82 仲良し作戦
「またかよ……」
「またなんですよ……」
「どうしてそう、毎回毎回幼女ばっかりなんだよ! 嬢ちゃんの領地では、幼女が軍の主力なのかよ!」
「し、失敬な! これは私の趣味で……、いえ、何でもありません」
「…………」
とにかく、おかしなバレ方をする前に、サビーネちゃんにも護身用の銃を与えねば。それが、今の最優先事項である。そのため、慌てて傭兵団『ウルフファング』へとやって来たわけである。
そして早速、私の通訳で、隊長さん直々にサビーネちゃんへのレクチャーが始まった。
自分が教えます、と言ってくる団員が何人もいたけど、隊長さんが、怖い顔で全て追い払った。
「駄目ですよ、手を出しちゃ。王女様なんですからね、サビーネちゃんは」
「うるせぇ! 誰がこんな子供……、って、王女様ぁ?」
あれ、どうしたんだろう? 何か、隊長さん、動揺しているような……。
「どうかしたんですか?」
「う、うるせぇ! 男の子はな、王女様とか貴族の御令嬢とかには弱いんだよ!」
え?
「あの、私も貴族の少女、なんだけど……」
「え? あ、そういえば、そうだったなぁ……。
ま、嬢ちゃんは適用除外、だ」
「何ですか、それは!」
と、まぁ、そんな感じでレクチャーは進んだ。
「「………………」」
終わった。
「何でそんなに早くマスターするんだよっっ!」
「わ、私の立場が……」
あっという間に終わった。
最後に、サビーネちゃん、コレットちゃん、私の3人で標的相手に腕比べをしてみたところ、1位サビーネちゃん、2位コレットちゃん、3,4が無くて、5位が私。
……どうしてこうなった!
失意の内に、転移で戻った。
あ、勿論、転移はクルマごと。傭兵団のみんなに、何処で買った、運転はどこで習った、と聞かれたけど、お金があれば大抵のことは何とかなるもんですよ、と言うと、納得された。
うん、世の中、そういうもんだよね。
で、夕方である。
今日は、このクルマの説明をするため、野営することにした。
キャンピングカーで寝ることを『野営』と言えるのかどうかは分からないけれど。
「で、これが冷蔵庫。トイレとシャワーもあるけど、領地邸や王都邸のと違って、水はタンクからだし排水も下のタンクに溜めて後で捨てる方式だから、無駄に使っちゃ駄目だよ。 テレビに繋いだこれが、お馴染み、DVD。そして、これが……」
コレットちゃんもサビーネちゃんも、それぞれヤマノ子爵家領地邸と王都邸である程度の設備は使っているし、コレットちゃんには事前にこのクルマの説明もしてある。
そしてサビーネちゃんは、飲み込みが早い。何の問題もなかった。だが、この、最後のものの説明はどうだろうか。
「我が国の技術力の結晶、『家庭用ゲーム機』です」
「「げぇむき?」」
ふたりの声が揃った。
そう、その棚にあるのは、初代ファミコン。30年くらい前の家庭用ゲーム機であった。
長旅で退屈を持て余すかも知れないから、暇潰し用にと家にあったゲーム機を持ってきたのである。両親のコレクションの中から。
あまり最近のはふたりには難しいだろうし、最初から一番新しいゲーム機で遊ぶと、もう古いのでは遊べなくなってしまうから、古いやつから順番に使わせる予定だ。初心者にはドラクエあたりから始めるのが丁度いいだろうと思って、ソフトはそのあたりをチョイスした。
『ハイパーオリンピック』は、コントローラーが壊れそうだから、パス。
ゲームで退屈を紛らせ、そしてふたりが一緒にゲームをすることによって仲良くなってくれれば、万々歳である。
……そう思っていた時代が、私にもありました。
ゲームに夢中になったふたりは、走行中も後部で延々とゲームを続け、前座席に来ようとはしなかった。
そして、後ろから聞こえてくる、『洞窟に行くのに、どうしてたいまつを持ってきていないのよ!』、『かぎが無いと開けられないでしょ!』、『やくそうが足りないですよ!』とかいう声を聞きながら、ひとり寂しく運転を続ける私であった。
うん、サビーネちゃんだけでなく、将来に備えて日本語の読み書きも教えているコレットちゃんも、平仮名と片仮名くらいは楽々読めるんだ。
……どうしてこうなった!
ひとり寂しくクルマを走らせていると、前方に馬車が見えた。
対向車なら、退避用の空き地に避けるか、道から少し外れてあげるんだけどね。馬車の車輪と違って、こちらは少々道から外れても簡単に戻れるから。
横を通る時、向こうの御者がギョッとした顔でこっちを見るけど、問題はない。その時には、私は帽子を被ってサングラスをかけ、マスクもつけるから。
あ、御者がギョッとするの、クルマじゃなくて、私の怪しい恰好のせいですか、そうですか。
で、今回は、対向車ではなく、同方向へ向かうやつ。
この場合、後ろから接近して追い抜くと、下手をすると御者や馬を驚かせて事故に繋がる恐れがある。追い抜きたくても馬車を寄せてくれなかったりするけれど、クラクションなんか論外だ。
で、どうするかというと。
ひゅひゅん!
これで終わり。
うん、連続転移で、前にいた馬車のずっと先に移動したのだ。見えている場所なら地球からの転移地点にできるから、眼にも留まらぬ連続転移。
後部のサビーネちゃんとコレットちゃんは、少し揺れた程度……、いや、揺れたとも感じていないだろう。
追い抜いた馬車も、ずっと前方に出現したこのクルマが少し見えたとしても、何かよく分からないものが見えて、またすぐに見えなくなったというだけで、少し首を傾げて終わり、というところだろうから、問題ない。
このやり方を連続して行えば、空間歪曲航法……というより、空間跳躍航法として、驚異の速度で進むことも可能である。……やんないけど。
そんなことをしても、面倒なだけで、何も面白くない。旅の風情というものが台無しだ。
そして私は、ゲームに熱中している後部のふたりに向かって叫んだ。
「少しは私に構ってよぉ! 泣くぞおぉっ!!」




