表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第六章 冒険部始動編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/3965

第112話 更なる裏ワザ

 異空間にて、カイトから直々に教えを請う事となった瞬、瑞樹、凛の三人。そうして、三人は教わった通りにカイトの教えた概念抽出・組み込みにとりかかったのだが、挫折しかかった。先は長そうだ、と心が折れかかる。

「……と、いうわけで、これが難しいのはこういうことだ。まずは概念そのものを抽出する必要がある。のだが、これをもっと簡単にする方法がある。」

 一気に挫折しかかった三人だが、カイトの言葉に顔を上げる。その顔には、若干の希望が現れていた。

「瑞樹、地球で何か有名な伝説・逸話の武器を知っているか?」

 カイトは取り敢えず三人の中で最も文化面での教養がありそうな瑞樹に聞いてみる。

「そうですわね……有名所ではアーサー王の聖剣エクスカリバー、その選定の剣カリバーン。ジークフリートの魔剣グラム。それを折った主神オーディンのグングニル。中国でしたら西遊記の孫悟空の如意金箍棒や鉄扇公主の芭蕉扇、三国志の関雲長の青龍偃月刀。張翼徳の蛇矛。曹孟徳の青紅・倚天の剣や、インドの主神インドラのヴァジュラが有りますわね。他にもケルトの神話トゥアハー・デ・ダナンにある太陽神ルーのブリューナグ。同じくケルトの英雄クー・フーリンのゲイ・ボルグ。日本でしたら、村正と言いたいところなんですが……持っておられますものね。天叢雲、天羽々斬や立花道雪の雷切でどうでしょうか。」

 取り敢えず、ということで有名そうな物を上げていく瑞樹。カイトとしては2つ3つで良かったのだが、思った以上に名前が挙がって少し驚き、顔が引き攣っていた。カイトとティナは地球帰還後に様々な文献を調べたので、大抵の物については知っていたが、そんなことのない面子は唖然としていた。

「あ、いや、そんなに上げてくれなくてよかったんだが……まあ、これらの武具には当然逸話がある。そして、その成した偉業も当然伝わっているわけだが……これをそっくりそのまま流用させてもらおう、というわけだ。例えば、雷切は分かりやすいな。雷を切ったわけだ。そうすればイメージ出来るか?」

「まあ、なんとか……。」

 先ほど即座に音を上げた瞬がそう言う。だが、彼もただ単に雷を切る、ということであれば、簡単にイメージ出来た。そして、それこそが、カイトの方法の利点であった。抽出なんてどうせ出来ないのだから、いっその事そっくりそのまま組み込む事にしたのである。まあ、その分デメリットとして更に強引さが増したので、使用回数が減る事になるのだが、威力はその代わりに上がるというおまけが付いていた。

「じゃあ、それを強固にイメージして、剣に宿せ……って、ああ、これも難しいから、始めから出来るなんて思わなくていい。まずは見て覚えろ。ティナ、悪いが今度は雷を頼む。」

 そうして、必死にイメージし始めようとした三人を見て、カイトは苦笑してストップを掛けた。当たり前だが、イメージしろと言われて、伝説になった武具をイメージ出来る方がおかしいのであった。

「うむ。」

 そう言ってカイトが今度は何の変哲もない鉄の刀を取り出し、抜き放つ。それに合わせてティナも雷を放った。

「<<雷切(らいきり)>>。」

「おぉー。」

 そう言ってカイトが放った一撃はティナの雷撃と衝突し、ティナの雷撃を切り裂いた。そうして、一同の驚きを前にカイトが少しだけ照れた顔になる。が、気を取り直してカイトは解説を続けた。

「さて、では出来るのは刀だけかというと、当たり前だが、そうではない。槍でも可能だ。ティナ、今度は氷をいくつも出現させてくれ。できれば動きまわってくれると助かる。」

