424 もう、メチャクチャだよ 3
あれからしばらく経ってから、書簡が届いた。
……2通。
1通は、あの国、アレイディス王国の国王から。
そしてもう1通は、同じくあの国の、私が知らない伯爵家から。
国王からのには、先日の無礼の詫びと、あの侯爵が色々とやらかしていたことが判明して処分したとのお知らせが。
……いや、本当に、色々とやらかしていたらしいのだ。
勿論、手紙には具体的なことは何も書かれていなかったけどね。
自国の恥部や弱点を、わざわざ他国の貴族に教えるような国王はいないよね、うん。
あの侯爵が繋がっていた国は、条約加盟国じゃない国だったみたいだ。
そりゃ、いくら多くの仲間を募りたいとは言っても、あまりにも遠方だったり、政情が不安定だったり、野心に燃えた侵略性の国だったり、条約加盟国と敵対していたりすれば、声は掛けないよねぇ。新式の武器とかを提供するのだから……。
その辺もあって、雷の姫巫女があの国の国王と懇意になるのはマズいと考えたのかな? 侯爵と繋がっていた、非同盟国の都合的には。
だから、到着前に私を始末しようとしたり、謁見の邪魔をしたりしたのかな。
まぁ、普通の下級貴族の娘なら、それで何とかできただろうけど。
……運が悪かったよね、相手が私で……。
そして更に、私を呼んだ理由も書かれていた。
何でも、深い意味はなく、ただ『雷の姫巫女』、『救国の大英雄』、『御使い様』とか呼ばれて担ぎ上げられている小娘を見てみたいとか、化けの皮を剥がして酒の肴に、とか思っただけで、悪気はなかった、とか……。
いや、充分悪気じゃん、それって!
うちの国の弱味を握って、同盟国の中での立場を、とか考えていたんじゃないのかな?
ま、たとえそうだったとしても、本当のことを書くわけがないか……。
とにかくそういうわけで、目の前で『奇跡』を見せられて、己の愚かさを知り反省した、ってことらしい。
国王が他国の下級貴族に頭を下げるわけにはいかないから、具体的なことは書かれておらず、色々とボカしてあるけれど、その制約の中で、かなりの謝罪感が窺える文章だった。
……一応、立場が許す中での誠意は見せてくれた、ってとこかな。
4人の兵士をすぐに制止しなかったのは、まさかのことに咄嗟に反応できなかった、ってことらしい。
その部分だけは、はっきりと『遺憾の意』が表明してあったよ。
まぁ、そこは謝罪しても構わないのだろう。
何せ、呼び付けた他国の貴族、しかも未成年(だと思われている)の少女に自国の兵士が斬り掛かったのだからね。
王女殿下がいたことについては、一切触れられていないよ、勿論。
それは、王様宛の手紙には書かれているのかな? ボカしてあるか、全く触れられていないか。
いや、それは国家間で切るには、あまりにも威力があり過ぎるカードだからねぇ……。
そんなカードを他国に渡したくはないよねぇ。
事実は当然サビーネちゃんから王様に伝わっているけれど、わざわざそれを自分から言い出したり、証拠となるようなことを手紙に書いたりはしないよねぇ。
そしてもう1通の、知らない伯爵家からの手紙には、丁寧な感謝の意が綴られていた。
こっちの書簡も詳細はボカしてあるけれど、何でも、娘の命の恩人、だとか……。
うん、まぁ、野菜と果物を食べて、症状が好転したのかな?
どうやら、病状の確認には行かずに済みそうだ。
そして、どちらの手紙にも、『お礼の品を送った』と書いてあった。
そっちは馬車での輸送だから、書簡よりはかなり遅くなる、とのこと。
まあ、生ものとかの傷みやすいものじゃなければ、別に遅くても構わないよ。
くれるというなら、ありがたく戴くよ、何でも。
自分で使わないものなら、誰かにあげてもいいしね。
……但し、食べ物とかは、絶対に食べずに捨てるけどね!
