428 婚約破棄ざまぁ大作戦 2
あれから、いくつかの行動方針について皆の採決を取り、その後、行動開始。
ロリーザちゃんには、今回の件の被害者である、従姉妹のロテリカ・ド・ウォリスバルト子爵令嬢とそのお父さんに、私から、……いや、『ソサエティー』からの手紙を言付けた。
少しでも、ロテリカちゃんと御家族の心の安寧が図れれば、と思って……。
そして今、『ソサエティー』のメンバー達は、あちこちで工作を行っている。
……そんな面倒なことをしなくても、私達が調べた、ロテリカちゃんが無実であるという事実を公表すればいいだろう、って?
いやいや、そんなの、日本で週刊誌がデマ記事書いて大炎上、訴えられてから誌面に小さくお詫び記事を載せるのと同じで、被害は殆ど回復しないよ。
噂話というのは、ゴシップとかに面白おかしく尾ひれが付いて拡散されるものであって、訂正記事なんか、全然話題にもならず、広がらないよ。
だから、デマは消えず、被害者の名誉は回復されず、訴訟しても、雑誌社が払う数百万円の賠償金なんか、稼いだ雑誌の売り上げ金に較べれば大したことはない。
……やった者勝ちだ。
だから、情報の訂正をするなら、前回を上回るインパクトがある話題で、情報を完全に上書きしなきゃ駄目だ。
そして、加害者に対して権力を持つ者……本人の父親とか、寄親の貴族とか……に、このままだと自分達にとってマズいことになる、と思わせて、対応せざるを得ないように追い込むのだ。
……そう。つまり、『ざまぁ』でなきゃ駄目、というわけだよ。
『ざまぁ返し』には注意が必要だけど、ま、向こうは転生者ってわけじゃないだろうし、こちらには謀略家のみっちゃんが付いているから、大丈夫だよね。
「……誰が『謀略家』ですかっ! そして、『ざまぁ』とか『転生者』とか、何ですの、その意味不明の言葉は……」
「あ、声に出てた?」
とにかく、連中は、あまりにも雑だった。
自分の方が、実家の爵位が上。
男尊女卑の社会。
声が大きい方、先に話を広めた方、噂をバラ撒く人数が多い方が圧倒的に有利。
そして、真面目な者より、厚顔無恥な嘘吐きの方が得をする。
そんな社会だから、世の中を甘く見て、舐めているのだろう。
……ならば、立場を入れ替えてやろう。
ヤマノ一族の、そして我が『ソサエティー』の仲間達の、怒りを見よ!!
* *
とある伯爵家が開催した、パーティー。
その会場に、ロリーザの従姉妹であるロテリカ・ド・ウォリスバルト子爵令嬢を陥れて婚約破棄した、エルトフ伯爵家の三男ローレンツと、その浮気相手である伯爵家の次女が、ワイングラスを手に歓談していたのであるが……。
「……え?」
今、自分達の近くで話している少女達のグループから聞こえた会話の内容に、口を開けてポカンとした顔の、ローレンツ。
そしてその、聞こえた話というのが……。
「ロテリカが、あの『ソサエティー』の会員になっただと?」
ソサエティー。
それは、女神の加護と寵愛を受けし聖女達、と言われている、美しく聡明な少女達の集まりである。
とある侯爵家の令嬢が主宰し、王族であると噂されている、自らが爵位を持つ異国の少女が副会長として全面的な支援を行っているという、今、国中の少女達が入会を熱望している、選ばれし少女達の親睦組織。
……貴族からも平民からも圧倒的な支持と人気を誇り、そのメンバー達は婚約の申し込み書だけで毎日風呂が沸かせると言われている、あの、『ソサエティー』……。
元々、超狭き門であった上、今は新規入会者を受け付けていないと言われている。
「どっ、どうして……」
連れている新しい交際相手……浮気相手だった、伯爵家の次女……も、呆然としている。
おそらく、自分も入会を申し込んで、断られた口なのであろう。
そして、伯爵家の娘である自分が断られたというのに、悪評が流されている、子爵家の娘であるロテリカが受け入れられたということに、納得がいかないのであろうか……。
「……でも、不思議ですわね……」
「え? 何がですの?」
少女達の会話に、耳を澄ませるローレンツ達。
「だって、ロテリカ様との婚約を、人前で破棄したという、エルトフ伯爵家の三男。
ロテリカ様は素晴らしい方ですし、ロテリカ様と結婚すれば貴族でいられますのに……。
何でも、浮気して乗り換えた女性は、伯爵家の次女だとか……。
お兄様がおふたり、弟君と、お姉様もいらっしゃるとかで、爵位を継がれる可能性は、ほぼございませんわよね。
御本人も、三男ですから御実家の伯爵家をお継ぎになる可能性は低いですわよね、戦争でも起きて、お兄様達が皆さんお亡くなりにでもならない限り……」
