99 会談 2
「「「「「「…………」」」」」」
デモンストレーションを終え、先程の会議室へと戻ってきた一行であるが、ダリスソン王国側は皆、黙りこくったままであった。
伯爵様も、話を急かすことなく、黙って待っている。多分、向こうのみんなが先程のことをゆっくりと咀嚼し、考えを纏めるのを待ってあげているのだろう。
そして暫しの時間が経過し、レミア王女殿下が口を開いた。
「……最初から、選択の余地など無かったのですね?」
やけに達観したかのような様子で、あっさりとそう言った王女殿下。
「殿下、何を!」
臣下のひとりが反論しようとして声を上げたが、王女殿下は手でそれを制した。
「良いのです、私も馬鹿ではありませんし、皆もそうなのでしょう、この場にいるからには」
そう言われては、もはや反論することもできない。そう、皆、充分に分かっているのだから。
「殿下、別に我が国は何かを押し付けたり強要したりしようとしているわけではありませぬ。ただ、共通の敵に備えるために協定を結び、共に新たな力を得ようとお誘いしているに過ぎませぬ。それを拒否し、独自の道を歩まれるのも御自由ですし、だからといって我らが貴国に対してどうこうしようというわけでもありませぬ。
それに、今回は何かを決めるための訪問ではなく、後の条約会議のため、現状をお知らせし、事前に皆様の間で意思統一を図って戴くための事前協議に過ぎませぬ。あまり御心配なさる必要は……」
そう、別にこれはダリスソン王国側にとってそう悪い話ではない。勝ち馬に乗らないか、というお誘いなのだから。ただ、事実上は選択肢などないこと、そして圧倒的強者からのお誘いという状況にプライドが傷付けられたことくらいだろう、問題点があるとすれば……。
元々、この国はうちとは友好的な関係にあるのだから、そう気にしなくてもいいのでは、と思うけれど、そう簡単な話でもないのかな。
あ、いかん、忘れてた! 『王女様の立場の強化に協力する』って任務があったっけ。
私は、協定絡みでは決定権がないから、それ関連は伯爵様に振るしかない。私が勝手に約束できるのは、自分のことだけだ。
「殿下、御心配であれば、私とお約束なさいませんか?」
「え? おやくそ……く?」
怪訝そうな顔の王女殿下に、にっこりと微笑んで御説明。
「はい、殿下がお困りになり、そして正義が殿下の側にある場合には、この私が、私のお友達と共に殿下にお力添えする、というお約束を……。勿論、これは王国とは関係のないお話ですから、ヤマノ子爵としてではなく、ただのミツハ・ヤマノとしての個人的なお約束ですが……」
「え……」
「他国からの侵略だろうが、魔王軍だろうが、謀反を起こそうとした者達だろうが、殿下の意に染まぬ婚姻を押し付けようとする者だろうが、全部、ぷちっ、と……」
「えええええ……」
呆然とする、レミア王女殿下。
そりゃそうだ、普通、貴族が他国の王女とするような約束ではない。それに、王様と王女様、そして大臣連中はおそらく知っているだろうからね、私がただの貴族の娘ではなく、突如現れた異国の王族だとか、あの神兵達が王国の兵士ではなく私の私兵であり、義勇軍であったこととか……。
隣国のあんな大事件を、詳細に調査していないはずがないし、間諜や買収、ハニートラップ、その他色々で、王宮内の情報もある程度は仕入れているだろうし、大体、普通に王都に居ただけで、あの部隊が王国兵ではないことなど一目瞭然だっただろう。服装や装備もだけど、そもそも、ここの言葉を話せていなかったし。
で、帝国軍主力や古竜を個人的に一蹴できる、その「ヤマノ子爵」が、レミア王女殿下に「個人的に」助力する。正確な情報を共有している者達のうちで、このことの意味が分からないような者はいないだろう。
そして更に、その後半部分、「謀反を起こそうとした者達だろうが、殿下の意に染まぬ婚姻を押し付けようとする者だろうが、全部、ぷちっ、と」という部分が意味することも。
王女殿下の「呆然」に対して、列席者の一部の者達は「愕然」であった。
……まぁ、良からぬことを企んでいた者にとっては、いささか都合の悪いことだったかも。
「何? ヤマノ子爵、勝手にそのような約束をするなどと……」
困ったような顔の、伯爵様。
「それでは、使節団としても何か配慮せねば立場がないではないか……。
仕方ないですな、では、我が国の正式な代表としましては、レミア王女殿下に対し、隣国であり友好国であるダリスソン王国の正当なる王権代行者として敬意を表し、王女殿下が我が国との友好を保って下さっている間は、開発した装備品の優先的な配備を計るよう考慮致しましょう。
……この国の代表者がレミア王女殿下であり、その自由意志の下、我が国との友好が保たれる限り……」
うわぁ、えげつない!