「この程度かの?」

 カイトの指示を受けたティナは、100個ほど氷を出現させる。大きさは成人女性ほどで、それなりの速さで縦横無尽に動き回っている。

「多すぎだ……が、まあいいだろう。<<隻眼主神の投槍(グングニル)>>。」

 カイトが魔力を込めた投槍はカイトの手から放たれるや否や、一直線に氷塊へと直進する。氷塊はそれを避けようと動きまわるも、それに合わせて投槍も軌道を変え、遂には貫かれ、砕け散る。氷塊を貫いた槍はそのまま次の氷塊へと狙いを定め、追撃を開始した。

「……さすがに多すぎるな。ついでにコイツも入れておくか。<<神雷(ブリューナグ)>>。」

 そう言ってカイトは特大の雷を生み出し、それを槍の様に放り投げた。投げられた雷はその範囲に入った氷の尽くを蒸発させつつ、空の彼方へと消えていった。この一撃で氷の7割が消失し、更に投槍を加速させ、一気に全ての氷を消し去った。

「と、まあ、今のはオレが作り出した槍に組み込んだ訳だな。まあ、先輩ならやりやすいだろう。始めから組み込んだ武器を創り出すだけだからな。」

「ふむ……ということは、俺は楽な方なのか?」

 同じ方法であると悟った瞬が考えこむようにカイトに質問する。それにカイトは頷いた。

「ああ……といっても、さっきの<<神雷(ブリューナグ)>>は槍じゃない。金剛杵だからな。今のは槍に<<神雷(ブリューナグ)>>の力を組み込んだ、と言うわけだ。こういった応用的な使い方が出来るのもこの技の利点だな。」

 カイトが少しだけ自慢気に語る。そう、概念を組み込んでいるだけである以上、英雄が持つ槍の概念を組み込む対象が刀であっても問題はないのであった。これこそが、カイトならではの方法の利点なのであった。

「で、デメリットは?」

 ここまでの流れから、当然の如くデメリットを予想する三人。

「当然武器の消耗は早まる。次に、これら英雄たちの武器辿ったの歴史を強固にイメージ出来るか、ということ。そうして伝説の武器達をイメージして、その概念を武器に込めるわけだな。要はこの武器は伝説の武器を打ち直した物である、と思うわけだ。……簡単じゃあないし、そもそも伝説の武器を知らないと出来ないわけだから……当然知識量も必要になる。」

 そういってカイトは一旦デメリットを打ち切り、メリットを上げる。

「まあ、それでも武器に武器の概念を込めるだけだから、まだ簡単だ。炎なんかの属性やその他の概念を創り出して抽出、更にそれを保ったまま本来そんなものが無い他の武器に組み込み、そして更にその武器を使う……難易度は当然高くなる。そもそも武器でない概念を武器に組み込むわけだから、武器そのものにも概念側にも拒絶反応がでるわけだ。当然それを抑えこむのは多大な魔力を消費する。武器に概念を有する武器を組み込んだ方がまだ、拒絶反応は少ない。説話によっては伝説の武器を打ち直した伝説の武器もあるからな。世界そのものもまだ納得できるんだろうよ。」

 そこでソラ達先に訓練を受けた者達、アル達エネフィアの者達さえ耳を疑う言葉があった。なのでソラが思ったまま、口に出した。

「世界そのものが納得するってどういうことよ?」

「その学説は確か、つい100年前に否定されましたよ。カイトさんは300年居なかったので、知らないのも無理はありませんが……」

 ふとカイトについて思い出したリィルが、納得した顔でそう言った。アル達もなるほど、と納得していた。アル達はなぜこれ程の常識をカイトが知らないのか、と訝しんだのだ。が、これは対してカイトの方に疑問が浮かぶ。

「いや、まて……どういうことだ?」

 アル達がリィルの言葉に頷いていたので、思わずカイトが呆れ返る。そうして、カイトの方も思うがまま、疑問を口にした。

「そもそも世界の意思について否定された、とはどういうことだ?」

「魔術も魔力も共に自然に存在する力、それ故に世界からの修正が働くことは無い、という結論だったはずです。そこから世界の意思が確認出来ず、意思は無いのではないか、という結論です。」

