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218 輸送商隊 4

「駄目!」

 さすがに、それは却下。

「どうして! コレットが使っているし、サビーネちゃんは自分の部屋に置いてるって、さっき……」

 うん、そのあたりは、正直に言った。こういう部分で余計な嘘を吐くと後で自分の首を絞めるだけだし、ベアトリスちゃんには不必要な嘘は吐きたくないから。

 でも……。


「うちの領地邸と王宮には、緊急時の連絡用に必要だから置いてるの。そして、私に緊急事態の発生を知らせるために、絶対の信用が置ける人の手に委ねる必要があるの。それが、王宮ではサビーネちゃんであり、領地邸ではコレットちゃんと執事のアントンさんだというだけのことよ。

 そして、ボーゼス伯爵領は国境に面しているわけでもないし、王都より先に他国が攻めてくるような位置でもないし、うちの領地のお隣さんだから、うちが全く気付かずにボーゼス伯爵領だけに襲い掛かる突然の危機、というのは、あんまり考えられないよね。もし何かあっても、早馬で数時間もあれば連絡できるし……。

 それにそもそも、実質的には男爵領程度の領地しかない新米の小娘子爵の助けが必要な領地じゃないでしょ、ボーゼス伯爵領は……。

 だから、うちの最大機密である無線機を、情報漏洩の危険を冒してまで設置する必要を認めない。

 そして、私の手を離れたところで、無線機の存在を前提としたシステムが構築されることは、絶対に許容できない。自分達で作ることも修理することもできないようなものに頼った国防計画なんか、砂で作ったお城よりもろいよ!」

「…………」


 ぷくっと頬を膨らませてはいるものの、私の説明に食って掛かることはしない、ベアトリスちゃん。

 ベアトリスちゃんも、14歳とはいえ貴族の娘だ。自分自身の望みより、お家の安泰や領民の幸せ、そして国の安定を優先するという教育を受けているはず。……勿論、それを実践しない貴族は多いけれど、ベアトリスちゃんは、そんな子じゃない。

 だから、なまじ頭がいいために私が言ったことが理解できてしまうベアトリスちゃんには、私の言葉に反論することができないんだ……。


 でも、コレットちゃんやサビーネちゃんには許されたことが自分には許されない、ということを素直に受け入れられるほどの大人でもない。だから、ふて腐れるくらいは仕方ないよね。

 後で、何か機嫌取りの方法を考えるか。

 そして今はただ、私に背を向けているベアトリスちゃんを、そっとしておいてあげよう……。


     *     *


 無理に荷を積み込んだため重量オーバーで車軸が折れたり、その他ちょっとしたトラブルはあったものの、予定通り王都に到着。

 日程を1日短縮する、という試みは成功したけれど、当然、そのために1日あたりの移動時間が増え、馬や人間に掛かる負担は増加する。以後も今回と同じ日程にするか、元に戻すかは、後日みんなの意見を纏めて検討することになる。

 護衛にとっては、1日あたりいくら、という契約だから、キツくて収入減となって、踏んだり蹴ったりだ。不評なのは確実だな……。


 商隊は、中央広場でいったん解散。複数の商人の寄合所帯なんだから、後は各個に商業活動。

 そして帰投時に、またここで集まって商隊を組む。勿論、帰りも空荷ではなく、王都で仕入れた商品を満載しての帰還となる。


 あ、運んできた商品の一部は、ペッツさんのところに優先して持ち込まれる。

 うちの御用商人であるペッツさんの利権を蔑ろにしたりはしないよ。

 まだ、領地関連では私が『雷の姫巫女』だと知られる前の時点からうちの手助けをしてくれた『ヤマノ子爵領の初期における貢献者達』には、それなりの便宜を図るのは当たり前だ。

 新しい領主が『雷の姫巫女』である私だと知ってから寄ってきた連中や、様々な産業改革や鹵獲船の権利の3分の1を押さえたりして我が領地の発展が確実視されるようになってから取引を持ち掛けてきたところとかと一緒にするわけがない。


 ……商隊の商人達が、私に対しては割とスルー気味で、ベアトリスちゃんの御機嫌取りに全力を挙げていたのには、そのあたりも関係するのかも。

 うん、向こうからたかってくる商人には割と塩対応だからねぇ、私……。

 集ってくる商人が、こちらにとって美味しい話を持ってくるわけがないから。

 だから私も、商人にとって美味しい話は、ペッツさん以外にはあまり持っていかない。持っていくのは、『ヤマノ子爵領(うち)にとって美味しい話』だけだ。

 それに対して、ボーゼス伯爵様は、勿論自領の商人を育てるために便宜を図るからね。うちが、うちの御用商人であるペッツさんを優遇するのと同じで。当たり前のことだけど……。


 それでも、同行したのが私だけであれば、全力で私に対してのアプローチをかけてきたのだろうけど、今回はベアトリスちゃんがいたから、それが全部ベアトリスちゃんに向いたわけだ。

