372 お友達 2
「なる程、曾祖母ともなると、向こうのせか……国じゃあ、『妖怪並み』かぁ。
確かに、出産、病気、事故、戦争、魔物、栄養状態、その他諸々で、ひ孫の顔が見られるほど長生きできる者なんか、滅多にいないか……。
あ、ちなみに、この国じゃあ2パーセント、100人中ふたりは100歳まで生きてるよ。
……その多くは女性だけどね」
「「えええええええ〜〜っっ!!」」
驚愕の叫び声を上げる、サビーネちゃんとコレットちゃん。
ま、驚くか、そりゃ。
「100歳なんか、村の長老様でも到底不可能だよっ!」
そりゃ、風邪や盲腸で簡単に死ぬような世界だもんねぇ。破傷風のような、怪我が原因で罹る病気もあるし……。
地球でも、昔は虫歯が原因で死ぬこともあったらしいし……。
……そして私は、殺されなきゃ、多分100歳以上まで生きられる……と思う。
「で、別に親友というほどではない、ただのクラスメイトの曾祖母のために、秘密がバレる危険を冒せと? もう平均寿命はとっくに超えていて、人生の元は取った老人のために?
肺炎はこの国の死因の中ではかなり多くて、別に不慮の死だとか非業の最期とかいうわけじゃないよ。
子や孫、ひ孫達に囲まれて、ベッドの上での大往生。
これ、余所者が手出しする必要、あるの?」
冷たいようだけど、それが普通……、いや、普通以上の、幸せな大往生だろう。
「「…………」」
ありゃ、粘るなぁ……。
「これが、11~12歳のクラスメイトが、とかいうなら、私ももう少し考えるよ。
でも、クラスメイトの曾祖母でしょ? そんなのいちいち構っていたら、切りがないじゃん。
別のクラスメイトの曾祖父母や祖父母は? 飼ってる犬がフィラリアになったと言われたら?
そんなの全部相手にするわけ?
どこまで救済の範囲を広げるの? 同じクラスの者の家族だけ? 同学年の者の家族は?
他の学年の者は? 教師や出入り業者は? 商店街のおじさん、おばさん達は?
そんなに誰でも彼でも相手にするわけにはいかないでしょ? 私に、この国の平均寿命を引き上げて、統計学者達を混乱させろと?」
「「…………」」
「それに、そんなことやっていたら、秘密がバレちゃって、留学を中止しなきゃならなくなるよ。それでもいいの?」
「……いいよ」
「うん!」
……え?
「留学が途中で終わるのは残念だけど、お友達が泣くのを見ずに済むことに較べたら、大した問題じゃないよ」
「そうそう!」
……。
…………。
まぁ、サビーネちゃんとコレットちゃんだもんねぇ……。
どうすべえ……。
* *
あれから2日後。
……いや、午前2時を回っているから、正確には3日後か。
既に準備は整っている。
サビーネちゃんに、海月ちゃんとやらの曾祖母が入院している病院名と、その部屋番号を聞き出させた。
そして、昼間のうちに、スタッフステーションの人達が忙しい時間帯を見計らって、お見舞いの品を持って堂々と病棟へ侵入。
目的の病室の前を通り過ぎ、角を曲がって人目がないのを確認して転移で帰宅。
もし誰何されたら即座に転移するつもりだったけれど、問題なかった。
まあ、お見舞いの品を持った15歳前後に見える少女を怪しむ者はあまりいないだろう。
それに、少女がすうっと消えた、なんて怪談話、大きな病院なら珍しくもないだろう。
これがマンションとかだと、風評被害で価格が下がるかもしれないけれど……。
ま、そういうわけで、いつでも海月ちゃんの曾祖母の病室の前に転移できるというわけだ。
お金持ちだからか病状が悪化しているからか、個室らしい。見つかる危険が小さくなるから、ありがたい。
……どうして引き受けることにしたか?
ここで使いやがったんだよ、『今までの貸し分』を!
サビーネちゃんの分だけでなく、コレットちゃんまでが行使しやがった!
その中には、コレットちゃんが命懸けで私を護ってくれた分もあるんだ。
……断れるわけがないだろうがっ!!
