231 パーティーまたたび 1
「やっぱり、5人かなぁ……」
「何が5人なの?」
ミツハが何やら呟いているのを聞き咎めたサビーネちゃんが、問い質した。
そう、こういう時のミツハは、ろくでもないことを考えているのが普通だからである。
「いや、私、コレットちゃん、サビーネちゃんで、3人でしょ。あと、候補としてはベアトリスちゃん、レフィリア、みっちゃん2号、ゲゲゲ姫とか……。まぁ、孤児院の子とかから選抜してもいいけど……」
「だから、何の話なのよ!」
話が全く見えないため、少し苛ついてきたサビーネちゃん。
「いや、パーティというか、チームというか、そういうのを考えていたんだよね、5人くらいの。
ミツハ・ガールズとか、ミツハズ・エンジェルとか、平和戦隊ミツレンジャーとか……。
で、やっぱりメンバーは5人が相場かなぁ、と……」
「…………」
心底呆れた、という冷たい眼でミツハを見るサビーネちゃんであるが……。
「やる! 私、加入するよ!!」
横から、そんなことを言って飛び付いてくるコレットちゃん。
そう、『そういうDVDやブルーレイディスク』を何度も繰り返し見続けたコレットちゃんが、そんな面白そうな話を見逃すわけがなかった。
しかし、ミツハが考えているのが戦隊物なのに対して、コレットちゃんが思い浮かべているのは、魔法少女物であった。
戦隊物であれば、銃器で武装すれば真似事ができるかもしれない。しかし、さすがのミツハも、魔法は使えそうになかった。
……そしてダリスソン王国のレミア王女、遂に『ゲゲゲ姫』と呼ばれるようになった模様である。そしてコレットちゃんもサビーネちゃんも、それに対しては完全スルーであった……。
* *
今日は、久し振りに新大陸、ヴァネル王国のパーティーに出席。
一応、社交界に出ている貴族家当主、という立場なので、他国の貴族とはいえ、少しは顔を出さなきゃなんない。それに、たまには情報収集をしなきゃ……。
『ソサエティー』のみんなはまだデビュー前の未成年だから誕生パーティー以外には出ていないし、もし出ていたとしても、子供が他家の大人達とそういう話ができるわけじゃないから、情報収集要員としては使えない。
それは、未成年(だと思われている)だけど当主だから普通のパーティーに出席できて、貿易に携わっているからそういう話をしてもおかしくない私でないと駄目だからねぇ……。
そういうわけで、久し振りにパーティー出席、というわけだ。船魂関連の評判も確認したいしね。
勿論、例の『ウォンレード伯爵とエフレッド子爵』は出ないやつ。
ちゃんと主催者である伯爵に念を押してあるし、私を嵌めたあの伯爵がその後どうなったかを考えれば、私を騙そうとか裏切ろうとかするとは思えない。
……まぁ、もし裏切られたとすれば、またさっさと逃げ出せば済むことだ。
不意を衝かれて囲まれても、別に危害を加えられるわけじゃない。そのうち、お手洗いに行きたいとか、入浴しないと死んじゃうとか、色々と我が儘を言ってゴネれば、ひとりになれる機会くらいできるだろう。そうすれば、転移でドロン、だ。
……さすがに、まだこの国では、人前で堂々と転移で消えるわけにはいかないからねぇ。
そしてそうなった時は、私がこの国の社交界とは完全に縁を切るであろうことは馬鹿にでも分かるだろう。そう、『この国の』、だ。
なので、その引き金を引き、全ての責任を被ろうとする者は、まずいないよねぇ。
そういうわけで、あまり心配することなく出席した今回のパーティーは、海軍派閥のやつだ。
勿論、海軍派閥のパーティーとはいっても、別に海軍系統の貴族や軍人しか出ないというわけじゃない。『主催者が海軍寄りの貴族であり、招待客がそっち方面に少し偏っている』というだけであり、陸軍系の貴族や軍人、そういう派閥にはあまり関係のない人達、そして一代爵位を貰った大商人とかもいる。
……そして、ミッチェル侯爵もいた。
このパーティーは、侯爵とは関係なく自分で選び、出席したのだ。
自分でパーティーに関する情報を調べて、『ヤマノ子爵が行きたそうなことを口にしていた』という情報を使用人ルートでそっと流すと、翌日には招待状が届いた。
出席の返事を返した後で確認すると、私が雇った者からその噂を『たまたま、偶然耳にして』当主に伝えたメイドの少女は、金貨1枚の特別報奨金を貰って驚喜、ベッドの上で転げ回っていたそうだ。
とにかく、ミッチェル侯爵は『ヤマノ子爵が出るパーティーを選別する』という役目から解放されたわけだ。……ここ最近は、開店休業状態ではあったけれどね。
でも、侯爵にとっては、それは『面倒事がひとつ減った』というわけじゃなく、『ヤマノ子爵からの信頼を失った』ということであり、社交上の大きな失点となるらしい。
ま、そうなった原因が国王一味の悪だくみのせいだということはその筋では公然のことらしく、侯爵には落ち度はない、ということになっているらしいけど……。
いや、あったからね! 私を怒らせた直接の原因は、侯爵のあの態度と物言いのせいだからね!!
