ナファフィステア視点◆ちょっと下着を変えてみたら◆
緑水祭儀から少し後の話です。
可愛い下着ネタのリクエストをいただきましたので、書いてみました。
「ナファフィステア妃、以前、祭儀でお召しになった下着を覚えてらっしゃいますか?」
「祭儀で着た下着? ああ、あれね。覚えているわ。あれは特別に作らせたんだったわよね」
侍女リリアが私に尋ねてきたのは、しばらく前、緑水祭儀という神殿のイベントで巫女もどきの恰好をした時の話だ。
あの時は祭儀に参加する私の衣装が下着なしの服一枚きりだというから、抵抗して腰に巻く布を作って身につけたんだった。
だって……衣装は白いから、透けたら嫌だったのよね。この国の人々は全身金毛だから透けたりしないんでしょうけど、黒だとちょっと……心配で。
「それが、どうかした?」
「あの下着がお気に召されたようでしたので、いくつか、職人に作らせてみたのです。いかがでしょう?」
リリアはそう言って、2着の下着を広げて見せてくれた。
下着を付けたいとごねた時、私はキャミソールの話をしたのだろうか。リリアが手にした下着は細い肩紐で膝半ばくらいまでの柔らかく薄い生地でできた華奢なキャミソールそのものだった。一つはシンプルなタイプで、もう一つはレースをあしらったゴージャスなタイプ。
「それ……、リリアが作らせたの? 私のために?」
こんな足を晒すような短い下着は他の女性なら着ないに違いない。リリアとの会話から察するに、ここの女性は素足を晒すことにとても抵抗感があるらしいので。不埒な行為というか、不道徳というか。
そんな慣習があるにもかかわらず、私が気に入ったというだけの理由でこの下着を作らせるなんて。
私はリリアの気遣いが嬉しくて顔が思わずにやけてしまう。
「ナファフィステア妃は祖国ではこうした形の下着をお召しだったとおっしゃってましたので。もっと違う形をお望みでしたら、お教えください。ご希望に沿ったものを作らせます」
もっと違う形、希望に沿ったものを作らせる……。
私はここの下着には非常に違和感があったから、リリアの提案はとても魅力的で。
「ありがとう、リリア。その下着は、それでいいわ。できれば他の下着も、違う形のものが欲しいんだけど」
私はリリアの提案に甘えて他の下着も作ってもらうことにした。
しばらくして新しい下着が届けられた。それはまさに私の望んだ形になっていて、思わずテンションがあがる。私はすぐに身に着けてみた。
やっぱりこっちの形に慣れて親しんでいるから、安心するというか、しっくりする。
服に隠れて見えない部分なんだけれど、下着が違うとほんと気分が変わる。
私はその新しい下着で、陛下との晩餐に出ることにした。
ちょっと遅れがちに到着した晩餐の待ち部屋には陛下はすでに到着していて、男性二人と立ち話をしていた。その様子はいつもに比べ砕けた雰囲気だったので、陛下の親しい人物なのかも。
「来たか、ナファフィステア」
近づく私に陛下が手を差しのべた。
その手に手を乗せれば、私は引き寄せられて陛下の隣に立ち並ぶ。そこは、先ほどから陛下と会話をしていた男性二人の前で。
「ナファフィステア妃、お初にお目にかかります。リッカルトのゼーマンと申します。お見知り置きを」
「お目にかかれて光栄です、ナファフィステア妃。ショー・イエンタと申します」
二人は私のために腰をかがめ挨拶を述べた。二人とも晩餐に同席するらしい。陛下だけだと思ったのに、客人がいるならいると先に言ってくれないと困る。
「ゼーマンは余が子供の頃に王宮に滞在しておった、昔馴染みの者だ」
「二年ほど王宮で学ぶ機会をいただき、陛下とご一緒させていただきました」
「ショー・イエンタはゼーマンの元に身を寄せているが、故サンドレノ王家の血を引く」
名前の名乗り方からはリッカルト卿は貴族で、ショー・イエンタは庶民と判断してしまうところだけど。陛下の説明だとショー・イエンタはこの国の貴族ではないけど、ただの庶民ではないことがわかる。もしかするとイエンタは家名ではなく、ショー・イエンタが名なのかもしれない。
陛下と客が一緒の晩餐に同席するが面倒なのは、こういう身分的によくわからない立場の人と一緒になるから。故サンドレノ王家って何!? 陛下も前情報を与えてくれてれば、私もそれなりに調べておけるのに。
