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473 狼は狼を呼ぶ 6

「皆さん、食べ物が欲しくはありませんか?」

「「「「「「……え?」」」」」」


 川べりに流木と板切れ、丈の長い草を使って作られた、何とか雨風を防げなくもないという程度の、掘っ建て小屋やあばら屋というレベルにも達していない住処すみか

 そこに住む数人の孤児達に声を掛けたのは、3人の少女達であった。


 高貴な顔立ち。

 服装は、さすがにパーティー用のドレスとかではなく、かなり抑えてはあるが、明らかに平民とは思えない、高価そうな衣服。

 そして護衛の姿がない、12~15歳くらいの、3人の少女達。

 勿論、少し離れたところには隠れ護衛がいるし、そこには心配で様子を見に来たミツハと、こんな面白いことを見逃すはずのないサビーネが一緒にいる。


 そして令嬢達は、メンバーと孤児達の会話が聞こえるようにとミツハが渡した小型盗聴器を身に着けており、ミツハは護衛達と一緒に受信機から聞こえる会話に耳を澄ませていた。

 護衛達は驚いていたが、『母国の御神器です』とのミツハの説明に、納得していた。

 何せ、その品は帝国軍を撃退した『火を吐く魔法の杖』に較べると、そこまで脅威を感じる程のものではなかったので……。

 この国では、新大陸のヴァネル王国と違い、ミツハの多少のやらかしは『姫巫女様だから』、『御使い様だから』で済むのである。


((((((胡散臭(うさんくせ)ええぇ〜〜!!))))))

 そして、子供達はドン引きであった。

 まず、貴族の少女達が、護衛もなくこんなところをうろつくはずがない。

 そして、100歩譲って、もしもそういうシチュエーションがあったとしても、絶対に孤児達に話し掛けたりはしない。

 ……そう、絶対に!!


 不審。

 ……怪しさ、大爆発!

((((((奴隷狩りの罠だっっ!!))))))

 子供達の警戒心が、マックスとなった。


「……来るな! それ以上近付けば……」

 年長の子供がそう叫び、子供達が一斉に地面の小石を拾い、握り締めた。

 ここは河原なので、投石のための小石には困らない。

 そしていくら子供の力であっても、至近距離から投げた石が当たれば、ただでは済まない。

 もし顔に当たれば、一生残る傷ができたり、失明したり、……当たり所が悪ければ、死ぬこともあるだろう。


 これがゴツい大人の男性であれば、両腕で顔面を護りながら走り寄って、とかいうこともできるかもしれないが、華奢な少女3人では、多勢に無勢、その前に倒されるであろう。

 ……しかし、こういう反応は事前に予想していたのか、少女達は足は止めたものの、驚いた様子もなく、話し続けた。


「食べ物が欲しくはありませんか、と聞いておりますの」

「え……、そ、そりゃ、欲しいけど……」

「馬鹿、相手にするな! 金持ちが、タダで物をくれるわけがないだろ!

 騙されて、奴隷商人に売り飛ばされるぞっ!!」

 リーダー役らしき少年の叱責の言葉に、ビクッとして、一歩後ろへと下がる子供達。


「いえいえ、皆さんを捕らえるつもりであれば、もっと力があり足の速い、大人の男性を寄越す方が効率的ですわ。なのに、どうして足が遅くて非力な私達が現場仕事を担当しなければなりませんの? 明らかに、ミスキャストですわね?」

「……そ、それは、確かにそうだけど……」


     *     *


「皆さん、事前の打ち合わせの通り、うまくやってるねぇ……」

「何度も、一生懸命練習していたものねぇ……」

 感心するミツハとサビーネ、そして御神器である『じゅしんき』に、畏敬の念を抱く、護衛達。

 ……まだ悪党達に目を付けられるようなことはしていないし、今日はミツハが付いているので、ここには『影』はいない。別の場所で、情報収集に努めている。


 孤児が相手であれば、たとえ少々人数が多くても、護衛3人……令嬢の内ひとりは護衛が付いていないが、他のふたりが、それぞれひとりとふたり、計3人の護衛を付けている……とミツハがいれば、問題はない。

 もし何か想定外のことがあったとしても、転移で緊急退避ができるので、安全は確保されている。

 ……それはあくまでも最後の手段であり、ミツハとしては、なるべく使いたくはないが……。


「今回が初回だけど、上手く行けば、みんなに成功例の見本として録音を聞かせてあげられるから、是非成功してほしいんだよね……」

 そう言って受信機に耳を傾ける、ミツハであった。


     *     *


「まあ、どこかへ連れて行くわけではありませんから、少しお話だけ聞いてくださいませんこと?