「何を馬鹿な。そもそもそれだと世界からの修正力についての説明ができんだろう。」

「それについては事変改変に伴う反発力ではないか、というのが推察されています。」

「待て……それなら一度改変が確定した事象についての説明がなせんじゃろ。因果改変などの魔法式はどうなるのじゃ?あれは世界そのものを変化させるものじゃぞ。世界そのものが変化した所で、きちんと修正しようとしておるぞ?それに、反発力では完全には元には戻ろうとせん。どうしてもロスが発生するのじゃ。しかし……」

 カイトの問い掛けに対するリィルの解説に、思わず魔術系統全般の専門家のティナが突っ込む。そうして更に続く疑問と推論、結論に、リィルが割り込んで結論を告げた。

「確か、閾値を上回ったから、との説明でしたね。閾値を超えたが故に、反発力が弱くなっている、もしくは存在できなくなったということです。」

 リィルが言いたいのは、要はバネが伸びきってしまい、殆ど戻らなくなったか、バネが切れてしまい、元に戻らないということだ。それは確かに、一応は説明が付くだろう。が、ティナからは疑問が飛んだ。

「それは単なる見掛けの問題じゃろう。実際にはゆっくりじゃが、きちんと元に戻る。完全なる死者蘇生などが出来ん理由じゃな。一体何を考えておるのじゃ……」

 そういってティナがリィルを半眼で睨む。が、当然リィルが考えたわけでは無いので、リィルが困った顔をする。そうして、困った顔の彼女は、少しだけしまった、という顔でティナに告げる。うっかりティナの疑問に答えたのが間違いだったのであった。

「……いえ、あの……私もこの学説を唱えた人ではないので、なんとも……検証したわけではありませんし……」

「む?それもそうじゃな。すまぬ。後で自分で調べるとするのじゃ。」

 そう言われたティナは、確かに筋違いであったと頬を掻いて謝罪する。そうして、そんな二人に対して、カイトが簡単な結論の出し方を告げるのであった。

「……と言うか、誰も大精霊たちに聞かなかったのか?あいつらなら即断するぞ。」

 当然、世界の意思は存在する、という事をである。が、当たり前だがこんな簡単な答えの出し方が出来るのは、カイトだけだ。

「……お主、自分がどれだけぶっとんだ存在か忘れておらんか?」

 ティナが呆れた様な声で、カイトに言う。そう、こんな人界の雑事に大精霊を呼び出せるなぞ、カイトのみである。本人はそれを理解していないのであった。

「ん?そうか?……まあ、いいか。まあ、世界そのものには元に戻ろうとする意思がある。世界の意思に反して異常に世界が変えられたのだから、当然だな。しかし、当然改変が小さければ小さいほど、異常が小さければ小さいほど、修正力も小さい。それ故に武器に武器を組み込む方が修正力は小さい。要は伝説の武器を打ち直した、程度で済むからな。……まあ、これだと本来なら存在しない物がそこにあるから、それを消そうとする修正力が働くんだが……それでもまだ魔力の消費が増えるだけで、難易度はがくっと下がる。」

 きょとん、とティナの言葉をそんなものかな、と流したカイトは、更に解説を進める。が、先ほどの名残なのか急に真面目な学説論になって話半分に聞いていた凛が頭を押さえながらカイトに尋ねた。