まぁ、わざわざそれを触れて廻ったりはしないけど……。一応は、お友達のお父さんだからね……。
「ヤマノ子爵、久し振りのパーティー御参加とか? お元気にしておられましたかな?」
あ、顔見知りの子爵さんが話し掛けてくれた。海軍の上級士官で、王都での陸上勤務になる前は、確か船に乗っていたはず。
私がパーティーから遠ざかっていた理由を知っているのにそれには触れず、ガツガツと貿易品の話を聞き出そうともせず、さりげなく話し掛けてくれる。さすが、『スマートな船乗り』だけのことはあるなぁ……。
「あ、ハイ、周辺国を旅行して廻ったり、『ソサエティー』のお手伝いをしたり、国元から来た妹の相手をしたりで忙しかっただけなんです。身体の方は、健康そのものです!」
いくら男性であり軍人であっても、王都にいて、『ソサエティー』のことを知らないはずはないだろう。
「ほほぅ、妹さんが?」
あ。コレットちゃんやサビーネちゃんを連れているところを見られた場合に備えて一応話を振ってみたら、周囲の人達がみんなこっちに耳を向けている……。
いや、王宮や間諜を使っている人達にはとっくに知られてると思うけどね、私がコレットちゃんやサビーネちゃんを連れて歩いていることは。
そもそも、『ソサエティー』のメンバーが親に伝えているだろうからね、私の妹がこの国に来ていることは。……口止めも何もしていないんだから。
ま、その話はスルーして、と。
「あの、艦隊の船に『船魂』とかいうのが現れた、って聞いたんですけど……」
「そうなんだよ! まず、最初に船魂が現れたのが、遭難した『イーラス』という船で、その船魂の姿が……」
ああっ、眼をきらきらと輝かせて、『熱弁モード』にはいっちゃったよ!
これって、お兄ちゃんに『誰かに詳細を説明したくて仕方がないネタについて、うっかり聞いちゃった時のヤツ』だ!
……そう、俗に言うところの、『地雷を踏んだ』ってやつ……。
……延々と説明されたよ。
もう、船魂についての現場や上層部の反応を確認するために情報収集を行う必要はなくなった。
……もう、全部聞いた。
私はおそらく、この国で『船魂』関連の情報に詳しい者のうち、上位10本の指に入っていると思う。それくらい、詳しく、微に入り細を穿って説明された。周りで聞いていた人達が、いつの間にかみんないなくなっているくらいに。
「そして、『エル・アルコン』に現れた船魂は、何とメイドの格好をしており……」
ひいぃ、まだ続くの? 誰か、助けて……。
「ヤマノ子爵、子爵が扱っておられる蒸留酒と化粧品について、提案があるのだが……」
何か、別の面倒くさいの、キタ~!
「ヤマノ子爵、うちが面倒を見てやっている商会があるのだが、一度話を聞いてやってはもらえぬだろうか?」
「子爵、うちの娘が『ソサエティー』とやらに興味を持っているようなのですが、何とか入会させて戴くわけにはいきませんかな……」
あああ、みんな船魂の話が終わるのを待っていたらしいのに、割り込んできたどこかの伯爵を見て、抜け駆けされてなるものかと、一斉に突撃してきたああぁ~~!
「子爵、宝石の貿易について……」
「穀物の相場は如何ほどの……」
「香辛料が……」
「子爵!」
「子爵!」
「子爵!」
「子爵!」
あああああ~~!
どうして、こんなに私に集ってくるのよ~!
猫の集団の前に差し出された、マタタビの小枝かよっ!
『あっしには関係のないことでござんす』
……それは『股旅』!




