表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
436/492

436 『ソロリティ』の危機 4

「「「「「うわああああぁ〜〜!!」」」」」


 どしゃっ、ガツン!


 空中数メートルの高さから落下した男達は、突然のことに受け身を取ることもできず、かなり手酷く地面に叩き付けられた。


「貴族の息女を襲撃した連中よ! 捕らえて縛り上げといて!

 何人かは死んでも構わないけど、尋問用に2~3人は残しといてね」

「……お、おう……」


 ここは、言わずと知れた、ウルフファングの本拠地ホームベースだ。

 時差も計算に入れて、この時間帯なら何人かはグラウンドでトレーニングしてるだろうと思ったよ。

 そして、思った通り、隊長さんを含め割と大勢がいた。

 そのグラウンドの上空数メートル……落ちてしばらくは動けないけど、死んだり大怪我をしたりはしない程度の、絶妙な高さ……にゴロツキ共を転移させたのだ。

 ……勿論、私はちゃんと地面に転移した。


 当然、ゴロツキ共の剣は向こう(・・・)に残しているけれど、普通に転移させた場合、隊員さん達がトレーニング中で武器を身に着けておらず、突然のことに即座に反応できなかった場合、ゴロツキ達が素手であっても隊員さん達が怪我をさせられる可能性がある。

 なので、ゴロツキ共の戦闘力を奪うために、数メートル落下させてダメージを与えたのだ。

 ……骨折くらい、この業界じゃあ重傷じゃないよね? 多分……。


 よし、転移!




 襲撃現場に戻って……。

 うん、数秒しか経っていないから、状況は全く変わらず。

「転移!」


「「「「「「……え?」」」」」」

 何が起こったか分からず、呆然としている炊き出しのメンバー達。


「ここは、ライナー子爵家の中庭よ! 私が戻ってくるまで、全員ここで待機!

 子爵御夫妻とアデレートちゃんには、後で私が説明するって言っといて!」

 口調が、平民の少し乱暴なものになっちゃったけど、今は時間が惜しいから、そんなの気にしない!


 ティーテリーザちゃんとラステナちゃんの自宅の場所は知らないし、この件のことは関係の薄い人達にはまだ知られたくない。

 そう考えると、安全で問題のない良い場所が、ここしか思い付かなかったんだよ……。

 ……よし、転移!


 現場に戻って……。

「病院に行くよ! 転移!」


 そう、腕を斬られた子を、現場に残しておいたのだ。

 斬り落とされた部分を連れて、何度もあちこち連れ回すのはマズいかと思って。

 切断されたパーツが転移のたびに何度も地面を転がると、土まみれになっちゃいそうな気がしたから……。


     *     *


「急患! 怪我人ですっ!!」

 勝手知ったる、ロンドンの大病院。

 3度目だ、手慣れたもんよ!


 飛んできた係の人に私の身分を伝えると、大急ぎで対処してくれた。

 勿論、手のパーツ3つも渡した。親指も飛んでいるので、斬撃は2回だけど、パーツは3つだ。

 腕を切断した怪我人なんか見慣れていると思うのに、何か、かなり退かれた。


 ……あ、さすがに、鋭利な刃物で2回も斬られて切断部がバラバラになってるケースは珍しいか。

 明らかに、人為的に斬られたとしか思えないもんね。

 それも、大型の工作機械を扱う工員さんとかならともかく、メイドさんっぽい服装だし……。

 まあ、院長さんや上層部の人達は事情を察してくれるだろうから、問題ないか。


 いつもの『担当部署』の人への連絡は、……せずに、放置してみよう。

 多分、病院側から連絡が行くだろう。

 それを確認するのもいいだろう。


 女の子には、ここは医療技術が進んだ遠国であること、通訳を連れてくるから、それまではここの人達のすることに任せて抵抗しないこと、と言い含めておいた。

 ショック状態なのか、ちょっと目の焦点が合っておらず、呆然とした状態だったけど……。

 危機が去ったと知って、気が抜けちゃったのかな。

 まぁ、あんなに頑張っていたんだ、無理もないか……。


 手術室に運び込まれる寸前、正気に戻ったのか、私に話し掛けようとしていたけれど、治療するからおとなしくしていろ、と命じたら、素直に黙った。

 うん、あの国で『雷の姫巫女(わたし)』の言うことに逆らえる貴族家の使用人はいないよ。

 そして、女の子が手術室に入っている間に、……転移!


