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88 異国の街

 ようやくのことで、街に到着。

 軽装の、未成年の女の子の3人連れ、ということで、正門の門番さんに不審がられて色々と聞かれたけれど、別にやましいこともないし、滞在に必要なお金もちゃんと持っているし、そもそも身なりを見れば浮浪児とかではないことは一目瞭然なので、悪い人間には充分気を付けるように、と言われて、無事通して貰えた。


 とにかく、まずは宿を取らなければならない。

 もし宿が全て満室とかなら、最終手段もあるにはあるけれど、初っぱなから最終手段というのは気が進まない。

 とりあえず、大通りを街の中心部に向かって進行。

 大通りを歩く、そこそこの身なりの子供(に見える)3人。

 うん、ナンパで声を掛けるような男が現れるはずがないね。人通りのない裏路地とかにはいって人攫ひとさらいにでも出会わない限り、特に危険は……って、サビーネちゃんが攫われかけたの、うちの店がある通りじゃん!

 そんなに裏路地でもないし、人通りも皆無というほどじゃないよね、あの通り。こりゃ、あまり楽観視してちゃダメかな。

 道の端に寄りすぎないようにして、いきなり路地に引き込まれないようにしなきゃ。

 かといって、あまり中央寄りだと馬車に引っ掛けられる。道を歩くのも、楽じゃないね。


 とか考えているうちに、街の中心部近くに到着。王都じゃあるまいし、辺境の街道上にある街だ、城郭都市になっている部分はそんなに広くはない。農民とか畜産業、鉱業とかに従事している人の多くは、当然のことながら、城郭外に住んでいるしね。

 まぁ、敵に攻められた時の籠城用だから、そう広範囲を城郭化したら、守る範囲が広くなって大変だろう。

 とりあえず、小綺麗で安全そうな宿を探そう。


 そして選んだ、1軒の宿屋。

 その宿屋を選んだ理由は、簡単。

 宿屋の前を通りがかった時に、中から漂ってきた美味しそうな匂いに抵抗できず、吸い込まれるようにふらふらと店にはいっていった者がいたからだ。

 ……それは誰か、って?

 私だよ! うるさいなぁ……。


「いらっしゃいませ!」

 宿にはいると、元気な声で迎えられた。

 ……うん、でっぷりと太ったおばさんの。

 どうやら、猫耳幼女が受付カウンターに座っていたりするのは、漫画や小説の中だけのようである。無念……。

 仕方ない。幼女は、そのうち自前で用意しよう。

 コレットちゃんとサビーネちゃん?

 いや、幼女というのは、5~6歳くらいまでだからね!


「好きなところに座っとくれ!」

 うん、まぁ、このメンバーだと、食事客だと思うよねぇ。今日は帰りが遅くなるから、外で何か食べておきなさい、とか言われた共稼ぎ夫婦のところの3姉妹、ってところか。

 ……だが断る!


「いえ、宿泊をお願いします。……食事もしますけど」

 私がそう言うと、おばさんは眼を丸くした。

「え、泊まりかい? あんた達だけで? 御両親は……」

「私達だけです。3人部屋でお願いします。あ、お金は持っていますから、大丈夫ですよ」

 どうせ、18歳だと言っても信じてくれないだろうから、もう、旅の間は12歳で通すことにした。元々、この世界ではほとんどの人が、私の年齢は11~12歳だと思っているし。


 まぁ、子供だと思われていれば、デメリットもあるけれど、メリットもまた多い。

 一番のメリットは、相手が舐めてかかってくれることだ。

 危険の多い世界では、それは『絡まれやすい』ということだけど、逆に、『致命的な場面で、逆転のチャンスが掴みやすい』ということでもある。

 致命傷を含んだ3つの大怪我より、軽傷6つの方がマシ。そういう理論である。


 おばさんは、少し怪訝そうな顔をしてはいたけれど、問題なく受け付けてくれた。

 そりゃ、お金は前払いだし、子供だから泊めない、などという選択肢はないだろう。

 部屋のカギを受け取ると、部屋へは向かわず、そのまま食事を摂ることにした。匂いに惹かれてやって来たのに、意味もなくお預けをくらう理由はない。

「この、いい匂いのやつ、お願いします!」

「私も!」

「同じく!」

 コレットちゃんとサビーネちゃんも、私に続いた。

 でも、サビーネちゃん。

 同じく、と言ったら、その後に『井坂十蔵』って続けないと駄目でしょうが!


