432 婚約破棄ざまぁ大作戦 6
あの後、ローレンツはロテリカちゃんのことは完全に諦めたらしい。
ま、当たり前か。あそこまではっきり言われちゃったらねぇ……。
元々跡取りというわけじゃなかったから、後継者から外されるとか、廃嫡だとかいうことにはならなかったらしいけど、当然、賠償金を払う側になって、親が立て替えてくれたお金を返済するために、実家の領地で働くことになったらしい。
領主の座を兄が継いだ後も、借金返済のために働くことになりそうだとか……。
借金を肩代わりしてくれる貴族家か商家にでも婿入りできればいいんだろうけど、これだけやらかしが広まっちゃあ、それも望み薄かもねぇ……。
ま、自業自得なんだから、仕方ないよね。
そして驚いたのは、あの浮気相手の女だ。
立ち回りの上手さ、引き際の見事さ、危機対処能力の高さを見込まれて、悪事に手を染めている系の下級貴族や商家から、いくつかの縁談が来ているとかで……。
何だよ、それええぇっっ!!
いや、うちのメンバーも、一目置いているみたいなんだよ、これが!
決してお友達にはなりたくないけれど、特殊な仕事を依頼する相手としては、そう悪くはないかも、って……。
結局、大したダメージを負うことなく、ある意味、名を売った、ってことらしいのだ。
……それでいいのかよっ!!
まぁ、確かに、男に『婚約破棄して、自分と結婚してくれ』と迫っただけで、別に犯罪を犯したわけでも、自分の手で直接冤罪をかけたわけでもないからなぁ……。
こりゃ、日本であっても罪には問えないか。
……何か、納得行かないけど!!
* *
今、ちょっと気になっていることがある。
旧大陸、……ゼグレイウス王国で私が立ち上げた貴族子女の親睦会、『ソロリティ』の方なんだけどね。
……出番がないんだよ……。
そう。ゼグレイウス王国の『ソロリティ』には、ヴァネル王国の『ソサエティー』とは違い、対外的な実績が全くないのだ。
新大陸の『ソサエティー』は、数々の輝かしい成果を収めている。
シーレバート伯爵令嬢、カーレアちゃんのアタック作戦支援とかの内輪の作戦だけでなく、ウェンナール男爵領救援作戦、女神からの宣託、幼年組の設立、演奏会での活躍、孤児院への支援、その他諸々の、国民全体に広く知れ渡るような活動成果を……。
しかし、この国の『ソロリティ』には、そのような活動実績が全くない。
仲良しグループの親睦会ということと、……あとは、化粧品による底上げがある程度である。
その化粧品にしても、こっちではコレットちゃんによる『日本の化粧技術の最高峰』という見本があったわけではなく、うちのメンバーによるアデレートちゃんを使った実技展示があっただけだ。
そして、美容部員さんによる超絶実技の披露があったわけでもない。
……なので、『ソサエティー』のみんな程の技術は習得できていないのだ。
メンバーみんなが尊敬されている新大陸の『ソサエティー』とは違い、ここの『ソロリティ』は、ただ第三王女殿下、大聖女様、そして姫巫女様の3人が名誉会員的な立場で参加していることと、有力貴族の息女達とお友達になれる、という程度の意味しかない。
そう。『「ソロリティ」のメンバーである』ということに価値があるだけであり、メンバーひとりひとりに価値があるわけではないのだ。
いや、雑貨屋ミツハで扱う地球の製品(非売品)……化粧品や化粧技術を含む……とか、お茶会でのスイーツとか、本人達にはそれなりのメリットがあるけれど、新大陸の『ソサエティー』のメンバー達のような、ひとりひとりが個人レベルでの無敵の金看板を背負っているというわけじゃないんだよねぇ……。
なので、『ソロリティ』のみんなは聖女呼ばわりされることもなく、英雄視されることもない、というわけだ。
おそらく、以前メイド達の演し物うんぬんの時に不満が出たのも、そのあたりが影響しているのだろう。
だから、みんな物足りなさを感じているし、今ひとつ、結束感が足りていない。
いや、それでも、派閥やらお家同士の関係やらでギスギスすることが多い貴族社会では、かなり仲良しで成功している部類ではあるんだ、『ソロリティ』は……。
でも、新大陸の『ソサエティー』と較べちゃうとなぁ……。
私目当ての男達に対する弾避けの役割を果たしてもらうためにも、そして『ソロリティ』の魅力化対策としても、何かテコ入れをしたいのだけど……。
「……何か、いい案はない?」
うん、案に詰まった時の、サビコレ頼みだ。
「……また、姉さまの無茶振りが……」
サビーネちゃんが、そんなことを言うけれど……。
「三人寄れば文殊の知恵、って言うじゃない!」
「二人は伴侶、三人は仲間割れ、とも言うよ?」
うう、サビーネちゃんが、反抗期だよ……。
「船頭多くして、船、山に上る、とか……」
「おお、コレットちゃんは、分かってくれてるねぇ!」
「「……え?」」
あれ? どうしてふたりとも不思議そうな顔をしているんだ?
「コレットちゃんは、みんなで考えた方がいい、って考えてるんだよね?」
「どうして、今のコレットのたとえからそういう結論になるのよ!」
え? サビーネちゃんこそ、何言ってるんだ?
「いや、だって、コレットちゃんが言ったたとえって、『大勢の指揮官が力を合わせれば、不可能なことも可能となる』って意味でしょ?」
「「違うよっっ!!」」
「どうしてにほんごのことわざなのに、姉様がそんな勘違いをしてるのよ!」
「私とサビーネちゃんが、ちゃんとお勉強して知ってるのに……」
え? えええ?
私、何か間違ってた?
* *
ぎゃあああ!
ふたりに、正しい意味を教えられた。
大恥かいちゃったよ……。
そうか、そういう意味だったのか、船頭のたとえ……。
「じゃあ、もしかして、『情けは人のためならず』って、困っている人に安易に情けをかけるのは、その人のためにならない、って意味じゃなかったりして……」
「「全然、違うよっっ!!」」
が〜〜ん!!
「ま、まぁ、それは置いといて……」
「誤魔化した!」
「誤魔化したよね……」
うるさいわっ!
「とにかく、『ソロリティ』の評判が上がるような、いい案を考えてよ!
……できれば、お金がかからず、あまり面倒ではなくて、そう酷いマッチポンプじゃないやつで」
「だから、それが無茶振りだって!」
サビーネちゃんからの苦情は、スルーだ。
「ミツハ、向こうの大陸では、『ソサエティー』のことは、どの件も全部、受け身だったよね?」
「え?」
コレットちゃんが、何やら思い付いたのか、そんなことを聞いてきた。
「どの件も全部、何かが起こったり、向こうから助けを求めてきたり……。
途中からはともかく、最初からミツハが何かを企んで、という始まり方をしたものはなかったんだよね?」
「……あ、うん、そう言われれば、そうかも……。
カーレアちゃんのアタック作戦支援も、ウェンナール男爵領救援作戦も、孤児院への支援、女神からの宣託、全部助けを求められた、って形だよね。
まぁ、ウェンナール男爵領救援作戦は、こっちから援助を申し出たけれど……」
確かに、コレットちゃんが言う通りだ。
「ミツハ、こういうのに、押し売りやマッチポンプは駄目だよ。
わざと仕組んだ功績とか、もしバレたら一発で信用をなくしちゃうよ?」
「た、確かに……」
う~ん、難しい……。
こりゃ、下手に手出しせず、機会がやって来るのを待つしかないか……。




