245 戦い終わって 3
「で、噂における英雄は……」
「はっ、探検船団の真の指揮官、アモロス海佐。そしてその指揮下にある3隻の艦長と士官、船員達です。市井に流れる噂では、そのようになっております」
ヴァネル王国の王宮にて、国王と宰相、大臣や軍の将官達が会議を行っていた。
そして大臣のひとりからの報告に、大きく頷いた国王。
「うむ。形だけの指揮権を与えた、あの商人如きに名声を持っていかれるわけには行かぬからな。
あくまでも、女神にお願いして我が国の艦隊を助けにきてくれたのは、殉職した我が国の海軍軍人達である。
いや、それは嘘ではなく、事実、その通りであろうからな。あの商人風情が国のためにそんなことを願うとはとても思えぬし、戦いのことも全くの素人であるから、艦を指揮することもできぬであろう。
あれは本当に、アモロス海佐以下の軍人達が女神に願い出たことに間違いはないであろう。
では、引き続き、市井に流れる噂はそのように誘導せよ。軍部でも、兵士達にそのように教え、街で喋るであろう話の内容を軍部に都合の良いものとするように指導せよ。
これは嘘ではなく、事実その通りのことなのであるから、何恥じることもない。女神のお耳に入っても問題のない、堂々と胸を張って言える話である!」
「「「「「「ははっ!」」」」」」
軍関係の列席者達は、了承の返事を返した。
彼らにとっても、その指示は全く問題のない、いや、都合の良いものであった。
「あまり良い噂を聞かぬ商人に、名声を与えるわけには行かぬからな。
それに、奴の家族や、息子が跡を継いでいるという商会が調子に乗ったり、褒美や利権、上級貴族や王族との縁とかを求めてきては堪らぬ。
あの商人は、国から借り受けた3隻の軍艦とその乗員達を無謀な計画に巻き込んで全滅させた、国に大損害を与えし者。罪人とまでは言わぬが、国や軍部にとっては苦々しき者である。
そして船団の全滅と本人の死をもって、艦と兵達の貸与契約は終了した。
殉職した時点において、兵達は原隊に復帰したこととなり、国に命を捧げた英霊となる。
そう、決して、死した後もあの商人の指揮下にあるというわけではないのだ。
なので、死後の活躍は本来の軍人としてのものであり、軍神としての行いである。あの商人とは、何の関係もない。
勿論、軍人ではないあの商人には、敵艦の拿捕賞金も、弔慰金も、遺族への恩給も、何も出ん。
……我が国の軍人ではなく、ただ同乗していただけの民間人なのであるから、当然であろう?」
「「「「「「勿論でございます!!」」」」」」
そう、ここに列席している者達にとって、それが最も都合が良い解釈なのであった。なので、異論・反論など、出ようはずもない。
これによって、『探検航海を企画した商人が賞賛され、その家族と残された商会が大きな利益を得る』という事態は回避された。
もしそんなことになれば、探検航海を企む商人が次々と現れる可能性があったが、ミツハの知らないところで、その危険の芽は事前に摘まれたのであった。
* *
数日後、艦隊が帰還した。多くの拿捕艦を引き連れて。
既に第一報をもたらしたスループ艦と、それに続いた6隻の先行艦の乗員達によって、思い切り尾ひれが付きまくった噂話が街中に広がっている。主に、酒場あたりを発信源として。
うん、昔から言われているよね、『勇者や英雄を探すなら、酒場へ行け。何人でも、すぐに見つかる。そして歯医者の待合室には、勇者も英雄も、ひとりもいない』って。
まぁ、とにかく、奇跡や英雄譚を喋りまくる海軍兵士の数が5倍になったわけだ。
そして、二番煎じの話とあっては、最初の話よりもっと派手で、もっと面白いものでないと、他の客から酒を奢ってもらえない。
……うん、ま、そういうことだ。
斯くして、あの海戦は、とんでもないスーパー大戦となっていった。殆ど、善と悪との最終戦争か神々の黄昏である。
……私のせいじゃない。
「では、お兄様は御無事で?」
「はい! 軽い怪我は負いましたものの、すぐ治る程度のものだそうです。そして、接舷しての斬り込み隊を率いての白兵戦で手柄を挙げて、昇進の内示が出たそうですのよ!」
「おおお! おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
うんうん、遠い親戚の人とかには犠牲者も出たらしいけれど、身近な人を亡くした者はいないらしい。なので、『ソサエティー』のみんなの表情は明るい。
いや、それは『ソサエティー』のみんなに限らず、この国全てにおいてそういう感じだけどね。大切な人を失った者達を除いて……。
戦争だ、それは仕方ない。
国民を死なせたくないからといって、相手国の言うことを全て受け入れていたら、国を占領されてしまうだろう。そして国民は奴隷扱い。結果的には、更に悲惨なことになる。
あの海戦にしても、片方が一方的な勝利を収めることなく『いい勝負』が続いていれば、おそらく両艦隊がボロボロになるまで砲撃戦が続き、双方共にもっと多くの被害が出ただろう。
さっさと勝敗が明らかになった方が、死傷者数は少ないはずだ。
「うふふ、私達の祈りが届いたようですわね」
え?