まぁ、事前情報がないってことは別にそれを期待されてないってことでもあるんだろうけど。
「はじめまして。お会いできて嬉しいわ」
私はにっこりと客二人に笑顔を返し、手を差し出した。
この二人と陛下はかなり親しい間柄のようで、陛下も無表情ではない和やかな表情を見せていた。
こういう陛下はすごく珍しい。食事中の話題はもっぱらリッカルト卿の領地とそこに隣接する王家直轄の土地のについてのことだった。失敗談も交え私にもわかるようさりげなく説明もいれてくれるので、私も自然と笑みを浮かべることができた。
食事を終えると別の部屋へ移動し、お酒を飲みながらの歓談となる。いつもならこのタイミングで陛下は私に下がってよいと告げ、私は晩餐終了になるのだけれど。今夜の陛下は私を歓談の場に連れて行く気らしい。
いつもと違うなら違うって先に言っておいてよ! と、内心ではムッとしたけど、私もそこは顔には出さないでおく。一応、お客様の前だから。それに、新しい下着で気分もいいから。
ゆったりしたソファで私は陛下の横に腰を下ろした。そして、女官に差し出された小さなお酒用のカップを手に取る。
クンと匂いをかぐと、ほんのり甘いお酒の匂いがした。お酒は嫌いじゃないけど、ここのお酒はやたらとアルコールがキツイのでほんのちょっとしか飲めない。私はペロッと舐める程度にお酒を口にした。
「ほんとうにナファフィステア妃は、小さくていらっしゃる。私の膝にお乗せしたいくらいだ。いかがです、我が膝にまいりませぬか? 世界一心地よい椅子となってみせまする」
ショー・イエンタがご機嫌な顔をして膝を叩いて、ここへ来いと手招きする。もちろん私は行かないし、行くそぶりも見せはしない。
陛下と同じくらいの年齢と思われる彼は品のよい容姿でありながら人懐っこい愛想がふりまける人物らしい。しかし、面倒くさいノリの人だ。
「彼の膝では危ない危ない。ナファフィステア妃、どうせなら我が膝をお使いください。固い筋肉質な彼より私の方が座り心地がよいはずでございますゆえ」
ショー・イエンタの隣でリッカルト卿が同じく膝を叩いて見せた。
リッカルト卿は彼の言葉通りややぽっちゃり体型だ。三人の中では一番若く見える。私の年齢判断はかなり外れるのであてにはならないけど、三人とも同じくらいの年齢なのは間違いないと思う。
彼等の話は座り心地以前の問題なので、私は二人のアピールを笑顔でスルーした。なのに。
「ナファフィステアが乗るのは余の膝の上だけだ。こい、ナファフィステア」
スルーしてるんだから陛下まで参加しなくていいのよ。面倒くさい。
私は陛下をちらりと横目で見ただけで速攻却下。
「嫌です」
「何だと!?」
「おやおや、陛下のお膝もお好みでないと言われるか」
「ナファフィステア妃は陛下がお嫌いらしいぞ」
客人二人が笑っている中、陛下は私に腕を伸ばしてきた。ちょっとお酒がこぼれるじゃないの!
私が嫌がっているのに、陛下は何が何でも自分の膝に乗せたいらしい。私の抵抗なんて関係ないくらいあっさり私を抱え上げてしまった。
ちょっと、ドレスの裾から足が出ちゃうじゃないの。それってすごくはしたないことなんでしょ? 違うの?
「陛下っ」
「いつものようにしておればよい。こやつらは気にするな」
そういって陛下は膝の上に私を横向きに座らせる。私はつま先がドレスから出ないように足をもぞもぞと動かした。いつもの下着じゃないから、その辺りがヤバいのだ。
だいたい気にするなって言われても、そんなことできるわけがないでしょう。私と陛下の前に座っている彼等からニヤニヤ視線がむけられてて、すっごく居心地が悪いくらいなんだから。
抗議を込めて右肘で陛下の腹を突いた。このくらい痛くもかゆくもないだろうけど、とりあえず私の気持ちは伝えておかなくてはね。
「何だ」
「別にっ」
「言わねばわからぬ」
「ドレスが皺になります」
「皺になれば、新しいドレスを買えばよかろう」
「嫌です。これがいいのです」
「同じものを買えばよい」
「い・や・で・す」
「そなたは……」
何よ。私が陛下を睨み上げると、陛下は無表情で見下ろしていて。睨み合い。
と、思っていたら、陛下の顔が下りてきて、背中も肩もがっちりホールドされた状態で。キスをされてしまった。
目の前に客人2名がいるのに、ここで、何故っ!
