70 忘れてた・・・

　結局、交代要員を含めて、３人を御者要員にした。

　男の子ふたり、女の子ひとり。

　普段は孤児院に居て貰って、必要な時にはすぐにお店に来て貰う。

　呼び出す方法？

　いや、私からの仕事待ちで、いつも２～３人がお店の周りでたむろしてるから……。

　今度王都に来るまでに御者の訓練をしておくようにと、お金を渡しておいた。馬の世話も任せるからね？

　院長先生は、怪しい木彫りの人形で莫大な利益を得たからか、終始気味の悪い笑顔を浮かべていた。

　……あなた、無私の聖職者だよね？

　ダークサイドに堕ちてないよね？

　領地に戻って、考えた。

　伯爵様も行かないことだし、私も今回の社交シーズンは王都に行かなくて良くない？　どうせ王都は大騒ぎだし。

　……というわけにも行かないか。

　王様達への報告や相談とか、色々あるしね。

「ミツハ様、遊戯盤の大会があるでしょう！」

　ミリアムさんから指摘された。

　………完全に忘れてたよ。

「で、どれくらい参加すると思う？」

「現時点での遊戯盤の出荷数が、３万少々。予想参加数は、そのほぼ全部です」

「え………」

　呆然。

　呆然、サラダ油セット。

「なんじゃそりゃあぁぁ！！」

　ミリアムさんの推測によると、ヴァネル王国の船団の侵攻前までならば参加者数の予測は８７パーセント程度。

　侵攻後の今は、９８パーセント、もしくはもっと上。

「だって、今をときめく雷の姫巫女様とふたりきりで色々とお話しできたり、撫で撫でできたりするんですよ？　それに、数時間の独占権を貴族や大商人に売ったりすれば、金貨何十枚、いえ、何百枚になると思いますか？　参加する権利がある者なら全員、駄目元で挑戦するに決まっているでしょう」

　まずい！

　王都が大混乱に陥る！

　緊急会議開催。

　普通の人の考えを聞きたかったから、使用人全員を集めての会議である。

「……という状況です。誰か、打開策を思い付かないかな？」

「「「「…………」」」」

　みんな、呆れ果てたという顔。

「ミツハ、それ、自業自得」

「コレットちゃん、それは充分分かってるから！　解決策を考えて、お願い！」

　みんな考えてくれているようだけど、良い案は何も浮かばないような…。

「あの……」

　お、奉公という名の下に売り飛ばされそうになってたノエルちゃん、何かいい案が浮かんだの？

「あの、参加しない方が得、って思わせればいいんじゃないかと……」

　え？

「権利があるのに参加しない人には、何かが貰えるとか、いいことがして貰えるとか……」

　て、天才かッッ！！

「それだあっ！」

　その後しばらく会議を続け、普通の人に自分がどのように思われているか、どのような物やサービスにどれくらいの価値や魅力を感じるかの意識調査を行い、その後首脳陣だけの会議に切り替えた。

　参加者は、私、ミリアムさん、コレットちゃん、そして発案者のノエルちゃん。

「まず、参加者の受付において、ミツハさんの写し絵を渡して遊戯盤の焼き印の一部を削ります。これによって複数回の登録を排除。あとは、各自で適当に対戦相手を捕まえて対戦、勝った者が負けた物の写し絵を受け取る、と。

　その後、同じ対戦回数の者同士が戦い続け、どんどん写し絵の枚数を増やして行き、４回勝った者には、集めた１６枚の単色の写し絵と交換で色付きの絵姿に交換できる、と」

「うん、そうすれば、自分がそう強くないと思っている者の一部は写し絵を失うのが惜しくて登録しただけで棄権するよね。色付き絵姿を手に入れた者には、試合に使用できなくなるハンコを押すのと引き替えに、ミツハが握手してくれる、とか……」

　おお、さすがコレットちゃん、冴え渡る頭脳！

　幸いにも賞品の詳しい区分分けは公表していないから、変更可能だ。

　トーナメント戦での賞品区分がやりやすいように、３位と４位は同じもの、５～８位も同じ物にした方がいいしね。

　握手はすぐ終わるから、試合数を減らすために安売りしよう。

　あとは、今までの貸しを盾にして王様に見回りの兵を大勢出して貰って、揉め事を防止、と。

　大量の印刷物は、リソグラフのプリントサービスを使えばいいか。

　リトグラフじゃないよ、リソグラフの方だよ。

　うんうん、何とかなりそうな気がしてきたよ。

　……お願い、何とかなって！！

　賞品の概略が決まった。

　１位　午後から一緒に散歩と買い物、ディナーまで。撫で撫で付き。

　２位　散歩と買い物、撫で撫で付き。

　３～４位　ランチ約１時間。撫で撫で付き。

　５～８位　ほっぺぷにぷに。撫で撫で付き。

　色付き絵姿（単色写し絵１６枚相当）をハンコで無効化した者には握手。

　なんじゃそりゃ～～！！

　ミリアムさん、コレットちゃん、ノエルちゃんの３人が決めちゃったよ。

　みんなそれで充分満足するって。

　本当かなぁ……。

　色付き絵姿を１６枚持って来た者は……、そこまで行った者は最後まで挑戦するだろうから交換条件は蹴るだろう、ということで、そのあたりにはもう引き換える物は準備しないことになった。

　あと、リソグラフは数種類作る。全部同じじゃつまらないし、コレクター的要素も必要かなと思って。

　ただの絵では有難味が少ないから、写真を使って、モドキ商品が作れないクオリティのものにする。

　衣装とカメラマンは店長さんに頼もう。使えるモノは何でも使うよ。経費節減！

　あとで、余ったやつでリソグラフのフルコンプセットを組んで高値で売ろう。これは、私の個人収入でいいよね！