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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第八章 学園襲撃編

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第149話 空旅

    *連絡*

 『後書き』ですが、ご意見を頂き、ちょっとやり方を見直します。

 理由は後書きが長引く事での連続で読む際のテンポの悪化の対処と、メタ発言等が苦手な方への配慮です。

    *変更点*

 今までは一話ごとに後書きで座談会を実施していたのですが、それを廃止し、次回予告のみにします。

 代わりに、定期的に今までの後書き形式で一話丸々使った座談会を投稿していこうと思っています。基本的に内容は此方で解説が必要な部分を選びますが、もし何かここの部分に説明が欲しい、と言う場合には感想にて一言を頂ければ、解説させて頂きたいと思います。

 また、今までの後書きも暇が出来れば順次座談会形式に変えていく、と思います。長いので、どうなるかはまだ未定です。

 尚、どのぐらいのペースで実施するのかまだ未定ですので、詳細が決まり次第、通知させて頂きます。

 レーメス領へと向う道中、ティナ達が乗った飛空艇では、マクダウェル公爵家恒例行事の説明が行われていた。


「つまりは、公に出来ない様な裏事で、公爵家に手を出した者への警告なんですよ。」

「警告、というには物々しい兵員の様な……」


 クズハの説明を受けて、一同は周囲の人員を見渡す。そこには、明らかに各種族のトップクラスの実力者と思しき者達が屯していた。

 彼等は和やかに談笑しているが、各個人が纏っている魔力は並の兵団一つ分にも匹敵していた。しかも、これが戦闘時の最大値ではなく、これで、平時の抑えた状態なのだ。警告というより討ち入りといったほうが良かった。


「まあ、それ以外にも私達各種族の繋がりを示す示威行動でもあるのよ。もしどれか一つの種族に手を出してみろ、この全員が相手になるぞー、て。」


 ミースの説明を引き継ぎ、クズハが説明を開始する。


「まあ、まだ300年前ともなれば大戦終結後すぐ。当然のように奴隷制度なども横行していました。お兄様は奴隷制度に反対で領地内では採用していませんでしたが、周囲の領地では奴隷制度を有している場所も多く、中には公爵家の使用人や友人の種族を奴隷としているところもありました。そういった所から家臣や友人が侮られ、嘲笑されることも多く、結果、お兄様やルクスさん、バランさんを怒らせる事となり……というわけです。」


 この三人の内、誰か一人でも出陣すれば、必然公爵家の面々もそれに従う。それが何時の間にか、各種族の代表たちが集う軍勢となったのであった。そうして、クズハを引き継いで、ユリィが解説する。


「それに、数だと私達人間以外の異族は総数で劣るからね。各種族が集まって数を稼いだわけ。始めはカイトとティナとティア様他数人だったらしいけど、各種族への喧嘩もカイト達が買いまくったら、何時の間にかこうなったわけよ。まあ、中には私みたいに面白そうだから付いていこうかなー、って奴も多いけどね。」

「始めはカイト殿が我ら魔族の為に怒られたのが始まりです。」


 そう言ったのはクラウディア。いつものように、ティナの横に控えていた。


「まあ、私ですよねー。あの変態、今思い出しても握りつぶしてやりたいな。」


 顔だけ笑顔のユハラは渾身の力で何かを握る潰す様な動作をする。それを見て、ティナは当時を思い出して笑う。尚、ユハラが握りつぶしたのが何かを理解出来た男達が身を居竦ませていた。


「あの時のコフルは非常に面白かったのう。ガン泣きして妹を助けてくれー、ってカイトに泣きつきおっての。見てられん顔じゃったぞ。」

「う、いや、あの……姉御?あの時の話はできれば……」


 珍しくコフルが真っ赤になっている。さすがに自分が号泣していた時の話は恥ずかしいらしい。


「まあ、良いではないか。その結果、恒例となったのじゃ。お主は云えば生みの親じゃぞ?」

「いや、あれはカイトが行こうとして、姉御が勝手について行ったのが始まりじゃないっすか。」


 先ほどからコフルが何故かティナを敬っている感じがあるので、事情がわからないソラ達が不思議そうな顔をしていた。それを見たクズハが密かに説明する。


「大昔にお兄様に勝てなかったコフルはお姉様に挑んだんですが、呆気無くボコボコにされてしまったんですよ。それ以来、お姉様の事を苦手とされているんです。」


 当時のカイトはコフルを相手に遊んでいる感じであったが、ティナは本当にボコボコにした。殺さないように手加減こそされたが、精神的に勝てないと思わせることには成功したのである。


