198 ソサエティー 3
そして迎えた、『ソサエティー』第1回お茶会。
化粧品は無事配布され、一応、みんなそれなりに化粧している模様。
多少の腕の優劣はあるけれど、メイドに手伝わせたり、家族総出で研究したりしたのか、みんなそれなりに様になっている。厚化粧でおてもやん状態の御令嬢などいやしない。
本気になった女性は怖いねぇ。不可能なことなどありそうにないよ。
そして、会長であるみっちゃんの挨拶に続き、私が完成したばかりのクラブリングを配る。
……『配るリング』じゃなくて、『クラブリング』ね。
ホワイトゴールドのリングに、センターストーンは最高級のルビー。
石座文字は会の名前、サイドパネルには加入年月日、リング内側にはそれぞれのフルネームが刻印されている。この指輪を嵌めている者は、皆、姉妹であり同志。決して互いを裏切ることはない。実家同士が対立した場合は仕方ないが、それでも、互いの友情は不変、不滅である。
うん、そういうノリで、お友達ごっこに持ち込むわけだ。
そして私は『運営側の人間』なので、ゲーム内のルールには縛られない。ふはははは!
……鬼か!
いや、自分で突っ込んでどうするよ。
あ、ホワイトゴールドとは金にパラジウム等の白金属を混ぜた合金であって、白く見えるけれど、白金とは別物だ。大体、金が75パーセント、パラジウムが25パーセントくらいかな。
白い方が落ち着いて控え目に見えるし、純金なんか、柔らかいからすぐに変形したり磨り減ったりするからね。それに、ホワイトゴールドの方が安いし。
このリングは、無料プレゼントというわけじゃない。貸与品だ。
これは『ソサエティー』のメンバーの証であり、退会する時には、返納してもらう。
入会年月日や名前が彫り込まれているから、使い回すことはできない。これはそれぞれ、ただひとりの少女のために作られ、そしてその少女がこの会から去る時には廃棄処分となる、ひとりの主にしか仕えることのないリングなのである。
クラブリングを受け取った御令嬢達は、それをまじまじと見詰めている。
ま、センターストーンのルビーは勿論合成ルビーなんだけど、合成といっても、偽物というわけじゃない。天然物と同じ成分、同じ結晶構造で、本物だ。……神と自然の力ではなく、人間が作ったというだけで。
だから、驚異の純度を誇っても、それは『素晴らしい宝石』ということであり、決して『ただ同然の合成物』ということではない。……この世界では。
御令嬢達は、お家に代々伝わる物として母親から引き継ぎ、そしてまた娘に伝えるものではなく。親に買って貰ったものでもなく。自分の名が刻まれた、自分だけのために作られた指輪の、吸い込まれるような紅い宝石を見詰め続けていた……。
その後、スイーツを食べながら、歓談。
これは『お茶会』なので、真面目な話も笑い話も、全てスイーツを食べ、飲み物を飲みながら、楽しくやる。真面目な顔をして会議みたいにはやらないよ。
そして迎えた、入会希望者の審査の件。
たくさんの入会希望者にそれぞれ番号を振ってリスト化、みんなに配った紙に、『入会して欲しくない人』の番号を書いてもらう。勿論、番号はいくつ書いても構わない。そして、誰も番号を書かなかった人が合格。
無記名で紙を投票箱に入れてもらい、公正に、みんなの前で開票。
そして書かれた番号を次々に読み上げて、番号が読まれた者は、張り出した入会希望者の名前が書かれた紙にバッテンを付けていく。
すると……。
どうやら、身分や立場を振りかざして『ソサエティー』を牛耳ろうとか考えそうな者は、皆が排除しようとしたらしい。そのため、性格がキツい者、年齢が今のメンバーより上の者、政治的に問題がありそうな者、その他諸々は、大勢から『御指名』を受けていた。
勿論、事前に色々と調査して、問題がある者は私とみっちゃんが漏らすことなく番号を書いているから、安心だ。そして……。
「入会が認められたのは、ファレーニア・ド・ガルバラーク伯爵令嬢おひとりだけですね」
みっちゃんが、皆にそう宣言した。
入会を希望していた、第一王女、第二王女、第三王女、ざ~んね~ん!
ファレーニアちゃんは、純真で素直な、庇護欲をかき立てられるような可愛い少女らしい。俗に言うところの、『100万人の妹』ってやつだ。
……私には、コレットちゃん、サビーネちゃん、ヤマノ子爵家メイド少女隊のみんながいるから、必要ないけどね!
ちなみに、投票用紙は無記名、ということになっているけど、実は、誰が書いたものかが分かるよう細工がしてある。
……当然だよね! 学校や会社で書かされるアンケートとか、まさか本当に誰が書いたか分からない、なんて信じて、本音を書いたりしていない……、いや、なんでもない!
