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37 人材確保

 スヴェンさん達が到着した。

 リヤカーは売ってくるかと思っていたのに、僅かとは言え持っていた私物を積んでのリヤカーを引いた徒歩移動とは……。

 まぁ、完全武装の伯爵領領主軍が王都まで往復したことを思えば、大したことはないのか…。

 早速ヴィレムさんと顔合わせをして、最初の徴集兵36人の名簿を渡しておいた。あとは丸投げである。


 正直言って、村人を少し訓練したぐらいで盗賊に勝てるとは思えない。

 そりゃ、数十人の盗賊に対して200人の村人をぶつければ敵を倒すことはできるだろうけど、それでこちらも数十人とかの被害が出ては村が潰れてしまう。


 分かってる。それを回避するためには、銃があればいい、ということは。

 しかし、銃は私がいなくなれば弾薬も整備も続かず、すぐに使えなくなる。それじゃあダメだ。

 一応、万一に備えて、一部の者にはサブマシンガンの撃ち方と弾倉交換だけ教えておこう。勿論、銃はいざという時に渡すのであって、普段から持たせたりはしない。非常用の武器弾薬はウルフファングのベースの一室を借りて色々と置かせて貰っている。それを転送する。もし時間的余裕があれば、彼らを再び雇用できるかも知れないし。一応、隊長さんにそういう場合のための話をしておこうかな…。


 あ、ボウガン、どうしようか。簡単な構造のやつをここで試作してみるのはアリかな? うう、腕の良い鍛冶師が欲しいなぁ。農具や船具、工具なんかもこの町で作りたい。自力での発展に直結しそうなのに……。

 製鉄は? とりあえずは日本から鋼を持ち込むか。そう大した量じゃないし。将来的には製鉄もしたいけど、自然破壊もイヤだしなぁ。高品質少量生産で行くか。玉鋼? たたら製鉄? 木材が大量に必要だったっけ?

 チタン…、いやいや、加工が難しいよね、ここでは。



 コレットちゃん、到着!

 いや、迎えに行ったんだけどね、勿論。

 いつまた狼やら盗賊やらが出るかも判らないのに、護衛もなしにコレットちゃんに単独で移動させるわけがない。私とヴィレムさんでお迎えに。

 スヴェンさん達は村人兵士一期生を特訓中。


「うわぁ、ミツハ、本当に子爵様なんだぁ!」

 おいおい、信じてなかったのか、コレットちゃん!


 とにかくこれで、護衛兼訓練教官、見習い兵士、癒し要員が揃った。

 あとは、チートな発展を目指して領地改革だ。

 三圃式農業? 輪栽式農業? ノーフォーク農法?

 三圃式農法は過渡期的なものか。一気にノーフォーク農法へ行くか?

 いやいや、ここは専門家の意見を聞こう。

 農業の相談はエンドウさんか…。


 掘ればカネになる鉱物資源が発見できないのは痛いな…。

 あとは海産物か? もっとまともな漁船があれば…。

 情報と知識だ。もっと情報が必要だ。

 本とネットに時間をかけよう。


 あ、その前に、とりあえず使用人を補充しないと……。




 人材の確保について、思案中。

 賄賂や偽造が横行するこの世界、基本的に書類の信頼性やら知らない人からの紹介状とかはアテに出来ないので、信頼できる人物からの直接の紹介と、面接による本人の確認しかアテにはできない。まぁ、面接も、その時だけ猫を被られたら判別は難しいけど…。


 伯爵様が家臣を貸そうかと言ってくれたけど、断った。

 アレクシス様の方の手伝いもあるだろうし、色々と『今までに無かったやり方』をするかも知れないしね。いくら伯爵様のところとは言え、あまり情報が筒抜けになるのも考え物だしね。


 ん~と、財務関連担当、農業・漁業担当、商業担当、と。あと、福利厚生、そしてメイド2名。

 メイドは、執事のアントンさんや使用人のみんなにいい人の心当たりがないか聞いてみよう。勿論、掘り出し物が見つかるかも知れないから、一般募集も行うけど。


 財務や各産業については懲戒解雇した6人の内の3人と、残ったもうひとりが担当していたけれど、それらは税の徴収や換金、不正行為の取り締まり等が中心であり、『産業を育成するための施策』等とは無縁だった。そのあたりを任せられる人材となるとなぁ。技術者で、そういう方面にも使える人材がいればいいんだけど、王都での一般募集ははかばかしくなかったしなぁ……。


 ただ手先が器用なだけの普通の技術者ではなくて、柔軟な思考が出来て、広い視野を持っていて、…って、そんな人材がフリーのままなわけがないか。

 多少変わり者でも構わないんだけどな、変人で普通のところでは勤まらないけど、才能と能力はある、っていうような人でもいれば。どこか、そういう人を知っていそうなツテでもあれば……、って、あるんじゃないの、もしかして!

