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魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜  作者: 犬型大


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妹の異常1

 魔獣登録を終えて、買い物して、帰路につく。

 胸に広がるもやっとした不安は、結局解消されることもなかった。


「コボルトさんのおかげでちょっとだけ余裕があるんです」


 俺は食品の袋を抱えながらクリアスと並んで歩く。

 冒険者としての稼ぎはまだ無いが、今の段階でお金には困っていない。


 それは俺のおかげでもある。

 クリアスを助けた時に、殺した二人の荷物を漁ってサイフをクリアスに渡した。


 意外とちゃっかりしていたクリアスは、俺を連れて帰りながらもサイフを持って帰ってきていた。

 俺は中身を確かめなかったが、それなりにサイフはずしりとしていた。


 もう持ち主がいないならともらうことにしたサイフの中身は、そこそこの金額が入っていたのだ。

 贅沢なんてできないけど、これまでのように慎ましく暮らすぐらいなら多少の余裕ができるくらいはあった。


 ただ優しいだけじゃなく、ちゃっかりしたところもあるようだ。

 ただ抜けていたり不用心なだけでなく、こうしたところもあるのはいいことだと思う。


「コボルトさん? どうかしたんですか?」


 クリアスは俺の顔を覗き込む。

 俺は少し悩んでいた。


 合成というやつが、俺にとってとんでもなく危険なものであるかもしれないということを知ってしまった。

 魔物を掛け合わせて、また別の魔物にしてしまうのが合成だとしたら、そのうち俺も合成されてしまうかもしれない。


「‘んぃ?’」


「あっ、ごめんなさい! ちょっと触ってみたくて」


 クリアスが俺のヒゲに触れた。

 奇妙な感覚に、ちょっと牙を見せるように口が動いてしまう。


「‘別にいいけど、不意に触られるのは……なんかくすぐったいみたいな感じだな’」


「ふふっ、ようやくこっち向いてくれましたね」


 目があってクリアスは微笑む。

 クリアスはどう考えているのだろう?


 雰囲気的に合成というものは特殊な作業でなく、ごく一般的に執り行われているようだった。

 言葉も通じないので合成について聞くことはできない。


 だがクリアスを俺を合成するつもりなのか、その考えは分からない。

 基本的には合成すると強い魔物になるような話をしていた。


 俺を強くしようと合成するとして、合成された後の俺は俺のままなのだろうか。

 やはり不安は尽きない。


「コボルト……さん?」


「‘分からない……まあいいか’」


 考えても答えは出ない。

 いつか合成される時が来るかもしれない。


 ただ合成されないようにちょっと頑張るかなとは思った。


「カリン?」


 家に着いて、クリアスが部屋を覗き込む。

 カリンはベッドで寝ていた。


 やや顔色は悪いが、黙ってれば可愛い顔をしている。


「ご飯作るので、コボルトさんは好きにしててください。カリンは起こさないでくださいね」


 クリアスは銀色の長い髪をまとめて、エプロンをつける。

 美人だし家庭的な姿はなかなか良いな、と俺は密かに思っていた。


「‘なにか……本でもないかな’」


 料理する姿を眺めていてもいいが、この機会だし家の中を見て回る。

 俺の目的は人に戻ることである。


 ただどうやって人に戻るのか、その方法は皆目見当もつかない。

 そもそもこの世界のこともほとんど分かっていない。


 人が魔物になってしまうという事例が存在している可能性もあれば、全くもってヒントもない可能性だってある。

 ともかく必要なのは情報だ。


 言葉が通じなくて人に質問できない以上は、何かから知識を得るしかない。

 カリンの部屋は避けて、別の部屋を覗き込んでみる。


「‘この部屋にもいくつか本はあるな……’」


 まずは前に自分が寝かされていた部屋から。


「‘良い匂いがするな’」


 そこはクリアスの部屋らしい。

 起きたばかりの時は気づかなかったが、クリアスの部屋はなんだか良い匂いがした。


 クリアスは別に香水など派手な匂いのものは身につけていない。

 とするとクリアス本人の匂いなんだろう。


「‘……なんだか変態っぽいな’」


 コボルトの鼻の良さのせいだろうが、少し気恥ずかしさを覚えた。

 頭を振って余計な考えを振り払うと、棚に並んでいる本を見る。


「‘魔法関連の本があるのか’」


 背表紙のタイトルを眺める限りでは、魔法に関する本のようである。


「‘というか……読めるの不思議だな’」


 今更ながら気づいた。

 文字は俺の知らない文字だ。


 だけど理解できる。


「‘そもそも言葉も分かってるしな’」


 俺は適当に本を一冊手に取ってみた。

 よく考えてみるとクリアスたちが話す言葉も理解できている。


 異世界ならば言葉も違うはず。

 なのにクリアスたち人間の言葉を聞いても、違和感なく理解ができていた。


 奇妙なものだが、それが何によるものなのかも分からない。

 ただ都合はいいので、特に理由を考えることもない。


「‘一応内容も理解できるな’」


 本を傷つけないように慎重にめくる。

 犬よりは人っぽい手をしているので、細かい作業も問題はない。


 魔法の基礎的な内容が書かれていて、内容そのものの理解はともかく言葉としては理解ができた。

 クリアスがこんな小難しい本読んでいるのかと驚いてしまう。


「‘情報といっても何を調べれば……’」


 読むことはできる。

 だから本を見ることで情報を得られそうということは分かった。

 

 しかし魔物から人に戻る方法なんて、本に書いてあるものだろうかと小さく唸ってしまう。

 書いてあるとして、どんな本に書いてあるのかすら想像できない。

 

 せめてこの世界のことが分かるような本はないかなと、少し思考を切り替えて探してみることにした。

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