第98話 新組織
今日から新章スタート。第6章『冒険部始動編』です。
桜達を救出してから一週間が経過したある日。天桜学園の会長室で読書していたカイトとユリィは、桜から相談を持ちかけられた。
「カイトくん。いくつか相談があるんですが……。」
「桜か。何だ?」
何枚もの紙を携えた桜が、カイトの前の椅子に座ると、カイトは顔を上げる。そしてユリィが手で紅茶を指したので、有り難く紅茶をいただく事にして、一口口に含んで口を開いた。
「まずは、学園生の状況等をまとめた結果が出ましたので、その報告です。」
そう言って桜は何枚か報告書をカイトへと渡していく。カイトの正体を知った事で、学園統治等でアドバイスを貰おうと密かに情報をカイトに流しているのだ。カイトはそれらを確認しつつ、桜を労う。
「ああ、悪い。桜もこの一週間忙しかっただろう。そろそろゆっくり休んでくれ。」
カイトを含め公爵家の面子や桜、一条といった生徒たちの纏め役、学園の教師陣といった面々は生徒からの死者ということで葬儀やその他諸々の手筈に追われ、かなり忙しかった。
葬儀こそ早い内に終了したのだが日本へ帰還後を考え、遺体をどうするか、死因をなんと説明するか等の手筈を整えていると、あっという間に一週間が経過したのである。
「ええ、そうさせて頂きます。ですが、その前に一つ相談が……」
少しだけ言い難そうにした桜が、何処か窺い見る様にカイトの顔を見る。それを見たカイトは、少し苦笑して先を促した。
「何だ?別に遠慮することはないぞ?」
「ええ、では……」
桜は立ち上がると会長室のドアを開けて、外で待っていたらしい瞬を中へと招き入れた。
「すまない、カイト。今回の相談は俺……ん?誰だ、この少女は?」
会長室へと招き入れられた一条はカイトの膝の上に座る少女―ユリィ―を見て眉を顰めた。彼は後悔を打ち消す様に忙しく動き続けて、そしてリィルに窘められて、再び忙しく働いてを繰り返す内に、なんとか吹っ切れたらしい。
「あ、シュン。私だよ、ユリィ。」
それまで読書していたユリィが顔を上げて、そう言う。そしてその顔をまじまじと確認した瞬は、その顔がたしかにユリィである事を知ると、大いに目を見開いて驚いていた。
「はぁ!?いや、ユリィはもっと小さいだろ?」
「あ、妖精族は大きくなれるみたいです。」
桜が知っていた様子に驚くが、更に妖精族の性質を説明されて納得する。そうして1つ思った疑問を、彼は口にした。
「じゃあ、何故今まで小さい姿だったんだ?」
「んー、気分かな。まあいいじゃない、どうでも。」
実際にはルキウスらの部隊にはユリィの教え子も少なくなく、大きい姿だとユリィに気付かれかねないためであった。が、既にほぼ全ての隊員にカイトの正体を含めて通知済みなので、今も偽っているのはただ単に気分である。
「……まあ、いい。それで、相談なんだが。」
相変わらずカイトの膝に腰掛けるユリィに若干眉を顰めるが、瞬が話を切り出した。そうして返答を待っていた瞬に、カイトが先を促す。
「何だ?」
「先の一件で命令系統を一本化しよう、という話になったんだが、いい案はないか?」
そう言われたカイトは少し頭を悩ませる。が、すぐに答えが出た。
「生徒会か部活連のどちらかに統合すればいいんじゃないのか?」
「実は始めはそうしようか、という話だったのですが……」
その言葉を聞いた桜が、少しだけ溜め息を吐いて失敗したらしい事を告げる。
「すまん、カイト。先の一件で俺の暴走が少し問題になってな。俺の指揮下に入る事に難色を示す生徒が出てしまってな。」
そうして言い難そうにしている桜を見た瞬が、事情を説明し始めた。聞いてみると、運動部系の部活生は納得したらしいのだが、文化系の部活生や生徒会の一部生徒が難色を示したらしい。それを聞いたカイトとユリィはもう一度知恵を絞った。そうして二人で相談し合った結果、答えが出たのでカイトが告げる。
「……ならば、新たに組織を立ち上げるか?」
「新しく組織を、ですか?」
カイトの言う意味が理解出来ず、桜と瞬が首を傾げた。
「ああ、そうだな……これから段々と学園生達も様々な支援に加わるだろう?」