「その後はお姉様に弟子入りしましたけど、その結果尚の事逆らえなくなってしまったんです。」


 そう言って、クズハは本当に楽しそうに笑う。当時とは何人もの面子が代替わりし、居なくなった者も少なくはない。だが、それでも。カイトによって招集が掛けられて出来たこの軍勢を見て、本当にカイト達が帰って来た事が実感出来たのだ。


「それにしてもここ50年は一回も無かったのに、カイトが帰ってきて半年もしないうちから招集かー。また怒涛のラッシュかなー。」

「あはは、さすがにカイトでもそう何回も招集はしない……はず。」


 ミースが感慨深げに述べた言葉を始め笑って流そうとしたユリィだが、最後の方は自信がなくなっていた。


「あの娘もさっさと帰ってくればいいのに。これ聞いたらさぞ、くやしがるわよー。おねえちゃん、置いて行かれたって。」


 ミースは行方不明の従姉妹を偲ぶ。彼女も、ここ百年アウラと会っていないのだ。その言葉はいつも通りだが、何処か、寂しそうな気配があった。


「本当に、どこをほっつきあるいているんでしょうね……」


 それに対して、クズハは段々と平坦な声になる。ここでカイトの家族構成を知るソラが疑問を述べた。


「あれ?カイトって姉居ないだろ?」

「姉みたいな幼馴染はいるねー。」

「ああ、神楽坂か。」

「お兄様の公爵以前の姓はご存知ですか?」


 ソラの疑問を受けて、クズハが一同に問いかける。それに、桜が自信なさげに答えた。もう一つは有名ではないので、あまり把握していなかったのだ。


「ええ、確かフロイラインだったかと。」

「ええ、カイト・フロイラインです。当時の扱いは賢人ヘルメス様の養子ですね。同じくアウラも両親を亡くした後、ヘルメス様の養子となっておりました。アウラは年齢が近いお兄様の事を実の弟の様に見ていたようですね。」


 当時の皇国は亡国の危機で、大賢人であるヘルメスも不在が多かった。その為、尚更カイトを可愛がったのである。


「まあ、そのせいでかなーり、カイトに依存してるけどね。よくカイトの背中に乗っかるか、へばりついてた。」

「ユリィはその上に乗ってたじゃないですか。」

「正確には、アウラの頭の上に乗った日向の頭の上に乗ってた。」


 見知らぬ名前が出て来たので、ソラが問い返そうとするが、その前に飛空艇が大きく揺れた。


「な、何だ!」

「……姉様。」


 ティナが溜め息とともにそう言う。そうして外を見た一同が見たのは、お手玉の様に投げ渡されるカイトであった。




 ティナ達が乗る飛空艇が揺れる数分前。カイト達三人は、アクロバティックな空の旅を大いに満喫していた。


「おお!やっぱいいな!」

『じゃろう!そこな女龍ではこのような機動はできん!』


 カイトを背に乗せたティアは、得意気に回転しながらスラローム軌道を行う。それに、カイトが更に大興奮である。彼は何気に風を感じられる乗り物が大好きなのである。おまけに、今は感情の抑えを解いているので、尚更それが顕著に感じられた。


