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461 終 焉 3

「さて、ところで……」

 ミレイシャちゃんが、キイディスから視線を外して、今はふたりとなった取り巻きの片方、エンルードへと顔を向けた。


「私に関するデマを撒き散らした主犯はキイディス様ですけど、キイディス様にそうするように仕向けた、黒幕がおられますよね?

 キイディス様には、私を貶めねばならない理由がございません。

 さすがに、『孤立して困っているところに声を掛けて』などという、成功確率がとてつもなく低いお馬鹿なことを考えて、少し調べればすぐに犯人が分かるような愚かなことを実行する者はいるはずがありませんからね。自分の頭の中で妄想するだけであればともかく……」


 ミレイシャちゃん、鬼か!!

 そんな言われ方をすれば、そうだとは言えなくなるじゃん……。


「……ということは、キイディス様にそうするようそそのかした者が存在する、ということに……。

 それも、対象をノーヴェス王国からの留学生である私にする理由がある者が……。

 キイディス様の周囲の方達の内、ノーヴェス王国に関わりのある方は……」


 いつの間にか、会場内は静まり返り、皆がミレイシャちゃんの推理劇というか断罪劇というか、その語りに耳を澄ませている。

 娯楽が少ないこの世界。

 そこで、美貌の少女から語られる、陰謀に関する推理劇。


 もう、ミレイシャちゃんが語る言葉は、ただの推理ではなく事実(・・)として受け取られかねないぞ。

 それも全て、ミレイシャちゃんの自信たっぷりの態度と、たくみな話術のおかげだ。

 ……ミレイシャちゃん、恐ろしい子!!


「確か、あなたには数年前に我が国、ノーヴェス王国に留学なさいました姉君がおられますよね、……シュトルベルク男爵家の御子息である、エンルード・ド・シュトルベルク様?」

「う……」

 ミレイシャちゃん、目標ターゲットを黒幕に切り替えたあぁ!


「シュトルベルク男爵家の娘……?

 数年前……、ノーヴェス王国への留学……、って、ああっ! あの女のことかっ!」

「あ……」

「「「ああ……」」」

 次々と漏れ聞こえる、男性達の声。

 どうやら、当時のことを知っている者が何人かいたようだ。


 確かに、このパーティーはこの侯爵家の令嬢の誕生パーティーなので、女性の招待客は同年齢から上下数歳の範囲の者が中心だけど、男性の招待客は、もう少し上の年齢……婚約者として望ましい範囲……までとなっている。

 つまりそれは、エンルードの姉と同年代の者が含まれており、姉の知人や当時のことを知っている者がいてもおかしくはない、ということだ。


 そしてその話は、それらの者達の家族も知っているだろう。

 誰しも、そんな女性との婚約話など受けたくないだろうし、自分の兄や弟の婚約者にも、姉や妹の友人にもなってほしくはないだろうから、わざわざそんな話を触れて廻ることはなくとも、自分の家族には伝えているに決まってるよね、要注意人物として……。


「そして、私がやったということにされました数々のエピソード……。

 それらは全て、あなたのお姉様が留学先であるノーヴェス王国、つまり私の母国においてなさいましたことですわよね?

 なのに、なぜ何の関係もない私の名でそれらのお話をお広めになりましたの?

 あれは全て数年前の自分の姉の話であって、私とは何の関係もないと、今、ここで皆さんに訂正の説明をしてくださいまし。

 ……どうしてわざわざ御自分の姉の不祥事を広めようとされたのかは分かりませんが、それは私とは関わりのないことですので、その理由は聞こうとは思いませんが……。

 まあ、御実家の名を落とし、兄弟姉妹の婚約の障害になるであろう話を自らお広めになったということは、さぞかし御家族や一族の方々を憎み、足を引っ張ろうという強い思いを抱かれているのでしょうけれど……」


「なっ……」

 蒼白になり、返す言葉もなく口籠もる、エンルード。

 勿論、本人にはそんな気は全くなく、ただ姉が受けた仕打ちへの仕返しを、というだけの理由で、当時の姉と同じ立場であるノーヴェス王国からの留学生に対して、悪意をぶつけたに過ぎないのだろう。


