457 迎 撃 4
……吐いた。
全部、完全に……。
いや、一部謎の部分は残るけれど、それは副次的な部分だ。
事件の概略は、概ね解明された。
あのキイディスとかいう伯爵家の子息は、……まぁ、言うならば、典型的な馬鹿貴族。
自分は偉いと思い込み、自分より格下の者はどう扱っても構わないという、勘違い男。
そう、貴族家当主とかにしちゃ駄目なヤツだ。
……まぁ、三男だし、能力があるわけでもないから、家督を継いで当主になれる可能性は、ほぼゼロだろうけどね。
そして問題なのが、取り巻きのひとりである、エンルードという男。
どうやら、ソイツがキイディスに色々なことを吹き込んだらしいのだ。
ソイツがキイディスに余計なことを吹き込まなければ、こんな事件は起こらなかったと思われる。
『この国には家族も親族も友人もいない、他国の娘。味方する者なんていませんよ』
『目障りな余所者の女に関するスキャンダラスな噂を流せば、面白がって聞く女性達と接点ができますよ』
『そしてその後、孤立し、弱った女に、少し優しい言葉を掛けてやれば……』
男爵家の四男で、まず、爵位を継ぐ可能性はなさそうな、ごく普通の貴族家の子息。
なぜソイツがそんなことをしたのかはこのふたりも知らないらしいけれど、キイディスはその提案に乗って、色々とやらかしたらしい。
その結果は、まあ、皆が知っているとおりだ。
キイディスを嵌めるために、わざと唆した?
それにしては、このふたりのように、自分に火の粉がかかる前にさっさと逃げ出していないのはおかしい。このままでは、自分も巻き込まれるというのに……。
それに、格上の貴族家の者を陥れる理由がない。
取り巻きでいるのが嫌なら、距離を取るか、完全に離れればいい。
いくら実家の立場があるとはいっても、このような事態に巻き込まれるよりはマシだろう。
何しろ、キイディスは所詮、三男なのである。次期当主となる、長子とは違う。
「どう思う? サビーネちゃん……」
「う~ん……、情報不足だよ……」
「いくら優れたコンピューターでも、入力データが足りなければ、答えは出せないか……」
私の呟きに対して、サビーネちゃんからの疑問の言葉がない。
……ということは、サビーネちゃんは『コンピューター』とか『入力データ』とかの意味が分かってる、ってことだ。
さすサビ!
いや、ここは、『サビーネちゃん、恐ろしい子!!』だ。
日本留学の時に、色々と知識を得たか……。
パソコンの使い方は教えていないから、ネットで色々と調べて、ということはできなかったはずなんだけど……。
「聞きたいことは、全てお聞きしました。あとは、楽しく歓談いたしましょう。
あ、私は別におふたりには何ら思うところはありませんので、御心配なく。
ただ、情報が欲しかっただけですので……」
そう言って、にっこりと微笑んであげると、ふたりは心底ホッとしたかのような顔をしていた。
うん、嘘じゃないよ。このふたりには、何もするつもりはないよ、本当に。
……私は、ね。
ミレイシャちゃんと、ここ数日で急激に増えたらしいそのお友達、そして『ソサエティー』のみんながどう思い、どうするかは、私とは無関係だからね。
ま、今夜は、自分達は助かったと思って、『ソサエティー』の副会長にして『レフィリア貿易』の主要商品の仕入れ先である、ヤマノ領領主、ミツハ・フォン・ヤマノ女子爵とサビーネちゃんの話し相手を務めるがよい。
ふはははははは!
