228 旧 友
「……光波、太った?」
「な、ななな、何ですとおおおぉ~~!!」
久し振りに会って、開口一番が、それかいっっ!
……いや、分かってはいた。
分かってはいたのだ、少々、ほんの少し、ごくごく僅か、心持ち、ふくよかになったんじゃないかな~、ということは……。
だって、仕方ないじゃない!
新大陸でのパーティーが続いて、うちの領民との懇親会が各町村ごとにあって、王都では貴族や大商人からのパーティーのお誘いがきて、そして新大陸の方のパーティーは出なくなったと思ったら、『ソサエティー』の会合で、毎回スイーツ三昧……。
そりゃ、太るわ!
……そして何と、異世界関係や、断り続けている異世界懇談会方面だけでなく、日本の『表の世界』からもお誘いがきたよ!
うん、例の、ソーラー発電システムの会社のパーティーとやらに招かれた。
何でも、立て続けに4件もの契約をしたものだから、私が日本各地の離島や山小屋等にソーラーシステムを設置していると思われて、自社の広告塔に仕立て上げようと企まれたらしいのだ。
……勿論、断った。
下手に『日本各地でソーラーシステムの普及に努める、美貌の少女』なんて宣伝に利用されて、それが大勢の目に触れたりしたら大変だ。
こっちの世界にも、『異世界の貴族』としての私を知っている者は大勢いるのだ。イセコンの参加者だけでなく、隠し撮りされたであろう私の写真を見ている情報関係者や、偉い人達とかが……。
ソーラーシステムの会社の人に、『主に、どんな用途に使われていますか』と聞かれたから、『宇宙要塞の攻撃!』って答えておいたよ。
そして、私が太った……、いやいや、『ほんの心持ち、ふくよかになったような気がしないでもない、今日この頃』となったもうひとつの理由は、アレである。
……転移。
他の世界を経由すれば、どこへでも一瞬のうちに移動できるから、交通費が節約できるのである。 ……そして勿論、消費カロリー量も。
コンチキショーがあああああぁっっ!!
「……そろそろ終わった? 妄想タイム……」
うるさいわ!
というわけで、大学の長期休暇で帰ってきたわけだ。初代みっちゃん、日本産の方が……。
「うちに儲けさせてくれてるんだって?」
「あ、うん……」
そう、お酒の大量購入は、もう田舎町の小さな商店で購入するには無理な量になっているから、ウルフファングの方に依頼している。
でも、それじゃあ最初の頃に色々とお世話になったみっちゃんのお父さんに申し訳ないから、レフィリア貿易を通さない分、つまり私が警備隊詰所の人だとかその他のお世話になっている人達に個人的に贈る分だとか、少しだけ発注する高価なやつとかは相変わらずみっちゃんちで購入してる。勿論、日本酒だとか、どぶろく、梅酒とかもね。
……どぶろく、割と評判いいんだよね、向こうの世界でも。あれは『呑むもの』ではなく、『食うもの』とか言ってたけど……。梅酒も、人気があるし。
その量から考えて、私が自分で飲むために買っているわけじゃないのはハッキリしているから、おじさんに心配されることはない。購入は『19歳の少女、山野光波』としてではなく、『彫刻 コレット』として購入している。だから、未成年にお酒を売ったとして問題になることはない。ただの、企業としての購入だからね。
別に経費として計上するわけじゃないから、用途とかは関係ない。経費にしないなら、接待費だとか福利厚生とかにこじつけたり説明したりする必要はないからね。未成年の者が個人的に買う、というのをごまかすだけのためだから、税金対策とかに利用するつもりはないよ。
「やはり、持つべきものは友! おかげで、仕送りが少し増額されたよ! 大助かり!!」
うん、私からそう口添えしたからね。みっちゃんのお役に立てたようで、何よりだ。
学生の時の1万円と社会人になってからの1万円じゃ、値打ちが違うからねぇ。そして、困っている時の助けは、困っていない時の助けに較べて、そのありがたさは10倍どころじゃない。
今まで色々と助けてくれていたみっちゃんに、少しでも恩返しができたなら重畳だ。
「でも、光波が大学進学をやめて働くとは思っていなかったなぁ……。
そして、それよりも予想外だったのが、彫刻家になって、しかも成功しているらしいということ!