「ええ。先頃も手芸部と料理研究会から合同で何か手伝えることは無いか、と打診がありました。」
これは既に桜がカイトに流した情報なので、カイトも既に見知った情報である。会議系統ならば公爵家の人員から報告が上がってくるのだが、こういった内々の話だと手に入らず、桜からの流出は有り難かった。
ちなみにこれは、手芸部と料理研究会からだけではない。さすがに3ヶ月も経つ頃になると、生徒たちの多くがエネフィアでの生活に慣れてきた。なので冒険部や学園の自給自足への手伝いを希望する生徒がかなり出始めているのである。中には一番近く、また大陸でも有数の巨大都市であるマクスウェルへ行ってみたいという声も少なくなく、一部に限定されるが冒険者でない生徒にも街への出入りを解禁する予定である。
「そうなってくると、今度は様々な問題が析出する。1つは人数が増えた事で、組織が複雑化する。後は、もう一つ。学園で出た困り事はどうする?例えば食料問題や、購入予定の畜産物の問題だな。」
カイトに問われた桜は、少しだけ考えこんで、答えを言う。
「その為に、私達が居るんじゃないですか?」
その答えは正しい答えだったので、カイトは笑って頷いた。
「そういうこと。だが、今の学園では冒険者へも商人達へも依頼しにくい。今は学園の存在を隠しているからな。要はそれに対応する為の組織だ、外部との遣り取りをその組織に一元化するわけだな。所属は多くが冒険者となるだろう。まあ、さすがにいきなり全部だと、色々と不具合が多いだろうな。始めは一部の冒険者が所属して様子を見て、最終的には学園の全冒険者を統括する組織とすればいい。」
そうしてカイトとユリィが、色々と組織の立案計画を二人に説明していく。始めから全員を統括しないのは、どんな不具合がでるかわからないからである。
「確かに、新しく組織を立ち上げるのはいい案だ……天道、一つ頼んでいいか?」
カイトの案を考えていた瞬は真剣な面持ちで桜を見る。
「悪いがこの新組織のトップには天道が就いてくれ。」
「いえ、それは一条会頭が就かれるべきなのでは?」
瞬の言葉を受けた桜が、怪訝な顔で瞬を見返す。現在の学園上層部がトップとしての教育を公爵家側に依頼しているのは桜と一条である。年齢や実力を考えれば、一条がトップに就くのが妥当であった。しかし、これはカイトとユリィの二人から駄目出しを食らう。
「ううん、シュンが就くのは難しいんじゃないかな?」
「ああ、そうだろうな。そもそも指揮系統を一本化する際に問題になったのが先輩の指揮下につきたくない、という生徒だ。ならば桜が就くのが一番……じゃないのか?」
カイトも桜が就くのが妥当だ、と言おうとして、桜の表情を見てやめる。桜が少し済まなそうにしていたのだ。
「実は……それも話に出たんですが、今度は部活連の一部生徒が反対しました。」
「はぁ、やっぱりか。」
桜の顔を見て大体予想していたカイト。今度こそ頭を抱えた。現状、学園生でトップとして立てる人物が不在なのであった。片方は失敗から一部反対が抑えられず、片方はもう片方の人望が高いが故に、反対が抑えられないのだ。
「どうしたものか……。」
そうして頭を悩ませる一同。そこでふと、桜がカイトが公爵であった事を思い出した。更には色々と指揮系統については学園でも実績があるのだ。なので、桜は物は試しと議題に上げてみる事にした。
「カイトくんはどうですか?」
「はぁ?オレだと誰も納得しないだろ?それにほとぼりが冷めてから一条先輩が発足させる手もある。」
露骨に嫌そうな顔をするカイト。纏め上げることも可能だし、その経験もあるので問題は無かった。が、本人は面倒なので、やりたくなかった。おまけに言えば、カイトが表に立てばその分、注目がカイトに集まる可能性は高い。そうなると、自身の正体が露呈しかねないのだ。
「いや、存外いいんじゃないか?補佐に俺と天道が就けば大丈夫だろう。お前の冒険者としての実力は学園一だ。実力を問題視する奴も居ないだろう。この間の軍団戦でも集団指揮の腕前を披露したからな。指揮についても問題は無い。」
