460 終 焉 2
パーティー会場には、未成年(15歳未満)から20歳前後くらいまでの若者達と、その半分程度の人数の大人達がいる。
今日のパーティーは、侯爵家のお嬢様の誕生パーティー……という名目の、婚活の一環……なので、そのあたりの年齢層の者が多いのは、当たり前だ。
あ、ここでは15歳で成人だけど、私が言うところの『大人』というのは、もっとずっと年上の、……今日来てる子女の付き添いである、御両親とか祖父母とかのことね。
このパーティーの主役は勿論ここのお嬢様だけど、招かれた子女達も、便乗してそれぞれ自分の婚活に努めるのだとか……。
まあ、せっかく大勢の貴族の若者が集まるのだから、当然だよね。
そして年齢の低い者には親が付き添っているから、別に若者しかいないということはない。
大人ぶって、子供だけで護衛を連れてやってきた者も多いので、大人の数は子供達よりは少ないようだ。
護衛達は、馬車で待機している。誕生パーティーは参加人数が多いから、待機室に入りきらないからだとか……。
もっと参加人数が少ない、各家の当主だけが参加するパーティーだと、馬車には御者だけが残って、護衛は待機室で、という場合が多いらしいけどね。
『ソサエティー』のメンバー達は、私と同じく、目立たないように各個に会場へと紛れ込んでいる。
一応、俯き加減になったり、扇子で口元を隠したり、他の者の陰に隠れたりして目立たないようにしているけれど、そんなの、すぐにバレる。
でも、その前に皆の注目を集める事件が起きるので、安心だ。
……よし、来た!!
* *
「……あら、クルバリッヒ伯爵家のキイディス様ではございませんか」
「え?」
さっきから、キイディスが自分から女性に話し掛けても、皆、一応相手はしてくれるものの、簡単な挨拶程度で、会話が進む前に、すぐに立ち去られてしまう。
……明らかに、避けられているか、格下と看做されて適当にあしらわれている。
さすがに、無視するというような無礼な真似をする者はいないけれど、こういう場でそのようなことをする者は、そもそも最初から招かれていないのだろう。
何しろこのパーティーの主催者は侯爵家であり、何人かの参加者はここでの出会いが交際に繋がる可能性があるのだから、お家の面子に懸けて、おかしな者を紛れ込ませるわけにはいかないだろうから……。
……但し、何らかの理由があって故意に招く場合は、その限りじゃない。
勿論そういう異物には、皆さん、なるべく関わらないようにするけどね。
なので、女性の方から話し掛けてもらえるというのは、今のキイディスにとっては、とてもありがたいはずだ。
……そのはずなんだよねぇ。
話し掛けてきた相手が、この人物でさえなければ……。
「……ミ、ミレイシャ……?」
驚愕し、キイディスが思わずそう言葉を漏らした。
いや、他国からの留学生が上級貴族の御令嬢の誕生パーティーに招かれるのは、別に何の不思議もないよね?
「あら? 初めて言葉を交わす女性に対して、許可もなく名前を呼び捨てにするなど、この国では非礼に当たりませんの?」
そう言ってミレイシャちゃんが周りの者達に目を向けると、皆、ふるふると首を横に振っている。
そりゃ、当たり前だ。ひとりの馬鹿のために、この国の貴族全員が無礼であるなどと他国の貴族に誤解されちゃあ大変だもんね。
「ああ、やはり、無礼なのはこの方だけでしたか。
他国からの留学生である私を貶めるために悪質なデマを撒き散らし、それがバレて面子も信用も失われました、クルバリッヒ伯爵家三男、キイディス様だけ、と……」
ざわっ……
ミレイシャちゃんの発言に、ざわつく会場内。
令嬢達の多くは、既にその噂を知っていただろうけど、皆、今初めて耳にしたかのように反応している。
……アレである。『役者やのぅ……』というヤツ……。
令息達は令嬢達よりは噂を知らない者が多く、そして大人達はそもそもミレイシャちゃんに関する噂さえ知らない者が大半だから、驚きに目を瞠っている。
さすがに、他国の貴族家息女に対する根拠のない誹謗中傷を大人達に聞かせるわけにはいかなかったのか、両親を含め、大人達にミレイシャちゃんやキイディスの件について話した者はごく一部に過ぎなかったようだ。そしてその者達は、その場で叱責されてデマの拡散はやめたみたいなんだよね、うちのメンバー達による聞き取り調査によると……。
なので、事前にこれらの噂話を知っていた大人は、ごく一部なのだ。
自国の貴族家令息が他家の、それも他国の貴族家の令嬢に対してそのような恥知らずな行為を行ったということに対する、信じられない、という驚き。
そして、他国の貴族家を、それもその令嬢の家だけでなく、その国の貴族全てを、いや、王族さえも激怒させかねないという危険に対する、動揺。
更に、今後の互いの国への留学生受け入れ条約の存続に関わる大問題であり、それが他の国家間の交流にも悪影響を及ぼす可能性に思い至り、蒼褪める者も……。
自分の人生を懸けて、そして将来の両国の交流のためにと、わざわざこの国に留学してきた異国の少女に対する、あまりにも無礼な行い。
それが、『子供達の間のみでの噂話』から、今、大人達の耳に入った。上級貴族を含む、大勢の爵位貴族達の耳に……。
そして、ただの噂話ではなく、当事者である被害者が加害者に対して、大勢の貴族達の前でハッキリと口にしたのであるから、もはやうやむやにすることはできないだろう。
「……な、何を、根も葉もないことを……」
「あら、あなた達が私に関するデマを触れて廻っておられましたことは、大勢の方が証言してくださいましたのよ? そして今、ここにも証言してくださいます方々がおられますわよ。
証言が必要ですの? ならば、皆さんにお願いいたしますけど……」
「ぐっ……」
周りを見回すキイディスの目には、自分達が直接話した少女達の姿が映ったはずだ。そしてその表情から、彼女達が明らかにミレイシャちゃん側に味方するつもりであることが読み取れたはず。
「それに、言葉を交わしたのは今が初めてですのに、いきなりの名前の呼び捨て。交流もない者に対する捏造された醜聞の吹聴。
……これって、明らかにあなたの方が悪いということですわよね?