はぁはぁはぁ……。
この時間だ。さすがに、ふたりはもう眠ってる。
いや、今夜私が行動するとなると、絶対起きて待ってると言うだろうから、何も教えず、こっそりと行動しているんだけどね。
ふたりには、明日も、……いや、もう今日になるか……、学校があるんだからね。
子供を、睡眠不足の状態で学校に行かせるわけにはいかない。そんなの、怪我や事故の元だ。
見つかった時に幽霊だと思われるように、服装は白いワンピース。
そして大きめのダンボールに入って、2重のカムフラージュ。
よし、転移!
目標の病室の前の通路に出現。
ダンボールから頭を出して、素早く周囲を確認。
潜水艦で、潜望鏡を出して一瞬の内に周囲をサーチするのと同じ要領だ。
……そして、人影がないことを確認して、ひと安心。
スタッフステーション……今はナース以外の理学療法士、作業療法士、メディカルソーシャルワーカー、その他様々な人がいるから、『ナースステーション』とは言わない病院が増えているらしい……の方向は明るいけれど、このあたりは常夜灯の明かりのみ。
よし、病室のドアの向こうへ、転移!
こんな手間を掛けているのは、内部を見ていない病室に直接転移するのはリスクが大きすぎるからだ。
一旦ドアの前に転移すれば、『ここから1メートル前、ドアの向こうへ』という再転移を行うことにより、安全に病室内に出現できる。
もし通路で誰かに見られたり、室内に誰かがいたりした場合には、即座にマンションの自室に転移して、『昨夜、病院に幽霊が出たそうですね』ということにすれば問題ない。
また、後日再挑戦すれば済むことだ。
……よし、病人以外の姿はなく、病人も眠っている模様。
バイタルデータを監視して、何かあれば警報を送る機器があるから、人間が張り付いている必要はないのだろう。
勿論、それを狙って午前2時を選んだわけだけどね。
確率的には85パーセントくらいだと考えていた、理想的なパターンだ。
そして、私の目的を安全確実に遂行するため、事前に何度もイメージトレーニングをしてある。
……私のトレーニングではなく、私に融合している精神生命体の欠片に私がやろうとしていることのイメージを覚えさせ、理解させるために。
……そう。気管と肺の中にある、誤嚥したもの……食べ物や唾液等……と炎症の原因である細菌を、転移で除去するのである。
自分の体内のものを除去するには、『除去するものをそこに残して、自分の方が転移する』という形になるけれど、他者の体内にあるものであれば、その人を残して、除去したいものを連れて転移すればいい。
誤嚥したものや細菌だけを選択するのは、私の精神に融合してしまった『それ』の精神体の一部に丸投げ。
外付けのハードディスクのようなその部分は、自我はないみたいだけど、何でもそつなくこなしてくれるのだ。
この、精神知性体の欠片……意思や感情などの理性や感性はないけれど、知的能力はあるみたい……のおかげで、転移ポイントを正確に記憶できたり、直接視認できないものや大雑把に指定したものでもきちんと選択的に転移が可能なのである。
でなければ、細菌の転移なんかできんわ!
今回の場合、『気管と肺にある、人体に害を及ぼすもの』、『健康体である人間の気管と肺にはないもの』というイメージや、私の知識にある気管と肺というものの構造や機能、役割、そして細菌に関する知識、存在が必要である細菌は除外する等、おそらく他の人間の体内を走査しての比較検討、確認等を経て実行してくれるものと思われる。
『それ』が私の頭の中に直接突っ込んでくれた知識によると……。
そして、病人の胸の辺りを凝視する。
病室から離れた場所で、『病室内の細菌、全部ついて来い!』とかいって転移した場合、連れていっちゃ駄目なやつまで連れていっちゃう危険があるから、安全を期すため、至近距離でやることにしたのだ。
うっかり、身体中の細菌全て……腸内細菌とかも……連れていったりしちゃ、ちょっとマズいだろうからね。
安全策に、やり過ぎという言葉はない。
……よし、細菌と誤嚥物を引き連れて、転移!




