73 決戦準備
孤児院の次は、ベルントさんのお店、『楽園亭』へ。
「ベルントさん、これ使った料理出して、宣伝して下さい!」
「いつもの如く、唐突だねぇ、ミツハさん……」
呆れ顔で調理場から出てくるベルントさんと、その後に続く娘さんのアリーナさん、料理人のアネル君。
「何だい、こりゃあ……。キノコか? 干してあるのか……」
さすが料理人、シイタケは知らなくても、キノコそのものは知っていたか。
「すごく美味しいんですよ! 水で戻して、煮物とか最高ですよ。戻した水は、ダシとして旨味成分たっぷりです。とりあえず、今から水に漬けておいて、明日の料理に使いましょう! 明日、また来ますから!」
そう言って、ひたひたの水に乾燥シイタケを漬けて、ぽかんとした顔のベルントさん達やお客さんを後に、さっさと離脱!
今度こそ王都における我が家、お店に戻るよ。
「ミツハ姉様、遅~い!」
……って、どこから情報仕入れてますか、サビーネちゃんは!
「とうさまが待ち兼ねてるよ。このまま王城に行くからね!
……って、なんか面白い馬車だね、作ったの?」
そう言いながら、マウンテンバイクを馬車に積み込むサビーネちゃん。
いや、それで伴走すればいいのでは、って、聞いてませんか、そうですか。
珍しい馬車に乗る気満々ですか。
孤児院の子のデビュー戦が王宮行き、というのはあまりにも酷だから、仕方なく自分で御者を務めた。サビーネちゃんは試乗とばかりに車内に座り、中から大声で話しかけてくる。
「何々! この馬車、凄い! 全然お尻に来ないじゃない!」
まぁ、乗ればすぐに分かるよねぇ。
「これ、どこで作って……、あぁ、聞くまでもないよね…」
うん、だから聞かないで。
「ねぇ、ミツハ姉様。今度、将棋で勝負……」
「誰がするかあぁ~~~!!」
いかん、ちょっと舐められ過ぎだ。一度ガツンとやって、ちょっとへこませてやらなきゃダメかな。
王宮では、王様、宰相様、アイブリンガー侯爵様の、いつものメンバー、プラス数名。王太子のリオネル様、財務大臣、その他らしい。
既に無線での概略報告やアイブリンガー侯爵からの詳細報告が終わっているから、侯爵の出発までの話は必要無い。その後の状況や、これからの展望を中心に説明した。
「……というわけで、元捕虜だった者の大半は協力的です。まずは、彼らに教わって拿捕した船と砲の操作を完全に習得、併行して船と砲の仕組みを学んで自力建造を目指します。
真似るだけでは技術力に劣る我が国では到底追いつけないので、優勢になる切り札として、榴弾、つまり爆発する弾を開発します」
私の説明に、黙って頷く王様達。
「船と武器だけ作っても、それはあくまでも一時凌ぎです。もっと基礎的な科学力、技術力を養って、基礎的な力を付けないと、そこから先の発展が出来ずに結局置いて行かれます。とにかく、今は必死で追いつかないと……。
一応、思ったより次の船団の来訪が早かった場合のための時間稼ぎとして、『調査船団がまたまた行方不明に』という方法がありますが……」
「「「え?」」」
「いえ、次の調査船団も、原因不明の理由でまた消息不明になるかも知れないですよね。『上陸した土地で友好的な現地人に積み込んで貰った水に問題があった』とか、『大歓迎を受けて安心していたら、深夜に船が奇襲された』とかいう不幸な事件があったりして……」
「「「………」」」
みんな、思っていた。
この子だけは敵に回したくないな、と。
「あと、今度は他の国に上陸しようとするかも知れません。今回うちに来たのは、たまたま、でしょうからね。早急に大陸中に警告する必要があります」
「うむ、難しいが、やるしかあるまいな。
で、その、ミツハにも協力を頼みたいのだが……」
「仕方ないですね、各国への説得にはお供します」
「頼む。それと、言いにくいのだが、ミツハの母国には……」
国王が言いたいことは分かるが、それはダメだ。
