415 招 待 4
ビッグ・ローリーを日本邸に置いてきて、王都の孤児院に預けて面倒を見させていた白馬シルバーと馬車(地球で作らせた、特注の小型馬車)を持ってきた。
いつもは、シルバーは馬屋に預けているのだけど、今回は何度か乗り換えるだろうから、孤児院の方へ移しておいたのだ。
あまり頻繁にシルバーが消えたり現れたりすると、馬屋の人が驚くだろうからね。
その点、孤児院の子供達なら、今更その程度のことで驚くことはない。
まあ、長期間となると、シルバーの世話や餌、運動、病気の兆候の早期発見とかで、やはりプロに預けた方が安心なので、ずっと孤児院に預けるわけにはいかないけれど、短期間なら問題ないだろう。
子供達は、ずっと自分達が世話したいと言っているけれど、さすがにそれは無理だ。
「よし、行くよ!
私達は、国元からずっと、この馬車に乗ってきた。道中の宿泊は、全て宿場町の宿屋に泊まってきた。護衛がいないのは、私達には女神の加護があるので護衛の必要がないから。いいね?」
「「うん!」」
よし、口裏合わせは、完璧!
「では、目標、敵王都の中心核! 発進!!」
* *
「この国の王様から呼ばれたので、来ました。
はい、これ、招待状!」
「……え? ……はぁ……」
王城の正門で、そう言って門番さんに招待状……うちの国の王様経由で渡されたやつ……を差し出したら、きょとんとした顔で見詰められた。
……まぁ、王様から招待されるような者が、護衛も付けずに自分で御者をやって、小さな馬車1台で来たりはしないか……。
いや、招待されたのはサビーネちゃんで、私はただの御者だと思われているかもしれないな。
とにかく、差し出している招待状を受け取って、さっさと中身を確認しろや、ゴルァ!!
「あ……、え……、えええ!! しっ、失礼いたしました!
直ちに案内の者を呼びますので、暫しお待ちを!
おい、失礼のないよう、お相手を務めろ! この町についての御説明をしておけ!!」
「え? えええ?」
私が渡した招待状を読んだ門番さんが、もうひとりの門番さんにそう言って、招待状を握り締めたまま大慌てでどこかへと走り去った。
……まぁ、このまま私を案内するわけにも行かず、とりあえずは急ぎ上の方へ連絡するしかないよねぇ。
正門の機能が停止しちゃって、後ろに列ができ始めているのは、申し訳ないなぁ……。
* *
あれからほんの数分で、迎えの人が来た。
……いや、メチャクチャ早いよね?
私がこんなに早く来るなんて思ってもいなかっただろうから、準備も何もしていなかっただろうに……。
あ、そういえば、盗賊はこんなに早い時期でもちゃんと待ち伏せしていたなぁ。
まぁ、私だけを待ってずっと待機していたわけじゃなく、本来の仕事をやっていて、私が通り掛かれば襲う、ということだったのかもね。
いやいや、そんなことはどうでもいいよ!
とにかく、迎えの人に案内されて、王宮の中へ。
* *
待たされた。
そりゃまぁ、遠路遥々やってきた、他国の貴族だ。
それも、国王が直々に招待した客なんだから、接遇担当者は飛んでくるよね。
……でも、たかが格下国の子爵風情が来たからといって、国王自身が大慌てでやってくるわけがない。
スケジュールの空き時間ができたら。
そんな感じかな。
まあ、この国の平民が謁見を賜るとかいうんじゃないんだ、数日間待たされる、ということはないだろう。
……というか、夕方まで待って会えなければ、そのまま帰るよ。
勿論、宿屋にじゃないよ。うちの国へだよ。
勝手に呼び付けておいて、会うつもりがないっていうなら、別に会わなくていいよね。
私が国王に会いたくて来たわけじゃないんだから。
何? 長時間待たせて、上下関係を思い知らせてやろうとか考えているわけ?
知らないよ、そんなの。
これが、ひとりの女子爵と他国の国王陛下との正式な会談とかであれば、それなりに礼は尽くすよ。その場合は、私はゼグレイウス王国の貴族として振る舞うわけだから。
でも、今回は違う。
ある国の国王が、気紛れで勝手に呼び付けただけだ。
……女神の御寵愛を受けし『渡り』の秘術の使い手、『雷の姫巫女』を……。
だから、私に対して舐めた態度を取ってくれたなら、それ相応の態度を取ってあげるのだ。
私の上司にクレームを付けたいなら、神殿に行って、女神様に文句を言ってくれ。
ん~、そろそろお腹が空いてきたなぁ。
よし、帰るか!
「帰るよ~」
「「うん!」」
「……こちらでございます」
あれ?
3人揃って待機室から出ると、廊下で待っていたメイドさん……女官さん?……が案内してくれた。
んんん?
一緒に立っていた、見張りか護衛か分からないふたりの兵士さんは、無反応。
引き留められるかと思ったのに、何だこれ?
まさか、このタイミングで謁見のはずがないよね?
どういうことだ?
そのまま、素直にメイドさんについていったところ……。
お手洗いに到着した。
そういうことか~!
待機室にいる客がどこかへ行こうとするのは、お手洗いしかあり得ないのか~!!
だから、兵士さんは無表情で、何も知らないように装っていたのか……。
……うん、納得できた。
いや。
いやいやいやいや!
それはそれで納得できる対応なんだけど、今私達が行きたいのはお手洗いじゃなくて、私の馬車が置いてあるところだ。
よし、このままここから馬車のところへ……、行くわけにはいかないよねぇ。
そんなことをすれば、このメイドさんが責任を問われて大変なことになっちゃうだろう。
それは、ちょっと気の毒すぎる。
それに、私達だけで勝手に王宮内をうろついていたら、すぐに待機室に連れ戻されるだろう。
馬車が置いてある場所は分かっているのだから、待機室の中から転移すればいいじゃん……。
見張りの兵士さんが責任を問われる?
知らないよ、そんなの。
会う気がないようなので帰ります、って置き手紙をしておけばいいだろう。
『今日は帰ります』だとか、『宿に帰ります』だとか勘違いされるかもしれないけれど、知ったこっちゃないよ。
招待されたからわざわざ来たのに、会ってももらえずに放置されたから帰った、って、周辺国に愚痴を広めてやろう。
そうすれば、二度と招待も招喚もできないだろうからね。
うむうむ。




