300 帝国の受難 5
というわけで、帝国との交渉……じゃないな、賠償金の受け取りと、約束の履行の確認は、この国の上層部にお願いした。
うん、いつも色々とサービスしてあげているんだから、こういう時には返してもらわないとね。
「……まあ、そういうやり方も、取り得る選択肢のひとつであり、戦略のひとつとしてはそう悪手だというわけでもないか……。
ミツハの、個人的な立場がどうなるかということを考慮に入れなければ、だが……」
王様は、私のことを心配してくれているけれど、私にとってはそんなことよりも、コレットちゃんや孤児院の子供達、そしてうちの領民達の身の安全の方が重要だ。
私の関係者に手出しすれば全てを失う、ということを周知させることの方が……。
……サビーネちゃん?
いや、王女様は常に護衛に護られているし、王族を襲ったりすれば、即、戦争だ。
私なんかより、ずっと安全だよ、サビーネちゃんは……。
とにかく、これで帝国の方はしばらく放置かな。
あのビラで、私が海水撒布は保留にしたと伝わっただろうし、皇帝の退位、その直系卑属である子供や孫達の廃嫡、そして傍系卑属や上位貴族達の争い等が、そう簡単にケリが付くとは思えないからね。
とにかく、貰うものだけ貰えば、あとは潰し合って消耗してくれればいいや。
すり潰すのは、国の財産や食料、国民の命とかではなく、自分達が溜め込んだ財貨と、暗殺による貴族の命だけで……。
「じゃ、あとはお願いしますね! 私、コレットちゃんのところへ行かなきゃならないので……」
「あ、こら待て、全部押し付けてさっさと帰るんじゃない! もう少しきちんと説明せんか!」
よし、脱出!
* *
「……というようなことが、あったぞな……」
「鬼か!!」
帝国への報復のことを説明したら、コレットちゃんに呆れられた。
ここは、イギリスのとある病院の地下深くに秘密裏に作られ……ているわけじゃない、普通の総合病院の地上6階。
地下にあるのは、霊安室だ。
報復活動がひと区切りついたから、今日は1日、ずっとコレットちゃんの付き添い。
勿論、サビーネちゃんもいる。
異国の地で、怪我をして動けず、付き添う家族もいないというのが、どれだけ心細くて、寂しいか……。
コレットちゃんは重病人というわけじゃないし、手術はうまくいって、別に集中治療室や高度治療室に入らなきゃならないわけでもない。だから、普通の個室にいる。さすがに、大部屋はちょっとね……。
コレットちゃんは英語もある程度喋れるけれど、私とサビーネちゃん以外の者と話をするには、共通の話題がない。
向こうの世界のことは話せないし、コレットちゃんには英国に関する知識がない。
それに、退屈凌ぎの話し相手として入院仲間の子供達をお菓子で釣って招待しようにも、絶対に混じっているだろうからねぇ、『少年少女諜報員』とかが……。
害意はないだろうけど、こんな絶好の機会に、情報収集を躊躇うような連中じゃないだろう。
ま、そんなわけで、昼間は大半の時間、私かサビーネちゃんのどちらか片方が付いているんだけどね。流石に、夜は付いていないけど。
コレットちゃんは私に対する鋼鉄の忠誠心を持ってくれているけれど、諜報的なこととか搦め手には弱いから、そのあたりのこともある。
サビーネちゃんが付いていれば、そういう心配もないからね。
勿論、私がここにいる間は、サビーネちゃんを王宮に帰している。ずっとここに常駐させているわけじゃない。
でないと、王様一家に殺されるわ!
……でも、それだと常に私とはすれ違いになるわけだから、サビーネちゃんが抵抗するんだよねぇ……。
まぁ、気持ちは分からないでもないけど……。
コレットちゃんの退院までには、まだ日数がかかりそうだし……。
だから、3人での時間もちゃんと取っているんだけどなぁ。
……で、まあ、サビーネちゃんもいる間にここ数日のことを報告したら、この評価だ。
いや、ちゃんと毎日顔を出していたよ? ただ、不確定な状況で進行していた帝都でのことをいちいち報告していなかっただけで……。
それが一段落したから、きちんと纏めて説明しただけだ。
勿論、コレットちゃんの御両親にも今回のことは報告している。
命に別状はなく後遺症も残らないけれど、少し傷痕が残る、って説明して必死で謝ったんだけど、田舎村の娘で傷のひとつも無いような者はいない、もしいたら、そんなのは怠け者の印だ、といって笑われた。
……いや、自分達の娘が死にかけたというのに、それでいいのか!
