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217 輸送商隊 3

 失敗した!

 よく考えたら、サビーネちゃんと王様達には教えているけれど、ボーゼス伯爵様関連には無線機のことを教えていなかったよ。

 条約締結根回しの旅では一部の人達には教えたけれど、あれは極秘事項、最高機密として口外禁止だったからね。

 当たり前だ。数百キロ離れたところと瞬時に会話できるなんて、軍事的、商業的、その他色々なことにおいて、どれだけとんでもないことか……。

 まぁ、私の『渡り』のことを知っている人には、今ひとつインパクトが小さいかもしれないけれど。


 そういうわけで、ボーゼス伯爵様にも伝わっていなかったらしいのだ、無線機のことは……。

 ボーゼス伯爵様になら知られても構わないし、侵略艦隊来襲の時には王都にいる王様と無線機で連絡を取ったりしたから、ボーゼス伯爵様はとっくに無線機のことを知っていると思っていたよ。


 あ、いや、もしかして伯爵様は知っているけれど、家族には教えていなかっただけかもしれないな。いくら自分の妻子と言えども、国の機密情報をボロボロと漏らしていいわけじゃないだろうから……。

 そして、ベアトリスちゃんにとって、コレットちゃんは、ただの平民だ。そりゃ、私がいくら『家臣候補だ』って言っても、そう簡単に信じるわけがない。

 何しろ、コレットちゃんはボーゼス伯爵領の、ただの村娘に過ぎなかったんだから。

 それを、命を助けてくれた恩を返すために私が引き取り、ちゃんとした教育を受けさせているだけ、と思っているらしいのだ、ベアトリスちゃんは……。

 そしてコレットちゃんが遠慮しないようにと、私が『家臣になるための教育だ』って言ってるだけだと……。


 その、ただの平民であるコレットちゃんが教えられて、どころか、自由に使っている、『遠く離れていても、いつでも私と話ができる』、私の実家の秘伝。

 それを、私の一番の友達……コレットちゃんよりも、サビーネちゃんよりも……だと信じている自分が、教えられていない。


 ……マズい。

 これはマズい。かなりマズい……。

 そしてもし、サビーネちゃんもが無線機のことを知っており、それどころか、自分専用の無線機を持っている、などということを知られたら。

 マズいどころの話じゃない!

 ……ヤバい。

 これはヤバい。かなりヤバい……。

 いかん、何とかせねば……。


 しかし、さすがにボーゼス伯爵家に無線機を設置するわけにはいかない。

 そんなことをすれば、ボーゼス伯爵様と王様の間で自由に交信されるようになって、この世界にとってオーバーテクノロジーである無線機による情報の即時伝達という、とんでもないことに……。

 そして、それを前提とした様々なことが計画され、……私がいなくなったら、それらが全て破綻する。最初の、ちょっとした故障とか、発電パネルやバッテリーの劣化とかで……。

 そう、王都とボーゼス伯爵領でリアルタイムでの情報交換が可能、などという前提で防衛計画を立てられちゃ堪らない、ってことだ。


 無線通信は、あくまでも、私と誰かが交信するためのものだ。私以外の者同士で継続的に使わせるつもりはない。交信相手が私だけであれば、私がいなくなって無線機が使えなくなっても、誰も困らないだろうから。

 条約根回しの旅の時は、例外。あの時は、使節団の安全が第一だったから。

 ゲッゲッ……じゃないや、レミア王女殿下の件も。

 あれは、緊急時の救援要請と、サビーネちゃんとのお遊びや馬鹿話にしか使われていないから、ある日突然使えなくなっても問題ない。救援に向かうはずの私がいなくなったなら、存在意義がなくなるものだから。

 単一目的のためのものであり、私の消滅と共に存在する意味がなくなる、という用途なら、ま、いいだろう。複製なんか数百年は絶対に出来ず、その間に朽ちて消え去るだろうし。

 それに、私が自分の意志で姿を消す場合には、無線機やソーラー発電システムは全て回収する予定だ。王都の『雑貨屋ミツハ』や領地邸のオーバーテクノロジーであるもの全てと一緒に。


 あ、根回しの旅の時に馬車に積んでいた無線機や屋根のソーラー発電パネルとかは、本隊が帰還した時点で、全て回収してある。……というか、それが今、この馬車に積んである。


