほいさっ、さっ!」
「っぅ!」
呑気な言葉に相反するように、シルフィードの拳打は凄まじい速度だ。ソラは実際の近接戦に臨んでそれを理解する。そしてもちろん、彼女が先に告げた通り今の彼女は試練としては本気でやっている。
故にその拳は容赦がなく、一撃でパーティの中では最重量級であるソラが僅かに浮かぶほどであった。そうして浮かんだところに、シルフィードは更に回し蹴りを叩き込む。
「ほいよっと!」
「くっ!」
間断ない連撃。それにより吹き飛ばされたと同時に、その背後に瞬が立つ。そうして槍を容赦なくシルフィードの背へと突き立てんと振り抜くが、それよりも更に速くシルフィードがソラへと追撃するべく地面を蹴っていた。
「っ、速い!」
わかりきっていたことではあるが。瞬は自身を更に追い抜いて加速したシルフィードに苦い顔だ。とはいえ、そもそも刺突のために一瞬足を止める限り、こうなるのは仕方がない。その一方、シルフィードは更にソラに追撃を仕掛けるべく吹き飛んでいくソラに肉薄する。
「っ、まずっ」
吹き飛ばされている状態からなんとか立て直そうと身体を動かすソラだが、流石にその最中に攻撃を仕掛けられては対処が出来ない。故に盛大に顔に苦みが浮かび上がるわけだが、その合間に今度は空也が割り込んだ。
「……」
「おっと」
面白いことをしたな。シルフィードは立ちはだかった空也を氷の鎧が覆っているのを見て僅かに笑う。そして物理的に割り込まれては彼女も立ち止まらざるを得ない。
一応、あの壁抜けに似た技術で通り抜けることも体術を使って空也を抜けることも出来るが、前者は流石に試練として課すには少し過剰。後者は敢えてするつもりはなかったようだ。その場に急停止しながら、右足を軸にして回し蹴りを放つ。
「くっ!」
「なるほど」
単に重量と防御力をかさ増しし、というわけではないようだ。シルフィードは空也が大きく後ろに仰け反ったものの、何か別の力で押し止められているような動きを見せたことでそう理解する。
「じゃ、ま、頑張ってみて!」
氷の鎧で強引に吹き飛ばされるのを防いでその場に留まる空也に向けて、シルフィードは回し蹴りの反動を利用して一歩分だけ後ろに下がる。そうして下がった後、彼女は身体を大きく捻って拳を叩き込んだ。
「はぁ!」
「「ぐっ!」」
ばりんっ、という何かが割れるような音と空也が吹き飛ばされて、2人分の苦悶の声が響く。片方は空也。もう片方は彼に氷の鎧を付与していたアルのものだ。たったの二発。それでアルの付与した防御は打ち砕かれていた。とはいえ、それで十分ではあった。
「おぉおお!」
桜の魔糸でキャッチされて、なんとか体勢を立て直したソラが今度は自分からシルフィードへと肉薄する。そうしてそれにシルフィードが待ち構える姿勢を取った瞬間、今度はリィルが上空から襲いかかった。
「はぁあああ!」
「ほいよ!」
自身を上から狙う刺突に対して、彼女は身を僅かに捩るだけで回避する。そうして回避したところに、今度は更に追いついた瞬が追撃を仕掛ける。
「はぁ!」
「まだまだ!」
身を捩った動きを利用して地面を叩くように踏みしめると、瞬の槍をほぼ同時に地面に着地したリィルへと弾く。
「「っ!」」
うまい。大精霊相手に言うことではないのだろうが、と二人は内心で思いながらも同時に二人への牽制と攻撃を成し遂げるシルフィードに僅かに苦い顔だ。しかしそこに、今度はソラが切り込んだ。
「はぁ!」
「ほいっ!」
楽しげに、遊ぶように拳を自身の剣戟に合わせてきたシルフィードに、ソラは気が抜ける余地さえなかった。そうして彼の剣戟が風の拳で弾かれたところに、今度は立て直した瞬が即座に薙ぎ払うように槍を振るう。
「ふっ!」
「まだまだ!」
振るわれた槍を身を屈めて回避して、シルフィードはぐっと右腕を引いて力を溜める。そうして身を屈めるところまでは、全員が予想出来ていた。故に今度はそこにリィルが振り下ろすように槍を叩きつける。
「はぁあああ!」
「残念、ブラフだ!」
「「!?」」
身を屈めてアッパーカットを叩き込むつもり。そう読んだ瞬とリィルであるが、リィルの槍が振り下ろされる動作よりも更に前にシルフィードは足を伸ばしていた。
「「くっ!」」
足払い。二人は自身の身体が僅かに浮かぶのを理解して、盛大に苦みを浮かべる。そうして一人残されたソラはというと、彼は彼で目を見開くことになる。
「見えていないと思わないでね!」
「っ!」
弾かれた<<偉大なる太陽>>を引き戻してその流れで振り下ろそうとしていたソラだが、足払いの勢いで自身を正面に捉えたシルフィードに目を丸くする。
「おらよっと!」
「ごはっ!」
がんっ、という大きな音と共に今度はソラが上空へと吹き飛ばされる。そしてその先には。
「ソラ!?」
「っ」
ソラの吹き飛ばされる先には、空也の氷の鎧が破壊された際の反動からようやく立て直したアルが居た。ようやく立て直した彼はこれから次の一手を探っていたのだが、唐突に戦闘に巻き込まれる形になってしまっていた。故に僅かに目を見開いて驚きを露わにした彼だが、逆に若干の様子見であったからこそソラを受け止めることは簡単だった。
「大丈夫!?」
「お、おう! っ!」
「っ!」
「喋ってる場合じゃないよ!」
どうやら浮かんだのはソラだけではなかったらしい。アッパーカットの勢いでシルフィードもそのまま上空へと浮かんでおり、ソラを更に追い抜いてアルの正面へと回り込む。
「っ!」
「まだまだ!」
現れたシルフィードに空也はソラを抱えていた氷竜にソラを手放させると共に、更に大きく羽ばたかせてその場を離れる。そうしてシルフィードの拳が空を切ったものの、それと共に強大な風が吹きすさんで更に氷竜を大きく吹き飛ばす。
「じゃあ、またこいつだ!」
「っ!」
「カード!」
上空にただ一人浮かんだシルフィードの指先に再び巨大な風弾が出現したのを受けて、即座に浬が光条を放ってそれを貫く。そうして風弾が爆ぜて、強大な風が周囲に撒き散らされた。
「はぁ……」
地面に落下して、ソラは一息つく。それに対してシルフィードは楽しげに上空で笑っていた。彼は再び呼吸を整えると、シルフィードへと向かうべく地面を蹴る。そうして、戦いは更に続いていくことになるのだった。
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