472 狼は狼を呼ぶ 5
「そういうわけで、最初は攻勢ではなく、守勢でスタートしようかと……。
孤児達を囮に使うような真似はできないから、こちらから積極的に危険を冒すようなことはしないよ。
……今までのところで、質問やアドバイスはある?
助言や提言は、遠慮しないでどんどん言ってね。私達は素人、あなた達はプロなんだからね!」
多分、『影』の者達にとって、私達は『仕事がやりやすい、話の分かるいいボス』だろう。
人間関係は大事だよね、うん!
「基本方針は、理解しました。それに対しましては、特に異存はありません。
……しかし、護衛対象が多すぎます。いくら私共が6人おりましても、『ソロリティ』の方々全員を完全にお守りするには、人数が足りません。
ですので、護衛対象に優先順位を付けさせていただくこと、たくさんの小グループに分かれてそれぞれが勝手に行動されることを極力避けていただくことが必要かと……。
そして、敵対者が現れた場合、護衛対象者に張り付いて護るのではなく、敵側の動静を把握することによって攻撃行為を阻止する、という方向の方が妥当かと……」
「あ、なる程……。
確かにそうだよね。サビーネちゃんの意見は?」
「うん、私もそれでいいと思うよ。
にほんのことわざで、何て言ったっけ。ええと……、あ、『餅は餅屋』だ!
プロの意見は尊重しなきゃね」
あ、『影』の人、またプルプル震えながら頭を下げてるよ。
ま、王女様に自分達の仕事、自分達の能力を認められ、信頼されたんだ。そりゃ、感無量だろう。
日本では、忍者は一部の者を除き、一般的には武士より身分が低かったらしいけれど、ここでも同様に、『影』とか間諜とかは兵士より下に見られるらしいんだよね。
だから、王族にこんなに近付けることは勿論、お声掛けなんか、一生に一度すらあり得ないとか。
しかもそれが王女様からで、内容が称讃の言葉だとか、末代まで語り継がれるくらいの栄誉なのだろうなぁ……。
「では、お願いしますね。……行きなさい!」
「はっ!」
サビーネちゃんの言葉に短く返事をして、出て行った。ちゃんと、ドアを開けて……。
「は? 一瞬の内に姿を消したりは……」
「できないよっ! ニンジャじゃないんだから!
そりゃ、暗器の使い方や格闘術、間諜としての情報収集力とかは凄いけれど、別に超人だとか忍術が使えるだとかいうわけじゃないよ。
姉様、『影』に幻想を抱きすぎだよ!
あまり『影』を過信し過ぎると、足を掬われるよ、気を付けてよね!
……それと、用が終わったら『行け』とか『去れ』とか言ってあげないと、彼らは自分から勝手に辞去できないので困らせちゃうからね。ちゃんと帰っていいってことを言葉にしてあげてね」
「……あ、うん、分かった……」
サビーネちゃんに、かなり厳しく注意された。
色々と、業界ルールというものがあるんだなぁ……。
* *
あの後、『ソロリティ』のみんなで色々と策を練った。
勿論、サビーネちゃん、ベアトリスちゃん、コレットちゃんも一緒。
私達は『ソロリティ』にはあまり参加していなかったけれど、今はそんなことは言っていられない。今回の件が一段落するまでは、他のことは後回しにして、付きっきりで見ていないと……。
私は、万一のことが起こってはと緊張の毎日だけど、他の3人は、何だか楽しんでいるような……。
いや、ふざけんじゃないよ!!
サビーネちゃんやベアトリスちゃんに何かあったら、王様やボーゼス侯爵様に殺されるわっ!