 で、いい匂いの正体は、猪肉のしぐれ煮風料理だった。

 薄切りではなく、角切りにした猪肉に、細切りにしたショウガをたっぷり加え、味を調えてから、汁が無くなるまで煮たやつである。

 食べてみると……。


「「「おいしい!」」」

 少し甘辛いところをみると、どうやら砂糖や、高価な調味料を少し使用しているらしい。

 猪特有の僅かな臭みもショウガで完全にカバーされており、角切りだと少し固さが残っているものの、それは若者の丈夫な歯や顎にとっては、「歯応えがある」という、プラスの方向へと変わって食感を楽しませてくれる。

 うんうん、ステーキは鹿肉の方がいいけれど、煮物は猪がいいよね。


 コレットちゃんは、村でごく稀に猪肉を食べる機会があったらしいけど、こんなに美味しくはなかったそうだ。多分、丁寧な下処理とかは飛ばして、豪快にやっちゃってたんだろうなぁ。勿論、高価な香辛料とかは無しで。

 サビーネちゃんは、今まで猪肉は食べたことがなかったらしい。まぁ、国王一家は、猪はあんまり食べないか……。


 猪肉だけでは、子供の発育に良くない。なので野菜料理も頼み、最後はデザートに、おばさんお勧めの『芋ようかんのようなもの』を注文。

 喰った~!


 そして2階の部屋へ移動。

 部屋はこじんまりしていて、2段ベッドがふたつ備え付けられていた。

 そりゃそうか、わざわざ3人用の部屋を別に用意するより、4人部屋をたくさん作っておいて、3人客だろうが4人客だろうがそこに泊まらせた方が効率的だ。

 さて、ふたりの扱いに差を付けるわけには行かないから、ふたりをそれぞれ下段に寝かせて、私が上に……、と思ったら。

 ふたりが、ダッシュでベッドの上段に登っていった。

 あ~、お子様は、上の方がいいのか……。


 まだ、寝るには少し早い。

 上段を確保して安心したふたりがベッドから下りてきて、暫しのガールズトークタイム。いや、クルマの中でも、ずっと話してるんだけどね。

 何か、コレットちゃんとサビーネちゃんのテンションが高い。

 そう思って考えてみると、ふたりとも、宿屋に泊まるのは初めてじゃないのかな?

 コレットちゃんは、村と領主邸以外に遠出したことなんかないだろうし、サビーネちゃんは、王宮以外で宿泊したことなんか皆無だろうし……。


 テンション高いのはアレか、『修学旅行のような感じ』ってやつか!

 クルマでは宿泊したけど、あれはまぁ、ただ単に『寝るだけ』であり、お泊まり、って感じじゃないからね。

 よし、じゃあ、ひとつ『マクラ投げ』を……、って、やらないよ! 他のお客さんや女将さんに怒鳴り込まれてしまうから。


 そして、そのうち眠くなったらしいサビーネちゃんとコレットちゃんが沈没して、私もベッドに潜り込んだ。



 翌朝、宿で朝食を済ませ、私達は徒歩で街を出た。

 いや、宿はチェックアウトしなきゃならないし、宿の外でいきなり転移したりクルマを出現させたりするわけには行かないからね。

 子供3人で街を出る時、また門番さんに色々と聞かれたけれど、なんとか通して貰えた。そしてしばらく歩いていると、何やら不穏な気配が……。


 うん、怪しい男達が3人、ついてくる。

 多分、身なりの良い少女が3人で街から出るのを見て、何やら良からぬことを企んででもいるのだろう。

 でも、それくらいのことは、想定の範囲内だ。

 まだしばらくは、何も仕掛けてはこないだろう。まだ、街が近過ぎるし、門番さんの視界内だ。そして、道が曲がり、木々の陰になって男達の視界から外れた時。


 ひゅん


 そして街道上には、道の曲がった部分を過ぎ、前方にいるはずのミツハ達の姿がないことに気付いた男達が、ぽかんとして突っ立っていた。



「ヤマノ家日本邸へ、ようこそ!」

「「ええええぇ~~っっ!」」

 そして、ミツハの言葉に、眼を剥いて驚きの声をあげるサビーネちゃんとコレットちゃんであった。

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― 新着の感想 ―
ネタがマイル…
大江戸捜査網ネタでしたっけ?…伊坂十蔵
[一言] >どうやら、猫耳幼女が受付カウンターに座っていたりするのは、漫画や小説の中だけのようである。無念…… また言ってるしw
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