470 狼は狼を呼ぶ 3
「私や姉様、ベアトリスちゃんが関わっている、上級貴族やお金持ちの子達の集まりである『ソロリティ』を敵に回そうとする犯罪組織はないよ。
下手をすれば、複数の有力貴族や王族を敵に回し、容赦のない全面攻撃が始まるんだよ、王都軍や警備隊、……そして領軍すら加わって……。
私達3人を敵に回した時点で、多分神殿や一般の人達も攻撃に加わる。
チンピラやゴロツキ、犯罪者連中の中にも、信心深い者がいるだろうしね。
だから、大きな組織が絡んでいても、多分末端が切られて、バックは手を出さないよ。
その悪質な連中と敵対しても、ソロリティのことを知らないような小物以外は、関わってこないと思うよ」
「あ~……。
あ、いやいや、駄目だよ! それって、『ソロリティ』のことを知らないような小物は、関わってきて手出しする、ってことじゃないの!」
危ない危ない、うまく騙されるところだったよ……。
サビーネちゃんのヤツ、『チッ、バレたか……』というような顔をしてやがる。
敵に回すとヤバいな、サビーネちゃん……。
「……でも、上手くすれば、以後、孤児を食い物にしようとする者が減るよ?」
「うっ……」
コレットちゃんに、痛いところを突かれた。
王都の孤児院には、以前から色々と支援している。ポップコーンの件だけでなく、寄付や差し入れとかもね。
私が孤児院のことを気に掛けているということは貴族の間では広く知られているから、他の貴族や裕福な商人とかも色々と支援してくれているのだ。
……王都の孤児院には……。
他の町の孤児院には、その領地の領主様くらいしか支援しないし、孤児院に入れていない者達は、誰にも助けてもらえないのだ。
屋根と壁がある、飢え死にや凍死する心配がない孤児院で暮らしている者達は、彼らから見れば、王侯貴族も同然だろう。
私も、孤児院以外の者達には、直接の支援はあまりしていないんだよねぇ……。
せいぜいが、市場で買いすぎた時に荷物持ちに雇ってあげる程度だ。ほんの、銅貨数枚で。
それでも、メチャ喜ぶんだよなぁ、あの子達。私が『姫巫女様』だということには気付いていなくても……。
孤児の役に立てる。
貴族のお嬢様の慈善活動としては、丁度いい。
他の貴族と対立するような案件じゃないし、犯罪組織としても、王女様、大聖女、そして雷の姫巫女、更に複数の貴族家と王宮を敵に回しての全面戦争を覚悟してまで守ろうとするようなレベルのシノギじゃない。
うむむむむ……。
「ちょ、ちょっと考えさせて……」
* *
「……承認!」
「承認!」
「承認!」
ううう……。
『雑貨屋ミツハ』での首脳会議の結果、サビーネちゃん、ベアトリスちゃん、コレットちゃんの、全員が承認してしまった……。
いや、コレットちゃん、アンタは『ソロリティ』に関する議決権はないよね?
そして私も、思ったより危険が少なくて、政治的な影響がなくて、孤児達の安全に大きく寄与するとなれば、反対しづらい。
私達3人の影響力で安全が担保されるなら。
……そして、孤児達の安全に寄与できるなら。
『ソロリティ』のメンバー達の安全に最大限の注意を払い、万一の場合は『御神器』の出番となることも許容するのであれば、……何とかなるか……。
決して、メンバー達に怪我をさせない。
決して、孤児達を傷付けない。
そして、決して、誰も不幸にさせない。
……但し、悪党達を除く……。
* *
「そういうわけで、『孤児支援作戦』の実行が承認されました」
次のお茶会で、みんなに報告。
ここんとこ毎回参加しているけど、この件が一段落するまでは仕方ない。
「「「「「「おおおおおおお!!」」」」」」
初の、『ソロリティ』の本格的な対外活動だ。みんなの鼻息が荒い。
自分達が所属するサークルの名を上げたいのか。
退屈な日々に飽きて、面白そうなコトをやりたいのか。
それとも、本当に孤児達のために貢献したいと思っているのか。
動機は様々だろうけど、やると決まった以上、下手を打たせるわけにはいかない。
誰も怪我をさせず。
誰も悲しませず。
武門の儀、あくまで陰にて。己の器量伏し、御下命、如何にても果たすべし。
なお、死して屍……になってもらっちゃ困るんだよっ!!
『ソロリティ』の活動に参加していて怪我をしたなんて既成事実作られちゃ、大変だよ!
サビーネちゃんとベアトリスちゃんの名に傷が付くかもしれないし、その時の状況によっちゃあ、貴族家同士の間で諍いが起きるかもしれない。
……いや、そんなことはどうでもいい!
孤児のために助力しようとした心優しい貴族の御令嬢が怪我をして、人生を棒に振るようなことになったら……。
そんなの、許せるわけがない!!
だから、それを阻止するためであれば、あらゆる安全策、あらゆる防護措置を講じる。
……お金が掛からないやり方で……。
とにかく、安全第一!
少女の安全と正義のためであれば、どんな悪事でも許されるのだ!!
……そして、『ソロリティ』での悪だくみが進められたのである……。
* *
「サビーネちゃん、王様に頼んで、『影』の人達に協力してもらえないかな?」
『雑貨屋ミツハ』に戻ってから、サビーネちゃんに、そうお願いした。
「え……」
うん、さすがに驚くか、サビーネちゃんでも……。
いや、サビーネちゃんには、いつも護衛が付いているんだけどね。
すぐ側にいるけれど、決してサビーネちゃんの邪魔をせず、口出しせず、黒子になり切っている人が……。
少し離れた場所にも、護衛だとは気付かれないように変装した、隠れ護衛がいるし。
でも、王家には、そういった表の護衛ではなく、影がいるんだよ……。
衛兵や近衛兵とかの、要人警護のSPに相当する表の人達じゃなく、諜報活動とか暗殺とかを担当する暗部、間諜や忍者に相当する、裏の者達が……。
悪党を相手にするなら、情報と、凄腕の護衛が必要だよね。
ジェームズ・ボンドとゴルゴ13を味方につけた側が、負けるはずないよね。
……うん、世の中、そういうもんだ……。




