247 母国の社交界
「ミツハ、最近パーティーに出ていないようだが……」
「誰のせいですかっ!」
「うっ……」
そう、新大陸の方に時間を取られて、この国の社交界からはしばらく遠ざかっていたのだ。
しかし、完全に、というわけではなく、たまには出ていた。知り合いの誕生パーティーだとか、お世話になった人が主催するやつとか……。
それが、ここしばらくは全く出なくなったのは、先日のボーゼス伯爵様からの無神経かつ乙女の尊厳を踏みにじる発言のせいだ。
私のあまりの怒りに驚いて、イリス様やベアトリスちゃんに相談して、ふたりからフルボッコにされたらしい。いい気味だ!
「いや、悪かった! 謝るから、そこを何とか……」
知らないよ!
いや、まぁ、アレで『私がこそこそと何かやってる』という追及がうやむやになったから、いいんだけどね。
……いいんだけどねっ!!
まぁ、伯爵様の立場と気持ちは、分からないでもない。
未成年である(と思われている)私の後見人的な立場である伯爵様は、私が他家のパーティーに出ないと、『ボーゼス伯爵が出席させなかった』、『自分の派閥に囲い込もうとしている』、その他色々な批判が飛び交うことになるのだ。
基本的に、この国の人達は私から利益を引っ張ろうとはしても、敵対したり嵌めたり搾取したりしようとする人はあまりいないから、新大陸のヴァネル王国の社交界ほど酷くはないんだけどね。
まぁ、向こうではただの『遠方の小国の、側妃が産んだ娘』あたりだと思われていて、搾取するための餌だとしか思われていないだろうからねぇ。
それに対してこの国では、大国の王姉殿下にして謎の秘術を使う雷の姫巫女様、かつ救国の大英雄だ。待遇が違うのも当たり前か……。
普通なら、他国から暗殺のための刺客が放たれたり、姫巫女様を我が国に、とかいって誘拐とか婚約の話とかが来てもおかしくないのだろうけど、さすがに新大陸からの侵略に対抗するための地歩固めの大切な時に、そんなことをする国はないか……。
それに、もしおかしな真似をしようとしてそれが露見すれば、『姫巫女様の神兵』が突然現れたり、周辺諸国からフルボッコにされるかもしれないんだ。あまりにもリスクが大きすぎるだろう。
新大陸の言葉が完璧に喋れるのも、船や大砲、銃とかの武器に精通しているのも、私だけだしね。
いや、元乗員は、そりゃ操作や簡単な手入れ、修理とかは出来るけれど、そういうのを製造する専門家じゃないからね。
勿論私も専門家じゃないけれど、私には強い味方がいる。
そう、グーグル先生、ブログの協力者の皆さん、そして広大なネットの海と、図書館だ。
そのおかげで私は、どんな疑問や質問でも、翌日にはある程度の回答が返せるのだ。だから私は、凄く博学だと思われて……、いない。
そりゃまぁ、質問された時の様子とか、翌日回答した時にちょっとした追加質問をされると、その回答はまた翌日になるわけだから、『あ、コイツ、自分は何も知らないから、毎回誰かに聞きに行ってるな』というのは丸分かりだからね。
まぁ、毎回、いちいち誰かに聞いてくるにしても、私は造船や武器開発の役に立つ、ってことだ。
今、周辺国で一番トレンディな造船と武器開発の要。
大国の王姉殿下。
雷の姫巫女。
救国の大英雄。
子爵家当主。
若くて独身の女性。
……うん、ハエ取り紙かゴキブリホイホイ並みだ。
私に近付きたいと考える者は多いだろうなぁ……。
「婚約の申し込みがたくさん来ておったぞ」
「来とるんか~~い!」
まぁ、私が12~13歳くらいだと思われているにしても、貴族の子供は幼少の頃から婚約相手が決まっているとかは普通のことだから、来て当然だ。
この国の王女トリオが揃ってフリーなのが、そもそもおかしい。
ま、あれは一の姫様が婚約者を亡くして、っていうのが理由らしいというのは、この間、サビーネちゃんと『ちい姉様』こと、二の姫様から聞いたけれどね。
ベアトリスちゃんに婚約者がいないのは、伯爵様とイリス様のせいだろうなぁ、多分……。
……っていうか、どうして、まるで私が考えていたことが分かるかのような、適切なタイミングでの突っ込みを?
「まぁ、途中から全部、声に出ていたからかな……」
また、それか~い!
