408 ソロリティ 13
「多忙のためあまり参加できない私達が本日参りましたのは、何やら皆様から私達に対して御要望があるらしいとお伺いしたからです……」
私は、年配の貴族家当主様相手とかいう場合は勿論除くけれど、年齢の近い貴族の子女達との非公式な会話では、いつも砕けた口調で話す。そしてそのことは、今まで何度かはお茶会に顔を出しているから、この子達もみんな知っている。
まぁ、それも私が未成年者に舐められやすい理由のひとつなのだろうなぁ……。
成人年齢の人達からは、それが貴族の子女ではなく爵位貴族本人であり、救国の大英雄であり、大国の王姉殿下であり、……そして『雷の姫巫女』である私が年齢の近い子供達が気後れすることなく話しやすいようにと気遣ってのものだと思ってもらえるのだけどねぇ。
いや、本当はそんな深い意味はなく、ただ単に気取ったお嬢様言葉が苦手なだけなんだけどね。
……なのに今、私は丁寧な、……固い口調で話している。
笑顔のない、無表情な貌で、淡々と……。
まぁ、これで私が非常に不愉快であるということに気付かないような貴族家の子女はいないよね?
私の左右にいるサビーネちゃんとベアトリスちゃんの表情も硬いし。
……笑いを堪えるのに必死で。
そして私は、『私達に対して』、と言った。
それは即ち、あのふざけた要求が出された相手はアデレートちゃんと私だけではなく、サビーネちゃんとベアトリスちゃんも含まれている、ってことだ。
侯爵令嬢であり、大聖女(未公認)であるベアトリスちゃんと、王様一家が溺愛しており、貴族や平民達からの絶大な人気を誇る、第三王女であるサビーネちゃんに対しての、傲慢でふざけた要求。
……そう、『要望』ではなく、『要求』だ。
「「「「「「…………」」」」」」
うむうむ、みんなの反応がいくつかに分かれているな。
やべぇ、とか、あちゃー、とかいうような、少し軽い焦り。
ほらぁ〜、だから言ったじゃない、とかいう感じの、『私のせいじゃないわよ』、『知〜らない!』とかいうような、自分は関係ないですよ系。
……そして、蒼ざめた数名の少女達。
うん、分かりやすいね。
軽い気持ちで我が儘や身勝手な要求をしたのか。
アデレートちゃんに無理難題を言って困らせたり貶めたりしたかったのか。
まさかあんな無茶な要求をそのまま私達に伝えるとは思っていなかったのか。
……まぁ、もし私とアデレートちゃんがこんなにツーカーの仲じゃなくて、ただの顔見知り程度であったなら、あんなことを伝えられるはずがないと思うよねぇ……。
ところがどっこい、私とアデレートちゃんは、愚痴や悩み事も話せる、仲良しさんなんだよねぇ。
それを知らなかったのが、うぬが不覚よ!
というわけで、まずは軽いジャブを。
『やや内角をねらい、えぐりこむように打つべし』ってやつだ。
……ちなみに、初代みっちゃんから教わった『あたしのために(その1)』では、打つのは相手の肉体ではなく、ハートである。
「アデレートちゃんからは簡単なことしか聞いておりませんので、御要望、……いえ、御要求を出された方から、直接御説明くださいませ」
「「「「「「…………」」」」」」
誰も、ひと言も喋らないなぁ……。
うむ、自分から名乗り出るつもりはないか。
じゃあ……。
「では、要求者であるクルバディ伯爵令嬢、ラステナ様。ヴィボルト侯爵令嬢、ティーテリーザ様。御説明いただけますか?」
「「ヒッ……」」
あれ? 何か、怯えてる?
