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85 商隊 1

「あれ? 何か、反応が予想以上なんだけど……」

 そりゃ、見た事もない乗り物が突然現れて、降伏しなけりゃ雷を落とすぞ、とか言われれば、驚くのも無理はないだろう。

 しかし、それにしても、ちょっと怯え過ぎのような……。


「ミツハ姉様、あれ、帝国軍の敗残兵じゃない?」

 サビーネちゃんにそう言われて、よく見てみると……。

 おおぅ、確かに、数人は防具とかがお揃いだし、何となく統率が取れているような感じがするよ。

 なるほど、拡声器を通した私の声に聞き覚えがあり、『雷に撃たれる』というのがどういうことなのかを知っている、というわけか。

 ならば……。


 盗賊達がじわり、じわりと後退し、一斉に身を翻して全力で逃げ出そうとした瞬間、クルマの窓から突き出したアサルトライフルで、その前方を薙ぎ払った。

 射撃音が響き、盗賊達の目の前の地面がぜて、土煙が上がった。盗賊達は急停止し、怯え、絶望に包まれた顔で棒立ちとなっている。

 私が撃ち尽くした弾倉を交換している間に、コレットちゃんが助手席側の窓から突き出したサブマシンガンを空に向けて発砲した。


 アサルトライフルと違い、火薬量が少ない拳銃弾を使用するサブマシンガンは反動が少ないが、その代わり、威力も命中精度もかなり低い。そんなもので敵の至近距離に威嚇射撃をするのは危険なので、緊急時か私の指示がない限り、威嚇射撃は絶対に安全な方向に向けて、と厳命してある。

 勿論、相手に当てるつもりの時は別だ。いくら命中精度が低いとはいっても、数撃ちゃ当たる。特に、距離が近ければ。


 私が弾倉を交換し終えた時には、盗賊達は既に武器を捨てて両手を上げていた。

 いや、そんなに時間はかかってないよ。私は運動神経や反射神経は悪くはないんだ、決してトロくはない。ほんの数秒しかかかっていないんだ、ホントだよ!


【商隊の護衛の皆さん、盗賊達を捕らえて下さい】

 拡声器でそう指示すると、商隊の護衛達が一斉に盗賊達に駆け寄り、捨てられた武器から離れさせた。

 そして数人が剣を握ったまま威嚇し、残りの者で盗賊達を縛り上げる。ロープは、馬車に積んであったらしい。用意のいいことで……。


 盗賊達の反撃の目が完全になくなった後、私達はクルマを馬車の側まで動かし、そこでクルマから降りた。

 あまり早く姿を見せると、子供3人だけだと思った盗賊達が、いったん捨てた武器を拾って反撃に出ないとも限らないから、完全に捕縛されるまで待っていたのだ。

 うん、昔から、見た目で舐められるのには慣れてるからね。

 尤も、それをうまく利用するのにも慣れてるんだけどね。


 日本で14~15歳に見られる私は、ここでは11~12歳くらいに見られる。

 サビーネちゃんが10歳、コレットちゃんが8歳……、いや、誕生日が来たから、9歳か。お誕生日プレゼントを強請ゆすられ……、いやいや、強請ねだられたな、あの時は。

 しかし、どうして『ゆする』と『ねだる』が同じ漢字なのだろうか。

 日本語は、奥が深いなぁ……。


 とにかく、9歳、10歳、11~12歳の少女トリオでは、舐められるにも程がある。安全策をいくら講じても、決して無駄にはならないだろう。

 で、商隊の人達と捕らえられた盗賊達の方へと歩み寄ると。


「雷の姫巫女様、危ういところをお助け戴き、ありがとうございました!」

 荷主の商人さんらしき人のお礼の言葉に合わせて、奥さんらしき人や護衛の人達、そしてなぜか盗賊達までが深々と頭を下げた。

 まぁ、当たり前か。

 ……って、他国でも私のこと知られてるの?