『む?言ったな!』


 それを受けて今度はグライアがティアの背に乗っているカイトを掴んで放り投げた。


『少し自由落下を楽しんでいろ!』


 その言葉に従ってカイトは少しの自由落下を楽しむ。


「いーーーやっほーーー!」


 放り投げられたカイトは文句を言うでもなく、ガッツポーズと共にくるくる回転しながら落下を楽しむ。


「やっぱいいなー!スカイダイビング!」

『と、ここで余がキャッチだ。』


 そう言って落下途中のカイトと並走し、背に乗せる。


『ここからの急上昇!』

「うおわ!アブね!舌噛むわ!」

『おお、スマンスマン。』

『むぅ~。妾もその程度出来るのじゃ!』


 グライアの背に乗ったカイトを、今度はティアが奪取する。そうして何度かのアクロバットの後、気づけば飛空艇からかなり遅れてしまっていた。


「おい!遅れてるぞ!」

『む?』

『お?』


 その言葉に二人も前方を見るが、目視できる距離に飛空艇は存在しなかった。まあ、ティナの飛空艇は時速1000キロで進んでいるのだ。おまけに闇夜の中に紛れる様に黒色の迷彩が施された飛空艇では、少し停滞しただけでも見えなくなるのは無理がない。


「ちょっとだけ急いでくれ!」

『うむ!』


 現在ティアの上に乗っているカイトは、ティアに向けて言った。ティアが了承したのに合わせて、グライアも加速する。数秒後、再び飛空艇が目視できる距離まで追いついた。


『おお、見えたぞ。』


 そう言って二人がもう一度加速したのだが、今度は圧倒的に引き離した。


「あ、今度は通り過ぎた。ちょっと遅く。」


 そうして数分後には、再び飛空艇と並走し始めたのだが、追いついた事で再び三人が調子に乗り始める。


『今度はこうじゃ!』


 そう言ってティアは飛空艇の隙間を通り抜ける。


『どうじゃ!』

「おお、さすが!」

『ふむ、では余も少しやってみるとするか。おい、ティア、パス。』


 そう言ってグライアが何かを受け取る様な動作をする。それを見たティアがカイトを掴んでパスした。


『パスじゃ。』

『キャッチだ。』

「オレはボールか!」


 カイトの声が楽しげだったので、その言葉を無視してグライアはカイトを背にのせた。そしてそのままグライアは飛空艇に接近する。


『おい、カイト!飛空艇の上を全力で駆け抜けろ!』

「ん?……了解!」


 理由は解らなかったが、取り敢えず言われた通りにジャンプで飛空艇の上部に着地。そのまま一気に走りだす。そして最先端に近づいた時、再びグライアが言った。


『そこから一気に跳べ!』

「おっしゃ!」


 そしてカイトはそのまま言われるがままに一気にジャンプして、大空へと舞い上がった。そして次の瞬間にはグライアが飛空艇の下から出て来て、カイトを背に乗せた。


「ヒャッハー!」


 自由落下に超高速移動にと色々と楽しんで、カイトは超ハイテンションで両手を上げる。そしてふわりと舞い上がりグライアの背から離れ、ティアの背に乗った。


「いやぁ、楽しい!マジで楽しい!」


 カイト、大歓喜である。しかし、すぐにティナから抗議がやって来た。


『バカイト!何やっとるんじゃ!』

『ああ?何ってアクロバット。遂にボケたか、ダ王。』

『見ればわかるわ!危ないって言っとるんじゃ!』

『あ?別にオレも二人もこの程度だとどうにもならんぞ。』


 上空1万メートル程度を飛空している三人と三隻だが、この程度からカイトが落ちた所で自力でどうにでもなる。ティナも同じであった。


『お主ではない!飛空艇の方じゃ!さっきからかなり揺れておる!』


 この程度でコントロールを失う様な飛空艇ではないが、全長50メートル強の生き物が近くで、しかも超高速で動いているのである。それによって生まれる乱気流は物凄いものになっていたのだ。当然飛空艇は大きく揺れていた。


『あ、マジ?悪い。』

『おお、スマンスマン。つい熱中してしまった。』

『うむ、妾らも久しぶりじゃからな。ついはしゃいでしまった。』


 そう言って三人は大人しく飛空艇に並走し、目的地に向うかとおもいきや道中で雲海に見覚えのある影を見つけて停止する。


『……次は何じゃ?』


 呆れたティナが念話で呼びかける。飛空艇は停止させた。そうしなければ、今度こそ砲撃をお見舞いしたくなる事象が起きそうな気がしたのだ。


『ああ、ねぼすけ発見。』


 そう言うやカイトは雲海に向けて呼びかける。


「おーい、グイン!」


 すると、雲海から金色に輝く巨大な龍が現れる。全長は今のティアと同程度、50メートル程度である。


『……なーに?……ここどこ?』


 目をこすっているわけではないが、カイトの頭には何故かそういう動作が浮かんだ。かなり長いこと寝ていたようであった。


「……あの山があそこだから……ウチの隣の外れ。」


 現在はマクスウェルから西側へ500キロメートルほど進んだところであった。大凡道半ばである。


『……イオシスじゃない……』


 カイトの言葉を聞いたグインが、少しだけ驚愕を滲ませて呟いた。イオシスとはエネシア大陸から北東に位置する、2つの大陸が繋がった大陸の片方である。もう片方の名前はイオシアである。


