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95 打ち合わせ 2

 部屋へ戻ってしばらくすると、ノックの音がした。誰何すると、供の者が「伯爵様が部屋に来て欲しいと言っている」とのこと。さすがに女性3人の部屋、それも王女殿下の部屋へと押し掛けるのははばかられたのか、自分達の部屋へ招く、という形にしたらしい。

 多分、王宮への訪問についての打ち合わせだろう。


「失礼します」

 ノックの後、伯爵様達の部屋へ入った。

「おお、済まぬな。明後日の会見の打ち合わせをしようと思ってな……」

 伯爵様は、サビーネちゃんに頭を下げた後、私に向かってそう言った。

 サビーネちゃんは王族なので伯爵様より上位者だけど、あくまでもオブザーバーに過ぎず、使節団の権威付けのためのお飾りだ。使節団の、つまり「国王の名代」としての権限は、伯爵様にある。しかし、サビーネちゃんを下位に扱うわけには行かないから、話をする相手は私になる。

 私の立場? う~ん、アドバイザーか顧問か、外注業者? 王様から仕事料貰ってるしね。

 そして始まる、打ち合わせ。


 この使節団は、近隣国全てを廻るわけじゃない。

 友好国、中立国であり、海に面している国を優先。その次に、内陸国であっても友好的な国、国力が大きい国等のうち、この使節団が行くのが適切だと思われる国。それらのうち、あまり遠くないところをぐるっと廻るのである。

 さすがに、大陸一周とか、全ての国を訪問、とかはやらない。そんなことをすれば、帰国する頃にはサビーネちゃんとコレットちゃんは成人していて、私は行き遅れ……、って、さすがにそれはオーバーか。まぁ、かなりの期間がかかってしまう。それに、そもそもそんな遠くの国と条約を結ぶ意味もない。


 また、色々と面倒な問題が絡む国は、専門の者達が別途対応する。隣接国については、帆船や大砲の現物を見せた方が話が早いし効果的なので、相手国の代表を自国に招く。なので、私達が交渉をする相手は、一部の限られた国だけなのである。

 ……じゃあ、どうして隣接国であるこの国を私達が担当するかというと。

 まず、元々使節団が通過するルート上なので、大した手間ではない。

 次に、隣国だけあって、私のこともかなり詳しく知っているはず。なので「救国の姫巫女様」が自国をスルーして通過する、というのは面子を潰された、と思われるかも知れない。

 そして最後に、この国の指導者が、まだ若い王女様である、ということであった。


「ここ、ダリスソン王国は、国王が病で臥せっており、国王の代行は第1王女であるレミア様が行われておる。しかし、まだ幼い第1王子を担ぎ上げ、国を自分達の好きなようにしようとする勢力があってな……」

「ああ、そういうわけですか……」

 王妃は既に亡く、もし国王がこのまま回復されなければ、下手をすれば国が乱れる。

 友好的な隣国が混乱することは、今の情勢では、望ましくない。混乱に乗じて他国がちょっかいを出す可能性もあるし、隣に火種を抱えた国があっては、安心できない。


「では、私達は、王女様の立場を固めるよう振る舞えば良い、というわけですね?」

「うむ、子爵は話が早いから助かる」

 いつもは厳つい顔の伯爵様が、珍しく、笑顔らしきものを浮かべた。ビックリだ!

 そして、補佐役であるクラルジュ様が、感心したような顔で私を見つめている。

 ……照れるぜ。



 そしてその後、みんなで夕食。

 みんなとは言っても、勿論メイドや護衛のみんなとは別。使節団の主要メンバーだけで、貸し切りの部屋での食事会である。

 うん、数少ないサビーネ王女殿下との交流の機会だから、伯爵様やクラルジュ様は勿論、他の随行員達もやる気満々。

 何せ、王様はサビーネちゃんに甘いからね。もう、激甘! そして、サビーネちゃんは、可愛くて、頭が良くて、しっかりしている。成人後は、国の大貴族か、もしかすると他国の王族、下手をすれば王太子妃とかになるかも知れない。取り入ることができれば、将来に亘ってメリットは大きいだろう。


「ヤマノ子爵、別行動は大変ではないか? やはり一緒に行動した方が……」

「ミツハ、明日は1日暇なのだろう? 街の見物にでも……」

「子爵殿、領地の特産品の販売について、良い御提案があるのですが……」

「懇意にしております伯爵家の御子息に、そろそろ伴侶を、という話が出ておりまして。もし何でしたら、私が口利きをすることが……」

「後で、将棋でもいかがですかな?」


 うん、将棋を指すと、長時間私を独占できるからね。

 ……って、そうじゃない!

 私か! 目当ては、サビーネちゃんじゃなくて、私の方か!


 その後、しばしの御歓談。

 いや、別行動を取ってはいても、同じ使節団なんだから、わざわざ波風立てる必要はない。私も、大人の対応くらいできるよ。

 言質は取られず、約束はせず、断言せず、愛想笑い。

 うん、日本人としての基本スキルは、実に役に立つ!