 そう、才能がある変人の巣窟、プラチドゥスさんのところ!


 いや、あそこ自体は少し方向性が違う研究畑だけど、才能と能力のある変人のツテはきっとある! そういうのって、大体が知り合い同士なんだよね。ほら、『類は友を呼ぶ』ってやつ?

 早速、相談に行ってみよう。

 いや、なんか話が合って、結構仲良しになっちゃったんだよね、あのおじいちゃんとは。



 …で、居た。

 ひとりは、師匠の指導通りにせず、色々と勝手におかしな事をするため破門され、お金に困って日当仕事をしながら細々と研究を続けている金属加工職人。プラチドゥスさんが時々研究に必要な道具の製作を発注してあげているらしい。

 その人が作った製品を見せて貰ったり、色々なエピソードを聞いたりしたところでは、典型的な『凝り性の技術馬鹿』という感じ。腕は良く、発想も中々いい。プラチドゥスさんに、会ってみたいと伝えて貰うことにした。


 もうひとりは、プラチドゥスさんの弟子の女性。プラチドゥス派のメインである科学方面からは少し外れて、社会学的な方面に興味を持っているらしく、他の者とは少し合わずに浮き気味らしい。数字には強いらしく、参謀役にいいかも…。

 プラチドゥスさんいわく、悪い子ではないのだが、うちとは少し水が合わないようだ、との事。ミツハのところで活躍できれば、と、推薦したらしい。本人にはまだ何も言っていない、との事であった。

 こちらも、後日面接させて貰うよう頼んでおいた。




 そして、面接当日。

 金属加工職人のランディさん、23歳。

 大体はプラチドゥスさんに聞いていた通りであり、人格的に問題はなく、ただ単に技術馬鹿が過ぎて他の人とうまく行かないだけだった。腕はかなりいい。これは買いだね。運営的な仕事は任せられないけど、技術者としては問題ない。逆に、新しいことにも抵抗なくのめり込んでくれそうで、都合がいい。

 地球のものを参考にした部品を造って貰うのに最適だ。


 次に、プラチドゥスさんの弟子のミリアムさん、19歳。

 面白い。頭の回転は速いし、しっかりとした洞察力がある。社会学的なことに興味があるなら、領地の政策的なことに携わって貰おう。

 畑違いっぽいけど、せっかく数字に強いのだから、財務関係も任せられるかも。これまたお買い得だね。


 ふたりとも是非採用したいと伝えたら、本人達は勿論、プラチドゥスさんにも凄く喜んで貰えた。本人達は、それぞれ行き詰まっていたところを、いくら田舎の領地とは言え子爵家からの直接のお声掛けである。それも、自分達の専門分野に期待されてのスカウト。喜ばないはずがなかった。

 ふたりは、出来る限り早く領地へ向かうとのことで、すぐに身辺整理に取りかかった。両親への説明とか、色々あるのだろう。


 で、プラチドゥスさんから、ヨルクもどうか、と言われたけど、断った。

 どうしてかと不思議そうに聞かれたので話をよく聞いてみると、ヨルクさん、どうやら私がヨルクさんの説明を理解出来ずに追い払った、というふうに報告していたらしい。だから、じっくりとヨルクさんに教わってはどうか、と…。


 腹が立った。

 で、しっかりと全部説明したよ。馬車でのことから、いくつか説明させた学説が全部あまりにも初歩的なもので、そこまでは知っている、と言えばそれ以上の説明が出来なかったこととか。