とは言え、実力を既に示していたが故に、瞬はそれに反対すること無く賛意を示す。
「ならティナで……」
かつての学園生を二分した戦いでは、ティナがもう片方の軍師だったのだ。なので、そちらをトップに推す。ティナであれば姿を完全に変えているので、旧知の者からバレる事は無い。おまけに彼女の容姿はとてつもない美少女なので、見栄えも良いだろう。才能も有り、トップとしてはうってつけだ。が、これは不発に終わった。
「ティナちゃんは休日行方不明なので……」
相談出来なかった、ということである。表向きは。既にこの時はティナが休日何処に居るのか桜も把握しており、それを表に出さない為に話せないと言うことにしなくてはならないのであった。
「なあ、カイト。ミストルティンがどこにいるか知らないか?誰も知らないんだ。」
桜の言葉を受け、この中で唯一居場所を知らない瞬がカイトに少し困った顔で問い掛けた。
「……いえ、全くわからないです。」
瞬の言葉に、カイトも少しだけ困った顔を作って答える。ちなみに、休日のティナは公爵邸にあるティナの研究室に引き篭もって魔術関連の開発に勤しんでいるのだ。学園の生徒達が居場所を知らなくても当然であった。
「そうか。まあ、いつも一緒に居るわけでもないか。」
「当たり前だろう。」
とは言え、瞬は自分でそう理解したらしい。カイトもそれを好機と見て、そういうことにしておいた。事実、カイトとティナとてエネフィア帰還後は同一パーティなどの理由で一緒に居る事が多くなりがちだが、休暇にまで一緒に居るわけではない。というより、カイトはこの会長室に居るのに対し、彼女は公爵邸の自分の研究室に現魔王クラウディアと共に引き籠もっているのが普通だ。時々、カイトがティナに連れ去られる事もあるが、休日に一緒に居るのはそのぐらいであった。
「そうか?一部では付き合っているって噂があったんだが……結構最近も出てたな。」
「また根も葉もない噂を……まあ、そんな噂を流せるなら元気になってきた証拠か。」
何処か茶化す様な瞬の言葉にはぁ、と溜め息を吐いたカイトだが、即座に気を取り直す。こういった根も葉もないおちゃらけた話が出てきたということは、仲間の死で落ち込んだ気分が大分と持ち直した左証に他ならないのだ。
「で、オレがトップをやるかどうかは別として、学校内ではどういう扱いにするんだ?」
カイトは自身が務めるつもりは無かったので、素案では生徒会か部活連合の下部組織とする筈であった。なので、桜に問い掛けたのだが、彼女は直ぐに答えた。
「部活動扱い、が一番かと。冒険者として活動すると金銭が発生しますし。」
これはどうしても仕方がない。冒険者としてきちんと依頼書を書けば、そこにはどうしても報酬が発生させなければならなくなる。とは言え、依頼書抜きで動けば冒険者として問題なので、冒険者としてではなく、学園生として動くための方便であった。
「そうか。まあ、あまりに危険な依頼は却下させるべきか。それに、俺達だとゆくゆくは遺跡探索等もやらないといけないからな。」
桜の意図を把握した瞬が、更に組織のアイデアを提出する。これは当たり前の事であったので、桜もそれに同意した。
「ええ。受けても食料の入手や服の購入、街までの護衛や案内といった現在ルキウスさん達がやられている事ですね。」
今の段階では、天桜の冒険者達の半数以上がランクDとなった時点から段階的にルキウスらの部隊が順次支援を少なくしていく手筈になっている。その後を引く次ぐのが天桜の冒険者達であったので、当然ではあった。桜の言はそういうことだ。そうして、桜の言を聞いたカイトは、納得して頷く。
「部活扱いにしたのは冒険者ではなく学園生としてだから、というわけか。それに部活扱いにしておけば頼みやすいだろうからな。」
「そういうことです。」
そうして、桜の返事を聞いたカイトは思考の海に沈む。一旦そこで会話が途切れたのだが、カイトはかなり長く考え込んでおり、途中桜やソラ、瞬の名前がカイトの口から漏れていたのである。
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