「コレットちゃん、あの病院に怪我人を運んだから、通訳として付き添いをお願い!」

「らじゃー!」


 着替えやら暇潰し用の本やらを用意するのに少し時間が掛かるだろうから、いったん病院に戻るか……。

 転移!


     *     *


「姫巫女様、お嬢様は!!」

 手術室から出てきた少女が私を見ての第一声が、それだった。

 自分の腕のことなんか、全く気にしていないかのようだ。


「無事よ。みんな、馬車と一緒にアデレートちゃんのところ……、ライナー子爵邸に『渡り』で運んだから。賊も全員捕らえたよ。

 あなたが時間を稼いでくれたから、ギリギリ間に合ったの。

 あなたの勇気と忠義の心が、お嬢様と使用人仲間達を救ったのよ……」


 大嘘だ。

 この子の行動がなくても、みんなは助かってた。

 ……でも、この子には自分の行動が無駄なことだったとは思わせたくない。


 手術の時間は、そう長くはなかった。

 全身麻酔をかけた様子はない。

 そして何より、この子の左腕は、ひじと手首の中間くらいから先が、無い……。


 斬りとばされたパーツは、全部一緒に転移で持ってきた。手の平の前部分も、親指も、手の平の真ん中から肘の少し先の部分までも……。

 でも、処置が割とすぐに終わって、そしてこの子の腕がそのままだってことは、……再接着を断念したということだ。


 切断面の状況が良くなかったのか、それとも、3つに分断されていたのが悪かったのか……。

 確かに、切断された更に先も切断されていたら、再接着は難しいか……。


 この子が、ティーテリーザちゃんとラステナちゃんの、どちらの家の使用人かはまだ聞いていないけれど……、どちらの家の者だったとしても、ふたりとも、責任を感じちゃうだろうなぁ……。

 いや、事実、責任があるのだけど。


 ……そして、私も責任を感じている。

 私には事件を誘発させた直接の責任はないけれど、状況を甘く考えて、変に余裕ぶっていた。

 私なら、やりようはいくらでもあった。

 安全第一で、有無を言わせずしょぱなに転移させれば良かったんだ。ゴロツキ共か、炊き出し側かの、どちらかを……。


 それを、全員が私の思っている通りに判断して行動するだろうなどという、馬鹿な考えでのんびりと様子見なんかしていた上に、思いがけない急な状況の変化に驚いて、反応が遅れた。

 できれば転移を見せたくないなどという、人命に較べれば全然大したことのない理由で、安全確実な方法を選ばなかった。

 ……その結果が、これだ。

 将来ある少女の左腕を、失わせた。

 間抜けにも、程がある。


 そしてこの子は、自分の行動とその結果を後悔することなく、私の言葉に、心の底からの満足そうな笑みを浮かべている。


 コンチキショーがっ!

 ……泣くな!

 涙を流すんじゃない、私!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
その内ミツバの周りには傷持ちしかいなくなるじゃないかな 同じような事が3度有るって言うけど学習能力値を捨ててる主人公だからご都合が無ければもっと増えるよな 死者だって出るだろうな味方に
現実の医療技術では本当の腕のように動かせる義手の技術ってどのくらいまで発展していたんだっけかな…… テニスできるくらいにはなってたが……あっちの世界なら縫い物位できるレベルは欲しいものよねー
[一言] やぶであったか…… 腕の良い外科医なら径が違っても繋げるみたいだから切り口をきれいに切りなおせばいけると思う 最近身に染みて思ったけどやはり設備が揃っててあるていど腕のいい医者に診てもらわな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