 大体、自分の都合の良いように虚偽の報告をする研究者など全く信用出来ない。そんな者に出すカネは無い。いくらお金が余っていたとしても。

 それに、そういった輩は、自分の保身のためならまたいつでも嘘を吐いたり私や仲間を売るだろうからね、盗賊の時のように。


 更に、プラチドゥスさんと話していると、プラチドゥスさんは別にヨルクさんに『客員講師に』などと指示してはいなかったことが判明した。どうやら、プラチドゥスさんはただ単にパトロンや寄付のお願いをするよう指示しただけなのに、相手が少女と知って勝手に取り入ろうとしたらしい。

 師匠の指示をねじ曲げて捏造し貴族に嘘を吐くとは、ますますお断りだ。プラチドゥスさんには、先日寄付したお金はヨルクさんの研究には一切使わないよう、強く念を押しておいた。さすがにプラチドゥスさんもまずいと思ったのか、渋い顔で頷いていた。




 人材募集も何とかなりそうなので、転移で領地に戻った。

 あんまり何度も転移で移動しているとバレるかな、とは思うけど、転移を使って王都と行き来しないとあまりにも不便だからなぁ…。

 それに、乗合馬車で片道8日もかかる距離だから、そもそも私がいつ、どのような行動をしたかなど、把握できる者は多分いないだろう。王都にしても領地にしても、ああ来てるんだ、とか、ああ戻ったのか、とか思われるだけだろう。まぁ、あまり気にしないことにしよう。


 数回くらいなら、バレても『面倒なんで渡りを使っちゃいました』で済むか。伯爵様やイリス様あたりにバレたら『ミツハの生命力が!』とか言ってお説教が始まりそうな気がするけど……。

 面倒な設定作っちゃったかな。いやでも、そうしとかないと、本国との交流を、とか言い出す貴族や商人が出てきて大変なことになるから、仕方ないか。



 で、領地に戻ったら、現従業員のツテによる推薦と一般募集でメイドさんの希望者が大勢リストアップされていた。

 どうやら待遇やミツハの人となりを聞いたらしく、って、子爵家のメイドで、しかも領主が少女なら虐待やお手つきの心配も無いしで、希望者殺到は当たり前か。

 大きな領で領民が数万人、とかなら領主家で働けるのは超幸運と言えるだろうけど、領民数百人だとそう宝くじ並みの確率というわけでもないし。

 あ、それはここが男爵領並みの領民数だからか。子爵家のメイドともなると、普通はもっと狭き門なのかな、領民も数千人は居るだろうし。それならば、手の届く範囲に子爵家使用人の道がある、となれば、飛び付くのも無理はないか…。


 コレットちゃんの村でも、雇って欲しそうな素振りの人が多かったしね。

 いや、そうそう他領の住民は引き抜けないよ。

 コレットちゃんは、命の恩人で親友だから、と伯爵様にちゃんとお願いして許可を貰ったのだから。

 才能がありそう、というのは内緒。どこの領主も、才能のある領民が流出するのは渋るだろうから。

 ふふふ、伯爵様、数年後にコレットちゃんを手放したことを後悔するが良い!


 とまぁ、そういうわけで、大勢の中から書類と面接にて選考。

 懲戒解雇にしたメイドは、雑役メイド頭…はケーテを昇格させたから、採用するのはヒラの雑役メイド…と、元領主夫人付きであったメイドの二人。自分には元領主付きだったメイド…初めてここに着いた時に出迎えてくれた少女…が居るので、お付き用のメイドはもう要らない。二人とも、普通のメイド要員でいいか。


 と言うか、メイドの区分を撤廃しようかな。お付きメイドとか雑役メイドとか、メイドの中で階級作ってどうするよ? 別に凄く専門的な特殊業務、ってわけじゃないんだから、みんなが何でもできるようにして区別を無くせば良いんじゃないかな。

 今まで上位になっていたお付きメイドは嫌がりそうだけど、領主一家や来客の世話をするメイドは偉くてその他の仕事をするメイドは格が下、とか、何の意味もない。


 恐らく、見た目が良いメイドがお付きメイドになって、領主の側女要員でもあったのだろう。ここが元々子爵家以上であれば、男爵家の三女とか大商人の娘とかが行儀見習いとかで居たりしたかも知れないけど、田舎の弱小男爵家では平民しか居ないか。領内にはそもそも『大商人』なんかいないし。

 とまぁ、そういうわけで採用は『普通のメイド』枠で。人数は2~3人、かなぁ。ま、いい人材がいるかどうかで、柔軟に対応、ってことで。

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