「で、そのお申し込みというのは……」
「全部、断っておいたぞ」
「いや、一応は本人に見せましょうよ! もしかしたら、イケメン王子様や癒し系ショタとかからの申し込みもあったかもしれないじゃないですか!」
「……ショタ?」
「イエ、ナンデモアリマセン……」
私は日本では15歳前後、ここでは12~13歳くらいに見られるから、ここで私と同年齢くらいに見える男の子とデートすると、ショタになっちゃうんだよねぇ、これが……。
あ、王子様と言えば、サビーネちゃんの弟、第二王子のルーヘン君は、可愛くて癒やされるよね。お兄さんの、キラキラした王太子殿下の方は、何か一緒にいると気疲れしそうだから嫌だけど……。
「……で、どうしてその申し込みが私にではなく伯爵様のところに届いて、しかも勝手に断ってるのですか! 私の幸せを勝手にキャンセルしないでくださいよっ!!」
私、激おこ。
「いや、婚約の申し込みを、本人に直接送る奴がいるものか。そういうのは両親宛て、両親がいない場合は後見人に宛てて送るのが当然だろう」
「え……」
あ、確かに、平民同士のプロポーズならばともかく、貴族の婚姻は本人同士よりも家同士の問題だし、そういうしきたりがあって当然か。
日本のお見合いにしても、世話焼きおばさんが話を持ってきてくれる時、最初は本人にではなく親に話を持ち掛けるよなぁ。伯爵様が言われる通り、確かに当然の話だ、そりゃ……。
でも……。
「伯爵様、私の後見人なんですか?」
「なっ! ……ミツハ、お前、今更そんなことを聞くか……」
ありゃ、がっくりと肩を落としちゃったよ、伯爵様……。
いや、確かにいつも色々とお世話になってるし、後見人っぽいことをしてもらっているから、そう言われれば確かにそうなんだけど……。
いや、今まで、改まって正式にそう言われたことはなかったよね? だから、そんなに落ち込んだ顔をしないで!
悪かった! 今のは私が悪かったから!!
……くそ、下手に出たら、パーティーに出るという言質を取られた。
これだから、遣り手の貴族は……。ぶちぶち……。
ま、仕方ない。さすがにそろそろ社交界に顔を出さなきゃならないな、とは思っていたんだ。
伯爵様から指定されたパーティーを、復帰の第一戦とするか……。
* *
「おお、ヤマノ子爵、お久し振りですな。御旅行か里帰りでも?」
「はい、ちょっと旅行を……」
うん、この国では、私が他国へ移籍するなんて考える人はいないから、私が他国へ旅行しても、心配されることはない。新大陸のヴァネル王国とは違うのだよ、ヴァネル王国とは!!
「子爵殿、来週のうちの息子の誕生パーティーに、是非御出席いただきたいのですが……」
「子爵、造船と武器の開発に関して、我が領の職人に協力できることがあれば、力になりますぞ!」
「ヤマノ子爵、ヤマノ領で作られたという衣服について、少しお話を伺えませんかな?」
「雷コーン用の爆裂トウモロコシの大量購入について、話を聞いてもらえんかな?」
「今度、サビーネ王女殿下と共に我が邸にお招きしたいのだが……」
……来た。キタキタキタキタ!
外れて元々、当たれば大儲け!
駄目元で、次々とやってくる、射幸心に塗れた貴族連中。……中には、貴族じゃなく、大きな商家の商会主とかもいるけど……。
社交界ではなく、『射幸界』かっ!
二番目の!
ボーゼス伯爵に直接頼め! それは私の所掌範囲じゃない。
三番目と四番目については、領地の産業の育成に関わる話だから、とりあえず場を設けよう。
うん、面倒な申し込みも多いけど、やっぱり、領主としては社交界には出なきゃなんないよなぁ……。
これも『お仕事』だ、仕方ないか。
お父さんがお酒を飲んで帰ってきても、それも仕事の一環だったりするからなぁ。
気心の知れた友人とならばともかく、職場の上司や取引先の人と一緒に飲んで、楽しいはずがないか。
接待のお酒で身体を壊した人も多いらしい。
そして私は、さすがにお酒を勧められることはないけれど……。
「ヤマノ子爵、向こうに美味しそうな異国料理が置いてありましたぞ!」
「向こうには、珍しい果物を使ったというスイーツが!」
「ここの料理長が作ったという、絶妙な味のミックスジュースが……」
身体を壊されるわっっ!!