 翌日の朝食は、メイドや護衛の人達と一緒に摂った。

 伯爵様達は顔をしかめていたけれど、サビーネちゃんが下々(しもじも)の者達との交流を大事にしたいと言っている、と言われては、反対もできなかったようである。

 そして、それは決して嘘ではなかったけれど、本当の理由はもうひとつあった。

 そう、朝食の時に、今日の予定を確認されたり、何かに誘われたりするのを避けるためである。

 食事の後は、急いで部屋に戻り、そのまますぐに連続転移で王都散策に出発。伯爵様達が私達に声を掛けようと部屋へやって来ても、既にもぬけの殻である。


 宿の人に心配をかけることはない。ちゃんと初日に、「美少女3人組だから、後をつけられたりすることがあるので、宿への出入りは正面からだけではなく裏口、窓、床下、天井裏等、あらゆる場所を使用するので、急に部屋からいなくなっていたり、いつの間にか戻っていたりしても、気にしないで下さいね」と言ってあるのだ。

 それを聞いたフロントのお兄さんは苦笑していたけれど、料金は前払いなので踏み倒して逃げられる心配はないからか、了承してくれた。

 ……但し、泥棒と間違えられて捕まっても文句は言わない、という言質は取られた。




「出発するぞ」

 昨日は、一日中私達を発見できず、渋い顔の伯爵様。クラルジュ様も、御機嫌斜めの御様子。

 夕食も外で食べて、転移で部屋に戻ってそのまま就寝した私達に、手抜かりなし!

 国から持ってきた贈り物等は、馬車に積んである。私達は、サビーネちゃんとコレットちゃんは手ぶら、私はガンケースを肩に掛けている。……重い。

 これは、デモンストレーション用の長物、つまりライフル銃である。なので、あえて旧式の物をチョイスしてある。ここで最新式のアサルトライフルを見せてどうするというのだ。

 勿論、3人共、護身用の銃は身に着けている。左腋と太腿のホルスターに。王族や大貴族達の前に出るので、あからさまな武器であるナイフは却下。


 太腿に隠しホルスターを着けるためには、衣服はスカートである必要がある。

 サビーネちゃんは、当然のことながら、本隊の馬車に積んであったひらひらドレス。私とコレットちゃんは、日本製の、それらしいドレス。

 いや、こっちで貴族用のドレスを買うと、凄く高いのだ。日本製ならば、こちらで充分貴族用として通用する物が、お安く手に入る。……初めて日本製の衣服を試着させたとき、サビーネちゃんもコレットちゃんも、パンツを見て硬直していたけれど。

 いや、確かに、この世界の標準的な下着であるドロワーズに較べると、あまりにも防御力が弱そうではある、うん。


 とにかく、交渉や贈り物、その他諸々は本隊の皆さんのお仕事だ。私は銃のデモンストレーションと、技術アドバイザーとして質問に対する回答を担当するだけ。サビーネちゃんは、お飾り要員としてにっこり微笑むだけ。そしてコレットちゃんは、目立たず空気になることに専念する。

 よし、出撃!




「遠路、ようこそお越し下さいました」

 国王代行のレミア王女殿下は、シャープな顔立ちに涼やかな瞳の、15~16歳くらいの美少女であった。……うん、私よりずっと年上に見える。白人系の人種だからね。

 美人なんだけど、凜々しさと可愛さ、可憐さを併せ持った、高貴な顔立ち。う~ん、もう、何と表現すればいいのか……。


 ……王女様?

 そのまんまやんけ~~!!


 謁見の間では、壇上の席に着いたレミア王女と、並んで膝をついた伯爵様とサビーネちゃん。

 同じ王女様であっても、向こうは第1王女で、王位継承権第2位。しかも、現在は国王の代行者。それに対して、サビーネちゃんは第3王女であり、継承権は5位。更に、『王女としての在位期間』……生まれた時から父親が国王であった場合は、年齢……でも、大きく下回っている。訪問してきて話を聞いて貰う側の立場でもあり、下位に甘んじるのは当然のことであった。


 ふたりの少し後ろに、私とクラルジュ様。更にその後ろに、4人の随行員。その他は他の部屋で待機である。

 勿論、護衛の一部は馬車にも詰めている。無人の馬車を漁られて、外交文書や鹵獲武器とかを調べられては堪らない。……いや、勿論、そんなものを積みっぱなしにするような馬鹿じゃないけど。

 でもまぁ、無線機とかもあるしね。


 謁見は、単なる儀式である。多くの家臣達の前での、挨拶と口上、持参した贈り物の贈呈等。

 こんなところで会談を行うわけがない。

 そして儀式を済ませ、いよいよ場所は会議室へ。

 これからが、本番である。

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― 新着の感想 ―
いまさらですけど、ライフルという呼称は銃と云う意味も含んています。  なので、ライフル銃はちょっと‥‥‥‥
[一言] あれ、でーぶいでーを通してパンチラ文化は学ばなかったんだ。
[気になる点]  コレットちゃんは、ドロワーズなんて慣れていなかったでしょう。村ではノーパンのはず。
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