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64 海からの来訪者 4

「ど、どうだ、我々の持つ『銃』の威力は! 遠く離れた場所から相手を殺すことが出来る武器だぞ! これに狙われたら絶対に助からないぞ」


 金貨1枚はかなり惜しかったようだけど、ようやく話が進められそうだからか、男は気を取り直した様子だ。

 ……金貨、こっちのより金の含有量が多いといいんだけどなぁ。そして、船にたくさん積んであればなぁ。


「はぁ…。大雨の日とかは大変そうですねぇ」

 あ、ギクリとしたよ、今。

 そうだよね、火縄とかだと、大雨の日には困るよねぇ。


「丈の高い草が茂った場所とか、すぐに弾の威力が落ちそうな気がしますね。森の中とかの見通しが悪い場所とか、大変そうな気もしますし…。それに、1発撃ったら、弾込めに時間かかりそうですし」

「な、なっ、どうして……」

 ありゃ、顔色悪くなってない?

 もしかすると、未知のものすごい武器に驚いて平伏するとでも思っていたのに、アテが外れたのかな?


「オモチャのお披露目はもういいですから。宣戦布告をなさった以上、ただ今から我が国と貴国は戦争状態となります。覚悟は宜しいですか?」


「ま、待て! 我が国の圧倒的な強さを見せてやる! これを見れば、すぐに我が国に従う気になるに違いない!」


 そう言うと、再び兵士に何やら指示をする指揮官の男。

 今度は、指示された兵士はいったん短艇へと戻り、艇内から何やら取り出してきた。赤と白の……、ああ、手旗だ、あれ。


 兵士は、指揮官の男に言われるままに手旗信号を送り続けている。

 え、何々、ムラニムケテ5ハツウテ、って、これも自動翻訳の対象か~い!


 しばらく待たされてから、ようやく準備が出来たのか、船の方から発射する旨の合図が来た模様。

 よし、発射の瞬間に合わせて、瞬間転移と行こう。


バンバンバンバンバン!


 現代日本の重火器に較べるとかなりショボい音が響いた瞬間、超短時間で地球と往復した。私をじっと見ていた者は、一瞬姿がブレたように見えただろう。

 でも、艦砲の発射音に気を取られ、誰も私には注意を払っていなかった。

 あ、もしかするとヴィレムさんあたりは見ていたかも…。


 一瞬だったから、戻って来ても砲弾はまだ飛翔中。

 家とかに当たるなよ~。当たったら、そこに住んでる人が泣いちゃうぞ。

 まぁ、別に爆発するわけじゃなく、ただ鉄の弾が落ちるだけなんで屋根に大穴があいて家具が少し壊れる程度だろうけど。

 狙って当たるものでなし、運任せ、だね。

 おお、弾着、今!

 って、あああああ!!

 塩田の流下盤に当てやがったあぁ!

 枝条架や足踏み水車に当たったらどうするんだよぉ!


 ぶちっ!


 今、何か切れたよね!


「ふはは、どうだ! 我が国が誇る艦砲の威力は!」

「うるさい! 砲撃だけで敵艦を沈められる威力もないくせに!」

「え……」


 あんぐりと口をあけた指揮官の男を無視して、ハンディ機のマイクを掴んだ。

「アントンさん、繋いで。送信!」

『了解致しました』

 これで、VHF機のスピーカーの前にHF機のマイクを置いて送信スイッチを押してくれているはず。


「王様、侵略の意図と宣戦布告相当の宣言を受け、記録しました。更に銃により山羊1匹が射殺され、船から5発の砲撃を受け塩田設備が一部破壊されました。反撃を行います。アントンさん、受信!」