「ええ、ノーラル王国の艦隊が滅亡するよう女神様に祈り続けた効果があったようですわ」
何ソレ、怖い。
「神罰、呪殺、何でもござれ! 私達の女神への祈りの前には、敵はありませんことよ!」
「「「「「「お~~っ!!」」」」」」
ぎゃああああぁ~~!
うちの、うちの『ソサエティー』が、何か怪しい秘密結社みたいになってるううぅ~~!!
* *
「わん! わわわんわん!」
「ミツハ姉様、何やってるの?」
「うわっ! ……何だ、サビーネちゃんか……」
雑貨屋ミツハの軒先で、餌で釣った子犬(多分、放し飼いされてるどこかの飼い犬)相手の実験中に、いきなり後ろから声を掛けられたから、びっくりしたよ……。
「いえ、何だも何も、何、道端で犬と会話してるのよ……。何か悪いものでも食べたの?」
失敬な……。
「ただの実験よ、犬の言葉をマスターできるかどうかの」
「えええええ?」
あ、しまった! サビーネちゃんには言語マスターの能力については教えていないんだった!
私の姫巫女としての特殊能力は、空間転移だけ、ってことになってるのに!
私の母国も日本も『この世界の、遠い大陸にある』というだけで、異世界とかいう話はしていないし、私にはそれ以外の能力はない、ということになっているのだ。
「い、いや、何でもない! ちょっと、犬と戯れていただけ!」
ああっ、疑ってる! サビーネちゃんの、このじっとりとした眼は、疑ってる時の眼だ!
ま、ままま、マズい!!
「……そういえば、姉様はこの国に来た時から、ここの言葉が母国語並みにペラペラだった……」
あわ!
「その存在すら知らなかったはずの、新大陸の言葉も、同じく母国語並みに喋れて、読み書きもできて、自分で辞書が作れるくらいに……」
あわわ!
「それに、あの王都絶対防衛戦の時に、『かくせいき』でオークやオーガに脅しを掛けていたような……」
あわわわわわわ!!
「姉様……」
「ひゃ、ひゃい!」
「姉様、まさか動物の言葉が……」
「わ、分からない分からない! 女神様に誓って!!
王都絶対防衛戦の時のは、古竜は向こうが人間の言葉を喋ってくれたし、拡声器で叫んだのは、オークやオーガが吼えるのを真似て、適当に威嚇の叫びを上げただけだよ!
もし犬や猫の言葉が喋れたら、今頃ここは『もふもふ天国』になってるよ!」
「あ、それもそうか……。姉様、動物が好きだもんねぇ、もし動物と喋れたら、現状に甘んじているわけがないよね。
それに、その犬にも、ずっと無視されてたし……」
「いつから見てたんじゃい!!」
……くそ。
でも、事実、動物とは会話できない。
勿論、今まで何度も試してみた。しかしどうしても諦め切れず、今でも時々動物に話し掛けているのだ。もしかすると、『レベルアップ』とか、『スキル取得』とかができるんじゃないかという、微かな可能性に賭けて。
……そして、未だ成果はない。
王都絶対防衛戦の時、古竜からオークとオーガの言葉をマスターできた。なのに、どうしてそれ以外は駄目なのか。
オークとオーガは人型だし、動物や魔物としてはかなり知能が高いから、一応は『言語』と言えなくもない音声による意思伝達手段があったからかなぁ。犬や猫には、人間と意思を交わせるだけの音声による意思伝達手段がない?
それとも、脳の構造が大きく異なるから、脳内情報のスキャンができない?
う~ん、ま、仕方ないか……。
でも、いつかスキルレベルが上がったり、新たなスキルを取得できたりするかもしれない!
……ゲーム世界じゃありませんか、そうですか……。
でも、私は諦めない!
いつか必ず、『もふもふ天国』を、我が手に!!




