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407 ソロリティ 12

「化粧法は、『ソロリティ』のメンバーには私達が会得した技術のうちの2割くらいしか教えないよ。勿論、あの化け物の変身みたいなのは論外!

 それでも、メンバー以外の子とは圧倒的な差がつけられるでしょ。

 そして、私達3人は基礎化粧品と、ルージュくらいしか使わないよ」

 サビーネちゃんが、そんなことを言ってきた。

 ルージュというのは、『紅』を意味する単語であり、お化粧においては口紅や頬紅チークとかを指す。


「え、どうして? もう少し教えてもいいんじゃあ……」

「にほんの化粧技術は、危険過ぎるよ! あれをこの大陸に解き放てば、とんでもないことになっちゃうよ……。

 それに、あの化粧をして一度パーティーに出れば、それ以降、人前に出る時は必ず化粧しないとならなくなるんだよ。一生に亘って、毎日かなりの時間を掛けて化粧しなきゃならなくなって、合計すると、膨大な時間が無駄に費やされるのよ。勿論、化粧品代も……」


 そりゃそうか。

 会うたびに、美人だったり普通だったりとコロコロ変わるわけには行かないよね。

 一度美人になった顔を見せたら、人前に出る時にはずっと化粧をしていなきゃならないに決まってる。

 OLがある日突然、すっぴん(ノーメイク)で出社するわけにはいかないだろう。


 仕事のためとか、婚活に命懸けてます、とかいう人はそれでも許容できるだろうけど、まだお子様であり、そしてお化粧の必要なんか全くないサビーネちゃん達にとっては、それは嫌だろう。


「それに、今から顔にベタベタと塗りたくっていると、お肌に良くないような気がする……。

 私達には、まだ基礎化粧品とルージュだけで十分だよ。

 それに……」

「それに?」

「……いや、何でもないよ!」


 ううむ……。

 サビーネちゃんの、しまった、というような顔。

 この表情かおは、珍しいな……。

 ちょっと、赤くなってる?


 ……あ!

 これって、多分、『それくらいのハンデをあげても、他の子達には負けないよ』とか、そういうたぐいのことを言いそうになったな!

 そして、それは事実ではあるのだけど、自分で口にするのはさすがに恥ずかしかった、と……。


「ふぅ〜ん? まぁ、サビーネちゃんもベアトリスちゃんもコレットちゃんも、すっぴん(ノーメイク)でも可愛いから、お化粧は必要ないよね!」


 あ。自分が何を言いかけたかを私に知られたと気付いて、サビーネちゃんが更に赤くなったぞ。

 ……よし、いつも私の方がからかわれてばかりだから、ここで思い切りサビーネちゃんを弄りまくるぞ!!




 ……そして勿論、後で十倍返しで反撃を食らったのであった……。


 あ。

 もしかして、私もお化粧をすると美少女になったりして?

 少女漫画の定番じゃん、『地味な子が、メガネを取ったりお化粧をしたりすると凄い美少女に!』とかいうの……。

 いや、私は元々メガネを掛けていないけどね!

 え? 『美』はともかく、もう20歳なので『少女』ではない、って?

 うるさいわっ!


     *     *


「皆様、御無沙汰しておりました……」

 そう言って、久し振りの『ソロリティ』のお茶会でみんなに挨拶する、私。

 その両側に、サビーネちゃんとベアトリスちゃんを連れて……。

 勿論、コレットちゃんもいる。


ソロリティ(こっち)』では、『ソサエティー(むこう)』とは違い、私は毎回お茶会に顔を出しているわけじゃない。スイーツや飲み物とかは提供しているし、販売物の注文取りや配布はアデレートちゃんに任せているから、それで別に問題ない。


 まあ、一応は会員なんだけど、実質的には『ソロリティ』の外部協力者みたいなものだ。

 サビーネちゃんとベアトリスちゃんは、名誉会員みたいな感じかな。

 なので、『ソロリティ』の活動は、完全にアデレートちゃん任せだ。

 それもまた、こっちでは私の存在感が薄い原因なんだよね。


 でも、新大陸むこうと違って、旧大陸こっちじゃ私の立場が異なるし、そもそも、忙し過ぎてそこまで手が回らないんだよ……。

 勿論、シーレバート伯爵令嬢カーレアちゃんによる伯爵家令息への攻撃アタック作戦とか、チェリリアちゃんのところ、ウェンナール男爵領への飢饉援助大作戦のような案件が発生した時には全力で介入するつもりなのだけど、まだ起こらないんだよねぇ、そういう事件……。

 この国で、マッチポンプでわざと事件を起こすのもアレだしなぁ……。


 久し振りの私、そしてサビーネちゃんとベアトリスちゃんの参加に、みんながざわついている。

 コレットちゃんもいるけれど、メンバー達にとっては、私の使用人であり平民に過ぎない少女など、存在しないも同然であり完全にスルーされている。

 まあ、置物か黒子扱いなのだろう、多分。

 私の妹ということになっている新大陸とは、扱いが全く違うんだよねえ。当たり前のことなのだけど……。

 だからコレットちゃんは旧大陸こっちでのお茶会では居心地が悪そうなんだよね。


 私の補佐や護衛としての役目を果たそうとして、やる気満々で嫌がることなく出席してくれるのだけど、私がこういう場では従者としてではなくお友達として扱うのがいけないのだろうな、多分。 ……分かってはいても、お茶会やパーティーではコレットちゃんだけを別扱いする気はないよ。


 そりゃ、公式な場であれば、きちんと区別は付ける。

 でも、お茶会(この)程度の場で、そしてサビーネちゃんやベアトリスちゃんが一緒にいる場で、コレットちゃんだけを別扱いになんかするもんか!

 もしそうすることが必要だと言われれば、私はソロリティ(この会)から手を引くよ。


 いや、勿論、アデレートちゃん経由での物資の支援は続ける。アデレートちゃんの梯子はしごを外したりはしない。

 ただ、私がサビーネちゃんやベアトリスちゃんを伴って顔を出すことが一切なくなるだけだ。

 支援は全て、完全にアデレートちゃん経由。メンバーが私達に接触したり話したりする機会が完全になくなる。

 ……まぁ、その原因となる言葉を吐いた者は、皆に責められて居づらくなって、『ソロリティ』から抜ける……、卒業する(・・・・)だろうから、そうなれば訪問を再開してもいいか。


 さて、では始めるとするかな。

 舐めたことを言って私を馬鹿にして、アデレートちゃんの立場を悪くしようなんて浅はかなことを考えた連中に対する対応を……。


 いや、考えるのはいいんだ。考えたり企んだりするだけならば、それは個人の自由であり、何ら非難されるようなことじゃない。

 だけど、それを他者がいるところで口にしたり実行したりすれば、……それは駄目だ。

 貴族が人前で口にしたりやらかしたりしたことに対しては、きっちりと責任を取ってもらう。

 貴族の言動には、お家の名誉と責任が懸かっているのだ。たとえそれが当主ではなく、ただの子弟であったとしても。

 貴族というのは、そういうものだよね?


 よし、レディ、ファイッ!

 ……『淑女よ(レディ)戦え(ファイッ)!』じゃないよ?

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― 新着の感想 ―
……「レディ、ゴー」を「いけいけお嬢さん」と訳したのは たしか「っポイ!」だったな、なんて思い出しましたよ^^;
ブログで四人を招待したとき、美少女キターと言われていたぞ
[一言] どっかのリリカルな声優だか脚本家だかが心がキラキラしてたらいくつになっても少女だとか言ってた気がします キラキラしてないのかなミツハ
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