403 地図にない島 3
「今回の恩赦の対象は、No.6とNo.13です。
No.6は、今回の恩赦の理由である、慶事が続いたボーゼス家の者であること。そしてNo.13は、雇い主である貴族家のお嬢様が、10歳の誕生日に『あの者の姿を見なくなって、かなり経ちますわ。どうしたのかしら……』と心配そうな顔をしていたそうなので、私からの、数日遅れの誕生日プレゼントです!」
「……ああ! あああああああ!! お嬢様……。お嬢様ああああぁ〜〜っっ!!」
ミツハの説明を聞き、泣き崩れるNo.13。
貴族のお嬢様が、身分の低い、使い捨ての使用人のことを覚えており、気に掛けてくれていた。
そしてそのおかげで、自分が解放され、妻子の元へと帰れる。
それは、泣く。
今泣かずに、男がいつ涙を流すというのか……。
嫉妬してもおかしくない他の者達も、思わず貰い泣きをしている。
皆、同じ平民の使用人であり、そしてその中でも特に身分の低い、使い捨ての諜報員なのである。
もし我が身にもそのような僥倖が訪れたなら、と、No.13の心情が理解できない者など、ひとりもいなかった。
泣き崩れるNo.13に対して、No.6の方は、割と落ち着いている。
これは、No.6は事前に自分が解放されることを知っていたことと、別に雇い主のお嬢様のおかげというわけではないので、そこまでの感動はなかったのであろう。
……いや、『お嬢様が成人されたおかげ』と言えなくはないが……。
「くそっ、うちのお嬢様は、まだ5歳だ!」
「うちの伯爵様には、お子様は男子しかいねぇよ!」
「そもそも、俺のことなんか覚えてくれちゃいねぇよ!!」
口々にそんなことを言って、悲嘆に暮れる囚人達であるが……。
「……え? あなた達は、どこの家に雇われた者なのか知りませんから、そういうのは関係ないですよ?」
「「「え……」」」
そう。ミツハは、一度も事情聴取とかはしていない。
捕らえて、そのままこの島に捨てた……ということになっている。
それから考えると、ミツハがNo.6とNo.13がどこの手の者かを知っているのは矛盾するが、皆、そんな些細なことには気付いていない。
「「「「「「えええええええ〜〜っっ!!」」」」」」
「お、俺はマルティヌス伯爵家の者だ!」
「私は、メリヌ子爵家だ! 頼む、妻に、俺はまだ生きているから、早まるな、とだけ伝えてくださいぃ!」
「わっ、私も! 妻が早まって再婚したりしないよう、生存を伝えるだけ! それだけでもいいですから、お願いいたしますううぅ〜〜!!」
しかし、ミツハから非情の言葉が返された。
「知らんがな~……」
実は、『数年後にやっと帰れたと思ったら、妻は既に子供を連れて再婚していた』などという事態になっていると目も当てられないので、奥さんには夫が生きていることを匿名で伝えてある。
雇い主に伝えると、『そのようなものは知らぬ』とか言われると色々と面倒なので、あくまでも非公式に、奥さんにだけ伝えているのである。
それでも再婚するなら、それはもうミツハの与り知らぬことである。
中には、その情報を雇い主に知らせた奥さんもいると思われるのであるが、……ひとりもいないのである。『うちの者を返してほしい』といって謝罪に来る雇い主は……。
ミツハは、そう言って手土産でも持って謝りに来れば、返してやるつもりなのであるが……。
あくまでも……『悪魔でも』ではない……ミツハは、こちらから話を持っていって、『そんな奴は知らん、おかしな言い掛かりをつけるな!』とか言われてこちらが悪者にされるのが嫌なので、自分からは何も言い出さないだけであり、そんなに強く懲らしめるつもりはなかったのである。
なので、すぐに解放することになると思っていたのに、予想外に長期間となってしまい、ミツハも少し困惑しているのであった。
……いや、命令した者や実行犯に対しては罪悪感などないが、奥さんや子供に対しては、さすがに少し罪悪感を覚えているようである。
それと、雇い主の中には、『長期間の仕事に出ている』として妻子に給金を渡し続けている者、殉職者として纏まった額の退職金と弔慰金を渡し、妻に邸での仕事を斡旋する者、……そして『行方不明』として処理し、家族には銅貨1枚すら渡していない者とかもいるようであった。
勿論、ミツハはそのあたりのことも調べており、困窮している家族に対しては、囚人が解放された後に、本人ではなく雇い主から回収することを前提として、他の者を介して出所がバレないように十分な生活費を援助している。
……勿論、回収する時には利息も付ける予定である。
さすがに、長期任務を終えて帰ってきた者に対してその間の給金を支払わない者はいないだろうし、困窮していた妻子に無利子でお金を貸してくれていた謎の篤志家にそのお金を返済しない者はいないであろう。
