401 パーティーの開催 9
よし、そろそろ普通の『ヤマノ料理』を出すか……。
いや、さすがに、ヤマノ子爵家のパーティーだから色々なヤマノ料理が食べられると期待していたであろうお客さん達に、地味な料理しか出さないというのでは期待を裏切ってしまうだろう。
なので、みんなが期待しているであろう、普通のヤマノ料理も出さなきゃね。
最初から出すと、宣伝用の『地味なやつ』があまり食べてもらえないかと思って、こういう出し方にしたんだよね。
そして既に宣伝用のは十分食べてもらえたから、目的は達成した。
あとは、お客さんに満足してもらえるようにしなきゃね。
他の部分でどんなに盛り上がっても、大事なところでお客さんの期待を裏切っちゃあ、意味がない。今後の集客率にも影響するだろうしね。
「通常のヤマノ料理を出して。スイーツも、全部!」
「はい!」
領地から連れてきた、ヤマノ家のメイドに指示を出した。
これで、他家……ボーゼス侯爵家王都邸や、ライナー子爵家王都邸……と王宮から借り受けた料理人やメイド達にも指示が伝わり、お客さん達が期待していたであろう料理が出される。
勿論、今までに出したことのないものもある。
マンネリは、飽きと低評価に繋がるからね。常に新しいものを加えなきゃ……。
そして、次に……。
「コレットちゃん、アレの準備は……」
「万端!」
うん、コレットちゃんは、私の期待に応えるためなら、どんな無茶でも躊躇わず、無理を通す。
だから、私からこういう頼みをされて、張り切らないわけがないし、手を抜くことなどあり得ない。
「よし、発動準備!」
「アイアイ、マム!」
そう言って、コレットちゃんが駆け去っていった。
では、私の方も……。
「皆様、ただ今より、次の余興が始まります。我がヤマノ子爵家が誇る、メイド達による演し物、どうぞお楽しみください!
……では、ヤマノ家メイド隊、『メイドさんだー』、でびゅー!!」
そして会場の中央付近、ステージ用として空けられているスペースへと飛び出してきた、我が家のメイド達。
……そう、今回の隠し球は、これだ。
マッハ・これだ~!!
コレットちゃんとサビーネちゃんが新大陸で見たやつ。
うん、あのヴァネル王国王都の中央大広場で開かれた、貴族・平民を問わない演奏会。
あの時に見た、ソサエティー幼年組による演奏……とは名ばかりの、歌と踊りのパク……リスペクトとオマージュ、引用と参照と、左右反転だ。
ヤマノ子爵家のメイド少女隊と成人隊は、ソサエティー幼年組よりかなり年齢層が高い。だから、スカートの裾は膝がギリギリ見えないくらいで……勿論、ダンスをすればスカートが翻るから、膝は見える。その、もうチョイ上まで……。
そして、ひらひらの飾りとネコミミカチューシャ、シッポを装備。
流れる1曲目は、『メイドさん音頭』。
いや、別にえっちな歌じゃないよ。
平民街の酒場でなら、多少えっちな歌やダンスでも構わないけれど、ここは王宮であり、貴族や王族、そして一部の大金持ちの商人とかが参加している、超上流階級のパーティー会場だ。御婦人や子供達もいるというのに、エッチなのは許されない。
だから、曲調も歌詞も、明るく元気なポップな曲だ。
そして、曲に合わせて元気に踊る、メイド達。
衣装はオリジナルだけど、明らかにメイド服をモチーフとしたと分かるもの。
それに、魔法少女のようなイメージと、ネコミミ、シッポを追加。
美味しいところを色々と詰め込んだ、『欲張りセット』だ。
貴族達も、普段は『使用人は自分達とは別種の下等な生き物であり、道具に過ぎない』というような目で見る者もいるけれど、今は、明らかにメイドであると思われる少女達の、躍動感に溢れる元気な姿に、思わず目を奪われている。
メンバーはうちのメイドの一部だけなので人数が少ないけれど、ステージとして使えるスペースが狭い……ホール全体は広いけれど、テーブルやら遊具やらで埋まっている……ため、見栄えとしては、そう悪くはない。
サビーネちゃんとベアトリスちゃんも参加したがっていたけれど、そりゃ無理だ。
ふたりは多忙で練習のために割けるような時間はないし、もし時間があったとしても、そもそも王女殿下や侯爵家御令嬢をメイドと一緒にスカートを翻らせて踊らせることなんかできるはずがない。コレットちゃんが加わるのが、精一杯だ。
コレットちゃんは常駐場所がうちの領地邸だから、みんなとの練習に参加するのがサビーネちゃんやベアトリスちゃんに較べてずっと簡単だし、体力もあるし、私の役に立つためなら不眠不休で練習するからねぇ……。
……いや、止めたよ、勿論!