って、私が怒ったんだけど、『雇い主である貴族家当主を護るために平民が命を懸けるのは当たり前。そして今回は、コレットが護ろうとしたのは「雇い主の貴族」ではなく、「ミツハという名の、大切なお友達」だからねぇ。それに、今のコレットの命はミツハちゃんに救われた命だから、ミツハちゃんを護るために使うのは当たり前なんじゃないかなぁ……』とか言われた。
それでいいのか!!
……でも、そう言った時の父親は、顔は笑っていたけれど、眼は全然笑っていなかった。
そりゃそうか。
気を遣ってもらった、ってことなんだろうなぁ、多分……。
とにかく、謝るべきところには、ちゃんと謝った。
事前の根回しもなく勝手にサビーネちゃんを付き添い要員として連れ去ったことも、勿論王様に謝罪した。
……でも、それはそれ、これはこれ、で、それによって王様に特別な便宜を図ることはない。
協力してもらっているのはサビーネちゃんであって、王様じゃない。だから、報酬を渡すなら王様じゃなく、サビーネちゃんだ。
そして、サビーネちゃんが『コレットちゃんの介護を手伝った報酬』なんかを受け取るはずがない。
コレットちゃんは、サビーネちゃんの友達だから。
そしてサビーネちゃんは、友達を助けるのに代価を要求するような子じゃない。
私から渡そうとしても、絶対に受け取らないだろう。
そんなことをすれば、多分、侮辱するな、と言って怒り狂うに違いない。
……そして、『謝罪とお詫びの品』を要求されるのだ。
お詫びの品は、介護の報酬とは関係ないから、問題とはならない。
……うん、サビーネちゃんの判断基準は、多分そんなトコだろう。
「で、もうそろそろいいよ?」
「え、何が?」
コレットちゃんが、何やら言ってきた。
「……私への付き添い。看護師さんに聞いたよ、ここ、『かんぜんかんご』とかで、付き添いは要らない、って。
私が子供で、英語が母国語の者じゃないから、面会時間とかの文句は言われずにミツハとサビーネちゃんはフリーパス状態だけど……」
あ~、それ、多分、国の上の方から特別に指示が出てるよね。ありがたいから文句はないけど。
「それで、ミツハはすごく忙しいでしょ、領地とか新大陸とか……。
だから、ずっと付いていてもらわなくてもいいよ。色々聞かれないように英語は片言しか喋れない振りをしているけど、本当は殆ど聞き取れるから、向こうからの意思疎通には問題ないし。こっちが、都合の悪いことは分からない振りをするだけだから、言葉が通じなくて困ることはないよ。
あ、本と『ぶるーれい』は、たくさん持ってきてね!」
…………。
円盤のことを、サビーネちゃんは『でーぶいでー』と言っているけれど、コレットちゃんは『ぶるーれい』と言っている。
やはり、コレットちゃんの方が勉強の進み具合が……、って、そんなことはどうでもいいよ!
いくら命の心配はなくなって安心だとはいえ、9歳の女の子が異国でたったひとりというのが、心細くないはずがない。
……トビアスさんだけでなく、コレットちゃんにも気を遣わせたか……。
「あと、ゲーム機とお菓子、果物もたくさん!」
どうしてサビーネちゃんが眼をキラキラさせて追加注文をするんだよ!
さては、ずっとここに居座る気だな、コイツ……。
『ろうきん』、遂に300話です!(^^)/
途中で1年の休載期間を挟んでの、5年10カ月。
『ろうきん』が、私の「なろう」デビュー作です。
第一部完結の時点で、この作品は誰にも知られることなく私の記憶の中に沈んでいくのだな、と思っていました。
それが、何とコミカライズのお声掛けをいただき、そして新たに創刊されるレーベルで小説も出していただけることになり、現在まで巻を重ね続けることができました。
これも全て、小説を、そしてコミックスを読み続けてくださっている読者の皆様のおかげです。
ありがとうございます!(^^)/
引き続き、拙作、『12~13歳に見えるちっぱい少女3部作』、よろしくお願い致します。(^^)/
FUNA




