414 招 待 3
「「行ってきま~す!」」
「「…………」」
夜中に、王様と宰相様のふたりだけに見送られて、こっそりと出発。
勿論、目立たないように変装して、御者付きの地味なボロ馬車で。
こういう時のために、王宮の馬車倉庫にはボロい馬車も用意してあるというのが、さすがだねぇ。
『ビッグ・ローリー』に乗るのは、王都を出てからだ。
乗り換えた時点で、この馬車は王宮に戻る。
あ、さっき王様達に手を振ったのは私とサビーネちゃんのふたりだけど、勿論コレットちゃんも乗っている。
……ただ、コレットちゃんは王様や宰相様に手を振って声を掛ける勇気がなかっただけだ。
うん、それが普通の平民の感覚だよねぇ……。
夜にこっそり出発するのは、勿論、この件は内緒にしないと、事実が露見した場合、一部の貴族が騒ぐかもしれないからだ。
我が国を馬鹿にした態度だ、とか、姫巫女様と女神を冒涜する行為だ、とか言ってね。
それに、下手をすると貴族だけでなく、軍部や平民達も騒ぐかもしれない。
なので、誰も知らないうちに、ササッと終わらせちゃうのが望ましいのだ。
ササッと参上、ササッと解決、ってやつだね、うん!
* *
警備兵以外の者に見つかることなく、無事王都から出た。
警備兵は、私とサビーネちゃんが窓から顔を出して手を振ればフリーパスだし、勤務中に見聞きしたことを誰かに喋るようなことは絶対にないから、問題ない。
私とサビーネちゃんは少し変装しているけれど、それくらい見破れないような警備兵はいないよ、うん。
そして人気のない場所でビッグ・ローリーに乗り換えた。
馬車は、そのまま王都へ帰投。
「じゃあ、行くよ! 両舷全速ゥ、ビッグ・ローリー、発進します!」
全開で飛ばせ!
……いやいや、時速30キロくらいだけどね。
馬車が走れる程度には整備されているけれど、アスファルト舗装とは比べ物にならないからねぇ、いくら主要街道とはいっても……。
まあ、4頭立てや6頭立ての大型馬車も走るし、それらが追い越したりすれ違ったりもするし、何千何万の軍隊が移動したりもするんだ。主要街道が大型のキャンピングカーが走れるだけの十分な広さがあるということに感謝しなきゃね。
もし道がもっと狭ければ、あの条約締結根回しの旅の時も、軽自動車をベースにした、軽キャンピングカーにしなきゃならなかったかも……。
そうなると、居住環境がかなり落ちるんだよねぇ、3人乗ると……。
せめて、バンコン……バンやミニバン、ワンボックス、ワゴン車といったクルマをベースにしたやつ……くらいの広さは欲しいよね。
まあ、私達の場合は、トイレや入浴、睡眠とかは日本邸に戻って、ということも可能だけど、そんなに毎日何回も戻っていたら、旅の風情なんかあったもんじゃないよ!
できればそういうのは避けたいと思っていたのだけど、主要街道は大型のも走れるだけの広さがあって、良かったよ。
まぁ、狭い脇道とかには入れないけど、そういう時はビッグ・ローリーは日本邸に置いてきて、私が買い物とかに使っている軽自動車を使うか、歩けばいい。
……あ!