こっちの世界じゃあ、GPS発信器が使えないから、私の目が届かないところでの誘拐には、護衛と『影』しか頼れるものがないんだよ! ……って、それで十分なような気もするなぁ……。
サビーネちゃんに付いている護衛は、隠れ護衛も入れるとかなり多いはず。
ベアトリスちゃんにも、ボーゼス侯爵様に事情を話しておいたから護衛が増強されているはずだし、このふたりには、絶対に単独行動をしないように、そして王宮とボーゼス家王都邸以外で行動する時は私と一緒に、と厳命してある。
軽い調子ではなく、真剣な顔で、もしこの約束を破ったら二度と信用しない、と強い口調で言っておいたから、多分約束を守ってくれると思う。
もし守ってくれなければ、本当に、以後の付き合い方を考え直す必要があるし、私の本気度はふたりにも伝わったと思う。ふたりとも、真剣な顔で頷いていたからね。
心配なのは、他の令嬢達だ。
自前の護衛がひとり付いているか、ゼロの子達。
頼りは、『影』による、敵の先制探知のみ。
だから、作戦は無理のない、敵から直接危害を加えられる可能性の低い、穏やかなものでないとね。
メンバーの誰かが孤児に扮して、なんて案も出たけれど、一発却下!
そもそも、孤児に扮装できそうなのは、私とコレットちゃんしかいないよ! 他のお嬢様達に、孤児の真似ができるはずがないよ。
その案が出された時、コレットちゃんがすかさず立候補の手を挙げたけれど、認めるわけがないだろうがっ!
勿論、そのあたりにいる本物を雇って、とかいうのも、論外。
子供達に危険を冒させることなんか、できるはずがない。
……そして、最終的に出された案が……。
「では、『孤児達に生活手段を与え、搾取を防止するぞ作戦』、開始です!」
「「「「「「おおおおお〜〜っっ!!」」」」」」
……そうなのだ。
無理に介入するのではなく、ただ、孤児達に生活手段を与えるだけ。
搾取の酷い仕事をしなくても食べていけて、生活できるように。
自分達に不利な契約をさせられないよう、詐欺や搾取の手口を教え込み、被害者にならずに済むための教育を行う。
そして、悪い連中のカモになる子供達をなくすのだ!
令嬢達がやるべき活動は、悪党達と戦うことじゃない。
孤児達を救うことだ。
でも、そうすれば、多分シノギ……稼ぎの手段を失った悪党連中が、何らかの行動を起こすだろう。
子供達に対してか、それとも、余計なことを始めた、慈善団体に対してか……。
それをいち早く察知して、被害を未然に防ぐために『影』を借りたのだ。
そして『影』に『ソロリティ』のメンバーや孤児を護ってはもらうけれど、それはあくまでも緊急時だけだ。『影』にお願いする本来の任務は、情報収集だ。
『影』は正面からの武力衝突に使うようなものじゃないし、借り物は無傷で返さなきゃならない。
借り物の諜報員に武器を持たせて敵陣に突撃させる指揮官はいないよねえ……。
それは、明らかに使い方を間違っている。
……いや、強いよ? 『影』の人達は……。
暗殺者や戦闘員としても一流の腕前だから、そのあたりのチンピラやゴロツキ共にそうそう不覚を取ることはないだろう。
……でも、もし実力行使が必要になった時には、それが本来の任務である、警備隊や王都軍治安維持部隊に助けを求めるのがスジだろう。
助けを求めるのが、王女様と大聖女と救国の英雄と上級貴族のお嬢様達だよ?
いくらやる気がない上官でも、さすがに大慌てで、ありったけの部下を連れて緊急出動してくれるだろう、うん!
だから、『影』は使いどころを見極めて使うのだ。
貴重で便利な駒を、無駄に浪費することはないよね。
……さあ、いっちょ、やってみよ~!!
コミックス刊行のお知らせです。
『ろうきん』コミックス14巻、『ポーション続』コミックス4巻、7月9日刊行予定。
『ポーション続』には、私の書き下ろし短編小説(本文9ページ、挿絵1ページ)が載っています。(^^)/
そして、拙作短編小説のコミカライズ、『絶対記憶で華麗に論破いたしましょう』 (comic スピラ) の単話版独占先行配信期間が過ぎ、各電子書籍配信サイトでの公開が始まりました。
検索すれば色々な配信サイトがヒットしますが、一例として、Amazon Kindle版のURLを掲載しておきます。(^^)/
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B0F9W6VPMS?
サンプルとして、冒頭の数ページが読めます。
『ろうきん』、『ポーション続』コミックスと併せて、よろしくお願いいたします!(^^)/