その篤志家の正体が何となく予想できる場合とかは、特に……。
「残る人達には、残念賞として鉄製の農具や工具、釘、釣り鉤や釣り糸、燻製肉、そして蒸留酒をひとり3本ずつあげるよ。今回は、それだけ。
……解放されるふたりは、準備しといてね。夕方、日没頃に迎えに来るよ。
じゃあね!」
「ああっ、待って! 待ってくださいぃ!」
「話を、話を聞いて……」
しかし、既に彼らの前には、檻も、そしてミツハの姿もなかったのであった……。
* *
ふたりの解放は、無事、終了した。
朝と同じような方法で姿を現すと、『おねげぇでごぜぇますだ!!』攻撃が激しいと思ったから、こっそりと……。
事前にNo.6に、帰還の時はいつも情報提供の時に会う場所でNo.13とふたりだけで待っているようにと伝えておいたから、他の者には会うことなく終了。
準備といっても、別に荷物とかはないだろうから、朝のあの時にそのまま、っていうのでもよかったのだけど、まぁ、仲間達との別れの挨拶くらいはしたかっただろうからね。
個人的に使っていた道具や着替えとかは、当然、持ち帰らずに皆に渡すだろう。だから、転移は着の身着のまま、身ひとつで、ってわけだ。
ここで、『自分が使っていた工具や釣り道具とかは、記念に持ち帰ろう』なんて薄情なヤツはいないだろう……。
これで、内通者……情報提供者のNo.6は囚人を卒業し、その役目はNo.28が引き継いだ。
……勿論、別の内通者も仕込んである。互いに、内通者は自分だけだと思っている者を……。
ひとりだけだと、その者に何かあった場合、私に情報が伝わるのが遅れて、マズいことになる可能性があるからね。それに、自分に都合の良い報告をされても困る。
定期連絡以外にも、一刻を争う緊急事態……怪我人や病人の発生とか……に備えて、みんなが住んでいる場所の近くに、合図場も用意している。
もし急いで私に連絡したい時には、そこにある木の枝に縛り付けてあるロープを切る。
転移でそこを確認するだけなら1秒で済むから、毎日寝る前に確認する程度、私にとっては大した手間じゃないからね。
ロープを結ぶ、ではなく『切る』というのは、勿論、安全性を考えてのことだ。
切るか解くだけなら手ぶらでも問題ないけれど、『結ぶ』となると、ロープを用意していなきゃならない。
それに、『ない』ということを確認するより、『ある』ということを確認することの方が、簡単だ。
また、『ある』ということを見落とすことはあっても、『ない』ということを見落とす、つまり『ないのに、あると誤認する』ということはないだろうからね。
物事、ミスをしても安全な方に転ぶようにしておくことが肝要だ。
これで、今回の囚人の件は終わり。
解放したふたりから情報が流れて、他の囚人の雇い主達から謝罪の連絡が来ればいいな。
……でも、多分、貴族はそう簡単に他家に頭を下げられない、とか言うのだろうなぁ。
いいのかなぁ。謝罪しない限り、その貴族家や商家に対する私の心証は最悪だよ?
雇い主の命令に従い危険を冒した使用人を、自分のプライドの方が大事だからと見捨てた主人。
そんな奴、信用も信頼もできるはずがないよね。
……よし、出所不明の噂話として、それとなく事情を広めてやろう。
囚人達が全員いなくなったら、あの島はヤマノ子爵家の従業員達の保養所にでもしようかな。自然と親しみ……、って、コレットちゃんから、『うちの村での、普段の生活と変わらないよ!』って文句が出そうだな。
ま、キャンプ生活が楽しいのは、都会育ちの者だけか……。
そして、十分な食料を用意しており、数日で帰れるという場合だけ。
……よし、次行こ、次!!
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https://seiga.nicovideo.jp/watch/mg797353?track=official_list_s2
このコミカライズ100話の最後の部分に、応募要項が!(^^)/
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……何と、日本の全人口の、4倍ですよっ!(^^)/
これも全て、皆様のおかげです。
ありがとうございます!!
パソコンの換装作業は、無事、完了しました!(^^)/
……とはいっても、パソコンの基本環境を整えただけで、データはまだ退避先のHDDから新パソコンに移していないのですが……。
まあ、一太郎、メールソフト、『なろう』へのアクセス等は機能を確認したので、執筆と『なろう』更新には支障ありません。
細かい調整は、冬休暇に……。(^^ゞ