「ミツハ姉様、顔が怖いよ……」
サビーネちゃんが、私達だけに聞こえるように、小声でそう呟いた。
……うん、まぁ、当然ながら私は不愉快に思っているからね。
そしてその感情を、隠そうともしていない。
「アデレートちゃんに、私達に対する要求を伝えたのでしょう? お望み通り要求が伝わりましたので、忙しい中、わざわざ参ったわけなのですが。第三王女殿下と、ボーゼス侯爵令嬢と共に……」
ふたりのことを、いつもの『サビーネちゃん』、『ベアトリスちゃん』ではなく、肩書きで呼んだことの意味が分からない者なんか、ここにいるはずがない。
そして『要望』ではなく『要求』という言葉を何度も繰り返し使ったことで、向こうの非礼を際立たせたわけだ。
先程私が名指ししたふたりの令嬢は、真っ青な顔をしてガクブル状態。
そりゃ、軽い気持ちで吐いた言葉が、私と第三王女殿下と大聖女である侯爵令嬢を敵に回すことになったわけだからねぇ。
親に知られれば、最悪、切り捨てられることになる可能性すらある。
いや、勿論物理的に斬られるというわけではなく、縁を切られるとか、地方の修道院に入れられるとかいうことだけどね。
今、飛ぶ鳥を落とす勢いの、ボーゼス侯爵家。神殿勢力が神輿に担ぎ揚げている、大聖女ベアトリスちゃん。国王様御一家が溺愛する、第三王女殿下。……そしてこの私、雷の姫巫女。
これら全員を敵に回すことと、大勢いる政略結婚用の娘のひとりを切り捨てること。
……貴族家の当主がどちらを選ぶか。
ひとりの父親としてではなく、お家を守る当主として。領地と領民を守る、領主として。
まぁ、考えるまでもないよねぇ……。
どうして、こうなっちゃったのだろうか。
私は貴族家やその子供達のことには詳しくないけれど、アデレートちゃんとサビーネちゃんがきちんと審査したはずなんだよね、『ソロリティ』のメンバー選抜には……。
……あ、このふたりは、伯爵令嬢と侯爵令嬢だ。
ということは、『ソロリティ』結成時の初期メンバーではなく、伯爵家・侯爵家の子もOKにした後の、追加採用組か……。
そっちの審査が甘かったのか、それともまともな子だったのに、お家の爵位と『ソロリティ』の中での自分の立ち位置との不整合が我慢できなくなったのか……。
一応、初期メンバー達の審査を通過できたんだ。本当は、あまり悪い子じゃないはずなんだけどなぁ……。
まぁ、仕方ないか。
* *
私達に要求を出してきたお嬢様方が何も喋ってくれないので、以前アデレートちゃんに説明した通り、『メイドさんだー』は平民達が余暇を利用して活動しているただの平民のサークルであり、私は全く関与していないこと、そして、平民達が自分の力で得たものを貴族が横取りするというような恥知らずな真似に協力する気は全くないということを、はっきりと告げた。
もしこれ以上私に恥知らずな真似を要求するなら、私達は『ソロリティ』から手を引く、という宣告と共に……。
貴族として恥ずべき行いをして、第三王女殿下と大聖女と雷の姫巫女を怒らせ、呆れさせて、『ソロリティ』から出て行かせた。
そんな話が広まれば、原因となった者の社交界での立場や、婚約相手探しは……。
そして、まともな神経をしていたら、自分のせいで大きく名を落とした『ソロリティ』にいられるわけがない。
……というか、そうなれば、多分『ソロリティ』は存続できなくなる。
それを防ぐには、出て行くのは私達ではなく……。
でも、そうなると、このふたりが……。
問題があったのはこのふたりだけじゃなく、煽ったり尻馬に乗ったりした者達もいたらしい。
でも、このふたりは、悪いのは自分達だけじゃない、とかいう言い訳や責任転嫁、他の者も巻き込むようなことは、一切口にしなかった。
ふたりとも、ちゃんとした、矜持ある貴族の少女なんだ。
私は、別に『ざまぁ』や『俺TUEEE!!』がやりたいわけじゃないんだ。
それに、この程度のことでこの子達の人生がメチャクチャにならなきゃなんないわけがない。
『ソロリティ』は、私の勝手な都合で始めただけの、ただのお遊び、親睦サークルに過ぎないんだ。
女の子を不幸にするために作ったわけじゃない。
う~ん、どうすれば……。
「ティーテリーザ様とラステナ様だけに罪があるわけではございません!」
え?
何か、ちっこい子、出てきたぁ~!
「おふたりだけでなく、アデレート様に色々と難癖を付けたり、不平不満を言っておられました方々は、他にもおられます。
おふたりはただ、それらの者達に担ぎ上げられて、貧乏くじを引かされただけなのです。
責を問われるのは、おふたりに様々なことを吹き込み、煽り、そして止めようとしなかった、全ての者達です!」
おお、この状況で、このふたりに味方するか。ちっこいのに……。
「あなたは、この子達のお友達なの?」
「いえ、貧乏男爵家の7女である、私などが……、あ、いえ! 『ソロリティ』の仲間ですから、勿論、大事なお友達ですっ!」
ほほぅ、別に同じ派閥や取り巻きだというわけでもない、あまり交流のない者のために、私達からの不興を買う危険を冒してでも庇うのか。
ふたりの近くにいた子達は、徐々に離れて距離を取っているというのに……。
……デキた子だなぁ……。
よし、何とかなるかも!