 他者にとってはキツい令嬢でも、弟にとっては優しくて素敵なお姉ちゃん、というのは、別に不思議でも何でもない。なので、世間の評判は悪くても、弟には慕われている、ということもあるだろう。

 そして、馬鹿な弟が、姉のために復讐を、というような短絡的な行動に出ることも……。


 それをミレイシャちゃんは、わざわざ家庭内に不和の種を撒くような設定(・・)にして、大勢の貴族達の前で公言した。

 ……鬼やな……。


 エンルードは、言い返すことができずに、蒼白になって、黙り込んでいる。

 まぁ、自分の姉のことを知っている者、そしてその留学のことを知っている者が何人かいるらしきこの場で、身内である自分がいくら姉を擁護しようとしても、意味がないだろう。


 本当に姉のことを、そして家名のことを考えるなら、何もせず、そっとしておくべきだったのだ。

 下手に姉の昔の所業が思い出されたり、こうして昔のことを知らなかった人達にまで再度噂が広まることになるような危険を冒すことなく……。


 まあ、ミレイシャちゃんがお姉さんのことを持ち出したり、『自分に関するデマ、全部アンタの姉のことじゃん!』とか言い出さなければ、こんなことにはならなかったのだけどね。

 エンルードも、まさかこんなことになるなんて、思ってもいなかっただろうし……。


 でも、デマを撒き散らしてもいいのは、自分もデマを撒き散らされる覚悟がある者だけだ!

 ……って、いくら覚悟があっても、デマを撒き散らしちゃ駄目か。

 それに、ミレイシャちゃんが喋ったのは本当のことであって、デマじゃないし……。


 日本じゃ、名誉毀損は事実であろうが事実でなかろうが罪になるけれど、ここじゃあ、本当のことであれば、罪にはならないんだよねぇ。ただの告発、糾弾に過ぎないから。

 いや、勿論、だからといって貴族や金持ちのスキャンダルを広めたりすれば、非公式な報復(・・・・・・)が行われるから、余程の覚悟がある場合しかやらないのだけどね、みんな……。


 でも、今回はその『余程のこと』だし、報復を受ける確率は、とても低いと思われるんだよね。

 本人や実家が報復どころじゃなくなるだろうし、多分それが許されるような状況じゃなくなるから、安心だ。


 詰んだ様子の、キイディスとエンルード。

 いくら唆されたとはいえ、自分の意思で無関係の少女に悪質なデマ攻撃を行ったわけだから、キイディスにも情状酌量の余地はないよね。


 そして、会場の皆さんも、そのふたりも、そろそろ気付き始めたみたいだ。

 このパーティー会場に、大勢の『ソサエティー』のメンバー達がいることに……。

 事情を知っている者は、『ソサエティー』がミレイシャちゃんの味方だと知っている。


 事情を知らなかった者も、メンバー達がそれとなくミレイシャちゃんをキイディス達から護る位置取りをしていることや、『ソサエティー』のほぼ全員がいるらしきこと、そして明らかに場違いな3人の男達が招かれていることから、概ね察してくれている模様……。


『ソサエティー』が味方に付いているという時点で、ミレイシャちゃんを敵に回そうとする貴族は、まず、いないだろう。

 美味しいお酒や食べ物が好きだとか、家族にヤマノ産の化粧品やシャンプー、リンス、スイーツ、アクセサリー等を必要とする女性がいるとか、『ソサエティー』のメンバー達と年齢が近い息女や、まだ婚約者がいない子息がいるとかいう者は、特に……。

 そして、今日ここに来ている年配の貴族達は、そういう息女や子息達の付き添いである、両親達だものねぇ……。



先週、拙作『ポーション頼みで生き延びます!』書籍11巻が刊行されました。

よろしくお願いいたしますううぅ〜〜っっ!!(^^)/

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― 新着の感想 ―
凄い、オーバーキル。 相手側が爆発しないか、これ。してもどうしようもないけど。
 姉に勝てる弟など存在しない法則
崖の上で探偵が犯人を追い詰めるシーン、気持ちいいよね…
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