それも、ただの子供の戯れで済むようなことではございませんわよね。
大勢の証人がおられますから、真偽を争うお積もりでしたら、いつでも受けて立ちますわよ?」
あ~、正式な取り調べとなると、あの男には勝ち目がないよね。
他国との関係に関わることだから、多分王宮が出てくるだろう。
そうなると、ただでは済まなくなっちゃうよねぇ。
だから、ここで否定することはできないだろうなぁ……。
「ノーヴェス王国、レリスデル伯爵家の娘である私を虚偽の悪評をバラ撒くことにより貶めるということは、レリスデル伯爵家に対する卑劣な手段による攻撃であり、宣戦布告も同じ。
また、自国の貴族家に対する攻撃行為は、ノーヴェス王国に対する宣戦布告でもありますわね。
……これは、直ちに本国へ状況を知らせねばなりませんわね」
大人達の顔色が悪くなったみたいだなぁ。
でも、今ここで介入して自分も巻き込まれたら、大変なことになるものね。自分も、当事者になっちゃうから。
……そりゃ、迂闊に口を挟めないよねぇ……。
それよりは、完全にミレイシャちゃんが優勢なこの状況を黙って見守り、ミレイシャちゃんが相手を叩き潰してスッキリし、それで満足してくれるのを期待する方がずっとマシ、と考えるよね。
留学生の少女も、わざわざ事を荒立てて両国間の関係を悪化させたいとは思っていないはず、ということが充分期待できるのだから……。
だって、この国に留学することを選んだ少女なのだからね、ミレイシャちゃんは……。
「なっ、何を……」
キイディスは、相手側の本拠地なのにも拘らずのミレイシャちゃんの超強気な態度に驚き、すごく焦っているみたいだけど、ミレイシャちゃんは決して、言いたいことも言えない、気弱でオドオドするような令嬢じゃない。
母国から離れ、僅かな護衛と共に他国に留学するような少女なんだよ。普通の貴族家令嬢よりも強い心を持っていても、何の不思議もない。
……というか、初めて雑貨屋ミツハを訪れた時、ミレイシャちゃんはかなりキツい話し方をしていた。
私が自分の正体……子爵家令嬢とはいっても、『子爵の娘』ではなく、『爵位貴族である、子爵様本人である』ということ……を明かした後は、立場が逆転したけれど……。
普段おとなしそうに振る舞っているのは、ミレイシャちゃんには好き好んで揉め事を起こしたりする気がないことと、『温厚で優しく、素敵な他国からの留学生』を演じているからだ。
友人を増やし、みんなから好人物だと思われるように……。
しかし今は、それよりも『気弱で、言いなりになる女』などと思われる方が今後のためにはデメリットが大きいため、貴族の娘としての毅然たる態度、敵からの攻撃をはね返し、叩き潰す強さを示すべきだということにしたのだ。
……サビーネちゃんからの、アドバイスに従って……。
既にサビーネちゃんは、『ソサエティー』のメンバーだけでなく、ミレイシャちゃんとその護衛達からも絶大な信頼を抱かれているんだよね。
少なくとも、このような重要な判断を任せるくらいには……。
そして、更に……。
今のミレイシャちゃんは、美少女なのである。
……いや、元々、貴族の少女らしい凜々しく引き締まった外見で、美人ではあったよ。
でも、このような重要な戦いの場に出陣するミレイシャちゃんを、『ソサエティー』のみんなが丸腰で送り出すはずがないだろう。
……完全武装。
皆が力を合わせて仕上げた、完璧な化粧。
私が貸し出した、地球産の人造宝石によるアクセサリー。
今、ミレイシャちゃんは『ソサエティー』のメンバー達を凌駕する美貌と、この世界においてはとんでもなく高価だと思われるアクセサリーによって、どこかの国の王女殿下だと言われても誰も疑問に思わない姿となっている。
……いや、王女殿下どころか、天使か女神だと言われても、違和感がない。
ミレイシャちゃんから声を掛けられた時に、あの男が驚愕し、戸惑ったような様子であったこと。
そしてその後も、碌に反論できていないことの大きな理由が、これなんだよねぇ。
天使や女神に詰問されて、平常心で反論できる者は、そう多くはないよね……。
お知らせです!
拙作、『ポーション頼みで生き延びます!』書籍11巻、4月2日に刊行です!!(^^)/
続々と王都に集結する、『奴ら』。
そして、カオル達『KKR』の活動が始まる……。
よろしくお願いいたします!(^^)/




