274 帝国の興亡 10
戦況は、おそらくこれで一段落だろう。
あとは、賠償とか謝罪とかの、政治的な話になるのだろう。
帝国とこの国の2国間協議になるか、それとも他国も講和会議に首を突っ込んで、何やら口を挟もうとするかどうか……。
大同盟の同盟国だから、とか、集団保障だとか、何やら言い出しそうな気がするなあ……。
これで、出した援軍が戦闘に参加していたりすると、相当な横槍が入ったことだろう。
帝国もレミア王女も、その点では早期に決着が付いたことは幸運だったと言えよう。
戦いで帝国軍が大打撃を受けたなら、ゲゲゲ姫の国、ダリスソン王国が逆侵攻して、という選択肢もあり得るだろう。姫も家臣達も、個人としてはいい人であっても、為政者としては容赦のない遣り手なのだから。
そしてダリスソン王国が手出ししなかったとしても、あのチョイ悪おやじ風の国王が仕切っているクールソス王国とかが漁夫の利を狙って侵攻、とかいうことも考えられる。
でも、帝国の侵攻軍は、指揮系統を潰されて烏合の衆と化して潰走しただけであって、階級やら役職やらを考慮せずに単純に人数としてだけ考えれば、人的被害は軽微なんだよねぇ……。
だから、国に戻って新たな指揮官や上官を据えて再編成し、失った武器防具を補充すれば、割と簡単に戦力として復活するんだよね。
なので、他国がおかしなことを考える確率は低いと思う。
そしてさすがに帝国も、再びすぐに動き出すということはないだろう。多分大同盟の加盟国は、帝国に対する軍事同盟を結ぶだろうし……。
勢力バランスが崩れて、周辺国が帝国に雪崩れ込んで領地の奪い合い、……そして世界大戦に、なんてのは真っ平だからね。私も、ちゃんと考えているんだよ。
……それと、『真っ平』だからね。
『真っ平』じゃないからねっっ!!
まあ、そのあたりは、私には関係ない。
うちの国としては、王様がちゃんと対応するだろう。国家間の交渉は、王様や大臣達の仕事だ。
さて、さっさと戻るか。
多分、傭兵達の入浴時間は短い。
……いや、何となく、イメージ的にそういう気がするだけだけどさ……。
よし、転移!
* *
まだ、風呂は済んでいなかった。
ウルフファングのみんなが先に風呂を済ませ、ヘリチームに後からゆっくりと入ってもらい、その間に事後報告会やら親睦会やらの準備をする手筈だったらしい。
そういうわけで、ヘリチームはまだ入浴中。
まあ、事後報告会と親睦会の準備といっても、出発前にあらかた終えていたし、料理やお酒は事前に注文しておいたものをデリバリーで届けてもらうだけらしい。
飲み食いしながらも『向こうでの話』をするだろうから、サービス要員も来るケータリングでは都合が悪いので、デリバリーにするしかない。
配膳や後片付けも自分達でやることになるけれど、ま、それは仕方ないよね。
兵士は、食事の後片付けくらいは自分でできるし。
そしてしばらくして、事後報告会が開始された。
ま、ほぼ事前の計画通りに進んだし、死傷者ゼロ、器材の損傷ゼロの、ほぼパーフェクトゲームだ。真剣に討議しなきゃならないような致命的なこと、以後に備えて改善しなきゃならないようなことはなかった。なので、簡単なもので終わるだろう。
……そんなふうに考えていた時期が、私にもありました。
いや、『今回は司令部以外にはなるべく死傷者を出すなということだったのに、追い立てるための射線が敵兵に近すぎて死傷者を無駄に増やしたんじゃないのか』とか、『地雷は必要だったか?』とか、『曳光弾による焼夷効果などという微々たる効果を狙って高度を下げたのは危険だったのではないか。弓矢や投槍を馬鹿にして、撃墜される確率を上げたのは自殺行為だったのではないか。また、ボーラや大型弩砲等の存在の可能性を考えなかったのか』とか、厳しい意見が出る出る!
ヘリの運用に関しては、私やウルフファングは細かい指示は出していない。
ホバリングがどれだけ高度な技術を要する難しいことかも知らないような素人がヘリに具体的な行動を細かく指示したりすると、碌なことにならないに決まっているからだ。なので、ヘリチームには大まかな方針しか指示していない。
なのでその辺は、後で自分達だけの反省会でやってくれればいいのに……。
まあ、ウルフファング側の意見も聞きたかったのかもしれないし、依頼者が最低限求めること、という観点から、依頼人である私の意見も聞きたかったのかもしれないから、仕方ないか……。
と言うか、ヘリチーム、『次回は』とか言ってるけど、また行くつもり満々かい!
う~ん、期待通りの活躍をしてくれたし、おかしな真似もしなかったし、信用できる傭兵団みたいだから、もし次の機会があれば……あんまりあって欲しくはないけど……またここにお願いしてもいいんだけど、そうすると、他のウルフファングの知り合いの傭兵団が黙っちゃいないような気がするんだよね……。
ウルフファングの人脈やら交友関係やらに致命的な打撃を与えそうなのが、申し訳ない……。
まあ、とにかくそういうわけで、かなり真剣な討議が行われ、その後は親睦会に。
……うん、まあ、こういう連中の『戦場から無事帰還しての、呑み会』ってのは、こういうものなんだろうな、うん。
いいから、私に絡むな、飲まそうとするな、抱き付くなああああ!!
