425 ひと休み 1
「では、御注文の品、納入完了ということで……」
「「「「「「おおおおおおおっ!!」」」」」」
喜びの声を上げる、王様、宰相様、外交官さん、そして大臣の皆さん。
うん、すごく遅くなっちゃったけど、ようやく納入が完了したよ。
……地球製の、軽くて頑丈で、お尻が痛くならない馬車。
かなり前に、私の馬車を見て、『貸しの代償』として同じ馬車を要求した、サビーネちゃん。
さすがに、高額の特注馬車を渡す程の借りじゃなかったから却下したところ、費用は出すから、と言われて、了承したんだよねぇ。
そして、費用を出してもらえるよう納得させる必要があったため、王様、宰相様、財務大臣とかを私の馬車に試乗させて、乗り心地を体験させ、その頑丈さを説明したところ、……追加注文を受けたわけだ。
元々のサビーネちゃん用の他に、王様用、宰相様用、大臣達が公務で使うために共用する1台、……そして長期間の旅に出ることが多い外交官用の、4台を……。
サビーネちゃんの分は、借りを返すためだから、私の儲けはなし。
でも、その他の4台分は、ちゃんと手数料を貰うよ。
特別製だから、色々とメーカーと調整しなきゃならないし、割と面倒なんだよ。
そして勿論、納入後の定期整備や修理とかは、別料金だ。
第三王女のサビーネちゃんが特製の専用馬車を持つとなれば、当然、第一王子と第二王子、そして第一王女と第二王女も欲しがるに決まっているけど、その4人には内緒で発注されたのだ。
……この後、それを知った4人が怒り狂うのは確実だな、うん。
まぁ、でも、仕方ないよね。
この特製馬車は、すごく高いのだ。
地球のお金でも高いのに、換金レートのせいで4倍くらいの金銭感覚になるここだと、いくら王族用とはいえ、馬車の価格とは思えないような金額になっちゃうんだよねぇ。
もう、超高級乗用車を買う方が遥かに安い、ってくらいに……。
なので、サビーネちゃんは当然の権利だけど、他の王子様、王女様達に専用のものを与えることはできないらしい。
必要な時には、王様用のかサビーネちゃんのを借りろ、ってことらしいよ。
まあ、サビーネちゃんと違って、他の王子様や王女様達は、あんまりひとりでは出掛けないだろうしね。
この馬車のことが知れ渡れば、上級貴族とかから注文が来そうだけど、面倒だからそういうのは全部断るつもりだ。
いや、分かるよ? 貴族としての面子上、どうしても欲しい、っていうのは。
そして、面子だけでなく、王都と領地をしょっちゅう行き来する身としては、お尻が痛くなくて、乗ったまま寝られるような馬車を目にすれば、絶対に欲しくなるっていうのは……。
あ、でも、製造メーカーとしては注文が来るとありがたいのかな?