「駄目ですね。距離が遠過ぎますし、助ける利点がありません。貿易相手としては遠過ぎる上に碌な交易品がない。同盟国としては大した戦力も影響力もない。私がたまたま住んでいるということ以外に、母国がこの国に興味を示すことはありません。
逆に、私が早死にすると『ミツハを酷使して死なせた国』と認定されて、悪い意味で『興味を持つ』可能性はありますけどね。関わらない方が無難です」
がっくりと項垂れる、国王様と宰相様たち。
「とにかく、絶対に戦争になると決まったわけではありません。
……いや、今現在、形式上は戦争中なのですが、それは『ただの商人が詐称したための不幸な行き違い』として、無かったことにもできるはずです。
但し、それは相手国が我が国を『簡単に蹴散らせる弱小国』と侮らず、対等の相手と認めた場合だけですけどね」
造船所が完成したら最初に作る試作の小型船の話、その次に作る正式な軍艦の建造方針等、様々な相談、提案を行い、話も一段落した後。
「そうだ、王様、今までの貸しが結構貯まってますよね。ちょっと返して欲しいんですけど」
「ど、どのような事なのだ?」
ちょっとビクついている王様。
「実は、決戦の日に、大勢の兵士を貸して戴きたいんですよ……」
「え、それは当然のことであろう? 船の乗員も、陸上兵力も、全力で支援するぞ?」
「ああ、そっちじゃなくて、王都での決戦ですよ。ほら、オセロと将棋の大会。あれの参加者が多すぎて大変なことになっちゃいそうで……。
すみません、2~3日、王都の機能が麻痺するかも知れません」
「え………」
大会の警備員も無事確保できた。これでひと安心。
あ、思い出したので、王都への旅の途中にあった事を言っておいた。
王様に伝える、と言ったのだから、約束は守らないとね。
但し、あれはあくまでも家臣の暴走であり、領主がおかしな指示を出したとは思っていないと言っておいた。悪いのは、鍵を渡した宿の者だと。
多分、本当に、私を招いて歓談をしたかっただけなのだろう。
肌を見られて逆上していたから冷たくあしらったけど、侵入した奴はともかく、領主には少し気の毒だったかな……。
もしかすると謝罪のため追って来ていたかも知れないけど、転移しちゃったからなぁ。
もし後日謝罪があれば、快く受けてあげよう。
わざわざ王様に話したのは、あの時の客達から話が広まって貴族や王様の耳にはいった場合、あそこの領主が責められないようにだ。決して、言いつけて嫌がらせをするためなんかじゃないよ。
あそこも、うちと王都を結ぶルート上にある領地なのだから、これから仲良くやらなくちゃ。
でも、今回の事を少し引け目に感じて、何かの交渉で譲歩してくれれば儲け物だなぁ。街道整備でもお願いしてみようかな。
翌日。
『楽園亭』でシイタケを使った料理の数々を披露した。
ベルントさん始め、みんなから絶賛! すぐにシイタケ料理の試作が始まった。
これで、次回からはペッツさんの荷馬車での定期輸送が確定だ。ここで食べた他店の料理人が、シイタケを売っているのを知ったら買わないわけがない。あちこちの料理店で食べられるようになれば、ご家庭の主婦の皆さんも買ってくれるだろう。
……で、なんで居るのかなぁ、アデレートちゃんのところの料理長、マルセルさん………。
そして、次は傭兵ギルドへ。
大会の日の手伝いに、手空きの新米傭兵を雇おうと思ったのだけど……。
「人が集まらない? この日だけ? じゃあ、日を変えれば……」
「その日に、人が集まらなくなります」
「ええっ、どうして!」
私が依頼を出そうとすると、受付嬢からその日は難しいだろう、と言われて、じゃあ日を変えようかと思ったら、やっぱり駄目だと。
どうして私が指定した日が次々駄目になるの!
「それは、傭兵の大半がその大会に参加するからですよ。だから、いくら開催日を変更しようとしても、必ずその日は人が集まらなくなります」
なるほど、納得した! そりゃそうだよね!
はぁ………。
どうしよう。




