表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜  作者: 犬型大


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/22

初めての共闘2

「ふぅ……」


 ダンジョンの前に立ち、クリアスは長く息を吐き出す。

 クリアスもやはり緊張している。


「おい! 出てくるやつもいるかもしれねぇんだ、入るなら入れ!」


「は、はい!」


「チッ! これだから初心者は」


 初めてのダンジョン。

 そんな緊張に浸っている暇もない。


 後ろが詰まっているなんてことはないが、ダンジョンから不意に人が出てくることもある。

 ダンジョンの入り口でボーッとしていたら危険なことは分かる。

 

 だがどう見たって経験が浅く緊張してるんだから、少しぐらいはいいだろうと俺は怒鳴った男を睨みつける。

 コボルトの視線なんか気にしないように、男は舌打ちしてため息をつく。


「コボルトさん、行きますよ!」


「‘まあ結果的にはいいのか’」


 怒られたことでクリアスは大丈夫だろうかと、顔を見てみると思いの外平気そうだ。

 緊張が程よく吹き飛び、ダンジョンに挑む覚悟も決まったみたいな目をしている。


 タイミングを合わせたわけじゃない。

 でもなんとなく、俺とクリアスは同時に足を踏み出した。


 近くに立っても先が見えない黒い世界に飛び込んでいく。

 粘度の高い水でも通り抜けたかのような奇妙な感覚。


 思わず頭の毛を触って濡れていないか確かめてしまった。


「うわぁ……ここがダンジョンの中……」


 ダンジョンに入ると、そこは別世界であった。


「‘ダンジョン、って感じの場所だな’」


 オプリクア一階は遺跡型の空間が広がっている。

 石壁の通路が続く迷路のようになっていて、外で見た小山の中には絶対に収まらないような広さを誇っている。


 外で感じていたようなヒゲがピリつくような空気感はそのまま残っている。

 むしろ少し強くなったかもしれない。


 常にうっすらと危険だと本能がささやいているような、奇妙な感じが漂っていた。

 今いる場所は行き止まりになっている。


 三方を壁に囲まれ、残る一方に道が伸びている。

 床には魔法陣があり、これに魔力を込めると出口になるようだ。


「一階はこんな感じで……入って来て始まる最初の場所も何ヶ所か候補はあるみたいです。下の階に行くにはどこかに階段があるはずで……」


 クリアスはいつもよりやや早口でダンジョンのことを説明する。

 俺に向けた説明というよりは、情報を整理することで少し落ち着こうとしているのかもしれない。


「‘クリアス、敵だ’」


 俺はクリアスのアゴを掴んで、グリっと先の方に向ける。


「あっ、魔物ですね!」


 薄暗い通路の向こうから魔物が一体、俺たちの方に向かって来ていた。


「‘……木?’」


 それは木のような魔物だった。

 背丈は人よりも少し大きく、幹はクリアスの胴よりも細いぐらいでヒョロっとしている。


 腕のように幹の途中から枝が生えていて、根っこを使ってヒタヒタと歩く様は少し滑稽だ。


「あれは亡霊樹ですね! ややや、やりますよ!」


 魔物を前にしてクリアスの杖を握る手に力が入る。


「‘さて……どんなもんかな’」


 クリアスは完全に緊張している。

 一方で俺は少し自分に期待していた。


 森で一人でいた時には圧倒的な序列の劣等感に苛まれていた。

 どの魔物も強かった。


 加えてある程度戦えそうな相手もいたのだけど、そんな相手は大体数体の群れを成して戦う。

 結局勝てないということにはなる。


 だが魔物を強い順に並べていった時に、個々の力としてコボルトが一番下なわけではない。

 魔物の中では最下位に近くとも、中身が人として戦い方も工夫すれば多少は強さも上振れしてもおかしくない。


 亡霊樹の強さは知らないが、今の相手は一体だけだ。

 自信を取り戻すことができるかもしれないと期待していたのだ。


「えと……どうしたら……」


 本来ならこういう時にはクリアスがちゃんと命令を出して戦う。

 しかし初めての戦闘にクリアスも気が動転してしまっている。


 声が震えているクリアスの指示を待たずに、俺はクリアスを守るように一歩前に出た。


「‘先に前に出るぞ’」


 これ以上距離を詰められると後ろにスペースが無くなる。

 壁際に追い詰められてしまうと上手く戦えないので、そうなる前に俺は亡霊樹に向かう。


「あっ! コボルトさん!」


「‘ふっ!’」


 亡霊樹は俺に向かって枝を振り下ろす。

 体をよじりながら枝をかわすと、耳元で枝が風を切る音が通り過ぎていく。


 しなる枝がムチのように地面を叩きつけ、静かなダンジョンの中に音が響く。

 俺は隙を狙ってナイフで切りつけた。


 亡霊樹は避けることもなく刃を受けて、幹に傷がつく。


「‘戦えないわけじゃなさそうだな’」


 横に振られた枝を飛び退いてかわし、俺は体勢を立て直す。

 亡霊樹の攻撃は速くない。


 今の所単調で予想もしやすく、移動速度もそれほどではない。

 当たってみなきゃ分からないところはあるけれど、攻撃も当たったら一撃で死んでしまうようなものではなさそうだ。


 全体的な能力としては俺の方が高いと断言してもいい。

 ただ一点だけ余裕とはいえないところがある。


「‘硬いな……’」


 様子見の一撃ではあったが、倒せるなら倒そうと思って攻撃も繰り出していた。

 ナイフでつけられた傷はさほど深くもなく、樹液のようなものがジワリと滲んでいる。


 魔物であるが、木としての特徴も持っている。

 頑丈さという一点においてのみは、コボルトを上回って優れている。


 これは面倒だなと舌打ちしたい気分だった。

 コボルトになって痛感した弱点は力不足なことだった。


 力が弱い。

 攻撃力がないのだ。


 亡霊樹よりも総合的能力は高いが、俺の攻撃力で倒すのは骨が折れそうだ。

 せっかく良くなりかけた気分がまた沈んでいく。


 人の時だったなら簡単な相手だっただろう。

 今も勝てそうな相手なのに、自分じゃ勝つのは難しいという事実に苛立ちを覚えてしまう。


 初戦なのに自分の限界を突きつけられたような、情けない気分にもなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