276 戦後処理 2
「じゃ、行くよ!」
ウルフファングの本拠地、車両格納庫の前に並んでいるのは、前回の戦いに参加したヘリチームの14人と、ウルフファングのメンバー20人。皆、それぞれヘリや車両に搭乗している。
ウルフファングが多いのは、カッコよく見せるために車両を出してもらうからだ。
軽装甲機動車、トラック、即製戦闘車両……民生用のチョイと頑丈なクルマに重機関銃や無反動砲などの重火器を搭載したヤツ。攻撃力は大きいけれど、紙装甲……とかを並べれば、少しは見栄えがいいからね。
「転移!」
転移先は、レミア王女の国、ダリスソン王国の王都のすぐ近く。王都からは見えないだけの距離は取ってある。
「発進!」
転移後すぐに、私の号令で車両部隊が出発。ヘリの出発は、あとで無線で指示する。
私のポジションは、軽装甲機動車の上部ハッチ。身体を出して、屋根の部分に腰掛けた状態だ。
見世物になるための行進なんだから、仕方ない。
そして、距離が近かったため、すぐに王都を囲む城郭の正門が見えてきた。
他の車両の連中も、周りに人の姿が増え始めると、ドライバー以外は窓や荷台から身体を出して手を振ったり、色々とサービスしている。
正門は、勿論事前に根回ししてあるから、ノンストップでフリーパス。
門を潜る前に、無線でヘリに出発の合図を出した。
そして正門の内側に待機していた王都軍と合流し、陣形を組んで王宮へ続く大通りをゆっくりと進み始めると、ヘリが飛来した。
ヘリは車両部隊の直上で、ホバリングに近いゆっくりとした速度で同行。
あまり低高度だとエンジン音やローターによる風と騒音が酷いので、少し高度を取ってもらっている。
王都軍と一緒になったのは、まあ、人々が私達と王都軍が共同作戦で帝国軍を撃退したのかな、と思ってくれればいいな、と思ってのことらしい。勿論、発案者はレミア王女。
まあ、別に言葉では何も言っていないから、嘘は吐いていないな、うん。
あの戦いを見ていたのは、当事者である私達と帝国軍だけだ。
そして私達は何も喋らないし、戦いに負けた者が言うことなんか誰も相手にしない。
そう、吟遊詩人達のやり放題、ってわけだ。『事実はそうじゃない!』と言う者が誰もいないんだから。
なので、それらしい組み合わせにして、皆さんの想像力にヒントを与えてあげただけだよ。
歓呼の声を上げる人達も、見たことのない異形の軍隊だけではなく、それと一緒に行進する自国の軍隊がいた方が声援を送りやすいだろうからね。
車両部隊と王都軍は大通りから王宮へと進み、そのまま練兵場へと進入。
そこで王都軍と分離して、車両を練兵場の隅へと並べた。
その後、練兵場の真ん中にヘリが着陸。エンジンを止めて、乗員が私達のところへやってきた。
それに合わせて戦いに参加した6人のウルフファングメンバーが下車し、その他の者は車両に乗ったまま。
そして残ったメンバーを乗せたままの車両と無人のヘリを地球のウルフファングの本拠地へ転移させた。
勿論私は、地球にはコンマ1秒も滞在せず、そのまま折り返し異世界へ戻った。
私の一瞬の往復転移は多分誰にも感知できなかっただろうから、みんなの眼にはただ車両とヘリが忽然と消えた、としか認識されなかっただろう。
行進は水増ししたけれど、王宮に入るのは、あの時本当に戦った者達だけだ。
その他の者まで褒められるのは、ちょっと違うと思うのだ。
自分がやりもしていないことで賞賛されるのは、戦士にとっては不名誉なことだろうからね。自分の矜持として。
車両の行進のために来てくれた14人の隊員さん達も、それに納得してくれた。
ヘリや車両を先に戻したのは、見張りも置かずに置きっ放しにするのが心配だからだ。
神兵様の乗り物や武器に興味がある貴族や軍人は多いだろうからね。
大半の人は大丈夫でも、数百人、数千人もいれば、悪い奴がひとりもいないはずがないよね。
そして私達は、近衛兵に先導されて、王宮の中へ。
向かうは、謁見の間。
「雷の姫巫女様、そして神兵の方々。此度は、我がダリスソン王国のために御尽力いただき、誠にありがとうございます」
それから、レミア王女による謝辞が延々と述べられた。
今回は、私達が跪いてレミア王女が高いところから『大儀であった』とかのたまうのではなく、レミア王女も低いところにいる。
まあ、いくら王女殿下とはいえ、姫巫女様と神兵様を見下ろして喋るわけにはいかないか……。