『双子大陸か……』

『何時から寝とったんじゃ!』

『……雨が降る前。』

「わかるか!」


 グインは未だ眠そうにしていたので一見すれば寝ぼけている様に思える発言だが、これは彼女の素である。

 とは言え、さすがのカイトも他の二人も別大陸のどこかわからない場所の何日か前の天候などわかりはしない。三人は呆れるだけだ。

 と、そうしてふと、三人が揃っているだけでなく、飛空艇の中にもティナや見知った面々が居る事に気付いたグインが、首を傾げて問い掛けた。


『……皆揃ってどうしたの?』

『少しカイトの戦に付き合う予定だ。』

「お前も来るか?」

『……ちょっとだけ。』


 ほんの僅かに考えたグインが、雲海から飛び立つ。次の瞬間、雲海は飛び立った風圧で消滅した。


「おし、じゃあ再び出発だ!」


 そうして新たに黄龍皇帝という過剰戦力を加えた一同。道中ここまでの話を聞いて、アクロバティック航法に興味を示したグインがカイトを受け取って飛空艇を揺らし、ティナに怒られるという事態を引き起こしつつ、進んでいったのだった。




「ふぅ……」


 それから暫く。ようやく収まった揺れに、思わず一同が溜め息を吐いた。


「……一体ティアさん達は何をなさっていたんですか?」


 ようやく一段落ついたことで、桜がティナに問いかける。それに、ティナが若干疲れながら答えた。


「カイトが相当はしゃいでおったからの。大方アクロバティック航法でも連発しておったんじゃろ。何がヒャッハーじゃ。」


 その発言を聞いた天桜学園一同は、思わず耳を疑った。通常は落ち着いているカイトがヒャッハーとはどういうことか、一同想像が出来なかったのである。


「お主らが疑うのはわかる。じゃが、アヤツは元々ああいう性格じゃぞ?」

「私達はお帰りになられたお兄様の性格が落ち着いていらっしゃったので、驚いたぐらいですよ?」


 特にクズハはカイトの帰還時には悪戯を仕掛けられているので、余計に困惑があった。


「始め別人かと思ったよね。ステラなんか、洗脳されたー、って思いっきり焦ってたし。」


 どうやら宴会には最初から参加していたらしいユリィも同意する。


「……仕方が無いだろう。あの主だぞ?ふと思い立てば居なくなっている様な落ち着きのない主が、いきなり落ち着いて帰ってくれば、仕方がないじゃないか。」


 ユリィの言葉に、ステラが顔を少しだけ赤らめる。そんな話をしつつ、ふと翔が外を見ると、何故か龍が一体増えていた。呆然としつつ、翔が呟く。


「……増えてね?」

「増えてるな。」


 翔の言葉に外を見た瞬が同意する。この期に及んで驚くのは無意味と悟ったらしい。


「……グイン姉様じゃ……。道中寝とった所を見つけたらしい……。」

「……グ、グイン様まで。」

「……僕達は何と戦っているんだろう。」


 リィルとアルが唖然として呟いた。この戦力をもってすれば、大陸を統一することはもとより、世界を統一する事も容易であった。間違っても一貴族相手に持ってくる戦力ではない。そうして一同が唖然としていると、艦内に黄色ランプが灯った。


「おお、到着十分前の合図じゃな。」


 そう言ってティナが足早に計器の観測に移る。そして、位置情報に間違いが無いことを確認。三隻に連動した通信システムを起動させる。


『んん……総員に告げる。後十分で到着じゃ。総員用意せよ。』


 そうして、一同は着陸準備に移行したのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第150話『襲撃』

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