『……ツハ! ミツハってば!』

 あ。コレットちゃんと交信中だった……。

「ち、ちょっと急な用件ができたから、また後でね!」

『え? ……あ、うん……。10-4(テンフォー)!』

「役満!」

『え?』

「いや、何でもないよ……。10-10(テンテン)!」

 天和テンホーじゃないし、緊急指令というわけでもない。

 それに、使っているのはアマチュア無線の器材であって、決してCB無線ではない。

 ……まぁ、私が冗談半分でコレットちゃんにテン・コードを仕込んだだけだ。

 そして、私の様子から、ちゃんと『何かあったらしい』と察して、即座に退いてくれるコレットちゃん。

 さて、問題は……。


「今の、コレットよね?」

 コレットちゃんが子爵邸うちに来るまでは、会ったこともなかったであろう、ベアトリスちゃん。

 そりゃそうだ。領主様の娘が、田舎村の平民の娘と知り合いのわけがない。人口700人足らずの子爵領うちと違ってボーゼス伯爵領は人口がずっと多いし、伯爵家の娘がそうホイホイと領地を歩き回るわけがない。

 ……でも、ベアトリスちゃんが子爵邸うちにしょっちゅう来るようになってからは、当然ながら、コレットちゃんと話す機会が多い。いくら無線機のスピーカーを介した声だとはいっても、そりゃ分かるか……。


「……なに、ソレ?」

 よく、『ハイライトの消えた眼』というような表現をされる、『そういう眼』で、先程と同じ言葉を繰り返す、ベアトリスちゃん。

 あああああ、これ、逃げられないヤツだあああぁ~~!


     *     *


「……そう。コレットだけでなく、サビーネ王女殿下も……」

 私に全てを吐かせた後、ハイライトが消えたままの眼で、無表情でそう呟くベアトリスちゃん。

 ……怖いよ!


 まぁ、私が誤魔化したところで、コレットちゃんから聞きだそうとするに決まってる。

 そして、コレットちゃんは、多分ベアトリスちゃんの責めに耐えることはできないだろう。

 私が誤魔化したことがコレットちゃんへの訊問でバレた場合、……大惨事だ。

 そしてその後、もしサビーネちゃんにも調査の手が及んだら……。

 ブルブルブルブルブル!!

 そう考えると、サビーネちゃんのことも正直に話して、今、一度に全部終わらせておいた方が絶対にマシだ。

 なので、全部喋ったのである。

 それに、サビーネちゃんはベアトリスちゃんより身分的には遥かに格上だから、コレットちゃんだけでなく、サビーネちゃんの名前も出した方が怒りが和らぐかも、という微かな期待もあった。

 ……私のお友達、という意味では、コレットちゃんも含めて、格上、格下だとか序列の上下だとかいう概念はないよ、勿論! みんな、対等のお友達だ。公式の場以外では。


 ……ま、地球や新大陸のことがバレるのはさすがにマズいけど、無線機のことだけなら、絶対に私を裏切らないであろうベアトリスちゃんにならば教えても構わないか。

 王様達や、使節団の団長であるコーブメイン伯爵様、その補佐であるカルデボルト侯爵家子息のクラルジュ様達だけでなく、女官やメイドの皆さんにも知られているのだから、割と知っている人は多いし……。


 あ、勿論、女官やメイドといっても、全員身元の確かな人達だ。下級貴族の娘とか、高級官僚の娘とか、そういった人達の中から選び抜かれたメンバーだから、間違っても秘密を漏らすようなことはない。

 もし裏切った場合、自分の身だけで済む問題じゃないからね。おいえや一族郎党にるいが及ぶようなことをするくらいならば、自害を選ぶ。そういうメンタリティだからね、この世界の貴族とか商家の者は……。

 だから、もし脅迫されたり、捕らえられて拷問を受けたとしても、殆どの者は官憲に届けたり舌を噛んだりするだろう。

 ……無線機の存在を知られたところで、真似ができるわけじゃないから、私としては別に喋られてもそう困るわけじゃない。だから命の方を優先して貰いたいんだけど、どうせ喋ってもその後殺されるだろう。秘密を聞き出した、ということ自体を隠蔽するために……。

 だから、無線機の存在自体を知られないようにするに越したことはない、ってことだ。

 そして……。


「その魔導具を要求する! それがあれば、ボーゼス邸(うち)にいる時でも、自由にミツハと話せるんでしょ!」

 やっぱり~!!

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― 新着の感想 ―
[一言] コレット、ベアトリージェもうざい
[一言] ハイライトの消えた目のベアトリス…。 なんか、オーバー□ードのラナー王女が 頭に浮かびました。
[気になる点] ミツハ、あまりにポンコツすぎる件
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