 その間、お菓子が食べられますことよ?」

「「「「「「聞くっ!!」」」」」」


(((チョロいですわ……)))


 クルバディ伯爵家令嬢、ラステナ。

 ヴィボルト侯爵家令嬢、ティーテリーザ。

 ……そして、ネレテス男爵家7女、カトルナ。

『ソロリティ』会長であるアデレートを支える、3本柱である。

 今までは皆の纏め役としての仕事が主であったが、遂に、『ソロリティ』としての乾坤一擲けんこんいってきの大勝負であるこの大作戦の尖兵せんぺいとして、戦いの場、最前線へと姿を現したのであった……。


     *     *


「チョロいなぁ……。こりゃ、簡単に騙されるはずだよ……」


 受信機から聞こえる子供達の声に、肩を竦めるミツハとサビーネ。

 そして、苦笑いの護衛達であった。

「一応、誘拐や奴隷狩りについての警戒心はかなり強いみたいではあるけれど、きちんと説明されて納得したら、簡単に騙されちゃうのか……。

 こりゃ、ちゃんと教育しなきゃ駄目かぁ……」


 自分達の護衛対象であるお嬢様達を危険な行動に巻き込み、下賤な者達と接触させようとしている。

 さすがに、いくら相手が姫巫女様であっても、護衛達はそのことに対して不信感を抱いていた。

 ……しかし、どうやらこれは孤児達を救うための行動らしいと気付き、そしてお嬢様達の情操教育にはとても良いことではないかと考え、危険で面倒なことだと思っていた今までの考えを改めて、急に協力する気満々になった、各家の護衛達。

 ミツハはそんな護衛達の心境の変化には気付いていないが、護衛のやる気の有無は、安全に大きく影響する。


「よし、あとはみんなの交渉術と頑張りに期待しよう。

 何、別に孤児達全員が納得して参加してくれなくてもいいんだ。

 たとえ半分でも、3分の1でも。そして完全参加ではなく一部だけの参加でも。

 100パーセントかゼロかの2択ってわけじゃないし、一度に全部やらなきゃならないわけでもない。

 ……というか、そもそも、本当は国や行政がやるべきことなんだよなぁ……。

ソロリティ(わたしたち)』は、その呼び水、切っ掛けになればいいんだ。何も、全部『ソロリティ(わたしたち)』がやらなきゃならないわけじゃないよね」


「…………」

 ミツハの言葉に、少し気まずそうな顔のサビーネ。

 王族として少し責任を感じているのかもしれないが、少なくとも、それは幼い第三王女が責任を問われるようなことではない。

 国王、宰相、各大臣、貴族、そして行政担当者達の仕事である。



『ろうきん』コミックス14巻、『ポーション続』コミックス4巻、7月9日に刊行されました。

『ポーション続』には、私の書き下ろし短編小説(本文9ページ、挿絵1ページ)が載っています。

よろしくお願いいたします!(^^)/

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― 新着の感想 ―
『火を吐く魔法の杖』に較べると、そこまで脅威を感じる程のものではなかったので……。 ミツハ「いや、わかりやすく攻撃力ある武器より、 情報伝達アイテムの方がある意味物騒だったり 厄介だったりするんだけ…
国や行政が動いて治安をあげても搾取される人はでてくると思いますが、この時代は保護が薄いので孤児に辛いでしょうね、特別に予算と人手割かないと改善していけないけどリソース限られてるし割いたり、リソース自体…
>チョロいなぁ…  食べ物でつって騙す。まあ子供じゃね。現実の大人だってひっかかる者はいるし。
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