ふたりは安心したような顔をしているけれど、私とサビーネちゃんの笑顔の理由を察しているらしき領主様は、苦笑している。
でも、領主様は私の、……いや、ヤマノ領産のお酒と珍味の味方なので、何も言わずに、ホスト役に専念してくれるのであった……。
* *
あの後、程々の時間に、解散。
あのふたりは宿に戻り、私とサビーネちゃんは、日本の山野家へ転移した。
いや、実家のベッドが、一番大きくてクッションも布団もいいんだよ。
私のベッドはデカいから……何度も落ちるから、買い換えの時に私のベッドだけ大きいのになった……、サビーネちゃんとコレットちゃんも一緒に寝られるのだ。
今回は、コレットちゃんはいないけどね。
領主様は『泊まっていきなさい』と言ってくださったけど、あそこに泊めてもらうと、ベッドの固さもさることながら、お手洗いががが!!
メイドさん達の目もあるし、トイレのために日本へ、というのは見つかるリスクがあるからねぇ。
私達には、あの世界において、他家でトイレを使うのはハードルが高すぎるのだ……。
時差のせいで、日本じゃ就寝時間じゃないけれど、カーテンを閉めて寝る。
今は、新大陸のヴァネル王国の時間帯を基準として生活しているので、生活リズムはそれに合わせているのだ。
旧大陸のゼグレイウス王国を中心として行動している時には、そっちの時間帯を基準にしている。
切り替える時には時差ボケとかがあるかな、と思っていたけれど、大して気にならなかった。
……これも、自動治癒能力のおかげかな?
* *
山野家で朝食を摂った後、サビーネちゃんと一緒に、新大陸の物産店へ転移。
ここには、1階の店舗部分以外には、何もない。2階部分は、ただの転移ステーションだ。
……あ、この前、大きめのテーブルと椅子は入れたけどね。
これからの行動予定は、昨夜、実家でサビーネちゃんと相談済み。
なので、そのまますぐにお出掛けだ。
行き先は、ミッチェル侯爵家。みっちゃん2号のおうちだ。
「みっちゃん、いる~?」
「……本当にもう、あなたは……」
顔を顰め、額にシワを寄せて、みっちゃん登場。
いや、勿論、直接私の声が届いたわけではなく、メイドさんが取り次いでくれたのだけど……。
うちの日本邸じゃないんだ、玄関で呼んだくらいじゃ、みっちゃんの部屋まで声が届かないよ。
そして、応接の間ではなく、みっちゃんの自室に通された。
紅茶とお菓子を持ってきてくれたメイドさんが下がった後、すぐに本題に……。
「エンルードっていう、キイディスの取り巻きのひとりについて、詳しく調べてほしいの。
今回のミレイシャちゃんの件、主犯はキイディスという伯爵家の三男だけど、どうやらソイツを焚き付けた黒幕っぽいの。
ミレイシャちゃんに聞いた限りでは、あの連中とは面識がないし恨まれるような心当たりもないってことだけど、物事には全て、理由があるはずだからね。
他国の貴族である私が、直接この国の貴族家について嗅ぎ回るのはマズいだろうし、相手も自国の貴族のことは話しづらいだろうから、そこはみっちゃん経由でお願いしたいの……」
「……分かりましたわ。
この件は、他国からの留学生であるミレイシャ様だけでなく、我が国の貴族家子女の名誉にも関わることですからね。その両国の者ではないミツハさんに表立った行動を取っていただくのは、確かにあまり良いことではありませんからね……」
あ、みっちゃん、今回は私のことを呼び捨てじゃなく、『さん』呼びだ。
今は、私のお友達としてではなく、この国の侯爵家令嬢として発言しているからかな?
……でも、まあ、『様』呼びじゃないということは、他の令嬢達よりは身近に思ってくれているということかな……。
拙作、『のうきん』のイラストを担当していただいております亜方逸樹先生の相棒である、茉森晶先生の小説連載が始まりました。
十数話までの短編の予定だそうです。是非、御一読を!(^^)/
『スーパー美人インフルエンサーなのに、冴えない俺の声にだけフニャるひよの先輩』
https://book1.adouzi.eu.org/n4555ke/
亜方先生の、キャラデザイラスト付きです。(^^)/