* *
異世界での帝国軍相手の戦いから少し経った頃、ウルフファングの本拠地へ相談に行った。
「ねえ、隊長さん。ヘリを出してくれたとこに、何か赤字補填をしなきゃなんないと思うんだけど……。隊長さんの知り合いで、割と誠実なとこなんでしょ? 武器弾薬持ち出しの上、参加料払ったら、かなりキツいんじゃないの?」
協力してくれたところが財政難で潰れたりしたら、後味が悪いよねぇ……。
だから、隊長さんにそう言ったところ……。
「必要ねえと思うぞ? アイツら、あれからすげえ稼いでやがるからな……」
何と、思いがけない情報が!
「えええ? 異世界で活躍したことが宣伝になって、依頼が殺到、とか?」
「馬鹿野郎。傭兵が一度に大量の仕事を受けたりしたら、すぐに死んじまうだろうが! 怪我を治したり体調を回復させたりするための休養期間を充分取らないような奴は、真っ先に死んじまうぞ」
「あ~、なるほど……、って、じゃあ、どうしてそんなに羽振りがいいの?」
「ああ、異世界から持ち帰った土や草をオークションで売りやがったんだよ」
「え?」
いや、それは私が許可したから全然問題ないんだけど、あんな普通の土や雑草、草花程度でそんなに稼げる?
私の顔を見て疑問を抱いていることが分かったのか、隊長さんが先を続けてくれた。
「あ~、普通の雑草に見えても、地球のとは全然違う可能性があるとか、同位体とかゲノムとか螺旋が右回りだとか左回りだとか、何かよく分かんねえこと言ってたなぁ。とにかく、手に入れて調べたいって奴が出品された1本の雑草に大枚叩いて落札したらしい。
……そしてその次に出品されたのが、『異世界の雑草 2本目』だ。
それも凄い金額で落札されて、その次に出品されたのが『異世界の雑草 3本目』……」
「チャリティーオークションでの、ミル・マスカラスのマスクかッッ!!」
「嬢ちゃん、プロレス詳しいのか? そして、どうしてそんなどマイナーなエピソード知ってるんだよ!」
「いや、こっちは隊長さんがそんなネタ知ってることに驚きだよ!」
やっぱり、アレか。兵士は肉弾戦には興味があるのか……。
「まあ、そういうわけで『異世界の雑草シリーズ』が続いてな。そしてようやくそれが終わったら、次に『異世界の土』が出品されたらしい」
「ま、まさか……、というか、もうオチが読めたよ!」
「そして『異世界の土シリーズ』が終わると、今度は『異世界の小石シリーズ』が……」
「…………」
さすが傭兵。
「そして、約束通り異世界のことを知っている者限定で、撮影した映像の上映会をやってるらしい。馬鹿高い料金を取って……。
それでも、各国の政府関係者や研究機関の者達が大勢、何度も繰り返し観に来るから大儲けらしいぞ。勿論、画面の撮影とかは禁止だから、何度もカネ払って観るしかないからな。ひとり1回、数千ドル払って……」
「鬼かっ! ……でも、私が許可した範囲内だから問題ないか……。
でも、撮影映像にそんなに価値があるの? ただ土を掘ったり草を採取したりしているだけじゃん」
うん、そんなの、そのあたりで土いじりしている子供と大して変わらない。
いや、いい歳をしたおっさん連中の土いじり、というのは、そんないい絵面じゃないか。
「いや、土や草が本当に異世界のモノだという証拠としてその映像も見せているらしいが、本命はアレだ、敵との戦闘シーン……」
「え?」
「ヘリから撮影したらしい。2機いるんだから、互いの機体を映し込んでの撮影もできるからな。
各国政府としちゃ、そりゃ手に入れたい情報だろう。
それに、土や草も、手に入れたい国は多いだろう。何からどんな発見があるか分からないからな。
ま、とにかく、参加費や消費した弾薬の分なんか問題ないくらい稼いだらしいぞ」
え?
「嬢ちゃん、言っただろうが。撮影した映像は、『元々この世界のことを知っていた者には見せてもOK』って……。あ、嬢ちゃんや俺達の首から上は映っていないことは確認済みだ。画像加工じゃなく、元々フレームに入っていないから、そのあたりは心配ねえよ」
えええ?
「アイツら、遣り手だけど、約束は守るからな。全部ちゃんと嬢ちゃんの許可を取った範囲内だろう?
ヘリから撮った分は撮影した後での事後申告による許可だけど、もし嬢ちゃんが駄目だと言っていたら、ちゃんとデータは破棄していただろう。律儀な連中だからな」
「えええええええ~~っ!!」
……いや、まあ、いいんだけどね。
撮影後とはいえ、確かに許可したし、別に問題があるわけじゃない。
ただ、傭兵達は赤字になる仕事を受けるような甘ちゃんじゃないってことだ。
しっかりしてるなあ……。