 でも、まぁ、移動中は私とふたりだけで特製馬車に乗っていたし、食事の時は御者や護衛達との『情報収集』という名目の歓談、そして野営時は勿論私と一緒に小型テントで寝ていたから、商人達がベアトリスちゃんと話し込める時間はあんまりなかったんだけどね。




 商隊を解散した後、護衛の一部と共に、私達の馬車はボーゼス伯爵家王都邸へ。

 ボーゼス伯爵家のお嬢様がやってきたのだから、当たり前だ。事前に知らせを受けている王都邸の使用人達が、手ぐすね引いて待ち構えているに違いない。

 何しろ、伯爵様夫妻やアレクシス様、テオドール様抜きでの、ベアトリスちゃん単身での王都邸入りだ。つまり、ボーゼス伯爵家王都邸がベアトリスちゃんを最上位者として、その指揮下に入るということになる。

 こんなことは前代未聞だろうし、これから先も、二度とあるとは思えない。

 そう、美しき貴族の少女にかしずき、ひざまずくのだ!

 使用人一同が、死ぬ気で奉仕することは間違いないだろう……。


 そしてボーゼス伯爵家王都邸に無事到着し、最後までついてくれていた護衛達も、これでようやく解散……せずに、一緒にボーゼス邸へ入ってきたなぁ……。

 あ~、伯爵様が付けた、ベアトリスちゃんの護衛だったかぁ……。

 考えてみれば、当たり前か。ベアトリスちゃんを守るのが、商人達が雇った『雇い主である商人と、積み荷を守る』ということが第一目的である雇われ護衛達だけ、なんていうのを、伯爵様とイリス様が許容するわけがないよねぇ。いくら私が付いているとはいっても……。


 おそらく、あの護衛達は、商人や他の護衛達からベアトリスちゃんを守る、という任務も帯びていたに違いない。いくら低い確率であっても、それが完全にゼロでない限りは、それに対する備えをしておくのは当然だ。特に、もし何かあったら取り返しが付かないことに関しては……。


「「「「「「お帰りなさいませ、お嬢様!!」」」」」」

 うおっ!

 使用人達が、ほぼ全員整列してのお出迎え。

 ま、当たり前か……。

 勿論、先頭は執事のルーファスさん。

 ベアトリスちゃんは、『数日間、お願いね』と、微笑みながら、片手を挙げて軽い感じで応えている。


 無線機のことでいったんは不機嫌になったものの、せっかくの私との旅をふくれっつらのまま過ごすのは費用対効果が悪い(もったいない)と思ったのか、あの後しばらくすると、無線機の話題には一切触れずに、概ねいつものベアトリスちゃんに戻ってくれた。

 ……でも、心の奥では面白く思っていないのは丸分かりだったけどね。

 ま、我が儘盛りの貴族のお嬢様が一応はそこまで我慢してくれただけで、充分評価に値するだろう。他の貴族の娘なら、手足を振り回して喚き散らすとか、癇癪を起こしてもおかしくない場面だったのだから。

 さすが、ベアトリスちゃんだ。ボーゼス伯爵様とイリス様の娘、そしてサビーネ王女殿下の『御学友』に選ばれただけのことはある。うんうん、私も誇らしいよ。

 ベアトリスちゃんは、私が育てた!(育てていない)


 よし、じゃあ、ベアトリスちゃんは使用人の皆さんに無事引き渡したから、私は自分の王都邸、『雑貨屋ミツハ』へと帰りますか……。


 がしっ!


 え?

 いや、どうして私の右肩を掴んでいるのかな、ベアトリスちゃん……。

 ……そして、ベアトリスちゃんはともかく、どうして私の左肩を掴んでいるのかな、ルーファスさん……。

 私、女の子で、一応は『子爵閣下』だよね?

 他家の執事がいきなり肩を掴んで引き留めるって、それ、大丈夫なの? ……立場的に……。



本日(12月4日)、本作『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』と『ポーション頼みで生き延びます!』の、コミックス5巻が発売されます。

よろしくお願い致します。(^^)/


そして、『私、能力は平均値でって言ったよね!』のアニメ放映も、残り3話となりました。

ここで、講談社が太っ腹!

アニメ残り3話のCM枠を買って、『ポーション』と『ろうきん』のCMを打って戴けることに!!(^^)/(東京MXのみ)


おまけに、12月いっぱい、東京メトロのドア近くに貼られる広告ステッカーに『ろうきん』ががが!(選ばれた4作品のうちのひとつ)

もし機会がありましたら、御覧下さい。(^^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] ボーゼス伯爵領のお家芸。「肩の鷲掴みワッシ!」 その強力な握力から発せられる圧にはかの雷の姫巫女すら逃れること敵わなかったという…… ボーゼス伯爵家秘蔵歴史書より
[一言] さすが執事ルーファスさんっ! 以心伝心ですね~ベアトリスちゃんとっ! まあ、ミツハがそこで解放されるわけはないですよね・・・
[良い点] いつも楽しく読ませていただいています [一言] > そう、美しき貴族の少女に傅き、跪くのだ! これがご褒美とは、使用人達はどこかの界隈の方々ばかりか!?
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