 いや、言ってみただけだ。

 遠くの国ならばともかく、まだ隣国だから、当たり前だよねぇ、やっぱり……。



 で、まぁ、丁度昼頃だったので、街道から外れて道を空け、みんなで昼食を摂ることにした。除く、盗賊達。

 商人さんから、お礼に食事を提供したいと言われたけれど、サビーネちゃんとコレットちゃんが反対した。


 いや、私は、せっかくの感謝のお気持ちだからお受けするべきだと思うんだけどね。勿論、理由はそれだけじゃないけど。

 でも、サビーネちゃんもコレットちゃんも知っていたんだ。

 街を出発した直後ならばともかく、出発から何日も経った旅の馬車で出される食事というものが、どのようなものであるかということを。

 そう、生鮮食料品などあるわけもなく、日保ちする堅焼きパンと干し肉、スープの素をお湯に溶いただけの具のない不味い飲み物に、ドライフルーツがひと欠片かけら付いていれば良い方だ、ということを、だ。


 それを振る舞われるくらいなら、レトルト食品かカップ麺を食べる方がよっぽどマシだ、というふたりの主張には、私も同意する。

 でも、せっかくの御厚意を無下にするとか、人付き合いの基本として、それはどうかと思うんだよねぇ。それに、多分向こうは一緒に食事をしながら色々と話をしたいと思っているのだろうし。そして、それはこちらも同じだ。

 ここは、ご相伴にあずかるべきである。

 そう言ってふたりを説得したところ……。


「じゃあ、私達は向こうで自前のを食べるから、姉様だけ商隊の人達と一緒に食べれば?」

 サビーネちゃんのその言葉に、少しカチンと来た。

「……コレットちゃんも、同じ意見なのかな?」

 私は、静かに、優しい口調でそう言ったのだけど、それを聞いたコレットちゃんの表情が、悪戯っぽい笑顔から、少し真面目そうな顔つきへと変わった。

「わ、私は、みんなで一緒に食べた方がいいと思う、思います、はい!」

「え……」


 どうやらサビーネちゃんは、僅か2日間ですっかり仲良くなったコレットちゃんが自分に賛成してくれるものと思っていたらしい。コレットちゃんのその言葉に、驚いた顔をしていた。

 まぁ、直前までのコレットちゃんの言動を見ていれば、そう思うよね。


 でも、サビーネちゃんは知らないんだ。

 コレットちゃんは、普段は私のことを対等の友人、いや、親友にして『仲間』として扱うけれど、話が『大事なことや、もう私が決定して決して譲らない時、または仕事絡み』となると、きっちり切り替えて主従関係としての対応になってくれる。そしてそのタイミングは、私とコレットちゃんの仲だ、阿吽あうんの呼吸である。

 そう、さっきの、私のコレットちゃんへの質問の口調で、コレットちゃんはモードを切り替えたのだ。『あ、これは、我が儘言っちゃ駄目なやつだ』と判断して。


 勿論、私が商隊の人達と一緒に食事をするべきだと判断したのは、ただ単に心遣いのみ、というわけじゃない。情報収集やら盗賊達の処遇やら、色々と話すべきことがあるからだ。

 そのあたりの私の心積もりを一瞬のうちに察知して、話を合わせてくれる。さすがコレットちゃんである。

 そして、『裏切られた!』と言わんばかりの顔で、呆然とコレットちゃんを見るサビーネちゃん。自分ひとりが悪者にされたみたいで、顔が強張っている。

 いかん、フォローしないとサビーネちゃんが落ち込む!


 私が慌ててポンポンと軽く頭を叩いてあげると、サビーネちゃんは、ぐっと涙を堪えて、頷いてくれた。

 サビーネちゃんも、頭が良くて気の回る子なんだ。そりゃ、王女様だから、コレットちゃんよりは我が儘だけど。


 でも、普段はかなり図々しくても、私が本当に困ることや嫌がることは、決してやらない。さっきのも、私が強い口調で指示するか、あのままでも、もう少し会話が続けば、多分引いてくれたはずだ。今まででも、そういうことはよくあった。

 今回サビーネちゃんが不幸だったのは、サビーネちゃんがそういうモードにはいる前に、サビーネちゃんより遥かに切り替えの基準が低いコレットちゃんが態度を変えてしまったことであった。

 うん、ドンマイ、サビーネちゃん!


 と、まぁ、そういうわけで、商隊の皆さんに正体のバレた私達が招待されるのであった。

 イッツ、しょーたいム!

 って、クドいですか、そうですか……。

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― 新着の感想 ―
弾も無料じゃ無いし外して威嚇って金かけすぎじゃね? そんなに溜まってんの?
[一言] サビーネに"安全"の為に空へ向けて撃ったとの事ですが上空に向けて射撃した方向へ放物線上に銃弾が落下してくるので、威力としては弱くなっていますが殺傷力としてはそれ程変わらない事が云えますね。 …
[一言]  黒ポンチョに肉切り包丁持った野郎が連想されてしまう…。
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