小さな会社だし、顧客層が限られているだろうからねぇ。
だけど、製造数の限界というものがあるだろうしなぁ。
従業員を増やそうにも、特殊な技能が必要だろうし、私からの発注が止まれば、余剰人員を持て余して困ったことになるだろうから、増員やら設備投資やらに踏み切る勇気はないだろう。
今頃は、特殊な馬車5台の同時製作で疲弊した職人さん達が、休暇でも取って休んでいるかな。
多分、普段の仕事と合わせて、限界ギリギリか、少しばかりそれを越えちゃっていたかもね。
完成したものから順次1台ずつ納入、ということにならず、5台を一度に納入することになったのは、アレである。
それぞれ用途ごとにカスタマイズされているとはいえ、部品の多くが共通なので、効率を考えてサビーネちゃん用を含めた5台分の部品を一度に作る都合上、ほぼ同時の完成となったわけだ。
部品の多くが、自動機械による大量生産ではなく、ほぼ手作りに近いものだから……。
それと、元々馬車は大量生産されているわけじゃないから、そんなに過剰な生産能力があるわけじゃない。小さな製作所が細々と作っていたり、ほぼ受注生産だったりするから、急に5台も、それも特殊な注文となれば、かなり待たされて当然だ。私の時も、すごく待たされたよ。
まあ、防弾機能とか、色々と特殊な注文だったしね。
サビーネちゃん用のと王様用のは、安全第一。
外交官さん用のは、速度と快適さ第一。……勿論、襲撃に備えた防御力も、決して軽視はしていない。矢や投槍とかは防げるよ。崖の上から岩を落とされたりすれば、さすがに駄目だけど……。
……でも、サビーネちゃんが自分の馬車を使う機会って、あまりないんじゃないかな。
遠くへ行く時って、大抵は私と一緒だし。
だから、転移か私の馬車に同乗するか、それとも『ビッグローリー』を使うか……。
王都の中を移動する時は、マウンテンバイクだしね、サビーネちゃん。
……あれ? どうも、サビーネちゃんの馬車はお姉さん達専用になりそうだぞ?
サビーネちゃん用のは、見た目が可愛くて華奢に見えるから、王子達は王様用のに乗りたがるだろうからね。
いや、華奢に見えるだけであって、実際にはここの普通の馬車とは比べ物にならないくらい頑丈なんだけどね。
フレームはチタンやポリカーボネイトを多用しているから、軽くて頑丈。
車体はケブラーやトワロンなどのアラミド繊維とか、超高分子量のポリエチレン繊維とかを使っているし、窓は第4世代型の防弾ガラス。
……そりゃ、製造に時間がかかるし、メチャクチャ高くつくのも当然だ。
製造会社の人に、こんな偏執的なまでに防御力に拘った馬車、誰が使うのか、って、何度も聞かれたよ。
超VIP用の、防弾自動車とかであればともかく、馬車でこれはない、って……。
まあ、こんなのが必要なほど危険な場所には、馬車ではなく自動車で行くよねぇ、普通は……。
「あ、皆さん、あまりこの馬車を自慢しないでくださいね。
貴族の皆さんや、他国からも『欲しい』とか言われても、対応できませんから。
それと、自分が乗る馬車の防御性能を触れて廻るのは、敵に攻め方を教えてやるのと同じですからね。それは、間抜けがやる行為ですよ」
「「「「「「…………」」」」」」
そう。それは、自分の城の見取り図を敵国に教えてやるのと同じだ。
まあ、みんな、馬鹿じゃないんだ。それくらいは分かるか……。
あ、防御をガチガチに固めた特製馬車じゃなくて、ただ乗り心地が良くてお尻が痛くならないというだけなら、出来合いの市販品とか中古の馬車が買えるかも。
それなら、すぐに手に入るだろうしね。
もし、他国の王族とかの断り切れない相手からどうしても、と言われた場合には、それで逃げるか……。
わざわざここでそんな提案はしないけどね、勿論。
よし、終わった!
これで、懸案事項がひとつ、片付いたよ!
「姉さま、では、早速試乗しましょう!
王都を軽く一廻りして……」
サビーネちゃんが、笑顔でそんなことを言ってきたけれど……。
「今ここにあるの、納品した馬車だけじゃないの。
馬も御者もいないのに、どうやって試乗するのよ……。
それに、馬を型式の違う馬具に慣れさせなきゃならないし、御者さんもこの馬車の性能に慣れなきゃ駄目でしょうが。車重とか、安定性とか、旋回半径とか、色々な感覚を掴まないと、いくらプロでも初乗りで自由自在には扱えないでしょ?」
「あ……」
さすがのサビーネちゃんも、わくわく感で冷静さを欠いていたらしい。普段のサビーネちゃんなら、それくらい気付くよね。
そして、私がそう説明すると、サビーネちゃんはすぐに理解して、スン……というような顔をした。