腕で突っ張ろうにもカップを持ってるし、どうこうできる状態ではなく。キス経験値の低い私に逃げようがなく。陛下の口の中は私のとは違う強いお酒の味がして。陛下に解放されるまでそれは続けられた。
「これはまた、お熱い仲でらっしゃる」
「巷の噂が本当だったとは」
くうぅっ、陛下ってば、何の理由があるのかは知らないけど、私と仲がいいことをこの二人に見せ付けたかったらしい。それにしたって、わざわざこんなキスをして見せなくてもいいでしょ! 恥ずかしいったら。
私はキスのせいで乱れた呼吸を静めながら、拳でドンっと陛下の胸を叩いた。
そしてプイッとあからさまに顔をそらす。怒っているアピールである。
「本当に可愛らしい方だ。我が膝にも欲しい」
「ショー・イエンタ、欲しければ探すことだ。これ以外の者をな」
陛下は顔をそむけた私を胸に抱きよせた。
「ナファフィステア……そなた、下着をつけておらぬのか」
「つけてますっ!」
陛下、こんな場で何を言い出すのよ! 下着を付けてないわけないでしょうが。それに、もし付けていないとしても、ここで訊く? 男性の客人を前に、恥ずかしすぎる質問は冗談でもやめてほしい。
焦る私をよそに、陛下はあろうことかドレスの裾から手を入れてきた。
ち、ちょっとっ! 何するのよ、陛下。あり得ないでしょ。食後の会話ってこんなノリなの? いや、それでも、これはなしでしょ。いつも作法がとかマナーがとか言ってるのに、これはない。
私は陛下の手をドレスの上からギュッと抑えソファに押し付けた。
「陛下っ」
「つけてはおら」
「キャーっ、何も言わないで下さる、陛下?」
「どういうことだ?」
「後で説明するわ」
「今、説明せよ」
ここで女性に下着の話をさせるって、何なのよ。できるわけないじゃない。
「嫌よ」
「ナファフィステア」
陛下の命令に従わなかったせいか、陛下の声のトーンが変わった。
客二人の前だからこそ私のこういう態度はマズいのかもしれない。けど、それなら下着の話題は避けるべきだったのよ、陛下。
「とにかく、下着はつけてますから」
私はドレスの中で押さえていた陛下の手を放して言った。
解放された陛下の手はドレスから抜け出て、それから、私の身体を抱き締めた。ぎゅうっと上から抱え込むようにして。
そして陛下は私の耳に唇で触れた。そのまま唇が動き。
「言えばよかろう。違うものに変えたと」
陛下は小さな声で言った。その囁きのせいで私は耳がくすぐったくてゾワゾワする。客人二人に聞こえないように声を小さくしてくれたらしいけど、耳に息をかけたのはワザとに違いない。言わなかった私への罰として。
抱き締めるふりをして私のあちこちに触れた感触で陛下にも下着が違うとわかったらしい。
女性はドレスの下にはスカートを膨らませるために布たっぷりの長いスカートのような形の下着を付ける。その下着を私は丈の短い形に変えた。だから、私のドレスは一見ふくらんでいるように見えて中はスカスカという状態なのだ。
陛下が下着を付けていないのかと言ったのは、たぶんそのせい。
「そんなの……恥ずかしくて言えないわ」
陛下に返事を返したけど、陛下に知られてしまったことが妙に恥ずかしい。
私が変えた下着はそれだけではなかった。布たっぷり下着の下にズボンタイプの肌着を履くのだけど、これを私は紐ショーツに変えたのだ。ズボンタイプの肌着は股の部分がすっぱり開いていて、用を足すのに脱がなくてもいいので便利な肌着なのだけれど。これが私は嫌だった。脱がないことがではなく、股間が隠されてないことが嫌なのだ。やっぱり……そこは隠したくて。
私のドレスの下では紐ショーツにガーターで長靴下を吊っている。そんなドレス下の事情は自分と侍女リリア達女性陣だけが理解していればいいことなのに。
「そういうものか?」
「ええ。そういうものなのっ」
陛下は機嫌を直していた。
客人二人にも陛下と妃はとても仲がいいと十二分に伝わったらしい。呆れが混じっているような笑みの客人の視線に気恥ずかしい思いをしながら、私は後しばらく彼等の歓談に付き合わされたのだった。
お酒を飲まなきゃやってられないと思っても、陛下のチェックがうるさくてたくさんは飲ませてもらえないし、歓談の後には陛下から下着を変えたことについて根掘り葉掘り念入りに訊かれて、他もまあいろいろあって……。
結局、とても大変な夜となってしまった。
「新しい下着の着心地はいかがでした?」
翌昼の笑顔のリリアに私は返事を躊躇った。
新しい下着の方が私的には馴染むのだけれど。陛下の前では……それが、何故だか、とても恥ずかしかったのだ。いつもの下着なら、それほどでもなかったはずなのに。
それを思い出すだけでも何か落ち着かない。
「着心地はよかったわ。だから……そうね。時々、気分を変えたい時にその下着にしたいんだけど、いいかしら?」
「承知いたしました。こちらの下着になさりたい時はいつでもおっしゃってください」
「ありがとう、リリア」
しばらく紐ショーツはやめておこう。
私はショーツ&ガーターに思いを残しながら、いつもの下着でドレスを着たのだった。
~The End~




