465 色々と…… 2
「オーバースペック、オーバーキルだよっ!
普通に、意中の人にモーション掛けるか、婚約の打診をすればいいんじゃないの?
それか、『婚約相手の募集開始!』って情報を流せば……」
「う~ん、それなんだけどね……。
上姉様って、かなりシャイなんだよね。
敵対者や何とも思っていない相手には強いけど、好きな人には弱いのよ」
「内弁慶の、逆バージョンかいっ!
……あ。ということは……」
「うん。お化粧の力で自信を付けさせて、好きな相手にも強気で積極的に行けるようにできないかな、と……」
あ〜、やっぱり……。
どうしようかなぁ……。
サビーネちゃんがこんな頼み事をしてくるなんて、滅多にないことだしなぁ。
それも、自分のことじゃなく、大好きなお姉さんのことだしなぁ……。
サビーネちゃん、普段はちい姉様とルーヘン君と一緒に『雑貨屋ミツハ』の3階でたむろしているけれど、上姉様やキラキラ王太子様とも仲良しなんだよね。
私に関する秘密の漏洩を防ぐため、うちには連れて来ないけど……。
あのふたりは、私の色々を知ればそれを国のために利用しようとするだろうからね。
いや、それは悪いことではなく、国のためを考えれば、王族としての義務だろう。
サビーネちゃん、ちい姉様、ルーヘン君の3人がおかしいんだよ、王族としては……。
あ、以前、サビーネちゃんが『兄様は、私には逆らえない』とか言ってたな、そういえば……。
そして多分、王様や宰相様も、サビーネちゃんには逆らえない。
この国の最高権力者だな、サビーネちゃん……。
……いやいや、とりあえず、それは置いといて……。
「う~ん、上姉様は良い人みたいだし、早く婚約してくれないと、ちい姉様が婚約しづらいよねぇ。
……ここは、王様に貸しを作っておくべきかなぁ……。
よし、承認!」
「ありがとう!!」
うむうむ、大喜びだな、サビーネちゃん。
やっぱり、お姉さんが大好きなんだなぁ……。
「……でも、ミツハ姉様、本当にそれでいいの?」
「え、何が?」
「上姉様の想い人、ボーゼス子爵なんだよ?」
「うん、さっきの説明に該当するの、アレクシス様しかいないよね。
それに、上姉様の想い人がアレクシス様だっていうのは、以前から知ってたし……。
アレクシス様は子爵だけど侯爵家の長男だし、大聖女様のお兄さんだし、王都絶対防衛戦でアイブリンガー侯爵様と私を護って勝利の礎となった英雄だし、新たな貴族家の開祖だから、家格的にも名声的にも、問題ないよね?
多分、そのうち我が国初の艦隊司令官あたりになるだろうし……」
「いや、そうじゃなくて……、あ、うん、何でもない……」
何だろう? 何か、サビーネちゃんが言い淀んで、喋るのをやめたけど……。
まあ、大切なお姉さんのことなんだ、色々と心配するのも無理はないか。
サビーネちゃんも、年相応のところもあるんだなぁ……。
* *
「……どうぞ、こちらへ……」
今日は、例の美容部員のお姉さんの、休みの日。
そう、再びあのお姉さんに仕事を依頼して、ホテルに来てもらったのだ。
……前回とは、違うホテル。
今回はみっちゃんちへ転移せず、ホテルの部屋でそのまま仕事をしてもらうので、前回と部屋の内装が違う、などと言われないように、別のところにしたのだ。
まあ、前回は特別室だったから、と言って誤魔化すことはできるけど、じゃあ今回は何故特別室じゃないのか、とか、余計な疑問を抱かせたくないからね。
前回の『ソサエティー』のメンバーより、今回の上姉様の方が、身分が高そうだからねぇ。
今回はみっちゃんちを使うわけにはいかないから、いい場所がないんだよ……。
それに、今回は時間がかかるしね。
そういうわけで、このホテルで一番高い部屋へ、御案内。
今回は、目隠しなし。
そして部屋の中には、3人が待っていた。
サビーネちゃん。上姉様。……そして、上姉様付きの侍女。
上姉様だけでなく、その身の回りの世話を手伝う侍女に化粧のやり方を仕込まねば、話にならない。
だから、私の通訳で、今日はふたりに化粧のやり方をじっくりと教え込むのである。
上姉様と侍女のふたりは、『雑貨屋ミツハ』のドアのひとつの前で目隠しをして、手を引いて室内に入り、そのままここへ転移した。
なので、ふたりはここが『雑貨屋ミツハ』の部屋の中だと思っている。
目隠しの理由は、防犯装置の解除の仕方を見られたくないから、ということにしてある。
王女殿下を信用していないのか、とかいう文句は出ない。……一応、救国の英雄だからね、私。
美容部員のお姉さんは、前回と同じく両肩に掛けた重そうなショルダーバッグをテーブルの上に置き、初対面である上姉様の顔をじっくりと眺めている。
今回は時間があるから、事前の顔合わせはしていない。
そして……。
「典型的な貴族顔の女性、キタ~!!」
あ……、うん……。
あ、上姉様の年齢を教えなきゃ!
絶対、20代後半だと思っているだろうから……。
「可愛い系は、ちい姉様……この子を、3~4歳大きくしたような次女さん……の担当なので、上姉様……この人は、美人系でお願いしたいかな、と……。
それと、人種の違いで私達には年齢が上に見えますけど、実年齢は18歳ですからね」
どう見ても、異国の貴族か王族。
そうとしか思えない高貴な顔立ち、放たれるオーラ、そして高価そうなドレスに装飾品。
化粧は、本人の容姿や雰囲気に合わせなきゃならないけれど、衣服やアクセサリーにも合ってなきゃならない。
本当は、衣服やアクセサリーを容姿や雰囲気に合わせるのだけど、現代地球のものを身に着けることを想定して化粧されると困るので、敢えて向こうの世界のドレスとアクセサリーを着けてきてもらったのだ。
まあ、美容部員のお姉さんは、前回のシーレバート伯爵令嬢カーレアちゃんとそのアシスト部隊のみんなを見ているから、そのあたりのことはある程度把握してくれているだろうけどね。
……上姉様の実年齢には、ちょっと驚いていたみたいだけど……。
* *
あっという間に過ぎ去った、数時間……。
美容部員のお姉さんの試技……上姉様に軽くお化粧してみせた……を見た侍女さんが大興奮して、その技術を会得するためであれば悪魔に魂を売っても構わない、とでも考えていそうな顔で目をギラつかせ、質問を早く翻訳して伝えろと、私に掴み掛からんばかりの態度で要求してきたのだ。
……私、子爵サマなんだけど……。
あ、王女様付きの侍女は、貴族家の娘ですか、伯爵家ですか、そうですか……。
そして侍女さんは、『雷の姫巫女』のネームバリューより、家格……実家の爵位の上下を優先されますか、そうですか……。
でも、あなた『爵位貴族の娘であるだけの、ただの無爵の少女』。私、『爵位貴族本人』だよ?
そんなのどうでもいいから、さっさと通訳して質問の答えを聞け?
はいはい……。
『はい』は一度でいい?
うるさいわっ!