『反撃を許可する! 気を付けろよ。ミツ…サンダー軍曹に何かあったらサビーネに殺される……』


 よし、連絡が出来ない場合に備えて一応自由裁量権は貰っていたけど、これでより完璧になった。あとはやり放題だ。

 あ、実は交渉を全部中継しようと思っていたけど、考えたら向こうの言葉で話すから中継の意味がないことに気が付いて中止したんだ。…ボケてたなぁ。


「な、何だその箱は? 人の声がしたぞ…」

「ああ、王都にいる国王と話をしたんですよ。侵略者の攻撃を受けたことを報告したら、反撃せよとの命を受けました」

「な、そんな馬鹿な! どうやって遠くの者と話が出来ると言うのだ!」

「え? あなたの国では出来ないんですか?」

 思い切り気の毒そうな眼で見詰めてあげた。

 我ながら、根性悪いなぁ…。


「では、戦争中の敵国兵の皆さん、捕虜として捕縛させて戴きますね」

「な、何を……。撃て! 敵兵を倒して、この女を捕虜にする!」


 敵兵は慌てて銃を構えて撃とうとするが、一発も発射されない。

 うん、さっき転移で中の火薬を地球に持って行ったからね。


「何をしている! 剣を使え!」

 慌てて銃を置き抜き放たれた剣は、刃が柄の先数センチまでしか無かった。

 うん、さっき転移でそこを1センチ分ほど地球に持って行ったからね。

 その先全部持って行くと重さでバレると思ったから、一部分だけ。だから刃の大部分は鞘の中に残ってる。


 刃の部分が殆ど無い剣を握り締めて呆然とする敵の兵士達。

 同じく、口をパクパクとしている指揮官の男。


「あれれ? まさか皆さん、女神様の御加護を受けずにこの大陸に来たんじゃないでしょうね?」

 何やら深い意味がありそうなセリフを言って驚いた顔をしてみせると、みなさん、メチャクチャ動揺してるよ。船乗りは信心深い者が多いっていうからねぇ。


「それに、さっきオモチャを見せて貰いましたけど、まさか本当にあんなものでうちと戦えるとでも? スヴェンさん達、来て下さいな」

 呼ばれて前に出てくる、元傭兵の4人。その手に握られているのは、いささか旧式のサブマシンガン。


「あのあたりを」

 私が指示した小さな木に向けて4丁のサブマシンガンが構えられ。


パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ


 飛び散る木片、あがる土煙。


「な、な………」

 敵兵達は、声すら出せない。



「わ、私が戻らないと、砲撃が始まるぞ! 砲撃が始まれば、こんな村など……」

「ああ、まだそういうこと言うんだ…。じゃあ、船も殲滅しちゃおうか」


 ひゅん


 地球を経由して、3隻のうちの1隻の艦上へ。

 驚いた顔で固まっている水兵に微笑みかけて、すぐに船3隻を伴って転移。

 『但し、人間は残れ!』


 忽然と消えた3隻の船。

 空中から海中へと転落する、すっ裸の兵士達。

 裸なのは、温情だ。軍服やら鎧やらを身に着けていたら、砂浜まで泳ぎ着けずに溺れてしまうかも、と思っての大サービス。

 水面下の場所にいた運の悪い者は、船が消えた空間に押し寄せる海水によって打ち付けられて気の毒なことになるかも知れないが、そこまでは面倒見切れない。文字通り、『運が悪かった』としか言いようがない。



 元の砂浜に戻ると、指揮官の男は、砂の上にへたり込んでいた。

 敵兵達は、船がいたあたりを呆然と眺めているだけ。

 海に落ちた敵兵達が砂浜を目指して泳いでいるのを確認し、とりあえず砂浜の60人をロープで縛るよう指示を出した。

 いや、ちゃんと用意して持って来させておいたから、ロープ。


 敵兵達は、完全に心をへし折っておいたので、抵抗する気配すら無い。

 そのためのサブマシンガンのデモンストレーションだからね。

 自分達より劣っていると思っていた現地人が、実は自分達より遥かに優れた技術を持っており、自分達こそが未開人であったという衝撃はさぞかし大きかったことだろう。一般兵、というか、徴募された連中は、もうこちらに逆らう気力も無くしてこちらの指示に従うと思う。


 あと、そのうち次々と泳ぎ着く敵兵達を確保するため、追加のロープと人手が必要かな。町に伝令を送るべきだろうけど、そのあたりはスヴェンさん達に任せよう。幹部ならそれくらい自分で気付いて対処して貰わないとね。だって、私が楽をするために給金払って雇っているんだから。


 あとは、ボーゼス伯爵が連れて来てくれる兵士とアイブリンガー侯爵が連れて来てくれる手勢に任せよう。こんな人数の捕虜、食料だけでも大変だよ!


 あ、あとで沖合に移動させた船を回収しなきゃ。

 そのあたりに転移させると敵兵が砂浜ではなく船の方へ泳いで行くし、人目に触れるところに放置すると誰かに勝手に乗り込まれる可能性があるしで、仕方ないから沖合に運んで漂流させている。視界内なら地球を経由して転移できるので、2回ほど連続転移を繰り返した。水面の敵兵は視点が低いから、少し離せば見えなくなるからね。

 でも、なるべく早く回収しないとどんどん漂流して見つけられなくなるから、敵兵さん、早く泳ぎ着いてね。そうすれば最初の位置に戻せるから。それならば今は水中で宙ぶらりんの錨が、ちゃんと海底に届いて役に立つからね。


 さて、後は、捕虜の処遇と船をどうするか、そして敵の本国への対応か。

 あ、その前に、とりあえず王様に報告しなきゃ。

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― 新着の感想 ―
転移能力触れてなくてもいいのかよww 生きてても死んでてても血抜き一瞬だね
[気になる点] この転移能力は相手の脳を指定したりすれば一気に殲滅できたりするのでしょうか?前に癌を直した時に思いました
[一言] 視界内どころか鞘の中の刃だけ指定して転移できるとか柔軟性ヤバイですね。座標計算してとかじゃなくて自然言語がそのまま実現できる感じなんだろうなぁ。
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