ちゃんと休むように。そして、ちゃんと寝るように厳命したよ!
私が言うことは何でも聞くくせに、『働くな』、『勉強するな』、『休め』、『寝ろ』、……そして『私の安全より、自分の安全の方を優先しろ』という命令だけは、聞きやしない……。
ホント、困ったもんだ……。
曲が続いて、『メイドさん音頭』の次は『メイドさんバラード』、そして『メイドさんエレジー』。
最初はポップで元気な曲、次にゆったりしたテンポの美しいメロディ、そして最後は静かな哀歌。メイドの人生を3段階に分けて、それぞれを曲と歌詞、そして旋回を主要要素とする『舞』と跳躍を主要要素とする『踊り』を組み合わせ、見事に表現した。
勿論、ぶっつけ本番ではなく、事前に練習を見せてもらい、予行演習も行ったから、私は初めて見たわけじゃない。
それでも、すごい完成度だと思うし、感心した。
現代地球の歌や踊りを知っている私でも、だ。
それを、この世界の者達が初めて見て、初めて聴いたなら……。
演奏と歌、そしてダンスが終わり、し~んと静まり返る、大ホール。
しらけているわけじゃない。みんな、言葉もなく呆然としているのだ。
あまりこういうのは分からないだろうと思っていた子供達も、動きを止めている。
……何があろうと給仕の手を止めないはずのウエイターやウエイトレス達までが、固まっている。
そして、少し経ってから、拍手が湧き起こった。
メイド風情の歌やダンスに、貴族達が拍手する。
……うん、『メイドさんだー』のみんなにとって、こんな晴れ舞台は望外のものだったろうな。
* *
何やかやで、ヤマノ子爵家主催のパーティーは、無事終了。
そして地球からの持ち込み品じゃない、うちの領地の生産物の宣伝……それらを使った料理や製品とかも含めて……は、目的を達成した。
定番のヤマノ料理やスイーツ、大型遊具やテーブルゲームとかで、次世代を背負って立つ子供達の心もガッチリ掴んだ。
経費は、他家のパーティーに較べると、かなり安く上げられた。
ふはは、大成功だ!!
……でも、何人かの貴族に、愚痴られた。数日後にパーティーを開く予定の人とかにね。
責任を取って、演し物の担当をしてくれ、とかいうの。
まぁ、気持ちは分かる。
うちのパーティーと比較されるだろうからねぇ。
大事な目的があるパーティーとかだと、大惨事だ。
まぁ、私の返事はひとつだけどね。
『知らんがな~!!』
……そして私は、知らなかったんだ。
まさか、あの後にあんなことになるなんて……。
大型のエアー遊具は、みんな『あれはすごく高価そうだし、神力がないと使えないみたいだな』と思ったのか、自分達も、ということにはならなかった。
しかしビンゴゲームは、やり方は簡単だし、器材にはそうお金は掛かりそうにない。カードは私から買えばいいしね。
……でも、問題は、賞品だ。
私の場合、原価メチャ安でここの人達にとってはすごく魅力的なものを買い込める。
しかし、この国で手に入れられるもので、貴族が眼の色変えて欲しがるようなものって、あまりないよねぇ。
こういうゲームの賞品に、すごく高価だけどそう珍しくもないもの、というのは、品がないし。
それに、そんな高価な商品を20個も30個も用意していたら、1回のパーティーで数回分の予算がかかっちゃうよね。
……で、どうなったかというと……。
貴族達の多くが、メイドに歌やダンス、その他様々な演芸を仕込むことに熱中しやがった!!
自分達の邸のメイドに、うちの『メイドさんだー』みたいなことをやらせ始めたんだよ!
歌やダンスだけでなく、演劇、コント、奇術、その他諸々……。
いや、いいんだよ? そういうのが好きなメイド達は喜んでいるし、その分、給金が割増しになるそうだし……。
そして、貴族家対抗の使用人演芸大会みたいなものも計画されているとか……。
また、それらに刺激されて、素人の平民に負けていられるかと、貴族の芸術家とか、パトロンを得て活動しているプロ達が発憤しているとか……。
まあ、それらはいいんだけど、そういうのが苦手なメイドさんには、悪いことをしたなぁ……。
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12月1日(金)、拙作『ポーション頼みで生き延びます!』小説版10巻、刊行です!(^^)/
現在販売中の、コミックス『ポーション頼みで生き延びます!』1~9巻、その続きである『ポーション頼みで生き延びます! 続』1・2巻、そして小説版のイラストを担当してくださっている、すきま先生によるスピンオフコミック『ポーション頼みで生き延びます! ハナノとロッテのふたり旅』1巻も、併せてよろしくお願いいたします!(^^)/




