469 狼は狼を呼ぶ 2
「……というわけで、皆さんの御要望に沿う形にしたいとは思いますが、『目安箱』はやめましょう。嘘の依頼や利益目的の依頼が殺到して、収拾がつかなくなるのが目に見えていますから……」
「「「「「「…………」」」」」」
みんな、少し俯いている。
さすがに、自分達も『ちょっと無理があったかな……』と思っていたのだろうな。
「いえ、皆さんが社会的に役立つ活動をしたい、とお考えなのは分かりますし、そのお気持ちは理解できます。……ただ、依頼の集中や、嘘や悪意のある依頼とかが来るのを防ぐため、募集形式ではなく『やることは自分達で見つける』という形にするだけです。
依頼だと、『どうして自分の依頼は無視するんだ!』とか言って文句を言う人達が湧いて出ますからね、絶対……。
だから、依頼は受けない、私達は自分がやりたいことを勝手にやっているだけ、という形にしないと……」
「「「「「「なる程……」」」」」」
うん、みんなも納得してくれたみたいだ。
「そして、事件の見つけ方なんだけど……」
みんなが、固唾を呑んで私の言葉を待っている。
よし、ここで、あの決め台詞を!!
「……それは、自分で考えるのだ!」
「「「「「「やっぱりいいィ〜〜!!」」」」」」
* *
……そして、『ソロリティ』のみんなで知恵を出し合った結果……。
「エレデアル伯爵家の当主が、正妻に内緒で新しい愛人を囲いましたわ!」
「ノレド子爵家の長男が、許嫁がいるのに、結婚前に男爵家の三女を孕ませましたわ!」
「リリーク男爵家の四女が、伯爵家の次男と子爵家の長男の二股を掛けておりましてよ!」
「ええ〜〜い! うちは浮気調査専門の興信所か探偵社かっ!!」
……そうなのだ。
令嬢達の社交界ネットワーク、使用人達の噂話情報網を駆使した結果、手に入れた情報はそういうものばかりだったのだ……。
そりゃ、そんなところに大事件の情報が流れていたりはしないよね。
……うん、知ってた……。
「では、まずはエレデアル伯爵夫人に愛人のことを……」
「やめんかっっ!!」
コイツらは、本当に、もう……。
「伯爵様が愛人を囲うのは別に犯罪行為でも何でもないし、奥様に許してもらえるのか絞り上げられるのかは夫婦の問題だから、他者が口出しするようなことじゃないでしょ。
婚約者以外を孕ませた馬鹿長男は、噂になっているということは、もうバレてるんでしょ? 今更私達にはどうしようもないよ。
二股令嬢は、……まぁ、男爵家の四女なら、次男に継がせられる第二爵位持ちの伯爵家か、子爵家か男爵家の長男を狙うのは理解できるよね。
そういうのを狙わないと、小金持ちの商人とか、伯爵家や子爵家の当主の第二夫人とか愛人とかにされちゃうかもしれないんだから……。
いいトコから引く手数多のみんなとは違うんだよ。『ソロリティ』に入っていない下級貴族の四女が貴族であり続けるのって、結構厳しいんだよ」
「「「「「「…………」」」」」」
みんな、理解してくれたみたいだな。俯いて、ちょっと居心地の悪そうな顔をしている。
そりゃ、『ソロリティ』は、新大陸の『ソサエティー』のような名声はないよ?
……でも、みんな上級貴族とか羽振りの良い家とか著名な家とか、恵まれた立場なんだ。
そして、一応、第三王女殿下、大聖女様、そして雷の姫巫女とのコネがある。これって、婚活市場では滅茶苦茶有利なんだよね。
それに、そもそもこの子達の多くは、既に婚約者がいるし……。
必死で婚活している男爵家の四女さんも、そんな連中にどうこう言われたくはないだろう。
「そういうわけで、男女関係のものは、暴力や脅迫、犯罪絡みとかを除き、対象外!
もっと、何というか、その……、『面白いネタ』を探してよ!
……あ、但し、危険なことや政治絡みとかはナシだからね!」
「「「「「「は~い……」」」」」」
不服そうだなぁ……。
でも、そんな、プティ・アンジェじゃあるまいし、お嬢様が無理をすると、ろくなことがないよね。
この国にも、日本の『生兵法は怪我のもと』に似た意味の格言があるんだよね……。
* *
「新ネタ確保ですわ!」
次のお茶会で、意気揚々と報告する御令嬢。
今度は、いったいどんなネタを掴んできたのやら……。
「相手は、人身売買組織ですわ!」
「「「「「「えええええええ〜〜っっ!!」」」」」」
……それは、王都軍か警備隊の仕事だろう。
少なくとも、貴族家御令嬢達の親睦会が手を出すような相手じゃない。決して……。
『ソロリティ』が関わる事件は、暴力が絡まない頭脳戦、情報戦だけだ。
左腕を失った、ティーテリーザちゃんの専属メイドであるアルシャちゃんのことは、決して忘れない。
……今、アルシャちゃんは他の令嬢達のお付きメイドと共に、別室でスイーツやジュースを堪能している。
さすがに、美味しいものを食べながら歓談するお嬢様の後ろでずっと立っているという拷問のようなことをするのは忍びがたく、各令嬢達の護衛やお付きメイド達は、別室で待機しているのだ。
平民どころか、貴族であっても食べられないような地球産のスイーツが食べられるため、『ソロリティ』のお茶会に同行する護衛やメイドの座は、どこの貴族家でも奪い合いになるとか……。
なので、護衛やメイドには、同僚へのお土産用のお菓子を渡している。
いや、彼ら、彼女らにも、立場というものがあるだろうからね……。
いや、そんなことはどうでもいい!
「却下! 却下ああぁ〜〜!!」
* *
とにかく話を聞いてくれ、と言われたため、一応、聞いてみた。
すると……。
「大袈裟に言いすぎ!!」
「すみませんでしたわ……」
そう。
人身売買組織、とか言っていたのは、孤児の引取先斡旋のことだった。
……但し、かなり悪質なヤツね。
孤児院に入っている子供達ではなく、河原や廃屋に住み着いているタイプの連中。
そういった子供達の足元を見て、本人には銅貨1枚も渡さずに仕事先に引き渡す。紹介料として、先方からお金を貰って。
その分は、後で給金から引かれるとか。利子として、かなり膨れあがった金額を……。
そんな怪しい連中を介さずに直接雇えばいいじゃん、と思うのだけど、そう聞いたところ、その場合はもし官憲に摘発されたらマズいのだとか……。
かなりの薄給かつ酷い労働条件なのだろうな、この世界ですら雇用主が摘発されるくらいの……。
なので、誘拐したわけではなく、ちゃんと仲介業者を介して正規に雇っているという契約書類が必要なんだとか……。
給金から引かれる分は、支度金として仲介料と一緒に仲介業者に前払いした分だ、とか言って、言い逃れるためらしい。
勿論、仲介業者はそれを承知で、業者名をコロコロ変えるし、書類には社名だけで、経営者の個人名は書かないか、書いても偽名だから問題ない、とか……。
「子飼いのチンピラとかはいるかもしれないけれど、一応はすぐに暴力に訴えるというタイプじゃなさそうだよね……。
でも、小悪党ならいいけれど、バックに本格的な裏の連中が付いている可能性も……。
やっぱり、危険が大きすぎるよねぇ……」
大切な娘さんを預かっているんだ、おかしなことには巻き込めない。
だから、この件には関わるべきじゃない。
なので……。
「やっちゃおう!」
「え……」
私が『却下!』と言おうとした瞬間、サビーネちゃんが、口を出してきた。
オイオイ……。