まだ幼い王子殿下を立ててレミア王女殿下を追い落とし、その後ろ盾となって国を牛耳ろうとか考えていた皆さん、終了のお知らせだ。
そりゃ、王子殿下が御成長されて立派な人になられれば、レミア王女殿下も身を引かれて、正式な後継者として王位に就かれるだろう。その時には、また新たな約定を結べばいい。でも、その前に無理矢理後継者にして、傀儡化して操ろうなどとしたら、どうなるか分かってんだろうな、ゴルァ、というわけである。
これでは、国のことを真摯に考える人々が傀儡派の連中に賛同するわけがない。
そもそも、もしもこの私、ヤマノ子爵が「謀反」だとか「強制」だとか「王女の危機」だとか認識すれば、あの『神兵』が忽然と現れるかも知れないのだ、この王宮内に。そしてそれは、決して他国からの内政干渉ではなく、「神の使徒である姫巫女様が、正当なる王権代行者を護るため、正義の味方として現れる」わけであり、その敵は、これ即ち「悪」である。そんなのを敵に回して、無事に政権を握れるわけがない。
多分、この国の上層部は私に関してそれぐらいの情報は得ているだろう。あの『神兵』の出現と帰還の目撃者は、そこそこ居たのだから。
そして、もし私が王女殿下のために強行手段に出なかったとしても、新装備の優先配備どころか、政情不安定な国、傀儡政権と見なされて、まともな同盟国扱いをされなくなる可能性もある。
これで無茶をしようとする者が居れば、それは、文字通りの「非国民」、売国奴であり、他国と通じているのではないかと疑われるであろう。
多分、これで王女殿下の立場は、当分の間は安泰であろう。少なくとも、王子殿下が御成人され、御自分の意志で判断されるようになり、そしてその人格が高潔であると認められるまでは。
ちらりと伯爵様の様子を窺うと、いい笑顔だった。
うん、無事、ミッション・コンプリートだね。
「レミア様、私とお友達になって戴けませんか?」
おおぅ、サビーネちゃん、空気に徹しているかと思ったら、自分も出番が欲しかったのか、突然の乱入だ!
自分も王女殿下だから、レミア王女殿下、という言い方ではなく、同じ敬称を受ける者同士としての上下関係を示すだけの「様」呼びらしいけど、お友達ならそれくらいでいいのかな。
私と伯爵様からの大サービスの申し出に、きょとんとしていたレミア王女殿下であるが、すぐに私達の意図を察して、ありがたい、というような顔をしていたのであるが、サビーネちゃんの駄目押しの申し出に破顔した。隣接国の王族で、サビーネちゃんが王様夫妻や王子殿下、王女殿下達にどれだけ可愛がられているか、そしてその「お願い」にどれだけの効果があるのかを知らない者はいないだろう。
「喜んで! 仲良くして下さいね。
……でも、お友達ではなく、サビーネちゃんが私の妹、というのでは駄目なのでしょうか?」
弟はいるが、妹がいないレミア王女殿下がそう言ったが、サビーネちゃんは首を横に振った。
「お姉様は、もう、大勢いるもの。私に足りないのは、お友達なの!」
それを聞いて、苦笑するレミア王女殿下。
うん、妹がいない者は、欲しいよねぇ、妹代わり……。
でも、実の姉がふたりと、姉もどきの私がいるサビーネちゃんにとっては、姉よりも妹かお友達の方が欲しいよねぇ、やっぱり。
今のところ、お友達といえばコレットちゃんくらいだし、コレットちゃんとは身分があまりにも違い過ぎるからねぇ……。
こりゃ、レミア王女殿下の寝室にも付けなきゃなんないかなぁ、無線機……。危機には駆け付ける、って約束しちゃったし……。
と、まぁ、そんな感じで会談は終了。
別に条約の締結をするわけじゃなし、文書を交わす必要もないので、あとは雑談、というか、レミア王女殿下や大臣達、その他の列席者の皆さんからの質問に答え、要望やお願いを軽くいなして、余計な言質を取られないように注意した。特に、私のことに関しては、伯爵様が完全にブロック。
いや、少しくらいは教えてあげても良かったんだけど。好みの男性のタイプとか、趣味が金貨の収集だとかいうことくらいは……。もしかすると、協力してくれるかも知れないし。
そして、その夜は私達を歓迎してのパーティー。
いや、情報と顔繋ぎとコネと何らかの交流を求めて群がる貴族や王族、高級軍人、そして大商人達で、気の休まらない数時間だった。
ダンスのお誘い? オクラホマ・ミキサーなら踊れますが、何か?
ああ、ボーゼス伯爵が「社交ダンスを覚えろ!」とあんなに口煩かったのは、これか……。
いいんだよ、私は裏方専門で。
でもまぁ、今日は舞台裏に回るわけには行かないから、壁の花……の前にできた、長い行列。
うん、ダンスに誘うのは諦めて貰ったけど、代わりに、踊らないから手が空いている私とお話ですか、そうですか……。
そして、ちゃっかりと可愛い年下の男の子と踊っている、サビーネちゃん。
……踊れたんだ……。そして、年下の可愛い男の子が好みなんだ……。
あ、弟のルーヘン君の代わりですか、まだ男の子には興味ありませんか、そうですか。
そして、それを羨ましそうに見ているコレットちゃん。
いや、コレットちゃん、あなたはこっち側の人間だからね! 私を置いて行かないでね!!
そうして、一夜で終わるかと思っていたパーティーは3日連続で続き、その後、ぐったりとした私と、連日満腹になるまで食べ続けてお腹がぽっこりと膨らんだような気がするコレットちゃん、そしてなぜか元気いっぱいのサビーネちゃんを乗せて、キャンピングカー『ビッグ・ローリー』が、最初の訪問国であるダリスソン王国の王都、マスリカを出発した。
いや、王都から少し離れるまでは使節団の馬車に乗って、その後『ビッグ・ローリー』を自宅から転送したんだけどね。
え? 態度のデカいロリが乗っているから『ビッグ・ローリー』か?
う、うるさいわ!
な、何と、本作品が累計ランキング300位に!(6月6日、1000現在)
いや、ギリギリもギリギリ、300位なので、ちょっとしたことで再び累計外になるかも知れないけど……。(^^ゞ
とにかく、めでたい!
これも、ひとえに読者の皆さんのおかげです。ありがとうございます!
あとは、ランキングから落ちないようにもう少し順位を上げて、次は『ポーション』も累計ランキングに!(^^)/
ああ、夢が広がリング……。(^^ゞ