あり得ないでしょうが! 図画工作や美術の成績は最低ラインだった、あの光波が!!」
「うるさいわ! それに、芸術とは、凡人には理解されないものなのよ! だから、一介の美術教師には私の才能が理解されなかった。ただ、それだけのことだったのよ!」
「……でも、私や、他のクラスメイト達も、誰ひとりとして光波のセンスを理解することはできなかったけど……」
「世界には、生前は全く認められなくて、死後に有名になった芸術家が大勢いるじゃないの! それに、私の作品は国外で売れてるの。国際的芸術家よ、国際的芸術家!!」
「う~ん……」
みっちゃんはまだ納得していないみたいだけど、みっちゃんちにはちゃんと事業所として発注してるし、証明のために、さっき事業所の開設届のコピーだとか、確定申告の書類だとか、国外発送の書類だとかを見せたんだから、そろそろ納得してもらわないと……。
「オーケーオーケー、とりあえず、『そういう可能性も、微レ存(微粒子レベルで存在するかもしれない)』ということにしておこう……」
まだ信じとらんのかいっ!
……いや、私がみっちゃんの立場だったら、絶対に信じないけどね!
「しかし、光波、そんなことをやってて、就職の方は……」
「いや、何言ってんのよ、これが仕事だよ! 個人事業主だよ、社長様だよっ!」
「……あ、そうか……」
う~ん、どうも、アルバイトか内職みたいに思われて、まともな仕事だとは思われていないな、こりゃ……。
おじさんから買ってるお酒の量から考えても、私が色々と手広くやってると察してもらえそうなもんだけどなぁ。やはり、私と芸術、というのが、どうしても頭の中で結びつかないのかなぁ。
ま、仕方ないか。自分でも、ちょっと無理があると思うからなぁ……。
* *
そうして、他の友人達の様子や、懐かしい昔話に興じて、そろそろいい時間に。
「じゃ、またね。大学は休暇が長いから、当分はこっちにいるからね」
「うん。まだ、私の方が不在がちなくらいだよね。結構忙しくてさ……」
「個人事業で暇なら、大事じゃん。文句言うと罰が当たるぞ!」
「あはは……。その通りでございます……」
領主というのは、決して『個人事業』じゃないけどね……。
みっちゃんのこの休暇中に、また何度か会えるだろう。他の元クラスメイト達とも会えるだろうし。
少なくとも、みんなが長期休暇に帰省してくる大学生であるうちは、旧交も温められるか……。
それ以降は、そういう機会も減っちゃうだろうなぁ。
多忙な仕事、短い休み、大学時代の友人、職場の同僚、恋人、新たな家族、身近にいて話が合うママ友、その他色々な人との出会いや付き合いがあって、滅多に帰省しない実家がある田舎町に住む、高校時代の友人なんて……。
みんなは着々と未来へと進み、変わっていく。でも、私は……。
「い~んだよ、私は私、無理に変わろうとしなくても!」
そう、言葉にして呟いた。
私には、コレットちゃんも、サビーネちゃんも、そしてレフィリア、ルディナ達、みっちゃん2号、ボーゼス伯爵様御一家、ヤマノ領のみんな、時々遊びに行っている孤児院のみんな、ウルフファングのみんな、その他大勢の……、って……。
あれ?
これって、みっちゃん1号が大学生や社会人になって新しい友人達が増えていくのと同じ?
私から見て、みっちゃんが遠くへ離れていっちゃうように思えても、みっちゃんから見れば、逆に私の方が離れていくように見えるのかも。たくさんの、新しい知り合い、新しい友人達に囲まれて……。
人は変わる。その立場も、人柄も。
そして、友情には賞味期限がある、と言う人がいる。
それは、真実であり、真実ではない。
私とみっちゃんの友情には、賞味期限というものがあるのかどうか。
そして、もし賞味期限があったとすれば、それは生ものの賞味期限か、カップ麺の賞味期限か、それとも岩塩の賞味期限か。
それを私やみっちゃんが知る日が来るのか、来ないのか……。
ま、今、深く考えても仕方ないか。
なるようになる。
ケ・セラ・セラ!