「そっ、それはあまり褒められた話題ではありませんわよ!」
「あっ、失礼いたしました、つい……」
戦争が起きるだとか、他家の跡取りが亡くなるとかいうことは、いくら親しい者達との内輪話とはいえ、淑女が口にすべきことではなかった。
なので、他の少女に叱責され、素直に謝罪したようである。
「あら? でも、それはロテリカ様も同じなのではなくて? 確かロテリカ様にも、お兄様がおられるのでは……」
「はい、お兄様がひとりと、妹君がおふたり……。
しかし、浮気相手とは違い、ロテリカ様の継承順位は2番ですわ。
もし、お兄様の身に何かあれば……」
「ですから、他家の縁起の悪い話は駄目だと言ったでしょう!」
「あ、も、申し訳ありませんわ……」
再び叱責された、御令嬢。かなり反省しているようである。
「……それで、何事もなくお兄様が家を継がれましても、……ロテリカ様には男爵位が与えられると思いますの。
実は、ロテリカ様のおうちは子爵家ですけれど、男爵位もお持ちなのですわ。
何でも、お母様が爵位をお持ちだとかで……。
ロテリカ様の御実家、ウォリスバルト子爵領は、実は今現在運営されている広さのうちの5分の4であって、残りの5分の1は、隣接しているお母様の男爵領らしいのです。
これは私の想像ですけれど、おそらく、領地が隣り合っていて幼馴染みであった御両親が、熱烈な恋愛結婚をなされたのではないかと……。
ひとり娘であるお母様には婿取りをさせようとして猛反対された御家族の妨害を乗り越えての、大恋愛ですわ!」
「きゃあっ! 素敵ですわ、ロマンですわ!」
「何と羨ましい……」
「勝ち組ですわね……」
「「「女性として、人生の勝利者ですわ!!」」」
次第に声が大きくなる少女達の会話に、周りの者達が耳を澄ませていた。
これは、面白そうな話であるというだけではなく、他の貴族家の醜聞である。
どこかの貴族家が勢力を落とすとなれば、派閥とか関連する事業とか、様々なところに影響が出るかもしれない。
なので、こういう情報はしっかりと掴んでおくのが、貴族としての常識である。
その点から言えば、ローレンツは自分にとって、そしてエルトフ家にとって都合の悪い話を大声で喋っている少女達を制止すべきであるが、ローレンツは自分が知らない話の続きを聞きたかったし、あまりにも予想外の話の内容に気を取られていたためか、そこまで頭が回っていなかった。
そしてそのためか、自分が『三男』、恋人が『浮気相手』と呼ばれていることにすら、抗議する様子もない。
「そういうわけで、少なくとも男爵位は確実なロテリカ様から、いくら伯爵家の娘とはいえ爵位のない女性に乗り換えるのは、不思議なのですわ。
いくら貴族家の者であっても、跡取り以外の者は、『貴族家の者』というだけであって、結婚相手にも爵位がなければ、家を出た後は平民と大して変わりませんからね。
騎士か文官にでもなれれば良いのですが、あまり才覚のない殿方ですと……」
「「「…………」」」
そう。なので、貴族の少女達は、跡取り息子を狙い、それが無理であれば、文官として出世できそうな者か、騎士としてのし上がれそうな者、……それも駄目であれば、大店の跡取り息子あたりを狙うのである。
「もしかして、ロテリカ様に問題があったとか……」
「それは絶対にありませんわね。既に、あの三男が大勢の前で糾弾しましたことは全て事実無根であることが確認されておりますわ。
あの時に証言した方達は全員が三男の仲間であり、皆で一緒に色々と悪事を働いていたそうですわよ」
「え? どうしてそのようなことが分かりましたの?」
そう尋ねる令嬢に、説明役の令嬢が、にっこりと微笑んで答えた。
「だって、ロテリカ様、あの『ソサエティー』にお入りになられましたのよ? 今回の婚約破棄の後で……。
入会者には厳密な調査が行われ、高潔な女性しか入れないという、あの『ソサエティー』に……。
女神の加護と御寵愛が、心の穢れた者に与えられるとでも?
そして、婚約破棄の翌日には、既にイチャイチャしていた新カップル。
不貞を働いていたのは、どっちだとお思いかしら?
そして、仲間を大事にするという噂の『ソサエティー』の皆様が、新たに迎えた仲間の『敵』に対して、どうお考えになるかしらね……」
「「「あ……」」」
((((((あ……))))))
話に加わっていた少女達だけでなく、それを聞いていた周りの者達も、概ね察した。
そして勿論、蒼い顔で立ち竦んでいる、一組のカップルも……。




