347 復讐の弾道 4
「も、ももも、勿論、いいとも!」
「よ、よよよ、喜んで!!」
よし、掴みはバッチリ!
* *
「そういうわけで、この町は……」
「うんうん!」
モテモテである。
……サビーネちゃんが。
なぜなのか!
ここは当然、13歳くらいに見られる、姉役である私の方がモテるのではないのか!
サビーネちゃんは、まだ……、って、この前、12歳になったよね、確か……。
初めて会った時には10歳だったよね。あれから、もう2年かぁ。
ここでは13歳くらいに見られる私との身長差も、もう殆どないなぁ……。
……え? 何?
もう既に、女子力でサビーネちゃんに負けてるってこと?
サビーネちゃん、12歳。
……私、20歳。
この男の子達、15〜16歳くらい。
ああ!
あああああああっっ!!
……と、とにかく、そういうわけで情報収集は順調に進んでいる。
サビーネちゃんによって……。
で、その結果、得られた情報はと言うと……。
ここの領主は、領民にとっては、そう悪い領主ではなかったらしい。
……かといって、『良い領主』というわけでもないけれど……。
普通に、標準的な税を取り立て、普通に、領地運営を行う。
上の方のことは分からないが、領民達にとっては、普通の領主。
それは、平民達にとっては、望外の幸運であるらしい。
しかし、帝国による侵略が、その平民達の幸運を奪った。
戦いと略奪により、農作物と金品、……そして領民に大きな被害が出て、領地運営が一気に悪化。
国からの支援はあったが、到底失われただけのものを全て補填できるようなものではなかったらしい。
なので、領主は国や他領、そして大商人達に低利での借款の申し入れ、その他諸々の施策で王都での活動が忙しくなり、そのため内政に割く時間が取れなくなり、……そして代官を置いた。
……その代官が外れだったというわけだ。
「それで、領民達、特に農民が大変でさ……」
え? そこは詳しく聞かなくちゃ!
「農民の税率は、何割なんですか?」
「それで、モゲラやずももミミズを退治するために俺達若手の傭兵を雇ってくれる余裕がなくなって、困ってるんだよなぁ……。
あ、いや、ボランティアだよ? 農民を助けるために、小遣い銭程度で安く受けてあげてるだけだよ、あはは……」
いや、そんな見栄を張っても、サビーネちゃんにはバレバレだよ……。
そして、今の会話で分かる通り、このふたりは私の言葉は全てスルーして、サビーネちゃんにしか話し掛けないのだ。
これっとしっているか 男子はさびーねちゃんにしかはなしかけない
……って、うるさいわっ!
とにかく、私が話し掛けると、『メイドは引っ込んでろ!』というような感じで睨まれるのだ。
そして、サビーネちゃんは自分の任務を自覚しているから、ニコニコして情報収集を続けている。……コメカミに青筋を立てて。
そう、サビーネちゃんが、私を馬鹿にしたり無視したりする者を許すはずがない。
今は、優先すべき任務の遂行中だから、必死で我慢しているだけなのだ。
いつもなら完璧に演技するサビーネちゃんが、私が気付く程度には化けの皮が剥がれている。
……つまり、それだけ激怒しているってことだ。
それに気付いていないのは、何とかサビーネちゃんとお近づきになろうとして必死の、この男の子ふたりだけ。
今、この飯屋にいる者達……他のお客さんや、店員達……は、全員が気付いている。
そりゃ、一緒に旅をしている相棒が邪険に扱われて、怒らない者はいないだろう。
このふたりは、いったい、何を考えているのか……。
「……それで、農民の税率は何割なのかな?」
「ああ、7割5分らしいよ」
「「なっ……」」
サビーネちゃんが聞けば、この通り、ちゃんと教えてくれる。
そして、そのあまりの高率に、絶句する私とサビーネちゃん。
農民の税の相場は、最低で4割、最大で6割。
4割などというのは、領内に非常に儲かる財源……鉱山があるとか、周辺地域の商業の中心地だとか、香辛料が栽培できるとか……がある場合で、かつ、領主が底抜けにお人好しである場合だけだ。
……つまり、滅多にない、ということだ。
そして6割は、継続できる税率の限界。
7割になると、農作物は豊作であったが別の理由でどうしても領地としてお金を必要とする場合の、単年度のみの特別措置である。これを2年以上続けると、農民か領主一族、どちらかが死に絶えることになると言われている。
……それが、7割5分で、ずっと継続。
正気の沙汰とは思えない。
「……馬鹿なのかな?」
サビーネちゃんが、そんなことを言うけれど……。
「いや、多分違うと思うよ。……馬鹿じゃなくて、大馬鹿!」
「それだっ!」
いや、そんな税率で、農民が保つわけがない。
それに、農民に掛ける税率がそれなら、通行税や売買税とかも想像が付く。
帝国による被害の復興のためとしては、逆効果だ。それこそ、本当に領地が潰れてしまう。
……本当に、正気なのか?
そして、それからしばらくこのふたりの男の子から情報収集して、もう有益な情報が出尽くした。
所詮、15~16歳の新米傭兵だ。そんなに政治的な情報を持っているわけじゃない。
それに、その情報も、ただの噂話であり、信頼性に欠ける。
そういう場合は、情報量を増やして、比較検討や分析をしなくちゃね。
なので、サビーネちゃんに合図を送る。
『もう、出涸らし。次に行こう』ってやつを。
その合図を受けて、やっとコイツらの相手を終えられるのかと、ホッとした様子のサビーネちゃん。
……まぁ、かなり我慢していたみたいだからねぇ……。
なので……。
「ありがと。じゃあ、私達はこれで。
食事の代金は払っておきますので……」
「え? いや、もっと色々な面白い話があるよ? 店を替えて、甘味処かどこかで……」
ニコニコしていたサビーネちゃんが、急に真顔になって話を打ち切ったため、慌てる男の子達。
「でも、おふたりは姉様のことが気に入らないのでしょう? 大好きな姉様に対してあからさまな悪意を示す人とは、これ以上お話ししたくありませんわ!」
「「え……」」
平凡な容姿の『平たい顔族』である私に対して、サビーネちゃんは『ふわふわの、如何にもなお嬢様』だ。そのため、私はお付きのメイドだと思い、軽くあしらっていた、少年達。
それが、まさかの姉妹であり、妹が敬愛するお姉様であったとは、思ってもいなかったのだろう。
そして、がっくりと肩を落とすふたりの少年を後に、支払いを済ませて店を出る私達。
他のお客さんや店員さん達は、せっかく掴めたかもしれないチャンスを自分達の愚かな行動でみすみすドブに捨てた少年達を、馬鹿にした顔で見ていたよ。
うん、確かに、もしあの少年達がちゃんと私達ふたりに対応してくれていたならば、数日間雇って、私達の護衛や情報収集の仕事を依頼する、という可能性もゼロじゃなかったし、真面目に働くなら、その後も色々と優遇してあげたかもしれない。
でも、もうその可能性はなくなった。
さ、次行こ、次!