信用できない人から贈られたり、知らない人の手を介して渡されたりした食べ物を平気で口にできる程の勇者じゃないよ、私は……。
勿論、それを誰かにあげたりはしない。
私の身代わりとなって誰かが死んだりすると、後味が悪いからね、うん。
それに、即効性や遅効性の毒物だけでなく、何が混入されているか分からないじゃん。
そんなの、食べられるわけがないよね。
それがたとえ、地球の文明国でのことであったとしても……。
* *
「陛下、書簡、来ました?」
「うむ。
……しかし、無茶をやりおって……」
「えへへ……」
あの後、王宮にやってきた。
勿論、王様のところに届いた書簡の内容が気になるからだ。
私は、アポなしでも、王宮には顔パスで入れるから、問題ない。
そして王様の今の言葉は、書簡を読んでのものじゃない。
国家間の正式な遣り取りに、あんなことが書けるはずがないよ。
なので今のは、数日前に私とサビーネちゃんから報告した、本当のことに対するものだ。
あの時には、さんざん叱られた。
……主に、サビーネちゃんを危険に晒した、ということに対して。
その後、私自身の危険、外交的な危険、その他諸々について……。
まあ、王様も、嫌がる私を説得して訪問させたということ、そして移動中に向こうの手の者に襲われたということから、自分の責任も感じているみたいだったけどね。
だから、怒りに任せて怒鳴りつけて、とかじゃなく、『叱ってくださった』、って感じ。
ボーゼス侯爵様と同じだ。
ありがたいよね。
叱ってくれる人は、大事にしなきゃね……。
そして、見せてもらった王様宛の書簡の内容は、概ね、私が予想していた通りだった。
事実関係はボカして、あまりはっきりとは書かず。
直接の謝罪の言葉はないし、サビーネちゃんのことには一切触れていないけれど、悪かったと思っている、というニュアンスが感じられる文面。
一国の王が他国の王に宛てた書簡としては、かなり誠意のある文面だと思われる。
王様もそう思ったのか、怒った様子はなく、納得しているような表情だ。
……今後、同盟国での会議とかでも、譲歩が引き出せそうだしね。
そして、公式には『何もなかった』ということになり、ただある国でひとつの侯爵家とその派閥の貴族家がいくつかお取り潰しになっただけ、ということになったらしい。
……表向きは。
勿論、王宮内であれだけ派手にやって、情報が漏れないはずがない。
突然侯爵家やそれに連なる貴族家がお取り潰しになれば、当然、他国からの探りも入るだろうし。
ま、ある程度の情報は流出するよねえ。
でも、それも悪くはない。
同盟加盟国の間で、うちの国や雷の姫巫女に対して表立って喧嘩を売ってくる勢力が減るだろうし、非加盟国も、ちょっかいを出しにくくなるだろう。
……侯爵が吐いた、繋がっていた国に対しては、アレイディス王国がそれなりの対応をするだろうし。
勿論、正式に抗議したところで、『そんなことは知らない』、『言い掛かりだ』とか言ってしらばっくれるに決まってる。
でも、別に向こうが認めなくても、こっちが同じようなことをしてやればいいだけだ。
勿論、抗議が来たら、しらばっくれる。相手と同じように。
そしてそれは、同盟加盟国全てにおいて情報共有されて、共通の『敵』として扱われることになるだろう。
同盟加盟国に対する攻撃に関しては、こちら側に非がある場合を除き、全ての加盟国に対する攻撃であると認識する。
ただ敵対関係にあるというだけであれば別に問題はないが、内通者を作って、というのはアウト。
……そして何より、同盟にとっての重要人物であり、新式武器開発の要である私を殺させようとした時点で、トリプルプレーか、没収試合でゲームセット。
没収されるのは、試合じゃなくて、領土か国そのものかもしれないけどね。
まあ、この件は、これで一段落かな。
……また、余計なちょっかいを出されない限りは……。