とにかく、個人的な人間関係や、お家同士のしがらみとかの生情報を入手するチャンスをみすみす逃す程の馬鹿じゃない。筆跡だけでなく、他の仕掛けもしてあるから、後で人間関係相関図を作るのである、うむ。
そして、デジカメによる、撮影会。肖像画……ということになっている、加工写真……のためのやつね。
みんな、おすまし顔だけでなく、おふざけ顔とか、色々と自由な表情をしている。どうやら、見本にしたみっちゃんの肖像画を見て、おすまし顔だけではなく色々と攻めた方が効果的だと一瞬で悟ったらしい。……うん、さすがだねぇ。
写真についての説明はせず、『私がこの道具の穴から見た皆さんの姿を完璧に覚えて、画家に指示する』と言って誤魔化した。でないと、『肖像画』として大金を毟れなくなっちゃうからね、一瞬で出来上がる、なんて知られちゃうと。
いや、勿論ちゃんと専門家に正式に依頼して加工してもらうから、お金はかかるよ。
製作にかかる時間が1日だとしても、それはその技術を身に付けるためにかかった数十年の時間と費用の上に積み上げられた1日だ。だから、それに見合うお金を払わなきゃならない。
色々と節約に努めるのはいいけれど、いい作品と信用と自分の良き未来を手に入れたいならば、そこは絶対に値切っちゃ駄目なところだ。
技術に対してお金を払わないということは、技術に対して敬意を払わないということだ。そんな依頼者のために心血注いだ作品を創る者はいない。
とにかく、そういうわけで、適当に誤魔化した。
枚数は希望通りにするけれど、勿論、同じ絵だろうが違う表情のものだろうが、ちゃんと1枚ごとに料金は戴く。同じ物の方が加工代金を節約できるけれど、勿論、みんな別の表情のものを注文してきた。……クソ!
でもまぁ、暴利なのは間違いないから、問題ない。ひとりで5~6枚注文してきた者もいるし。
そしてその次に、みんなからの注文取り。
そう、父親から頼まれたお酒とか高級おつまみとか、母親や姉妹達から頼まれたシャンプー、化粧品、スイーツ、その他諸々。そして勿論、自分用の各種品々。
勿論、前回の解散前に頼まれた品の引き渡しも行った。最初はみんなもどんな商品があるのか分からなくて、化粧品とか一部のものだけだったけど、今回は両親からのリクエストやら、自分で調べたレフィリア貿易の取り扱い品リストとかから色々とリストアップしてきたらしく、個人購入の制限枠いっぱいまで攻めてきた。
……うん、勿論、制限枠があるよ。無限に買われちゃ堪らないからね。
そして、再びスイーツと飲み物を楽しみながら、今度は楽しく、恋バナ、貴族界のゴシップ、流行りの演劇や贔屓の俳優、滑稽本、恋愛本とかの話が次々と繰り広げられ、誰かとそんな話を堂々とできる日がくるなどとは思ってもいなかったらしいお嬢様達が大盛り上がりで、大変なことになってしまった……。
うむむ、これって、日本で流行りの〇〇本とか××本とかをこっちの言葉に翻訳して出版すれば、売れるんじゃね? 貴族様価格で……。
でも、いちいち手書きというのは面倒だな。
将来のことも考えると、パソコンでフォントを作って、キーボードに文字を割り振って、こちらの言語専用のやつを1台用意すればいいかも。旧大陸用のも併せて用意してもいいな。
よし、この件は、ペンディングだ。手が空いたら考えよう。実作業は外注にしてもいいし。
無理になんでも自分でやらなきゃならないわけじゃない。何のためにお金を稼いでいるんだよ。
素人が無理をしなくても、お金を払ってプロに任せりゃいいんだよ。そのために、そういう技術を身に付けたプロの人達がいるんだから。
餅は餅屋、モモのお供はモチャー、だよ。
そして、あれやこれやと大盛況のうちに、第1回ソサエティーお茶会は終了したのであった……。
「……で、ミツハ。王宮から次々と書状が届いてるわよ。『なぜ王女殿下を加入させない』、『不敬行為である』、『王家に対する謀反の容疑あり』、その他諸々。後になるほど、どんどん内容が剣呑なものになっているわよ……」
「あはは……」
知らんがな~……。
というか……。
「子供のお遊びグループに入れてもらえないからって、逆賊扱いかいっ!」
6月30日で、『ろうきん』1巻刊行から2年になりました。
商業誌としては、1年早い『平均値』、1カ月早い『ポーション』に続く3作品目ですが、なろう連載作品としては一番最初、私の「なろう」デビュー作になります。
「小説家になろう」投稿作を書き始めて、3年8カ月。
3作品書いて、3作品共書籍化されて、3作品共コミカライズされて、3作品共国外展開されて、そのうちの1作品が、もうすぐアニメに……。
今は、何もかも皆、懐かしい……。(T_T)