かといって、国王代行たる王女殿下が他国の子爵である私に頭を下げるのも問題があり、色々と難しいのだろう。
私を他国の子爵と女神の御使い、どちらの待遇で持てなすか。そして傭兵のみんなを他国の子爵の私兵と神兵、どちらの立場で遇するか。
ただの私兵というには、天の浮舟と車両は、あまりにも理解を超えた異質のものすぎる。……そして、僅かな人数で帝国軍を潰走させた、あまりにも信じがたい戦果。
ま、レミア王女の思惑通りに乗ってあげよう。こっちには何の損得もない、ただのアフターサービスにすぎないことだから。
……あ、いや、ちょっと便乗して、レミア王女に頼み事をしてあるんだけど……。
勿論、ウルフファングとヘリチームにはレミア王女の謝辞は全く理解されていない。知らない外国語を黙って聞いているだけだ。
あくまでもこれは、私達が王宮に招かれる姿を国民にアピールして、そして貴族や軍部のお偉いさん達に『レミア王女の伝手で神兵様が助けてくれた』というのを印象付けるためのイベントなのだから。
まあ、それでも、言葉は分からなくても自分達が感謝されているということははっきり分かるだろうから、傭兵のみんなも悪い気はしないだろう。傭兵が人々に感謝されるなんてことは、そうそうあるもんじゃないからねぇ。それも、可愛い王女様からとか、一生の記念になるだろう。
そして……。
「みんな、ちょっと跪いてくれって……」
レミア王女の言葉を翻訳して、傭兵のみんなにそう指示した。
神兵が人間に跪く、というのは宗教的には問題があるかもしれないけれど、これは別にレミア王女に忠誠を誓うとかいうわけではなく、ただの儀式だということでスルー。
神兵役のみんなは、王女と神兵の力関係が、とかいうことなんか全く気にしていないから、ただの傭兵が王女殿下に跪くことは当然だと思っており、何の躊躇いもなく床に膝をついた。
「そして、頭を垂れて……」
私の言葉に、素直に従うみんな。
レミア王女は、お付きの者から刃引きの剣を受け取り、すらりと剣を抜き放つと、鞘をお付きの者に渡した。
傭兵のみんなは、丸腰ではなく、それぞれ小型の拳銃を2挺くらい隠し持っている。そして初対面の者が目の前で抜き身の剣を手にして近付いてくる。
普通であれば、飛び退って銃を抜いてもおかしくない場面であるが、勿論、そんなことをする者はいない。
私が、事前に『こうなる可能性がなくもない』と教えておいたので。
そして実際には、レミア王女と打合せ済みであり、こうなることは確定していた。
皆の前に近付いたレミア王女は、手にした剣を振り上げて、……剣の腹で傭兵の両肩をポン、ポンと軽く叩いた。一列目の右端にいた隊長さんから順に、20人全員に対して……。
ありゃ、何だか感激して、ぷるぷる震えている者がいるよ。
まあ、そりゃ感激するか。地球の一部の国で、これが何を意味するかを知っているなら。
騎士爵の叙任。
世襲貴族である男爵以上の爵位ではなく、一代限りの準貴族であるが、それは即ち、ただ親から引き継いだだけの爵位ではなく、自分が、自分の力で得た栄誉だということである。
騎士爵。
身分制度などない時代に生きる者にとっても、その言葉に対する憧れは強い。
明日をも知れぬ身の、底辺職である傭兵。
それが今、異世界の英雄として、騎士爵に!!
……なったというわけじゃない。
うん、私がレミア王女に、『こういう演出をしてね。うちの方では、手柄を立てた者が王様からこうしてもらえるのは凄く名誉なことなので、みんな喜んでくれるから。……そして何よりいいのは、この褒美にはお金が全くかからない、ってことだよ』と伝えたからなんだよねえ……。
なので、レミア王女はこれが名誉的な褒美であるということは認識しているけれど、爵位授与とかは全く意識していない。
この国での爵位授与の儀式は全く違うやり方なんだから、剣の腹で肩を叩くというのは、この国の者にとっては意味のない行動だ。それがたまたま地球の一部の国における騎士爵叙任の儀式に似ていたとしても、そんなの関係ない。ここは地球じゃないんだから。
うん、傭兵のみんなに喜んでもらえれば、それでいいじゃん。
どうせ、もう傭兵のみんながここへ来ることはないし、別に貴族年金がもらえるとも思っていないだろうし。
異世界で、現代兵器無双で国を救って、可愛い王女様から感謝されて、騎士爵に叙任(勘違い)。
もう、厨二病全開、男の子のドリーム満開、お腹いっぱい、ってとこだ。