「そこら辺の学説や理論はどうでもいいんです。私達には何を教えてもらえるんですか?」

「まあ、凛は蛇腹剣だからな。地球には使っている英雄が居ない。と、言うかだな……ぶっちゃけ、魔術が一般的に存在しない地球だと、蛇腹剣自体が存在しない。」

「え!?そうなんですか!?じゃあ、なんであんなに有名なんですか!?」

 まさか自分が使っている武器が空想上の産物であるとは思いもよらなかった凛は、目を丸くして驚く。それに、カイトが若干言い難そうに答えた。

「……日本のオタク文化の産物だ。接近戦で剣、追撃に鞭、槍みたいに刺突が一つの武器でできたらすごいんじゃね?と言う、いわゆるロマン武器だな。」

 ちなみに、これはカイトも知った時びっくりしたのであった。

「これだから日本は……。」

 心底侮蔑した表情をする凛だが、それを選んだ凛も凛である。

「まあ、そんな蛇腹剣だが、剣の強度とかの問題で作られていない。ちょっと蛇腹剣開いてワイヤー出してみ?」

 凛は言われるがままに蛇腹剣を少し伸ばし、内部のワイヤーを取り出す。ワイヤーはさすがに単なる金属で作っては強度と操作の問題で色々と問題があるので、魔法金属である魔法銀(ミスリル)―ただし、量産物―で出来ていた。

「魔術文字が刻まれてるだろ?おまけに剣の内部にも魔術文字が刻まれていて、それで強度を上げてるから、エネフィアでは使い物になる。おまけに魔術で蛇腹剣の軌道をコントロールできるしな。危険性も小さい。」

「じゃあ、さっきの説明の武器への組み込みが出来ないじゃないですか?」

「まあ、こっちに居る英雄の物を使えばいいんだが……馴染みないな。でだ、しょうが無いんで、少しおもしろい技を編み出した。後で教えてやる。基本はこんなところか。」

 当たり前だが、カイトの言う技はイメージ出来るかどうか、が重要であった。なので、その来歴を知れば知るほど、その力を使いこなせる。これがもし地球出身の英雄たちであれば多少は馴染みがあるし、何処かに繋がりがあるからまだ、わかりやすいのだが、エネフィアにしか居ない様な英雄では、その来歴や伝説の元となった神話などを詳らかに知る必要がある。そんな時間はもったいなかったので、カイトは仕方がなく、自身が知る技を教える事にしたのであった。ちなみに、これは薙刀を使う英雄が少ない桜も若干同じである。

「ちなみに、翔。お前達はどの程度出来るようになっているんだ?」

 瞬は約一週間ほど先んじて練習していた翔達に目安として聞いてみる。

「えーと、ですね……魔力量やらの問題で一日十回ぐらいしか練習できないんですが……自分は一回もできてないです。技は<<四元開放(アゾット剣)>>。えーと、中世ヨーロッパの人だっけ?」

 翔はカイトの方を見て、いまいちよく知らない中世の偉人についてを尋ねる。それに、カイトは頷き、そして解説を始めた。何故カイトがやったかというと、翔は未だきちんとその偉人の事についてを把握していないのであった。

「ああ、パラケルススとかホーエンハイムとか呼ばれた錬金術師の持っていたとされる剣だな。翔に教えたのはその人の四元素の再発見にちなんだものだ。まあ、本来アゾット剣は伝承から回復系か錬金術系の技にするのがベストなんだが……賢者の石が埋め込まれた、という伝承のお陰で難易度が一気に高くなってな。持ち主の方にちなませてもらった。アゾット剣を持っているのだから、翔はパラケルススである、という概念にしたわけだ。翔以外にはどんな技かは習得してからのお楽しみだな。」

「そうか、楽しみにさせてもらう。」

 カイトの含みのある言い方に、瞬がにやりと楽しげな笑みを浮かべる。それに、カイトも同じ笑みを浮かべて言った。

「ああ……じゃあ、すでに教えた面子は各自練習で。他の三人はオレと一緒に向こうに行くぞ。」

 そう言ってカイトは新入り三人を連れて、少し離れた所へ歩いて行った。

 お読み頂き有難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「……と言うか、誰も精霊たちに聞かなかったのか?あいつらなら即断するぞ。」とありますが、精霊たちではなく大精霊達にした方がいいと思います。
[一言] 薙刀は一応武蔵坊弁慶が有名ですね。でもそれ以外思い付かない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