サビーネちゃんとコレットちゃんに、原付に乗れるよう練習させれば……。
原付なら、ガソリンはジェリ缶で運べばいいから、ナンバーなしでも構わない。
免許なんかこっちじゃ関係ないし、何でもそつなくこなす天才児サビーネちゃんと、野生の勘と身体能力の怪物、コレットちゃんだ。運転なんか、一瞬のうちにマスターするに決まってるよ。
何か、時速100キロくらいでぶっ飛ばす、ふたりの姿が幻視できそうな気がするよ……。
あ、いや、原付じゃ、そんなに速度は出ないか。
……原付とはいっても、別に、『原子力エンジン付』ってわけじゃないんだから……。
* *
「……というわけで、お呼び出しを受けた相手国、アレイディス王国に到着したよ」
国境線はとっくに越えていて、今、この国の王都が視界内に入ったところだ。
いや、道中色々あったけど、まぁ、私達にとっては日常の範囲内だ。
「姉様、普通の貴族や平民は、旅に出るたびに盗賊を狩ったり魔物の群れを蹴散らしたりはしないよ?」
あ、ソウデスカ……。
今は口に出したわけじゃないけど、こういう時、サビーネちゃんは私の表情から私が何を考えているかを大体読むんだよねぇ……。
いや、別に積極的に盗賊を狩ったわけじゃないよ。
ビッグ・ローリーの速度が普通の馬車に較べて速すぎるから、盗賊や魔物に襲われている馬車に出くわす確率が高いだけだ。
なので、襲われている商隊に出くわすこと1回、私達を襲おうとしたらしき連中に出くわすこと1回の、計2回の遭遇だ。
1回の旅でこんなに盗賊と出くわすことは、滅多にないよ。
いつもこんなに盗賊が多けりゃ、商隊も貴族も他の町に移動できなくなるよねぇ。
それじゃ交易も何もできなくなるから、そういう場合は領主が討伐隊を出すし、それで駄目なら国から国軍が来るだろう。
でも、国に助けてもらったりすると領主の面目丸潰れだし、降爵や爵位剥奪の可能性すらある。
だから、被害が増えすぎると、領主が必死で盗賊の討伐に努めるんだよねぇ。
……うん、そんなに盗賊が多いはずがない。
盗賊は、襲撃の前にはちゃんと仕事中に他の商隊……護衛付き……が通り掛からないように、街道の両方向に見張りを立てている。小高い丘の上とかにね。
そこから合図を送って、他の商隊の接近の有無を知らせるらしいのだ。
……でも、我がビッグ・ローリーは、その見張りの視界外から急速に現場に接近するわけだ。
勿論、護衛らしき者の姿がない、大金になりそうな不思議な乗り物に乗っている私達を襲撃目標にしようとしたのは、理解できなくもない。
そっちは、ビッグ・ローリーの速度に対応できなくて、追走できずに後落したけどね。
なので、今回実際に戦って蹴散らしたのは、襲われている商隊を助けた時の、1回だけだ。
まあ、私達を狙った方の盗賊も、街道に丸太でも転がしていれば私達を止めることができただろうけど、その場合は、私達を逃した方が100万倍マシだったと、一生後悔することになっただろうけどね。
まぁ、重犯罪奴隷として鉱山での強制労働となれば、そう長くはない『一生』だろうけど……。
……とか考えていたら、サビーネちゃんがポツリと呟いた。
「私達を狙った方、私達が姫巫女様の一行だと知っていて襲った可能性もあると思うんだよね……」
「え? だって私達が来るなんて、盗賊が知っているはずが……、ああ……」
……そうか。そういうコトも、あり得るか……。
私達を狙っての、待ち伏せか……。
確かに、一度の旅で2回も盗賊に出くわすというのは、珍しいよね。
そして私達がこの街道を通ることを知っているのは、うちの国では王様と宰相様、アイブリンガー侯爵様、あとは数人の大臣だけだ。
ボーゼス侯爵様ですら知らないのだ。……侯爵様、今は領地に戻っているからね。
そしてその他で知っている者は……。
そう。招待してくれた側の人間だけだ。
「まあ、『馬なし馬車』に乗っている時点で、私達だってことは丸分かりか。
それくらい、うちの国か、条約締結根回しの旅の時の通過ルート周辺の町村で少し聞き込みをすれば、すぐに分かることだからねぇ。
でも、国の上層部はそれくらいのことは知っていても、一介の盗賊がそんなことを知っているはずがない。
なのに、正体不明の怪しい相手に手を出すか、ってことよね。
罠かもしれないし、軍の新装備の実験かもしれないのに……。
犯罪者は、表向きは強がりいきがっていても、実は結構臆病で慎重な者が多いんだよね。本当の馬鹿で能なしの者以外は。
だから、全て知っていて、という可能性はあるか……」
「うん。一応、そのつもりでいた方がいいよ。
物事は、悪い方の事態を想定して準備しておくものだからね」
サビーネちゃんが、そう即答した。
うん、全くもって、その通りだ。
コレットちゃんも、こくこくと頷いている。
「そうか~。向こうには、そういうお相手がいるか~……。
……オラ、ワクワクしてきたぞ!!」
うん、私は、ネチネチと回りくどいことをしてくるヤツより、こういう、真正面から敵対してくるヤツの方が好きなんだよね。
かといって、別に手加減をしてあげたりはしないんだけどね!




